■INNOCENCE / カトル・ヒール (限定受注)■
藤森イズノ |
【7433】【白月・蓮】【退魔師】 |
会話は成立しない。
ただ苦しそうに唸るだけ。
何とかして助けてあげたい。
そうは思うけれど、どうすれば…。
原因が、わからないことには、どうすることも…。
どうしたものか…と悩んでいると、背後でマスターが呟いた。
「これは…おそらく、ノストラックじゃなぁ」
ノストラック。ウィルス感染の奇病。
放っておけば、およそ半日で絶命に至る恐ろしい病。
この奇病を癒すには 『カトル』 と呼ばれる四つのアイテムが必要だ。
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INNOCENCE // カトル・ヒール
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OPENING
会話は成立しない。
ただ苦しそうに唸るだけ。
何とかして助けてあげたい。
そうは思うけれど、どうすれば……。
原因が、わからないことには、どうすることも……。
どうしたものか……と悩んでいると、背後でマスターが呟いた。
「これは……おそらく、ノストラックじゃなぁ」
ノストラック。ウィルス感染の奇病。
放っておけば、およそ半日で絶命に至る恐ろしい病。
この奇病を癒すには 『カトル』 と呼ばれる四つのアイテムが必要だ。
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「俺も、一緒に行こうか?」
神妙な面持ちで言った藤二。
けれど蓮は、気持ちだけ、ありがたく頂戴しておくよと告げて、
一人、本部を飛び出して森の中へ駆けて行った。
突如、床に伏せてしまった梨乃。
彼女を救う為に。
一体、何事かと思ったんだ。
食事に出掛ける約束をしてて、ホールで待っていたのに、
約束の時間になっても、キミは来なかった。
いつも十五分前には待ち合わせ場所に来て待っているキミが、
遅刻するなんて、珍しい、ありえない。
何かあったのかも。 そう思って部屋に行った。
けれど、何度扉をノックしても返事がない。
嫌な予感がした。
案の定、部屋の中、キミはソファに凭れてグッタリしていた。
青褪めた顔、荒い呼吸、額に滲む汗。
声を掛けても、苦しそうに唸るだけ。
すぐに理解った。 風邪じゃない。
これは、ただの風邪じゃないってこと。
マスターが呟いた『ノストラック』という言葉。
初めて聞くそれに、戸惑いを隠せない蓮だったが、
原因がそれならば、すぐに対処しなくては。
慌てて書庫へ行き、ノストラックに関する文献を漁った。
ノストラック、ウィルス感染の奇病。
これを癒すには、聖なるアイテムが四つ必要とのこと。
その四つのアイテムとは、
対なる巨鳥の羽が一枚ずつと、魔法の花、初夏の魔物の葉。
具体的なアイテム名は記載されていなかったけれど、
蓮は、すぐさま理解した。 全てのアイテムを。
森の中、キョロキョロと辺りを伺い、探す魔物。
自分を宥めるも、焦らずにはいられない。
早く、早く、早くしなきゃ。
どうして、こういうときに限って見つからないんだ。
いつも、フラッと姿を見せるくせに。
舌打ちしつつ森を駆け回れば、やがて見つかる、初夏の魔物。
六月下旬から、七月上旬までの、僅かな期間、
やたらと発生して人を襲う、大樹の魔物、ティルタ・プラント。
巨体ではあるが、さほど強くはない。
いや、寧ろ、蓮からしてみればザコだ。
枝を揺らし、水の葉をザバザバと落としてくるも、それに殺傷能力は皆無。
ただの威嚇、目晦ましに近い。
鋭い眼差しで、キッと見据えられ、危機を感じ取ったティルタ・プラント。
必死に威嚇するものの、残念なことに効果はない。
目の前に、欲する葉がある。
蓮の目には、揺れる水の葉しか映っていなかった。
どしゃぶり水葉の中、迅速に、いとも容易く事は済む。
ティルタ・プラントの葉を採取した蓮は、そのまま森の奥へ。
水浸しになった森の中、探すのは魔法の花。
今回ばかりは、この異変に感謝せねばなるまい。
本来ならば、異界に咲くはずのない花。
とある魔法国にしか咲かないはずの魔法の花。
けれど、最近、異界では異変が起きて。
この花『魔花』を、あちこちで確認することが出来る。
そういえば、言ってたね。
何か、良くないことの前触れなんじゃないかって。
キミは言ってた。 不安そうに。
大丈夫だよ、って言ったこと、後悔してるよ。
今キミを蝕んでいる奇病。
それが、『良くないこと』なんじゃないかって思ってる。
どうしてだろう。 どうして、キミなんだろう。
誰よりも不安を感じて、色々と調べていたのに。
どうして、キミが蝕まれてしまうんだろう。
俺を蝕めば良かったのに、そう思った。
でもね、これは、ある意味、罰なんじゃないかとも思ってる。
不安そうにしているキミを、具体的に救ってあげなかった。
根拠のない「大丈夫」で片付けてしまった。
木の陰に、ひっそりと咲いていた魔花を採り、蓮は頷く。
キミが蝕まれて、それを救う。
これは、俺に課せられた償いなんだと思うんだ。
*
採取した水の葉を熱して溶かし、魔花の花びらを一枚磨り潰して加える。
淡く水色に輝くそれは、一種の聖水。
そこへ更に加える、対なる巨鳥の羽根。
ノイシュの羽根と、ゼイジュの羽根。
先日、任務遂行の報酬として得たもの。
まさか、こんなに早く使うことになるとは。
使い道なんて、あるのかなって思っていたのに。
何もかもが、仕組まれていたようにも思える。
あの任務を遂行したのも、魔花を確認しにいったことも、
相合傘で帰る中、いきなりティルタに襲われたことも。
全部、この日の為に仕組まれていたことなんじゃないかって。
悔しい。何て腹立たしいことだろう。
自分が、運命に翻弄されているようで。
完成した聖水を持ち、梨乃の部屋へ勢い良く入る蓮。
中では、藤二とマスターが梨乃の看病をしていた。
あまりの早い帰還に、もう完成したのか? と驚く藤二を押しのけ、
唸る梨乃の隣で、聖水を一口、口に含む蓮。
躊躇いだとか、そういうものは、一切なしに。
口移しで飲ませた聖水。
聖なるチカラが凝縮されている特効薬。
一口で、ウィルスを体内から弾き出してしまう、その威力。
スッと、梨乃の額から汗が引いた。
同時に、荒い呼吸も静まり、唸りも止まる。
気持ち良さそうに寝息を立てる梨乃。
癒え、ウィルスが消え去ったことは、誰が見ても明らかだ。
「梨乃ちゃん……。良かった……」
ようやく微笑み、ギュッと梨乃を抱きしめる蓮。
想い溢れる熱い抱擁に、ふと目を覚ます梨乃。
抱き合う二人を見やる、藤二とマスター。
「愛のチカラ、ってやつかねぇ」
「偉大じゃな」
クスクス笑う二人を見て、寝ぼけ眼の梨乃はキョトン。
自分が唸り伏せていたこと、それを救うべく、
蓮が最善を尽くしてくれたこと。
梨乃が、その全てを理解するのは、あと少し先の話。
もう二度と、後悔しないように。
キミの言葉、一つ一つを重く受け止めるよ。
適当にあしらったり、根拠のない自信ではぐらかしたりしない。
キミの為に、二人の為に、未来の為に。
俺に出来ること、何でもするよ。
仕組まれた運命に、苛立つことのないように。
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7433 / 白月・蓮 (しらつき・れん) / ♂ / 21歳 / 退魔師
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / イノセンス・マスター / ♂ / ??歳 / INNOCENCE:マスター(ボス)
シナリオ参加、ありがとうございます。
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2008.06.24 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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