■INNOCENCE / カトル・ヒール (限定受注)■
藤森イズノ |
【7403】【黒城・凍夜】【何でも屋・暗黒魔術師】 |
会話は成立しない。
ただ苦しそうに唸るだけ。
何とかして助けてあげたい。
そうは思うけれど、どうすれば…。
原因が、わからないことには、どうすることも…。
どうしたものか…と悩んでいると、背後でマスターが呟いた。
「これは…おそらく、ノストラックじゃなぁ」
ノストラック。ウィルス感染の奇病。
放っておけば、およそ半日で絶命に至る恐ろしい病。
この奇病を癒すには 『カトル』 と呼ばれる四つのアイテムが必要だ。
|
INNOCENCE // カトル・ヒール
------------------------------------------------------
OPENING
会話は成立しない。
ただ苦しそうに唸るだけ。
何とかして助けてあげたい。
そうは思うけれど、どうすれば……。
原因が、わからないことには、どうすることも……。
どうしたものか……と悩んでいると、背後でマスターが呟いた。
「これは……おそらく、ノストラックじゃなぁ」
ノストラック。ウィルス感染の奇病。
放っておけば、およそ半日で絶命に至る恐ろしい病。
この奇病を癒すには 『カトル』 と呼ばれる四つのアイテムが必要だ。
------------------------------------------------------
「見つけたら、すぐさま俺に寄こせ。いいな?」
淡々と言い放った凍夜に、コクリと頷く悪魔たち。
書庫にて、必要文献を漁る凍夜の表情は、真剣そのもの。
一刻も早く理解し、対策を、特効薬を。
突如、床に伏せた梨乃を救うべく、手を尽くす。
マスターが口にした『ノストラック』という言葉。
聞きなれないそれは、奇病の名前。
ウィルス感染の奇病で、発症から半日で絶命に至る。
マスターも、その名を知りえているだけで、治療法は知らない。
マスターですら知らない病気。
それほどまでに珍しい病気。
どうして、梨乃が侵されたのか……。
本棚を漁る凍夜は、苛立ちを隠せない。
どうしていつも、あいつの身にばかり厄災が降りかかる?
どうして、俺じゃなく、あいつを蝕む?
見たくないんだ。 あいつが苦しむ姿なんて。
そうさせない為に、いつも傍にいるのに。
どうして、いつも、こうなる?
何が足りない? 何が足りないんだ。
厄災の天秤、自分への苛立ち、刻一刻と過ぎていく時間。
焦らずにはいられない。
本棚から、バサバサと本を叩き降ろす凍夜は、眉間にシワを寄せていた。
物言わず、迫力のある凍夜に感化され、悪魔たちも手を尽くす。
探し始めて、一時間が経過したとき、ようやく、それは見つかった。
ノストラックに関する文献。
悪魔から受け取ったそれを勢い良く開き、凍夜は目を通す。
御託は良い。 この病の謎だとか、そんなことは、どうでもいい。
必要なのは、特効薬の情報。
バサバサとページを捲り、辿り着く、欲した情報。
小さな文字で連ねられていた、特効薬の情報。
必要となる材料は、対なる巨鳥の羽根が一枚ずつ、
それから、鹿の魔物の角粉と、妖精の麟粉。全部で四つ。
対なる巨鳥、とは……おそらく、ノイシュとゼイジュのことだろう。
掲載されているイラストに、見覚えがある。
羽根はいい、もう手元にある。
残り、鹿の魔物と、妖精の麟粉。
すぐさま、用意しなくては。
喚びだした悪魔たちを戻し、書庫から飛び出す凍夜。
全速力で駆ける中、擦れ違うエージェント、藤二。
慌てている様子に、どうした? と首を傾げた。
短絡的に事情を説明し、鹿の魔物の生息地を尋ねる。
まくしたてるように言葉を放つ凍夜に、いつものクールさはなかった。
我を失っている、そうも見えた。
気迫に押されつつも、情報を与えた藤二。
俺も一緒に行こうか? そう告げたときには、既に凍夜の背中は遥か遠く。
*
本部から遠く離れた洞窟。
暗闇の中、目を凝らして探す鹿の魔物。
闇に浮かぶ、紅い瞳。
その目が標的を捉えた瞬間、洞窟内に轟音が鳴り響いた。
鹿の魔物を見つけた瞬間、躊躇うことなく放った黒炎。
感情がそのまま威力に反映されたのだろう。
放たれた黒炎は、何よりも熱く、何よりも黒く、
そして、何よりも速く、標的を仕留めた。
木っ端微塵に吹き飛んだ魔物。
その中から、角を探して手に取る。
(しまった……角まで粉々になっちまった。……足りるか?)
角の欠片を手に取り、ハァと溜息を落とす凍夜。
そこへ、超音波のような信号が届く。
悪魔の信号。
妖精の麟粉を採取する目的で、凍夜は森に悪魔を使わせた。
妖精に警戒されぬよう、なるべく温厚な悪魔を。
悪魔と妖精を接触させることは、無謀だったかもしれない。
結局、自分も赴くことになるのではなかろうか。
そう不安を抱いてはいたものの、悪魔は見事な働きっぷり。
凍夜の気迫、それに感化されたことが、結果を生んだのだろう。
すぐさま合流し、確認する必要材料。
確かに、妖精の麟粉だ。
疑っていたわけではないが……よくやった。
悪魔の頭を撫でて褒めやる凍夜。
凍夜に褒められるなんて、初めてのことだ。
さすがに悪魔も驚いた様子で、照れ笑いしている。
悪魔の照れ笑い……これもまた、珍しいものだ。
必要材料を集めた後は、本部に大急ぎで戻り、マスターに材料を託す。
これらの材料を合わせて、清めの水を作る。
いわば、一種の聖水だ。
だが、高い魔力を持つものでなければ、至高の聖水は完成しない。
自分の魔力では、どうだろう。
試してみる価値はあるかもしれないけれど、事態は一刻を争う。
出来うる限り、早く聖水を完成させて投与せねばならない。
それならば、確実な方法を選択するのが正しい。
凍夜から材料を預かったマスターは、急いで調合を始めた。
梨乃は、相変わらず唸り、苦しそうな表情。
額に滲む汗を拭ってやりつつ、まだか、まだかとマスターを急かす。
梨乃がノストラックを発症してから、五時間が経過している。
気のせいか……。 梨乃の身体が冷たくなってきているような……。
不安で堪らない。そんな表情の凍夜へ、差し出す聖水。
凍夜は、バッと奪い取るように聖水を手にすると、
梨乃の身体を起こして、半ば強引に飲ませた。
口端から、タラタラと漏れる聖水。
完全に冷静さを欠いている。
凍夜の珍しいその姿に、マスターは苦笑した。
聖水を与えられ、ウィルスが除去された梨乃。
青褪めていた顔にも血の気が戻り、呼吸も落ち着いた。
ふと目を開けるも、意識は朦朧としたまま。
すぐにまた眠りへ落ちていく。
一瞬の隙間に、瞼の裏に焼きつく……凍夜の不安気な表情。
「良かった……」
思わず、ギュッと梨乃を抱きしめた凍夜。
間に合わなかったら。万が一、間に合わなかったら。
そんなことばかりを考えていた。
俺らしくもない。不安で堪らなくなるなんて。
お前が絡むと、いつもこうだ。
でもまぁ、戸惑ったのは最初だけ。
女一人に、翻弄されてる。
そういうのも、また面白いかもなって思うようになったから。
梨乃を抱く凍夜の背中を見つつ、ふぉっふぉっと笑ったマスター。
背後からの笑い声で、ハッと我に返る。
いくらなんでも、人前でベタベタするのは、どうかと思う。
すっかり忘れてた。 マスターの存在……。
苦笑しつつ、梨乃の頭を撫でる凍夜。
その表情は、とても柔らかく、優しいもので。
早く、良くなるといいな。
元気になったら、また一緒に出掛けよう。
どこでもいい。 お前の行きたい場所でいい。
連れてってやりたいんだ。望む場所へ。
そして、笑って欲しい。
いつものように、可愛らしく。
------------------------------------------------------
■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7403 / 黒城・凍夜 (こくじょう・とうや) / ♂ / 23歳 / 何でも屋・契約者・暗黒魔術師
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / イノセンス・マスター / ♂ / ??歳 / INNOCENCE:マスター(ボス)
シナリオ参加、ありがとうございます。
-----------------------------------------------------
2008.06.24 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
-----------------------------------------------------
|