■INNOCENCE / ゲージュツ・バクハツ (限定受注)■
藤森イズノ |
【7433】【白月・蓮】【退魔師】 |
「美術館…。何か緊張しますね」
「マスターの古くからのお友達が運営してる所らしいわよ」
「絵ねぇ……。あんまり得意じゃないんだよなぁ」
「やるからには、優勝狙いたいですよね」
イノセンス本部、二階テラスで紅茶を飲みつつ談笑しているトップエージェントの面々。
話題は、今日正午から開催される『イラスト・絵画コンテスト』
全エージェントが参加対象で、内容は至って簡素。
好きなものを、好きなように描けば良い。
描かれたイラスト・絵画は、マスターの友人が運営している美術館に展示。
一週間の展示期間最中、同時に人気投票を実施。
一番多く票を獲得したエージェントが優勝。
優勝者は、マスターに『オネダリ』する権利が与えられる。
何でも一つ、願いを聞いてくれるということで、
エージェント達は皆、やる気満々だ。
「よっしゃー!優勝するぞーーーー!!」
ダァンッとテーブルに足を乗せ、決意表明を叫ぶ海斗。
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INNOCENCE // ゲージュツ・バクハツ
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OPENING
「美術館…。何か緊張しますね」
「マスターの古くからのお友達が運営してる所らしいわよ」
「絵ねぇ……。あんまり得意じゃないんだよなぁ」
「やるからには、優勝狙いたいですよね」
イノセンス本部、二階テラスで紅茶を飲みつつ談笑しているトップエージェントの面々。
話題は、今日正午から開催される『イラスト・絵画コンテスト』
全エージェントが参加対象で、内容は至って簡素。
好きなものを、好きなように描けば良い。
描かれたイラスト・絵画は、マスターの友人が運営している美術館に展示。
一週間の展示期間最中、同時に人気投票を実施。
一番多く票を獲得したエージェントが優勝。
優勝者は、マスターに『オネダリ』する権利が与えられる。
何でも一つ、願いを聞いてくれるということで、
エージェント達は皆、やる気満々だ。
「よっしゃー!優勝するぞーーーー!!」
ダァンッとテーブルに足を乗せ、決意表明を叫ぶ海斗。
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へぇ、イラストコンテスト、ね。
何だか、学校行事みたいで面白いね。
懐かしいな、この感じ。
キャンバスと向かい合うエージェント達を見つつ微笑む蓮。
テクテクと、彼が迷いなく歩み寄るのは、梨乃の隣。
「やぁ。 梨乃ちゃんは、何描くの?」
「んーと…。 花を描こうと思うんです」
「そっかそっか。いいんじゃない? キミらしくて」
「ふふ。蓮さんは?」
「うん?」
「蓮さんは、何を描くんですか?」
「うーん。俺はいいや。見物専門ってことで」
「えぇ〜? 勿体ないですよ?」
「はは。いいのいいの。応援するから、頑張って」
「は、はい〜……」
一生懸命下書きする梨乃を見やりつつ、クスクス笑う。
うん、まぁまぁ上手、かな?
淡い感じで、何ともキミらしいね。
好きだなぁ、俺、そういう絵。
(さて……)
梨乃の斜め後ろで、ゴソゴソと準備を始める蓮。
取り出したるは、鉛筆と真っ白な紙。
見てるだけ、だなんて嘘。
せっかくだし、参加しないとね。
ただ、題材が題材だからさ。 ちょっと照れるんだよね。
サラサラと描き出すのは、横顔。
一生懸命、絵を描いている梨乃の横顔。
自分が描かれていることは勿論、描画していることにすら梨乃は気付いていない。
ふっと顔を上げて、梨乃がこちらを見やれば、
ササッと紙を隠して、何食わぬ顔でニコニコ。
バレそうでバレない、秘密のお絵かき。
どうして参加しないんだろう。勿体ないな。
優勝したら、オネダリできるのに。
蓮さん、欲しいものとかないのかな。
……そう言われてみれば、聞いたことないかも。
あれが欲しいだとか、それが欲しいだとか、
そういうこと言う蓮さん、見たことないかも。
そんなことを考えつつも、黙々と描く花々。
本部中庭を彩っている、色とりどりの花を描く。
驚くほどに上手! というわけではないが、それなりに上手だ。
独特のタッチには、何とも味がある。
手こずる着色。思い通りの色が作れない。
首を傾げて、うんうん唸って、あれこれ混ぜ混ぜ。
少しずつ少しずつ、完成していく花の絵。
その進行状況をチラチラと確認しつつ、蓮も描画を続けた。
梨乃が振り返ったら隠して、また描画しだしたら自分も。
その繰り返しの中、二人の絵は、ほぼ同時に完成した。
とはいえ、蓮が描いた絵を、梨乃は確認することが出来ない。
確認できるのは、翌日のこと。
*
「ぎゃははは! 浩太、上手すぎだろ!」
「……笑うところかなぁ、そこ。喜んでいいのか迷うんだけど」
翌日、美術館に展示された各エージェントの絵。
マスターの友人が経営している美術館を借りて、コンテスト開催。
一般客に投票してもらう、簡素な投票システムを採用。
要するに、一番多く票を獲得したエージェントが優勝。
で、オネダリ権を獲得できると、そういうわけだ。
先ほどから、海斗が大笑いしている。
指差しているのは、浩太が描いた絵。
幾何学模様のそれは、確かに上手すぎだ。
展示されている絵の中で、やたらと目立っている。
その絵の隣には、海斗が描いた絵。
絵というか何というか、らくがきレベルだ。
ロボットらしいが……ロボットに見えない。
静かな美術館、海斗と浩太の笑い声が響く。
各所に飾られたエージェントの絵。
千華はマスターを描画していた。
まぁ、そこそこかな? 可もなく不可もなく。
でも、これ、どうだろう。
正直、卑怯な気もする。 審査委員長への媚びみたいな。
で、藤二の絵は……海斗と同レベルだ。
描いているのは、黒髪和服の女性っぽいけれど、
不気味な影にしか見えない。 もはやホラーだ。
「あんたって、絵心ないわよね」
「媚びるよりはマシですよ」
「媚びてないわよ」
ささやかな言い合いをしている藤二と千華。
実に、レベルの低い喧嘩だ。
うーん。 一通り見て回ったけど、
やっぱり一番グッとくるのは浩太くんの絵かな。
それにしても上手いよね。 ちょっとビックリしたよ。
「浩太くん、上手だね」
「そうですね……あっ!?」
微笑み言う蓮に、言葉を返す途中、梨乃がギョッと目を丸くした。
見つけてしまった。 ついに、見つけた。
端っこに、ひっそりと飾られている蓮の絵を。
気のせい……なわけがない。
あれは、紛れもなく自分だ。自分の横顔ではないか。
「れ、蓮さん……」
「あははっ。見つかった?」
恥ずかしそうに俯く梨乃を覗き込んで笑う蓮。
ちょっとしたサプライズ。
キミの、その顔が見たかった。
それだけで十分。満足。してたんだけど……。
*
「ふむ。優勝は、蓮じゃな。二位は浩太。僅差じゃったぞ」
開票し終えて、結果を報告するマスター。
美術館のロビーに集合したエージェントは、蓮に拍手を送る。
(あららら)
まさか優勝するとは、思ってもみなかった。
無欲の勝利ってやつかな?
それとも、梨乃ちゃんへの想いの強さのお陰かな?
投票用紙には、コメントも記載できるようになっていた。
蓮の絵に票を投じた者のコメントは、気味が悪いほどに一致。
どれも 『気持ちが伝わってくる』 そう書かれていた。
描いてる最中、優勝したら……なんて、微塵も考えなかった蓮。
ただ純粋に、梨乃を愛しく想って描き出しただけ。
色はない、モノクロの鉛筆画。
けれど、とても色鮮やかに見えた。
想いが彩ったのかな……とか、そんなクサイこと言ってみたりして。
羨むエージェントの眼差しを浴びつつ、うーんと首を傾げる蓮。
「何でも良いぞい」
何をオネダリするのか。
普段から、無欲っぽい蓮がオネダリするものに、全員興味津々。
中でも、梨乃は一層興味を抱いていた。
オネダリ権をどうするのか。
もしかしたら、辞退とか。 しそうな気がする……。
じっと自分を見つめる梨乃にクスクス笑う蓮。
そんな真剣に見つめられると、微妙に照れくさいよ。
オネダリ、ね。 うん。そうだな、やっぱりアレかな。
「ノワールの新書が欲しいんですけど」
ニコッと微笑み言った蓮。
発した、そのオネダリに一同は苦笑した。
結局、無欲なのか。 まぁ、彼らしいといえば彼らしいけれど。
蓮のオネダリに、ふぉっふぉと笑って応えるマスター。
クルリと杖を回せば、蓮の手元に一冊の本が落ちる。
ノワール:グラッテ著 『オルタナ』
つい先日、世に出た人気作家の新書。
本人の意向で、発刊数が異常なまでに少ないそれは、入手困難な代物。
受け取った本を、蓮は迷わず贈る。
「はい、梨乃ちゃん」
「あ、あのぅ……」
「いいから。気にしないで。キミを描いたからこその優勝だしね」
人の心を掴み、揺らした蓮の絵。
上手いか下手かで言うなれば、普通。
けれど、どの絵よりキラキラと輝いていた。
その光に、引き寄せられてしまうのは必然。
どんなに上手な絵も、想いの塊には叶わないもので。
梨乃の横顔。その絵の隅に、蓮は、さりげなく宛がっていた。
題:愛しい人―
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7433 / 白月・蓮 (しらつき・れん) / ♂ / 21歳 / 退魔師
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 青沢・千華 (あおさわ・ちか) / ♀ / 29歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 黄田・浩太 (おうだ・こうた) / ♂ / 17歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / イノセンス・マスター / ♂ / ??歳 / INNOCENCE:マスター(ボス)
シナリオ参加、ありがとうございます。
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2008.06.24 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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