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■INNOCENCE / フライ・オニオン (限定受注)■

藤森イズノ
【7433】【白月・蓮】【退魔師】
「…これじゃなきゃダメなの?」
「うん」
「即答かよ」
「早く取ってきて。夕飯に間に合わないでしょ」
「つーかさ、お前も来いよ」
「無理。下拵えとか色々やらなきゃ」
「…わーったよー!行けばいーんだろー!行けばー!」
「いってらっしゃい」
ダダーッと駆け出し本部を飛び出した海斗。
彼の手には、大きな網が。
向かう先は、オニラス渓谷。
ここは玉ねぎの宝庫。
美味しいカレーを食べる為、彼は立ち向かう。
渓谷を縦横無尽に飛び回る、空飛ぶ玉ねぎに。
INNOCENCE // フライ・オニオン

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 OPENING

「……これじゃなきゃダメなの?」
「うん」
「即答かよ」
「早く取ってきて。夕飯に間に合わないでしょ」
「つーかさ、お前も来いよ」
「無理。下拵えとか色々やらなきゃ」
「……わーったよー! 行けばいーんだろー! 行けばー!」
「いってらっしゃい」
ダダーッと駆け出し本部を飛び出した海斗。
彼の手には、大きな網が。
向かう先は、オニラス渓谷。
ここは玉ねぎの宝庫。
美味しいカレーを食べる為、彼は立ち向かう。
渓谷を縦横無尽に飛び回る、空飛ぶ玉ねぎに。

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 美味しい玉ねぎ。ん〜……魅力的な響きよね。
 どこにでも何にでも使えちゃうものね。
 生でも良し、炒めて良し、揚げても良し、煮込んでも良し。
 ふふふ。楽しみだなぁ、そんな美味しい玉ねぎを使ったカレー。
 皆も、同じ気持ちよね、きっと。ニコニコと微笑むシュライン。
 空を駆ける、巨大なオートジャイロ。
 運転手はミリーシャ。
 同行者は、シュライン・蓮・海斗・レイレイ。
 一行は、梨乃に頼まれて(半ば命じられて)オニラス渓谷へ向かっている。
 目的は、美味なる玉ねぎ。
 空飛ぶ玉ねぎ、フライ・オニオン。
 渓谷を目指す最中、一行は談笑を交わす。
「なー、ミリー。 これ、どこで借りてきたの?」
 帽子を押さえながら尋ねた海斗。
 ゴーグルをかけているミリーシャは、肩を竦めて苦笑するだけ。
 どうやら『内緒』ということらしい。
 今回に限らず、ミリーシャの道具(特に乗り物)には首を傾げさせられてばかりだ。
 一体、どこから持ってくるんだろう。思案する海斗は、神妙な面持ち。
 風を浴び、心地良さそうに目を伏せているのは、蓮。
 いいねぇ、これ。便利だな。
 梨乃ちゃんと一緒に乗りたかったかも。
 んー。まぁ、今日は仕方ないか。
 ニヤリと不敵に微笑む蓮。
 見やるのは、隣に座っているレイレイ。
「? 何ですか?」
 キョトンとしているレイレイ。
 蓮はクスリと笑い、レイレイの手に触れた。
「!!」
 慌てて手を避けるレイレイ。ビックリしたのだろう、目を丸くしている。
 たまたま、ぶつかっただとか、そういうことではない。ワザとだ。
 浩太くんはね、後手に回っちゃうとこがあるからさ。
 教えてあげても面白いかなぁって思うんだ。
 ボーッとしてたら、誰かに取られちゃうよ? ってことをね。
 偶然にしては、触れすぎだ。
 次第に戸惑い、アワアワしだすレイレイ。
 その反応を見やる蓮は、何とも楽しそうだ。
 
 *

「うぅわぁ……。すっごい……」
 渓谷に到着して早々、空を飛び交う玉ねぎを見上げてポカーンとするシュライン。
 縦横無尽に飛び回る玉ねぎは、想像していたよりも、ずっと激しく飛行していた。
 ヒュンヒュンと風を切る音。 渓谷なだけに、その音の響きは凄まじい。
 さて、どうしたものか。 目の前に目的物はあるけれど、そう簡単に採取できそうもない。
 現在時刻は、十五時。夕飯までに採って帰らねばならないことに加えて、
 調理時間も考慮せねばならないから……えぇと……とにかく、急がねば。
 手始めに、と超音波を放ってみるシュライン。
 生物じゃないけど、どうだろ。 効くのかな。
 ん? っていうか、これは生物なのかしら。微妙なところよねぇ。
 疑問を抱きつつも放った超音波。 どうやら、効果はあるようだ。
 超音波を浴びた空飛ぶ玉ねぎの速度が減少した。
「お! いいぞ! シュライン! もっとやれ!」
 巨大な網で、動きの鈍った玉ねぎを、もさっと採取して笑う海斗。
 隣のミリーシャも、ネット弾を放って採取に身を投じる。
 見事な連携で、次々と玉ねぎをゲットしていく三人。
 で、蓮は、というと。
「ねぇ、レイレイちゃん。 略奪愛って燃えない?」
 何をやってるんだ。キミは……。
 蓮は、レイレイを口説き落とそうと奮闘していた。
 無論、本気で口説き落とそうだなんて思っていない。
 ちょっとした悪戯心なのだ。
 だが、レイレイからしてみれば、ただの悪戯では済まない大問題。
 こんなに熱く、激しく、誰かに言い寄られるなんて初めてのことだ。
 駄目です、そんなの。 駄目です。私には、浩太くんしか。
 そう言って拒み続けるものの、レイレイは大パニック状態だ。
 ブンブンと網を振り回しているけれど、そこに玉ねぎは一つもないよ。
 パニック状態のレイレイを観察し、ケラケラと笑っている蓮。
 そこへ、海斗の怒りが飛んできた。
「くぉらー! 蓮! 何サボッてんだ、てめー!」
 大網を振り回しつつ、大声で叫んだ海斗。
 玉ねぎ採取に躍起になっているシュラインも笑って叫ぶ。
「蓮くんだけ、今夜は断食かしらねー!?」
 飛んでくる言葉に、目を伏せクスクスと笑い、蓮は使い魔を二匹を呼びつけた。
 白オコジョの小白(コハク)と、雷狐の狐門(コモン)だ。
 呼びつけた使い魔に「よろしくね」と言い放つ蓮。
 文句を言っても良さそうなものだが、使い魔たちは実に従順だ。
 言われるがまま、玉ねぎ採取へと向かっていく。
「あんにゃろー……」
 悔しそうに笑う海斗。隣で笑うシュラインは、淡々と言った。
「働かざるもの、食うべからずよね」
「だな! あいつは晩メシ抜きだっ!」
 鼻息を荒くする海斗に苦笑しつつ、ミリーシャは物思う。
 (いいな……あれ……)
 使い魔というものに、憧れを抱いているようだ。
 そんなこと言ったら、悲しむよ。 キミには、素敵な相棒狼がいるじゃないですか。
 ワーワーと叫びつつ、玉ねぎ採取。
 一行の叫び声と笑い声が、渓谷に木霊する。


「なぁ、大丈夫なのか? これ。めっちゃグラグラしてんだけど」
「多分……大丈夫……ちょっと遅くなるだけ……」
 頷いて返したミリーシャだが『ちょっと』どころじゃない。
 玉ねぎを採取しすぎた結果、オートジャイロは超低速低空飛行だ。
 ブブブブ……と、どこからか妙な音も聞こえてくる。
 爆発するんじゃねーのか、と不安そうな海斗。
 シュラインとレイレイは、機体にくくりつけられてブラ下がっている網を見下ろす。
 フライ・オニオンは、オニラス渓谷でしか採れない不思議な玉ねぎだ。
 加えて、空を飛ぶのも、渓谷でのみ。
 渓谷から離れれば、ただの普通の玉ねぎだ。
 さっきまで、ビュンビュン元気に飛び回っていたのに、
 すっかり大人しくなったフライ・オニオンたち。
「何か、遊びつかれた子供みたいね」
「ふふ。そうですね」
 クスクス笑いあうシュラインとレイレイ。
 一人、優雅に風を浴びて、すやすやと眠っている蓮。
 無論、大人しく寝かせてもらえるはずもない。
 ドスッと蓮の腹に乗っかり、海斗が眠りを妨げる。
「うぉいっ! 何寝てんだ、このやろー! お前、何もしてねーだろー!」
「ぐふっ。 ……ち、ちょっと海斗くん。それはナイでしょ……」
 皆(というか海斗)が好き勝手に暴れる所為で、オートジャイロは、フラフラグラグラ。
 もう少し……おとなしくしてくれると……助かるんだけどな……。
 口には出さず、一生懸命、操縦するミリーシャ。
 ある意味、彼女が一番疲れているのではなかろうか。

 *

 本部に戻ってこれたとき、時刻は既に二十時を回っていた。
 疲れた! と揃ってテーブルに突っ伏す一行。
 採取してきた玉ねぎの多さに、梨乃は引いた。
 (こ、こんなに要らないよ)
 けれどまぁ、せっかく皆が採ってきてくれたんだ。
 ありがたく頂戴して、とびっきりのカレーを作ってあげよう。
 うーん。でも、これ、どうしよう。 余り過ぎちゃうよ。
 マスターにお願いして、魔倉庫に保管してもらうしかないかも。
 しばらくは、玉ねぎ料理ばっかりになりそうだね。
「随分とまぁ、時間かかったな?」
 一行の帰りを、梨乃と共に待っていたディテクターが笑う。
 髪をツンツンと引っ張られるものの、シュラインは、くったり。
 はぅぅ〜……。 さすがに疲れたよ〜。
 もぉ、お尻がね、カチコチなの。痛いったら、ありゃしないわぁ。
 だからといって、揉んで? だなんて言わないわよ。 ……ここではね。
 梨乃がカレーを作っている最中、彼女の様子を伺いつつ、レイレイの肩を抱いてみる蓮。
 それに気付いた浩太は、慌てて二人の間に割って入った。
「ち、ちょっと。 何してるんですかっ?」
「何って。好きになっちゃったんだよ、俺もね」
「はっ!? れ、蓮さんには梨乃がいるじゃないですかっ」
「浩太くん。心変わりって知ってるかい?」
「な……や、やめて下さいよぉぉぉ」
 あからさまにからかっているだけだが、微笑ましい光景ではない。
 テーブルに突っ伏しているシュラインは苦笑している。
 あ〜あ。蓮くん、そういうことばっかやってると、大変なことになるわよ。
 知らないからね〜……って、もう、遅いみたいね。
「蓮さん……。 何してるんですか」
「おいこら、てめぇ。 何のつもりだ、こら」
 ズズーンと蓮の背後に立つ、鬼神二人。
 振り返った蓮は、苦笑しつつスタコラサッサと逃げ出した。
 まぁ、逃げ切れるわけもなく。
 鬼神……梨乃とディテクターに、こっぴどく叱られるわけですが。

 ギャーギャーと騒がしいレストラン。
 完成したカレーを前に、ヨダレじゅるりな海斗とミリーシャ。
 美味しそう……いい匂い……。
 食べる前にだけ抱ける感想。それを抱いた時間は、僅か三秒。
 海斗とミリーシャは、ほぼ同時に、カレーをバクバクと食べ始めた。
 凄まじいスピードだ。フライ・オニオンよりも速い。
「ごふそうしほうべ!! (訳:競争しようぜ)」
「むぐ……。 (訳:いいよ……?)」
 空飛ぶ玉ねぎ、フライ・オニオンを、ふんだんに使ったカレー。
 適度な甘さのそれは、何杯でもイケてしまう美味しさ。
 結果的に、その殆どがミリーシャと海斗の胃に収納されたことは、言うまでもない。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7433 / 白月・蓮 (しらつき・れん) / ♂ / 21歳 / 退魔師
 6814 / ミリーシャ・ゾルレグスキー / ♀ / 17歳 / サーカスの団員・元特殊工作員
 0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
 NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / 黄田・浩太 (おうだ・こうた) / ♂ / 17歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / レイレイ(草間・零) / ♀ / ??歳 / IO2:エージェント (草間興信所の探偵見習い・武彦の妹)

 シナリオ参加、ありがとうございます。
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 2008.06.25 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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