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■INNOCENCE / 恋愛遍歴 (限定受注)■

藤森イズノ
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
いやはや、何とも暖かい。
もう、夏はすぐそこだなぁ。
今年も、暑くなるんだろうか。
ほら、何ていうの? あれ。温暖化現象?
まぁ…夏!って感じで、嫌いではないんだけれど。
あんまり暑すぎるのも、どうかなぁ。
適度が一番だよね、何事も。
って言ったところで、どうにもならないんだろうけど。
そんなことを考えつつ、フラフラと中庭へ。
日光浴日和ですから。
(あれ?)
中庭に踏み入って、すぐ気付く。見慣れた後姿。
ベンチで空を見上げている姿、どこから見ても "仲間" な気配。
いいね。どうせなら仲良く並んで日光浴しようか。
昼食の時間まで、のんびりと。ね。
微笑み、歩み寄って声を掛ける。
「良い天気だね」
INNOCENCE // 恋愛遍歴

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 OPENING

 いやはや、何とも暖かい。夏だなぁ。
 今年も、暑くなるんだろうか。
 ほら、何ていうの? あれ。温暖化現象?
 まぁ、夏! って感じで、嫌いではないんだけれど。
 あんまり暑すぎるのも、どうかなぁ。
 適度が一番だよね、何事も。
 って言ったところで、どうにもならないんだろうけど。
 そんなことを考えつつ、フラフラと中庭へ。
 日光浴日和ですから。
 (あれ?)
 中庭に踏み入って、すぐ気付く。見慣れた後姿。
 ベンチで空を見上げている姿、どこから見ても "仲間" な気配。
 いいね。どうせなら仲良く並んで日光浴しようか。
 昼食の時間まで、のんびりと。ね。
 微笑み、歩み寄って声を掛ける。
「良い天気だね」

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 誰が言い出したわけでもないけれど、揃って仲良く日向ぼっこ。
 ん〜っと伸びる海斗、空を見上げて微笑むシュラインと千華。
 咲き誇る花々をジッと見つめている凰華、大きな欠伸をしている明日菜。
 何ともノンビリ、まったりな、この雰囲気。
 平和ですなぁ〜……。 いい天気ねぇ。
 そろそろ、海だとか山だとか、レジャーを満喫できる季節よねぇ。
 目を伏せ、微笑んでいるシュライン。
 誰も、言葉を発そうとはしない。
 けれど、気まずくなるわけでもない。
 気心の知れた仲間内だからこその時間。
 まったりとした雰囲気の中、ポツリと海斗が呟いた。
「彼女、ほしーなー」
 その発言をスルーするわけにはいかない。
 クスクス笑い、シュラインは言う。
「どうしたの。急に」
「だってさー海とかさー。一緒に行きたいじゃんか」
「ふふふ。なるほど、そういうことかぁ」
 笑うシュラインを見つつ、千華は髪を弄りながら言った。
「ちょっと前まではいたのにね?」
「そうなのっ?」
 シュラインだけでなく、明日菜も、そこには食らい付いた。
 凰華だけは興味がないようで、依然、花を見つめているばかりだ。
 ちょっとだけ意外な事実。 そう、海斗にも彼女がいた時期がある。
 二ヶ月前のことだ。お相手は、組織外の普通の女の子。
 通い詰めていた菓子屋の店員だった、その子を好きになってしまい。
 ありがたいことに、彼女も海斗に想いを寄せてくれていた。
 そうなれば後はもう、流れるような展開で。自然と付き合うことになり。
 けれど、二人のお付き合いは、あっという間に終わってしまった。僅か、半月で。
 互いに想い合っていたのにも関わらず、別れてしまった。
 何かあったの? 喧嘩でもした? 明日菜が尋ねると、
 海斗はゴロゴロと芝生を転がりながら、納得いかない様子で答えた。
「ガキ過ぎるって言われてー。それっきりー」
 子供過ぎる。子供過ぎた。その言葉が意味するもの。
 要するに甲斐性なし? もっと言えば、ヘタれ?
 何となく、そうなんじゃないだろうかと思っていた明日菜はクスクス笑った。
 やっぱ、そんな感じだったかぁ。 だと思ったのよね。
 キミって無邪気で可愛いけど、男として見ると、物足りないもの。
 ちょこちょこと、ちょっかい出したりもしてるけど、淡白な反応だしね。
 もっとさ、こう、思春期特有の反応してくれると、からかい甲斐あるんだけどな。
 ガキっぽいと言われ、それっきりだが、特に未練があるわけでもないらしい。
 寧ろ、ガキだと言われたことに納得できず、今だに思い出すとムカッとしてしまうらしい。
 ガキで何が悪いのさ。俺は俺。このまんまだよ、ずっとね。
 言い切った海斗に、シュラインは目を伏せて笑った。
 うん。いいんじゃないかしら。そのままで。
 いつか、ありのままの海斗くんを好きになってくれるコも現れるだろうし。
 いつになるかは、皆目検討つかないけどねぇ。
「シューちゃんは、言うまでもなくラブラブよね」
 ニコリと微笑んで言った千華。シュラインは照れくさそうに微笑み返す。
 シュラインとディテクターの関係は、誰もが知りえている。
 既に夫婦である二人に、順調ですか? なんて聞くのは野暮ってもんだ。
 五人の中、唯一の既婚者であるシュラインは、質問攻めにあう。
 ディテクターとの出会いから、好きだと確信した瞬間、
 普段、二人っきりの時は、どういう話をしてたりするのか。
 寄せられる質問に、照れながらも返答していくシュライン。
 うん……。まぁ、今はね夫婦って関係だけれど。
 ここまで来るのに、結構グルグル遠回りしたのよ。
 私がね、ちょっと男性に対して恐怖心みたいなのがあったからなんだけど。
 恋愛だとか異性だとか、そういうのに一番興味がある年頃に、ちょっと嫌なことがあってね。
 でも、探偵さんは、いつも手を引いてくれた。
 見当違いな方向へ歩いて行ったら、そっちじゃないって引き戻してくれたり、
 隅っこでコッソリと隠れてたら、何してんだって見つけてくれたり。
 私のことを知ってるが故に、ゆっくり一緒に歩いてくれてたんだと思うのね。
 それはもちろん、今でもそうなんだけど。時々……不意打ちとかも、あるけどね。
「いいわねぇ。安定してるっていうか。円満よねぇ」
「こういうのを、理想の夫婦とか言うのかもね」
 クスクス笑って言う千華と明日菜。
 シュラインの話を聞いていた凰華は、花を見つめつつ物思う。
 (恋人、か……)
 憂いを含んだ、その表情に一番最初に気付いたのは千華。
 聞いちゃいけないことのような気もするけれど、聞いてみたい。
 自重に勝る好奇心。千華は、凰華に微笑みかけて尋ねた。
「凰華ちゃんは今、彼氏とかいるの?」
 凰華の恋愛遍歴。見た目こそ二十歳そこらではあるものの、
 実際、凰華は途方もない年月を過ごし、様々な経験をしている。
 けれど長い歳月の中、どれだけ漁っても、恋人だと言える関係だった男性は一人だけ。
 聞いちゃまずかったかな、と不安そうな顔をしている一同。
「別に言いたくないわけでもない。聞きたいなら、教えてやるよ」
 淡く微笑み、凰華は自身唯一の恋愛について話しだした。
 何十年、いや、何百年も前の話。
 まだ仕事に不慣れだった凰華に色々と教えてくれた男性。
 同じ退魔師であったが故に、二人は恋人同士であり、良きライバルであり。
 一緒にいることに苦痛を覚えたことは一度たりとてなかった。
 寧ろ、居心地が良かった……のかもしれない。
 傍にいるのが当たり前、いつしかそんな関係になった。
 この人と、いつまで時間を共有できるのだろう。
 そこに不安を覚え始めたときのことだ。事件が起きる。
 凰華を庇い、命を落とした男性。あっけなかった。
 どうして、こうも人間という生き物は脆いのか。
 動かぬ恋人を抱きつつ、凰華は泣いた。
 彼女が涙を落としたのは、後にも先にも、その時だけ。ただ一度だけだ。
 その後も、他の男に好意を持たれたり、想いを告げられたりしたことは何度もあった。
 けれど、応じることはせず。過去に未練があるというわけでもない。
 ただ純粋に、怖くなっていた。裏仕事の危険性だったり、自身が不老であることだったり。
 表沙汰に出来ないことがある。それが、交際を拒む理由だ。
 人それぞれ、皆、何かを抱えて生きている。
 恋愛に限ったことではないけれど……。
 妙に、しんみりとしてしまう一同。
 俯く仲間を見やり、凰華は苦笑した。
 やはりな。こうなるような気がしていたんだ。だから気乗りはしなかったんだが。
 しんみりな雰囲気、それを払うかのように、海斗が突っ込む。
「あ。 明日菜は? 明日菜はさ、どーなの。そーいうの」
「ん。私?」
「そ。いまいち、よくわかんないんだよね。明日菜って」
 寝そべって尋ねた海斗に、クスリと笑う明日菜。
 うーん。まぁ、わからなくて当然だとも思うなぁ。
 明日菜の恋愛遍歴は、ちょっと異質なものだ。
 彼女が自ら『付き合った』と言える相手は一人もいない。
 けれど、付き合っていたんじゃないのか? と首を傾げる相手は多い。
 どういうことか。簡素に説明すれば、それはとても単純なこと。
 ハイティーン、ダンディなおじさま、可愛い女の子から熟女まで。
 相手は星の数ほど。 そして、その全員と肉体関係まで結んでいる。
 その状況で、彼女が付き合ったと言えない理由、それは彼女の心。
 とある企業に在籍していた頃の過酷な環境と経験により、感情というものを一切なくしてしまった。
 嬉しいだとか悔しいだとか悲しいだとか。何も抱くことが出来なくなった。
 無論、誰かを愛しいと想うだとか、誰かに愛されたいと欲することもなく。
 このままでも生きていくのに不自由はない。そうは思った。
 けれど義母と出会い、彼女と言葉をかわすうち、思考に変化が及ぶ。
 様々な人物、老若男女。 深い関係を結ぶことで、感情を勉強しようと思った。
 端から見れば、理解しがたい行為に思えることだろう。
 けれど、彼女は彼女なりに、手探りで学ぼうとしている。
 まぁ、今となっては、ただのストレス発散行為になっているようだけれど……。
 人を愛するという感情を理解できない。
 シュラインや千華からすれば、それはとても不憫なこと。
 けれど、明日菜はいつでも明るく元気だ。
 そこに不安を抱いていたりはしない。何とかしようとも思っていない。
 どうでもいい? うーん。そうとも言うかもしれない。
 (それもまた、一つの手かもしれないな)
 目を伏せる凰華は、何かを悟ったような。そんな気がした。

 *

 過去の恋愛について、今の状況について、果てには未来について。
 好みのタイプだとか、こういうのは嫌だなぁ、だとか。
 五人は、中庭で和気藹々と、ときにシンミリと言葉を交わす。
 恋愛に対する考えや想い、そこを知るうちに、相手が見えてきたりもする。
 意見を押し付けたりすることはしない。人それぞれだから。
 もちろん、誰かの考えを否定することもしない。
「さぁて、次は千華さんの番ね」
「そうだな。まだ聞いていない」
 微笑みつつ言ったシュラインと凰華。
 あんまり話したくないんだけどなぁ、と苦笑するものの逃げられやしない。
 それを理解している千華は、躊躇いがちに、自身の恋愛遍歴を話し始めた。
 あれこれと言葉を交わし、その一つ一つに反応する。
 そうなの? どうして? 私はねぇ……。
 隠したり、勿体ぶったりせずに、自分の感情を吐き出す仲間達。
 笑い話す彼等を見つつ、明日菜は一人、空を見上げて目を伏せた。
 そういうの、理解るようになったら、もっと楽しいかもしれないわね。
 理解したいって強く思うわけじゃないけれど。
 皆の楽しそうな顔見てたらね、そういうのも悪くないかなぁって。思えてきたよ。
 空を見上げる明日菜の柔らかい笑みに、どこか違和感を覚えたのは、凰華だけ。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
 2922 / 隠岐・明日菜 (おき・あすな) / ♀ / 26歳 / 何でも屋
 4634 / 天城・凰華(あまぎ・おうか) / ♀ / 20歳 / 退魔・魔術師
 NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / 青沢・千華 (あおさわ・ちか) / ♀ / 29歳 / INNOCENCE:エージェント

 シナリオ参加、ありがとうございます。
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 2008.06.27 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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