コミュニティトップへ




■INNOCENCE / おめでとう (限定受注)■

藤森イズノ
【7403】【黒城・凍夜】【何でも屋・暗黒魔術師】
べりっと剥がした、日めくりカレンダー。
いよいよ、明日…。大切な人の誕生日。
大したことは、出来ないかもしれないけれど。
気持ちを込めて、精一杯、お祝いしてあげたいなと思う。
ただ「おめでとう」って言うだけじゃ物足りない。
だから、色々考えた。素敵なお祝いになるように。
忘れない、大切な思い出になるように。
心を込めて、祝福するんだ。
喜んでくれますように。
微笑んでくれますように。

あなたが生まれた、特別な日だから。

INNOCENCE // おめでとう

------------------------------------------------------

 OPENING

 べりっと剥がした、日めくりカレンダー。
 いよいよ、明日。大切な人の誕生日。
 大したことは、出来ないかもしれないけれど。
 気持ちを込めて、精一杯、お祝いしてあげたいなと思う。
 ただ「おめでとう」って言うだけじゃ物足りない。
 だから、色々考えた。素敵なお祝いになるように。
 忘れない、大切な思い出になるように。
 心を込めて、祝福するんだ。
 喜んでくれますように。
 微笑んでくれますように。

 あなたが生まれた、特別な日だから。

------------------------------------------------------

 本部二階、キッチンにて繰り広げられている攻防。
 攻めているのは、海斗と浩太。防っているのは、梨乃と千華。
 藤二とマスターは、その光景を笑いながら見守っている。そんな状態。
「あっ! ちょっと、ほんと、もう! いい加減にしてよぉっ」
「ケチくせーこと言うなよー! まだまだ、たくさんあるんだしさー」
「そういう問題じゃないっ! ばかっ!」
 ゴムべらを持ったまま、バタバタと海斗を追い掛け回す梨乃。
 よし、今だ。隙を見計らって、浩太が料理を抓み食い。
「こらっ」
「痛っ」
 ぺしっと千華に叩かれて、苦笑い。こっそり、だなんて無理な話だった。
 ギャースカ騒がしいキッチン。トップエージェントが、こぞって準備中。
 とあるエージェントの誕生日を祝う為、彼等は朝早くから支度している。
 その、祝われるエージェントというのは、二名。凍夜と夜宵。
 偶然というか何というか。一日違いで誕生日。
 それならば、まとめて盛大に祝ってやろう。そう言いだしたのは海斗だった。
 まぁ、ご馳走目当てなのだろうけれど……彼の場合は。
 キッチンで繰り広げられる激しい攻防戦は、実に賑やかだ。
 その音で、次々とエージェント達が目を覚ましていく。
 (……うるせぇな)
 ムクリと起き上がり、はぁ……と大きな溜息を落とした凍夜。
 時計を見やれば、時刻は、まだ朝の七時。
 こんな朝っぱらから、何を騒いでんだか。
 ふあぁ、と欠伸をする凍夜は、瞬時に悟っていた。
 やかましいのは、間違いなく海斗だろう。何か、賭けてもいいくらいだ。
 凍夜の部屋の真上。夜宵の部屋は、そこにある。
 彼が目を覚ますと同時に、ふっとベッドの中で目を開いた夜宵。
 (朝から元気ねぇ……)
 やれやれ、と苦笑しつつベッドから抜け出て、いそいそと着替えを済ませる。
 彼女もまた、瞬時に悟っていた。大騒ぎの犯人を。
 大方、朝ごはんを抓み食いしただとか、その辺りなんでしょうけど。
 本当に、懲りないわよねぇ。 まぁ、根性があるといえば、あるんだけど。
 二人には、誕生日パーティについて、一切話していない。当然のことながら。
 驚かせたいだとか、そういう気持ちもあるけれど、それよりも。
 後悔しないよう、完璧に準備がしたい。
 彼等が一生、今日という日を、忘れぬように。
 もはや、これは執念だ。実行者としての意地とプライドをかけて。
 とはいえ、そうして意気込んでいるのは梨乃と千華のみ。
 藤二とマスターはマッタリしているし、海斗と浩太は……言うまでもなく。
 結果、パーティを開催する夜まで、攻防戦は続いた。
 決戦の舞台は、キッチンだけじゃなく、各所で。

 *

 「………」
 「うわ……」
 暗闇の中、ぼんやりと灯る無数の蝋燭。鼻をくすぐる、ごちそうの香り。
 プレゼントの山、鳴り響くクラッカーと拍手、祝いの歌。
 梨乃と千華に連れられ、やって来た中庭で、凍夜と夜宵は揃って目を丸くした。
 おかしいとは思っていたんだ。廊下ですれ違った時に声をかけても、ぎこちなかったし。
 もしかして、何か機嫌を損ねるようなことをしてしまったのだろうか。
 そう不安になったりもしたさ。 割と真剣に悩んだんだけどな。
 なるほど。こういうことだったのか。揃って、こんな大掛かりなことを。
 誕生日。そうだよな、そういえば、もうすぐ誕生日なんだよな、俺。
 変だな、とは思ってたよ。そりゃあね、皆、揃って演技が下手なんだもの。
 普段どおりにしているつもりだったんだろうけど、バレバレだったわよ。
 何か隠し事してるなってことくらい、すぐに理解ったわ。
 けど、演技下手なくせに、妙に巧いのよね。隠すのは。
 結局、何をしようとしてるのか理解らずじまいだったんだけど。
 なるほどね。こういうことでしたか。ふぅん?
「おぬしは、所属祝いも兼ねて……といったところじゃな」
 ふぉっふぉと笑い、果実酒を注いだグラスを差し出したマスター。
 夜宵はグラスを受け取ると、目を伏せクスクスと笑った。
 イノセンスに所属して、今日で五日目。
 別に計ったわけじゃないけれど、うまい具合に重なったものね。
 グラスを交え、祝賀の宴。
 とはいえ、誕生祝いっぽかったのは最初だけ。
 すぐに、いつものように大騒ぎで、どんちゃん騒ぎ。
 酔っ払い、ケラケラ笑いつつも「おめでとう」と叫んでいるのは、せめてもの救いか。
 賑やかな中庭、並んで座る主役二人。
 凍夜と夜宵は顔を見合わせ、揃って肩を揺らした。
「誕生日、近かったんだな」
「そうね。奇遇だわ」
「どうだ?」
「何が?」
「この組織は」
「う〜ん。そうねぇ、まだまだ。これからって感じね」
「まぁ、飽きないとは思うよ」
「ふふ。でしょうね」
 主役だというのに、やたらと落ち着いている二人。
 二人よりも、周りが、はっちゃけているというのは……どうなんだろう。
 とはいえ、二人とも迷惑だなんて思っちゃいない。寧ろ、喜んでいる。
 こんなに盛大なパーティを催してくれたことに、感謝しないはずもない。
 心から。そう、心から、有り難く思う。
 こんなに五月蝿……いや、賑やかな誕生日、初めてだ。
 皆から受け取ったプレゼントで、二人の周りは箱やら袋やらで埋め尽くされている。
 プレゼントに埋まっているかのような光景だ。
 ガサガサと袋を開けてみれば、珍妙なプレゼントばかり。
 期間限定のマッサージ券だったり、ゴミのような玩具だったり。
 けれど、中には「おぉ……」と驚いてしまうものもある。
 凍夜の心をグッと捉えたプレゼント。それは、シルバーアクセサリー。
 獅子を模った装飾が美しいブレスレットだ。
 (これは……間違いなく。あいつ、だろうな)
 淡く笑い、彼がチラリと見やるのは梨乃。
 自分の好みを把握して、素晴らしいプレゼントをくれる。
 茶目っ気のありすぎるプレゼントの中で、一つだけ。特別な想いのこもったプレゼント。
 視線を感じて振り返った梨乃は、ブレスレットを腕にはめる凍夜に微笑みを返した。
 あらあら。何よ、もう。ラブラブってやつですか。いいわねぇ。
 距離を保ったまま、微笑み合う凍夜と梨乃を見やり、苦笑して肩を竦める夜宵。
 別にねぇ、心から羨ましいだとか、そこまでは思わないのよ?
 ただ、こうやって目の前でアピールされちゃうと、微妙なとこよね。
 さてさて、私もプレゼント開けてみよっと……何が出るかな。
 滅茶苦茶ダンディな、おじさま……もしくは、モデルっぽい美青年とか。
 ……出てくるわけないんだけどね。何考えてんだか、私ってば。
 ガサガサと袋を開け、パカリと蓋を取ってみる。
 夜宵が手にしたプレゼント。白い箱の中に、とても綺麗なピアス。
 (黒宝珠……? 綺麗……)
 ピアスを手に取り、光に宛がってみれば、宝珠の中で液体が踊る。
 贈り物にウットリしている夜宵に、マスターが歩み寄った。
「気に入って貰えたかのぅ?」
「これは、あなたが……?」
「うむ。手作りじゃぞ。ワシのな」
「へぇ……」
「反応、薄いのぅ……」
「え。あ。あぁ、ごめんなさい。意外だったものだから」
「どれ。貸してみぃ」
 夜宵の手からピアスを取り、それを彼女の耳へ。
 ちょっとミステリアスで。でも、可愛らしく。謙虚に揺れる、黒宝珠。
 似合う似合う、と夜宵の頭を撫でてフォッフォと笑うマスター。
 頭を撫でられるなんて、久しぶりのことで。微妙に照れ臭い。
 微笑み返し、僅かな照れを誤魔化して、告げる感謝の想い。
 いつまでも。そう、出来うることなら、いつまでも。
 この組織に身を置き、成長していってもらいたい。
 プレゼントに込められた、その願いを感じ取れぬほど鈍くはない。
 ありがとう。うん、そうね。私も、同じ気持ちよ。どうか、どうか末永く。
 
「……マスター、意外とマメだな」
 離れた位置から夜宵とマスターを見やっていた凍夜が笑う。
 彼の隣で、グラスにワインを注いでいる梨乃は、目を伏せてクスクス。
 ああいう所もあって、若い頃は、かなりモテたらしいですよ。
 梨乃から聞かされた意外な事実に、思わずハハッと笑ってしまう。
 へぇ、なるほど? その辺、突っ込んでみるのも面白いかもな。
 まぁ、いつもの如く、適当に流されちまうんだろうけど。

 *

 夜通し続く、生誕パーティ。
 かけがえのない仲間が、この世に生を受けた、その悦びを。
 なんて、そんな、神々しい雰囲気ではないけれど。
 悦びを感じているのは、皆同じ。おめでとうを、笑顔に変えて。
 夜通し続く、生誕パーティ。
 この世に生まれてくれて、ありがとう。
 なんて、そんな、大袈裟かもしれないけれど。
 感謝しているのは、皆同じ。ありがとうを、笑顔に変えて。
 いつまでも、この夜を。二人が忘れませんように。
 願っているのは、皆同じ。

------------------------------------------------------

 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7403 / 黒城・凍夜 (こくじょう・とうや) / ♂ / 23歳 / 何でも屋・契約者・暗黒魔術師
 7575 / 黒咲・夜宵 (くろさき・やよい) / ♀ / 18歳 / 呪術師・暗殺者
 NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / 青沢・千華 (あおさわ・ちか) / ♀ / 29歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / 黄田・浩太 (おうだ・こうた) / ♂ / 17歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / イノセンス・マスター / ♂ / ??歳 / INNOCENCE:マスター(ボス)

 シナリオ参加、ありがとうございます^^
-----------------------------------------------------
 2008.07.13 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
-----------------------------------------------------