■INNOCENCE -another spiral- // 序■
藤森イズノ |
【7433】【白月・蓮】【退魔師】 |
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I'm waiting for you.
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ただ一文。自宅に届いたカードには、それしか記されていなかった。
黒いカードに、白いインクで書かれたメッセージ。
カードの四隅には、十字架のようなものが描かれている。
何とも怪しい、このメッセージカード。
(待ってる…って言われてもな…)
まったくだ。そんなことを言われても困る。
誰かが自分を待っている、それは理解る。
けれど、招待にしちゃあ、情報が少なすぎやしないか?
"どこで" "誰が" "何の為に" 待っているのか、さっぱりだ。
不幸の手紙…とか、そういう類の悪戯だろう。
そう判断するのに要した時間は、五秒間。
まったく…今時、こんな悪戯するヤツいるんだな。
古いというか何というか…やれやれ。
(ん…?)
ゴミ箱へ放ろうとした時だった。ふと、目に入る情報。
カードの裏に、小さな文字で書かれた情報。
そこには、差出人の名前と会場らしき場所の住所が記されていた。
差出人の名前は【 MASTER 】 会場は 【 REEZ TOWER 】
…うん、ごめん。やっぱり、情報が少なすぎる。
マスターって何?リーズタワーって何?
その辺りの説明も欲しいところ。…っていうか必須だと思う。
明らかに不審な招待状。
悪戯だと疑う気持ちは止まぬまま。
けれど、何故だろう。捨てることが出来なかった。
捨てることが出来なかったんだ。
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INNOCENCE // アナザー・スパイラル
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OPENING
イノセンス本部から、北へ。深い深い森の中、ひっそりと聳える、古びた塔。
リーズタワー。別名、心誘(シンユウ)の塔。
一歩踏み入れば、そこは魔物の巣窟。
けれど恐ろしいのは、潜む魔物ではなく。
塔の仕掛け、来る者を試すかのような、その仕掛けである。
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「へぇ〜。こんな所に、塔なんてあったんだ」
イノセンス本部から北へ。森の中、ひっそりと在る古びた塔。
見上げつつ言った蓮の横顔を見つつ、梨乃は神妙な面持ちだ。
眼差しに気付き、ふと見やって微笑む蓮。
梨乃に誘われて、連れて来られた場所。
デートのお誘いかと思ったんだけどな。
どんどん人気のない方に行くもんだから、期待しちゃったよ。
でも、ちょっと違うみたいだね? その顔から察するに。
うん。まぁ……妖しいといえば妖しい塔かな。
でも何だろう。不思議と気持ちが落ち着くっていうか。
優しい気持ちになるような気もするね。
で? この塔に入れ、と。そういうことだよね?
尋ねると、梨乃は躊躇いつつコクリと頷いた。
一緒に入るわけではなく、蓮が一人で入らねばならないらしい。
とにかく入って下さい。それしか言わない梨乃。
中で何をすれば良いのか、中はどうなっているのか。
その辺りを尋ねても、はぐらかすばかりだ。
オーケー。わかった。行ってくるよ。
キミにそこまで言われちゃ、断れないしね。
何が何なのか、さっぱり理解らないけれど。
キミは無意味なことは絶対にしない子だ。
きっと、何か意味があるんでしょ?
まぁ、その顔を見れば一目瞭然だけどね。
「じゃあ、行ってくるよ」
「はい」
*
古びた扉を開け、塔の中へ入った蓮。
と同時に、ガチャリと……錠のかかるような音。
振り返って扉を開けようとしてみるものの、開かない。
梨乃が外から鍵を掛けただとか、そういうことではないようだ。
勝手に。そう、勝手に鍵が掛かったかのような。
ふむ。要するに、何か果たさないと外には出られないと、そういうことだね?
オーケー。じゃあ、とりあえず階段上ってみようか。塔だしね、上を目指すんでしょ。
よし、と頷き、階段へと向かう蓮。
塔の中は薄暗く、ぼんやりと淡い光が所々に灯っているだけだ。
ヒヤリと冷たい空気から、魔物の気配も感じ取れる。
まぁ、一階には魔物はいないみたいだけど……。
嫌な空気が漂う上階へ。階段を一段上った、その時だ。
「っわ!」
突如、床から飛び出してきた無数の氷。
あと少し反応が遅れていたら、串刺しになっていただろう。
ん〜。ちょっとビックリした。そうきたか。
これは何かな。上るなってことかな?
飛び出した氷は、蓮を包囲するかのように出現した。
このままでは、身動きが取れない。
どうしろってんだろうね。上るなってことは……待機とかかな?
むぅ、と首を傾げていると、どこからか鈴の音のようなものが。
キョロキョロと辺りを伺えど、氷しか見えない。
やがて、ピタリと止む鈴の音。
その直後、蓮を包囲する氷が、眩く輝いた。
あまりの眩しさにキュッと目を閉じ、数秒。
光が治まったと同時に、ゆっくりと目を開く。
すると、蓮の目に。不思議なものが映りこんだ。
自分を包囲する氷に、両親と黒い影のようなものが映し出されていたのだ。
どういうわけか、それらを目にした瞬間、蓮は悟った。
今、自分の目に映っているこれらは、俺が俺である理由だ、と。
両親に対する感謝と愛は言うまでもない。
実の両親ではないけれど、そんなことはどうでもいい。
二人が救ってくれたから、俺は今、こうして生きている。
惜しみなく愛情を注いで育ててくれた。それは、今も継続されている。
それに応えるべく、俺も、ありったけの愛を返す。
感謝は勿論のこと、尊敬もしてるんだ。
一人の男として、一人の女として。
二人共、何て立派なんだろう。そう思ってるよ。
うん。両親はね、理解るよ。大切な、かけがえのない存在だ。
けれど、その背後に映っている……黒いものは何だろう。
人の形をしているようにも見えるけれど……。
何なのか理解らない上に、両親の背後に立ってるっていうのが不気味だな。
何だろう。これ。何か、嫌な気持ちになる。
いや、違うな。嫌な気持ちっていうか……恐怖?
何故だろう。何故、俺はあれを怖いと思うんだろう。
いや、確かに見た感じ、あからさまに不気味だよ。
けれど、そうじゃないんだ。怖いと思うのは、外見じゃなくて。
そう、あの物体の意味と……その存在?
謎の黒い物体を前に、あれこれ考えている内、次第に覚える頭痛。
その痛みは、身体活性反動のそれに酷似していた。
覚える眩暈に、ガクッと膝を落とした瞬間。
彼を包囲していた氷が、全て煙となって消えた。
同時に、ゴゴンと音が響き、塔の扉が開く。
「蓮さん!」
膝をついたまま、頭痛に眉を寄せている蓮に駆け寄った梨乃。
慌てて治癒魔法をかけてはみるものの、効果はないようだ。
時間経過でしか除去されない痛み。
その辺りもまた、身体活性反動と同じだ。
辛くはあるが、不安にさせてはいけないと、微笑んで立ち上がった蓮。
梨乃に身体を支えられ、ゆっくりと歩いて塔の外へ。
キミが俺をここに連れてきた理由。
何となく、わかったような気がするよ。
この痛みが、その証っていうか。
うまく言葉にすることは出来ないけれど。
再認する必要があったんだね?
自分にとって、かけがえのない存在とは何か。
自分を生かす、揺るぎない存在とは何か。
残念なことに、あの黒い影のようなものの正体は理解らないままだけど。
今はまだ、知らなくて良い。何故か、そう理解しているんだ。
いずれまた、ここに来ることになるんでしょ?
キミと二人で、手を繋いで。
その時、きっと理解るんだよね。
あの黒い影のようなものが何なのか。
アナザー・スパイラル。
塔の頂に眠る真実へ。今はまだ、手を伸ばすべきではないようで。
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7433 / 白月・蓮 (しらつき・れん) / ♂ / 21歳 / 退魔師
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
シナリオ参加、ありがとうございます^^
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2008.07.19 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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