■INNOCENCE -another spiral- // 序■
藤森イズノ |
【7403】【黒城・凍夜】【何でも屋・暗黒魔術師】 |
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I'm waiting for you.
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ただ一文。自宅に届いたカードには、それしか記されていなかった。
黒いカードに、白いインクで書かれたメッセージ。
カードの四隅には、十字架のようなものが描かれている。
何とも怪しい、このメッセージカード。
(待ってる…って言われてもな…)
まったくだ。そんなことを言われても困る。
誰かが自分を待っている、それは理解る。
けれど、招待にしちゃあ、情報が少なすぎやしないか?
"どこで" "誰が" "何の為に" 待っているのか、さっぱりだ。
不幸の手紙…とか、そういう類の悪戯だろう。
そう判断するのに要した時間は、五秒間。
まったく…今時、こんな悪戯するヤツいるんだな。
古いというか何というか…やれやれ。
(ん…?)
ゴミ箱へ放ろうとした時だった。ふと、目に入る情報。
カードの裏に、小さな文字で書かれた情報。
そこには、差出人の名前と会場らしき場所の住所が記されていた。
差出人の名前は【 MASTER 】 会場は 【 REEZ TOWER 】
…うん、ごめん。やっぱり、情報が少なすぎる。
マスターって何?リーズタワーって何?
その辺りの説明も欲しいところ。…っていうか必須だと思う。
明らかに不審な招待状。
悪戯だと疑う気持ちは止まぬまま。
けれど、何故だろう。捨てることが出来なかった。
捨てることが出来なかったんだ。
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INNOCENCE // アナザー・スパイラル
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OPENING
イノセンス本部から、北へ。深い深い森の中、ひっそりと聳える、古びた塔。
リーズタワー。別名、心誘(シンユウ)の塔。
一歩踏み入れば、そこは魔物の巣窟。
けれど恐ろしいのは、潜む魔物ではなく。
塔の仕掛け、来る者を試すかのような、その仕掛けである。
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「で……? 俺に、どうしろってんだ?」
「んーとね。とりあえず、中入って来て」
「……お前は?」
「俺は行かない。っつーか、凍夜が一人で行かないと駄目なんだよね」
「…………」
何故だ? そう問おうとしたが止めた。
どうせ、聞いても答えてはくれないんだろう。
自室で昼寝していたところを起こされ、何事かと思いきや。
海斗に強引に手を引かれ、怪しげな塔へと連れて来られた。
道中は勿論のこと、到着しても尚、事の詳細は明らかになっていない。
まったく……。自己中なのにも程があるぞ、お前は。
まぁ、何というか。あからさまに不気味な雰囲気の塔だ。
おそらく、中では魔物がウヨウヨしているんだろう。
それを始末してこいだとか、そういうつもりなのかとは思うが。
俺が一人で行かねばならない、という点が微妙なところだな。
また、何か厄介なことに巻き込まれるんじゃないだろうか。
とはいえ、嫌だと言っても無駄なんだろうな。
はぁ、と大きな溜息を落とし、扉に手をかけた凍夜。
背後から掛かる「いってらっしゃい」に、もうひとつ、おまけで溜息を。
扉を開け、塔の中へ入った瞬間のことだ。
ガシャンと、妙な音が聞こえた。
錠をかける音に、よく似たそれに振り返ってみれば、どういうことか。
扉が、ただの鉄板と化しているではないか。
押しても引いてもビクともしない……。
閉じ込められた、そんな状態だ。
まさか、これが目的か? だとしたら、とんでもなく幼稚な悪戯だ。
やれやれ、と肩をすくめ、血剣を出現させて、それで扉を斬り付けてみる。
だが、無意味なようで。扉には、傷一つ付かない。
ガキンガキンと金属音が響く中、扉の向こうで海斗が笑う。
「無駄だよー。先に進まないと開かないよー」
「…………」
何とも楽しそうな声。満面の笑みを浮かべているに違いない。
激しくイラつくが、どうしようもなさそうだ。仕方ない、付き合ってやるか……。
先に進め、か。ふと顔を上げ、塔の上層を見上げる凍夜。
一階は特に何の問題もなさそうだ。
だが、二階より上は、魔物の臭いがプンプンと漂っている。
先に進め、イコール、上へ行け。そういうことだな?
血剣を構えたまま、階段へと向かう凍夜。
すぐに応戦できるよう、警戒を怠らず。
一段、階段を上った。その時。
ガシャッ―
「…………」
突如、目の前に出現し、視界を遮った……無数の氷。
床から生えてきたような感じだったが、少し反応が遅れていれば串刺しになっていただろう。
前後左右、取り囲むようにして出現した氷の柱。
これでは、先に進むことは出来ない。
いや、寧ろ……進ませまいとしているのか?
タイミングが良すぎるような気がするんだよな。
でも、そうだとしたら、どうすべきなんだ?
氷から負の気配は感じられないが……。
とりあえず、全部砕き割ってしまおうか。
スッと血剣を構え、氷を纏めて薙ぎ払おうとした時。
それまで落ち着いていた凍夜の呼吸が、瞬時に乱れた。
彼を一瞬で戸惑わせたもの。
それは、過去の闇、心の傷。
自分を取り囲む氷に映し出される、最愛の妹。
無垢で愛らしい笑顔は、いつまでも色あせることなく心の中に。
あれから何度も夢に見る。変わらぬ笑顔が、今、目の前に。
戸惑わないはずがない。取り乱すな、だなんて無理な話だ。
血剣を握る手に、じわりと汗が滲んでくる。
焦りじゃない。恐怖でもない。後悔でもなくて。
この滲む、冷たい汗の理由は、そう……。
妹の姿がフッと消え、次に映し出された人物。
次々と映し出される、それは、自らが欲した闇の力。
契約を済ませ、今や自分の一部である高位悪魔達の姿だった。
彼等を疎ましいと思ったことは、一度もない。
そりゃあ、そうだ。俺が、自分で欲したんだから。
ただ純粋に、チカラが欲しかった。
すべてを守れる、そんな強さが欲しかった。
もう二度と、大切なものを大切な人を失わぬように。
けれど、いつからかな。お前達が、特別な存在になったのは。
復讐を果たして、しばらくしてからだったか。
あいつらは言ったんだ。
「闇を纏うからといって、心まで陰気になる必要はないだろう」って。
どうしていいか、わからなかったんだよ。
誓いを、復讐を果たせたのに、達成感より喪失感が上回ってしまって。
心に穴が開いた。そんな表現がピッタリだったんだ。あの時の俺には。
けれど、あいつらのお陰で、顔を上げて前を向くことが出来るようになった。
今となっては、絶対の信頼を抱いているし、心の支えにもなっている。
あれこれ考える、その悪いクセを、あいつらが引っ掻き回して払ってくれる。
大切な存在だ。失った妹と、同じくらいに。
金縛りにあったかのように、身動きのとれぬ凍夜。
硬直して、どのくらいの時間が経ったのだろう。
ハッと我に返れば、それと同時に、映る『存在』が氷と共に煙となって消えた。
二、三度瞬きした後には、またガシャンと妙な音。
見やれば、鉄板と化していた扉が元通りになっていた。
相も変わらず、塔の上階からは魔物の気配を感じ取れる。
けれど、何故だろう。それ以上、上ろうとはしなかった。
その必要がない、まだ、上るべきではない。そう、心のどこかで判断したのか。
*
「おかえりー」
「…………」
塔から出てきた凍夜を、笑顔で迎えた海斗。
海斗は凍夜の肩をポン、と叩いて尋ねた。
ただ一言「見えた?」とだけ。
何が見えたか、それを追求してくる様子はない。
見えたか見えなかったか。その返答だけを求めているようだ。
無言のまま頷けば、海斗は満足そうにウンウンと頷き、
「じゃ、帰ろっか」
そう言って、テクテクと歩き出した。
結局、何が目的だったのか理解らない。
けれど、そこを問い詰める気にはならなかった。
大切な存在が映し出され、自分の目が、それを捉えた。
それが、答えのような気がしたんだ。
大切な存在。後にも先にも、それは、いつまでも変わらない。
恥じることなく、胸を張って誇れるもの。
自分が自分である為に、かけがえのない存在。
心に開いた穴を塞ぐ、偉大な存在。
けれど、まだ。隙間は残ってるんだ。
数え切れないほど、小さな隙間は存在してる。
少しずつ、少しずつ。一つずつ、一つずつ。
それを埋めていけたら良いなと思う。
出来うることなら、いつかは、全ての隙間を埋められればと思う。
その為ならば、どんなことも。何だって受け入れようと思うんだ。
こう思うことが出来るようになったのも。
すべて、かけがえのない存在があってこそ。
妙に急く鼓動に若干の戸惑いを覚えつつも、あらためて実感した、その想い。
不思議と、心が落ち着くような。そんな気がした。
安らぎを覚えているかのような凍夜の横顔を見やり、海斗は笑う。
その笑みが、どこか憂いを帯びていたこと。
そして、海斗が小さく呟いた一言。
「もーちょい……かな」
満ち足りつつも興奮を覚えているような、
そんな感覚に占められている凍夜は、それらに気付くことはなかった。
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7403 / 黒城・凍夜 (こくじょう・とうや) / ♂ / 23歳 / 何でも屋・契約者・暗黒魔術師
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
シナリオ参加、ありがとうございます^^
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2008.07.20 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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