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■鬼ごっこ■

大樹
【1122】【工藤・勇太】【超能力高校生】
「はぁ、はあ、はっ――!」
荒い息遣いが夜の静寂を引き裂いていく。
どうしてこちらに逃げてしまったのか――
人の気配のない廃墟に、高い靴音が響いていた。
(くそ、何なんだよ!)
セツカは胸中で舌打ちしながら背後を振りかぶった。
ぃいん、と形容しがたい音を発して闇が這うようにセツカへ襲い来る。
それはどこか蜘蛛の足を思わせ、ぞっとしてセツカは走る速度を上げた。
「はあっ……くそ、」
ジグザグに走り、何度も角を曲がる。だが影はセツカの居場所を的確に認知し、ひたりと追ってきていた。
それは影というほかないものだった。伸縮し、膨張し、弾けては闇を滑る。
もう立ち止まってしまいたい。だけどそれは許されない。
(朱里、)
妹を想い、セツカは俺が何をしたと毒づいた。
影はただ滑るようにセツカを追う。獲物が力尽きるまでただ追い続ける。
それに絡め取られれば最後だと、何故か確信していた。
(冗談じゃねえ!)
しかしセツカは所詮は一般人。体力に自信はあったが数時間に及ぶ鬼ごっこでどちらが先に音をあげてしまうかは自明だった。
徐々に足がもつれ、視界が揺らぐ。限界が――近い。
(嫌だ――)

「やれやれ、楽しませてくれる」

その時、涼やかな声が響いた。
「っ!?」
「なかなか骨があるようですね。雪極(ユキギメ)様もお喜びになるでしょう」
走る速度は緩めない。だが声は遠ざかるどころか、徐々に近づいてすらいた。
「もうお止めなさい。お疲れでしょう?」
「だ、まれ」
「私と共にいらして頂ければ、楽になりますよ」
「黙れっ!!」
「おや、こわいこわい」
激昂するセツカの前に、唐突に光が集まった。
(蛍?)
咄嗟に足を止めてしまう。淡い光はいくつも集まり、辺りを幻想的に染め上げていく。
その光はやがて人の形を作り上げ、ぱちん、と弾ける。
光の中央、青年は突然姿を現した。
月光で織り上げたような髪、青銀の瞳――およそ人間の持ち得ない色で構成されたその男は微笑する。
「ですが、そろそろ飽きてきました。鬼ごっこはこれまでとしましょう」
柔らかな声音であるにも関わらず、セツカは肌が泡立つのを感じた。
背後からは影が迫る。――逃げられない。
青年はす、と片手を上げる。影が今にもセツカを襲おうと蠢いていた。
(何なんだよ――何なんだよ!?)
セツカはなりふり構わず、今度は真横にあった建物の隙間に飛び込んで再び走り出す。
「逃がしませんよ」
影がセツカめがけて襲い掛かった。セツカは
(くそ、誰か――誰か、助けてくれ…………!!!!)

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廃墟で男子学生が追われています。
あなたはたまたまこの鬼ごっこに気付きました。
謎の青年には明確な目的があるようです。
一方、セツカは訳も分からず逃げ惑うばかり。
セツカを助けるか、謎の青年の味方をするかはあなたの自由です。
どちらの味方をしたとしても戦闘に突入します。
PC様のプレイングにより、展開は変わってまいります。
思い切りバトルを楽しみたい方のご参加をお待ちしております。
鬼ごっこ

◆追う者と追われる者

月光が朽ちた建物を怪しく浮き立たせている。
不気味な静寂を保つ廃墟には昼夜問わず人の気配はほとんどない。
しかし何故か――地元住民ですら近づかないこの区域に、高い靴音が響いていた。

(だから、何でこんなことになっちまったんだよ――!?)
セツカは胸中で絶叫する。

「はぁ、はあ、はっ――!」
セツカは胸中で舌打ちしながら背後を振りかぶる。
ぃいん、と形容しがたい音を発して闇が這うようにセツカへ襲い来るのが見えた。
周囲には街灯の類もなく、頼りになるのは月光ばかりだ。
幻想的な月の光が映し出したそれは、どこか蜘蛛の足を思わせた。
ぞっとしてセツカは走る速度を上げていく。
「はあっ……くそ、」
ジグザグに走り、何度も角を曲がる。
日が落ちると共に『それ』はセツカの前に姿を現した。
あんな煙なんだか影なんだか分からないもんに襲われたら逃げるのが人情というものだ。
形振り構わず走り出して、そして今に至っている。
しかも不気味なことに――周りの人間には、影が見えていないらしい。
逃げる途中、何度か他人にぶつかってしまったが聞こえるのはセツカに対する罵声だけだった。
あんなに大きな影が迫ってきているというのに誰一人気付いた様子もない。
(何だよこれ――!)
影はセツカの居場所を的確に認知し、ひたりと追ってきていた。
それは影というほかないものだった。伸縮し、膨張し、弾けては闇を滑る。
「何だよ、何なんだよ!俺が何したってんだ、くそ――!」
もう数時間だ。徐々に足がもつれていく。
視界が揺らいだ。
限界が――近い。
こんな訳の分からないものに追われる覚えはない。
セツカ・ミヤギノはごく普通に高校生ライフをエンジョイしていた。
たった数時間前までのことだ。
家に帰れば妹が待っている。
裕福ではないかもしれないが食べるのに困っているわけでもない。
なのにこの仕打ちだ。
いつから走っているのかも思い出せなかった。
警察を呼ぼうかとも思ったがそんな悠長なことをしていたら確実に影に囚われてしまう。
せめて大通りのほうに逃げるべきだった。自分の馬鹿さ加減を呪っても、もう遅い。

「やれやれ、楽しませてくれる」

「っ!?」
涼やかな声に、セツカは驚いて足を止めそうになった。
「なかなか骨があるようですね。雪極(ユキギメ)様もお喜びになるでしょう」
走る速度は緩めない。だが声は遠ざかるどころか、徐々に近づいてすらいた。
「もうお止めなさい。お疲れでしょう?」
「だ、まれ」
「私と共にいらして頂ければ、楽になりますよ」
「黙れっ!!」
「おや、こわいこわい」
激昂するセツカの前に、唐突に光が集まった。
(蛍?)
咄嗟に足を止めてしまう。淡い光はいくつも集まり、辺りを幻想的に染め上げていく。
その光はやがて人の形を作り上げ、ぱちん、と弾ける。
光の中央、青年は突然姿を現した。
月光で織り上げたような髪、青銀の瞳――およそ人間の持ち得ない色で構成されたその男は微笑する。
「ですが、そろそろ飽きてきました。鬼ごっこはこれまでとしましょう」
柔らかな声音であるにも関わらず、セツカは肌が泡立つのを感じた。
時代錯誤な衣装に、不自然に優しげな笑み――そしてその背後からは影が迫る。
逃げられない。
「っだよ……!」
青年はす、と片手を上げる。
影が今にもセツカを襲おうと蠢いていた。
「何なんだよ――あんた、何なんだよ!?俺に何の恨みがあるってんだ!」
「恨み?そんなものはありませんよ」
青年の唇が弧を描く。
「ただ大人しくして下さればそれで良いのです。なに、悪いようには致しません」
信じられるわけがなかった。
セツカはなりふり構わず、今度は真横にあった建物の隙間に飛び込んで再び走り出す。
「逃がしませんよ」
影がセツカめがけて襲い掛かった。
ツタのようなそれは目で追えぬ速度でセツカの右足へと絡まっていく。
「ぅわ――っ!!?」
疲労で判断力が鈍っていたセツカは呆気なく転倒した。
盛大に地に叩き付けられると、急に立てなくなった。
元々限界近かった体を無理に動かしていたのだ。
「ここまでですね――」
ざり、と男の靴音が響く。
もう指一本動かせそうにない。
「さて、私と一緒に来て頂きましょうか……」
月を背に男が笑う。影が伸縮するのを音で聞いた。
影は矢のように無数に空間に浮かび上がり、一つ一つがセツカに狙いを定める。
次の瞬間、それはセツカを目掛けて襲いかかった。
「――――っ!!!!」
もうダメだ。これまでの人生が走馬灯のようにセツカの脳裏を過ぎっていく。
セツカは反射的にぎゅっと目を閉じた――

瞬間、ふわっと一瞬体が浮き上がったような気がした。

「――ッ!?」
「こっちだ!」

次いで、ぐいと思い切り腕を引かれる。いつのまにか地に足がついていた。
「な、あんた……っ」
背丈はセツカと同じ程度だろうか。黒髪に学生服を着た誰かがセツカの腕を取り全力疾走している。
足がもつれながらもセツカは懸命についていこうとした。
その間にも影はどんどん迫ってきている。
相手が誰だかは分からないがあの状況から助けてくれた、らしい。
「早くしろ、追いつかれるぞ!!」
前を走る少年は鋭く声を上げると、更に走るスピードを速めた。




「――おや、とんだ邪魔が入りましたね」
すんでのところで獲物を掻っ攫われて、青年は呟いた。
とはいってもどこか余裕の残る口振りである。

「いいでしょう。楽しませてもらいましょうか」

『影』で彼らを追わせつつも、青年はどこか楽しげに笑った。




◆宴のはじまり

工藤勇太がこんな時間に、人気の無い廃墟に足を踏み入れたのは、ここが近道だからである。
学校の用事で遅くなった帰り道。
いつもならば大通りを通って迂回して帰るところを、気まぐれで近道をする気になったのだった。
不良や犯罪者が多く潜むと言われる廃墟街――地元住民でさえ、こんな時間に近づく馬鹿はまずいない。
とはいえ、それは己の身を守る術がまったくない一般人の話である。
あいにくと、勇太は『普通』ではなかった。

しばらく進んでいたところで、唐突に目の前を少年が全力で駆けていった。
勇太は知る由も無いが、それがセツカだ――彼は、明らかに『普通』ではない男に襲われていた。
どうも相手の高校生は一般人、おまけに衣服もボロボロになっていた。
あの『影』にやられたのだろうか。
怪我はないようだったが、今まさに絶体絶命、という場面に出くわしたのである。
咄嗟に神経を尖らせていた。
勇太の中に眠る超能力――サイコキネシスでセツカの体を浮かせることで、攻撃を避けさせたのである。
青年の注意がこちらに引かれた一瞬、勇太はセツカのすぐ隣までテレポートした。
一瞬で出現したことにセツカが気付く間もなく、そして、今に至る。

セツカはかなり疲労していたのか、たまに足がもつれて転びそうになる。
腕を引いてやりながらも、いくつもの『影』がセツカの足や腕を捕らえようと襲ってきていた。

……勇太の『力』は人を怯えさせる。
未知のものに恐怖を怯え、排除しようとするのは人間の性である。
個人が特定出来ないことが安全の常套手段である現代において、『力』を持っているだけで勇太は何度も拒絶と迫害を味わっている。
その為、勇太は出来るだけセツカの死角でサイコキネシスを行使しうまく『影』の攻撃を弾いていた。
「はぁ、はぁ、はっ…………!!」
「っおい……大丈夫か!」
「あ、ああ。その、助かったぜ!ありがとな」
「それはいいが、あんた何であんな厄介なのに襲われてるんだ!知り合いか!?」
能力者同士の決闘であればそれは勇太が関知すべき事柄ではない。
巻き込まれる前にさっさと退散するのが利口ではあったが、セツカはどう見ても一般人にしか見えなかった。
あの『影』をまともに食らっていたらひとたまりもないだろう。
襲撃される理由次第ではセツカを見捨てることも考えられたが、当のセツカは勢い良く首を横に振る。
「わ、分からないんだ!家に帰ろうとしたら、さっきのが急に襲ってきて!」
「じゃあ赤の他人なのか!?」
「ああ、ぉわあ!?」
言いつつ、セツカの右腕に絡み付こうとしていた『影』を咄嗟に手近な石をサイコキネシスで飛ばすことで弾く。
急に飛んできた石にセツカが叫び声を上げるが、構っていられなかった。
廃墟街は夜に沈み、入り組んでいる。
いくつもの角を曲がり、ジグザグに駆け続けるが『影』と勇太達の距離は縮まりつつあった。
「くそ……ッ」
四方から襲い来る影を、意識を集中させてサイコキネシスで弾いていく。
「なっ、何だ!?」
セツカの左足を狙っていた影にコンクリートのブロックを繰り出すと、さすがに気付いたのかセツカが叫び声を上げた。
おそらく、セツカには物が勝手に影に吸い込まれていくように見えただろう。
異様な光景には違いなかった。
「い、今、コンクリートが勝手に……!?」
「……喋ると舌噛むぞ!」
衝撃音と共に飛ばした鉄パイプが新たな『影』を襲う。
今度こそ、セツカはその決定的な異常さに気付いたのか、大きく目を見開いた。
(どうする……!?)
堂々と力を使ってしまえれば窮地を脱する方法がないわけではない。
だが、セツカに気付かれないようにという制約が掛かってしまうと勇太に出来る事は限られる。
いつまでもこんな方法が通じるとは思えない。
この様子だと、セツカも不信感を抱き始めているだろう。
どうする――勇太は再び自問した。

その時だった。

「――これはこれは。お見事ですね」
不意に、ぱちぱちと場違いな拍手が上がった。
視線を動かすとそこには先程の影使いがいる。あからさまにふざけた態度だった。
勇太は眉を寄せた。一体いつの間に目の前に現れたのか――気付けなかった。
男は平安時代を思わせるような時代錯誤な装束を纏っていた。
顔だけは笑みを作ったまま、影使いは楽しげに続ける。
「我が宴にようこそ、お客人?歓迎しますよ」
「……招待を受けた覚えはないけどな」
慎重に答えながら勇太は視線をめぐらせる。
隙がない。
単純に人を殺める術だけを比べれば青年の方が勇太よりも上手と言える。
これ以上セツカを巻き込まないためにもうまくやり過ごして逃げたいというのが本音だった。
「ですが、感心致しませんね。こちらにも宴の準備というものがありまして、飛び入りというのはお勧め出来ません」
「一般人を巻き込むなんて悪趣味なんじゃないか?こいつに何の用なんだよ」
「おや、心外ですね。私は、彼とちょっとお話がしたいだけですよ――」
勇太の言葉に男はわざとらしく肩を竦めてみせる。
「ああ、申し遅れました。私は祈月(きづき)と申します。以後お見知りおきを」
言って祈月は優雅に一礼した。隙のない所作だった。
「……。……」
相手の考えが読めない。
名乗る義理もないので、勇太は祈月を睨んだまま沈黙した。
「ああそうだ。せっかくですから、あなたも我が宴にいらっしゃいませんか」
「……頷くと思うのか。悪いが、御免だな」

「おや、残念。ひどいですよねえ。私はただ、一緒に来て頂ければそれでいいというのに」

祈月の呟きと同時、チリチリと肌が焼かれるような感覚が熱波のように二人を襲った。
(殺気……!どうする、やれるか……?)
いつでも動けるよう、見咎められない程度に軽く腰を落とす。
瞬間、マントでも広げたかのように、祈月の背後から影が噴き出した。
それは分裂して、いくつもの影の塊となって不気味に空間を漂っている。

「雪極(ユキギメ)様の御意思は絶対です。来ないというなら、力づくでもお連れします」

「邪魔をしないで頂けませんか?ここで退けば見逃しますよ、お客人」
「悪いけど……、そういうわけにはいかない」
「何故?あなたと彼は今会ったばかりの赤の他人でしょう?庇う義理があるとは思えませんが」
「それでも、だ。あんたに正義があるとは思えない」
「正義ねえ」
くつくつと可笑しそうに祈月が笑い、勇太は不快に顔を歪ませる。
だが、次の瞬間顔を上げた祈月の瞳には、違う色が宿っていた。

「――成程。よく分かりました」

すいっと祈月は目を細めた。

「邪魔者は消します」

同時にいくつもの影が矢のように鋭く尖っていく。
セツカの顔がさっと青ざめた。

「なっ……ま、待てよ!?だからあんた、誰なんだよ!何で俺を…っ」
「下がってた方がいいぞ。こっちの話を聞く気はないみたいだ」
「うっ……」
「――?どうした?」
突然、セツカが小さく呻いて蹲った。問いにセツカが小さく首を横に振る。
「……んだ?これ…、ぅぐっ」
「!っおい、来るぞ!」
勇太の叫びと共に、影は一斉に空間を疾った。


◆影疾る

矢を模した影が祈月の頭上へと集まり、影の球に変わっていく。
それは異様な光景だった。影はまるで命ある生物のように伸縮する。
やがてそれは一つの巨大な塊になった。
祈月はすっと片手を上げる。
「さて、宴の始まりです」
ぱちんと祈月が指を鳴らすと同時、塊は風船が割れるように弾け飛んだ。
弾丸のようなそれが雨のようにセツカへと降りかかる。
勇太はセツカの腕を無理矢理引っ張り上げると、駆け出した。
紙一重のところで影の矢が地を抉っていく。
その時、目の前に新たな影の矢が出現した。
「っ!」
咄嗟に襲ってきた矢を『力』で直接弾く。
キィンという甲高い音と共に霧散した矢を尻目に、勇太は再びセツカの手を引いて駆け出した。
「……、なあ、あの……今のって」
「…………」
セツカの呆然としたような呟きにずきりと胸が痛む。
今のは、さすがに誤魔化せなかった。
いかな混乱しているとはいえ、セツカもさすがに気付いてしまっただろう。

『何あれ?』
『なあ、勇太…………今のって』

ざわざわ。過去の出来事が勇太の胸を抉る。

『……こわい』

落とされた呟きを最後に、友人達は一斉に勇太から離れていった。
人とは違う力、人とは相容れない力ゆえに実験動物にされそうになったこともある。
以来勇太は意識して力をひた隠しにして、『普通』になろうとした。
手が届かないから憧れる。ただそれが、眩しく思えたから――
誰だってわざわざ傷つきたくはない。だが、だからといって、放っておけない。

「……っぶない!!」
瞬間、ぐいとセツカに腕を引かれた。
ヒュンと風を切る音と共に目の前を何かが過ぎる。
「――!?」
「おい、大丈夫かよ!?」
勇太のすぐ横の壁が奇妙に抉れている。『影』の死角からの攻撃だった。
「次、左!」
セツカの鋭い叫び声に、勇太は咄嗟にセツカの腕を引いて攻撃をやり過ごす。
(……何だ?)
違和感があった。
今――どう考えても、矢が出現する前に、彼が警告を口にしたような……
(まさか……)
そんなはずはない。咄嗟に否定するが、ジグザグと廃墟外を縦横無尽に走り回る中で、何度かセツカが叫ぶ。
その度に勇太の死角から『影』が襲おうとしていた。
こう見えて勇太は常人より気配に聡い。

勇太はセツカの腕を引き、唐突に手近な廃墟に駆け込んだ。
一瞬追撃相手を見失い、『影』がざざざっと一歩先へと這っていく。

「……なあ、訊いてもいいか」
「俺も訊きたいことがある」
勇太が言うと、セツカも頷いた。
直前まで迷ったが思い切って口を開く。
「俺には、『力』がある。人とは違う……サイコキネシスとか、そういう……いわゆる超能力ってやつだ」
「……うん」
「お前、もしかして予知能力者じゃないのか?……あの、祈月とかいう奴はその力を狙ってるんじゃないのか?」
「え?」
指摘するとセツカはきょとんとした。
「自覚ないのか?」
「い、いや……でも、あんたが何か、すげー力があるのは分かった。うん」
「さっき、『影』が出現する前に気付いただろ」
「そ、そうだったか……?何か、そういうのが見えたから」
「『視』えたから、か」
なるほどな、と勇太は思う。セツカが狙われている理由にも我点がいった。
「あのさ、それより気になってたんだけど」
「……ん?何だよ」
「あんたの名前聞いてない。俺は、ミヤギノセツカだ」
一瞬、勇太は呆けた。
――『力』のことを知って尚、名前を聞く人間を、勇太は研究所の学者以外に知らなかった。
「…………、勇太。工藤勇太」
「勇太か。よろしくな!」
ニカッと笑ってセツカは言った。
その心地よさを、勇太は長い間忘れていたような気がする。
「……」
「って、勇太!ここがバレる!」
「!!やべっ」
セツカの読みの的確さは先程実証済みだ。ここで襲撃されては逃げ道がない。
勇太とセツカはビルを出ると、再び駆け出した。

「どっちだ!?」
「左っ!」

セツカの予知に加え、勇太が攻撃をさばいていく。
堂々と力を使ってしまえば予想以上に爽快な気分を味わえた。
このまま逃げ切れるかもしれない――

だが、そこで。
ぱちぱちぱち、と場違いな拍手が闇に響いた。

「素晴らしい」

祈月が闇から溶けるように姿を現した。
ぎくりと勇太とセツカは身を竦ませる。
テレポートを使おうかと思ったが、セツカと共にテレポートするとなると、タイムラグが発生してしまう。
意識を集中させながら、勇太は祈月の隙を探った。

「お強いですねお客人。いやはや、愉快愉快」

気付いているのかいないのか、すいと影使いは目を細める。

「その強さ、是非雪極様のために。――君、我らが“斬華(ザンカ)”に加入しませんか?」

奇妙な言葉に、勇太が眉を顰めた。
「――斬華?それが……お前の所属する組織か」
「ええ。そのようなものです」
「嫌だ」
きっぱりと首を横に振ると、祈月は苦笑した。
「まことに残念……素晴らしい。実に素晴らしい」
ふとセツカへと視線をずらす。

「セツカ様――それでこそ、ミヤギノ家の正統なる後継の証」
「ミヤギノ…?何なんだ、どういう――」

祈月は応えずに笑みを深める。
「致し方ありません。邪魔が入ってしまいましたし、今宵はこれまでと致しましょう」
すっと祈月が片手を掲げて、咄嗟に勇太が臨戦態勢を取った。
「では御機嫌よう、お客人がた」
影の柱が祈月の姿を包む。
一瞬後、廃墟から祈月の姿は跡形もなく消えていた――


◆戦闘の果て

「に、逃げた……のか?」

唐突に姿を消した襲撃者に、呆然とセツカが呟いた。
「て、ていうかっ、何なんだあいつ!消えたぞ!?」
「テレポートが使えるらしいな」
とりあえず一息吐いて、勇太は静かに答えた。
向こうが退いてくれて助かったという気持ちは強い。
祈月に焦りはまったくなかった。
(これは……遊ばれたかもな)
「ま、何とかなったな。お疲れさん」
勇太が肩を鳴らしながら言うと空気がふと柔らかなものになる。
「あ……っ、そうだ!勇太、俺を助けてくれたんだよな?…助かったよ。ありがとうな」
「ああ、何とかなって良かったな。それよりもセツカ……、本当に襲われる心当たりないのか?」
「や、それが――俺にもさっぱりで」
セツカは腕を組むと首を傾げる。どうやら、本当に心当たりがないらしい。

「じゃあ、十中八九お前の『予知』だな」
「……かなあ」
「自覚、ほんとになかったのか?」
「あるわけないだろ。俺も、あんなのさっきが始めてだよ」
「ふうん……」
「それより勇太、お礼にラーメンでも奢るよ」
「お、本当か?儲けたな」
「一杯までだからな!」
「はいはい」

先立って歩き始める勇太に、セツカは不意に夜空を見上げる。

『セツカ様――それでこそ、ミヤギノ家の正統なる後継の証』

脳裏には、祈月と名乗った男が残した言葉だけが重く渦巻いていた。



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◆登場人物
1122 | 工藤・勇太 | 男性 | 17歳 | 超能力高校生

◆ライター通信

初めまして、ライターの蒼牙大樹と申します。
この度はゲームノベル【鬼ごっこ】にご参加頂きましてありがとうございました。
セツカと同じ歳ということで、友達っぽく書けて楽しかったです。
いかがでしたか?
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
まだまだ祈月が諦めていない様子ですので、どこかでセツカを見かけたら
助けてあげて下さると嬉しく思います^^

それでは、またお会い出来ることを心よりお待ちしております。

蒼牙大樹


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