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■VamBeat −Incipit−■

紺藤 碧
【3425】【グリフレット・ドラゴッティ】【グラストンベリの騎士。遺伝子改造人間】
 暗い路地裏。
 大通りからは街のネオンと、車のヘッドランプが流れ込む。
 だが、その人が居る場所だけは、何の光も降り注がなかった。
 腹部を押さえ、きつく瞳を閉じた顔は青白い。
 汗が浮かぶ額に、銀糸の髪がこべりつく。
 腹部を押さえている手の下から、じわりと滲む赤い………

―――血だ!

 思わず駆け出した。
 あふれ出る血は路地に赤い血溜まりを作っていく。
「大丈夫―――!!?」
 声をかけた瞬間、首筋めがけてその人の頭が動いた。




VamBeat −Incipit−





 暗い路地裏。
 大通りからは街のネオンと、車のヘッドランプが流れ込む。
 だが、その人が居る場所だけは、何の光も降り注がなかった。
 腹部を押さえ、きつく瞳を閉じた顔は青白い。
 汗が額から頬へと伝わり、落ちる。
 腹部を押さえている手の下から、じわりと滲む赤い………

―――血だ!

 思わず駆け出した。
 あふれ出る血は路地に赤い血溜まりを作っていく。
「大丈夫―――!!?」
 声をかけた瞬間、首筋めがけてその人の頭が動いた。






 怪我をしていると思わせたのは、襲う相手を誘うための罠か!?
 グリフレット・ドラゴッティは、軽い動作でその場から身を引き、彼女の動きから逃れる。
「悪いがアンタじゃ俺には勝てない。他をあたって……」
 見下ろすように言い捨てようとしたグリフレットだったが、目標をなくして倒れこんだ少女の口元を見て言葉が止まった。
 グリフレットは傍らに座り込み、彼女の顔を覗き込む。
 顔つきは何処にでもいる少女のものと変わりない。
 フーフーと、息が抜けるような浅い呼吸を繰り返し、少女は腹を抱えて蹲っている。苦痛に歪まれた瞳は、流れる血色。まるで爬虫類のようにその眼窩に収まった眼球全てが赤。
 意識がまだあると思っていたが、グリフレットが近づいたことさえも気がつかず、少女は糸が切れるようにふっと地面に顔を預けた。
「牙か、生まれていての人外なのか、俺と同じく人外になってしまった者か。いずれにせよ放っておけん」
 放っておけない理由が彼女を助けるためなのか、人外を野放しには出来ないという思いなのかは分からない。
 目の前の少女は完全に意識を失いその場に転がっている。当初罠かと思っていたが、彼女の腹部からは本当に血がにじみ出ていた。
 この程度の怪我ならば普通の人間でもただ痛い程度で終わりそうなもの。けれど今目の前で倒れている少女は、そんな小さな傷に死地を迷わされている。
 人外だとしても、なんとも貧弱な人外だ。
 人工的に人外にされてしまったグリフレットは、ある意味類まれな能力を有してしまっている。だからこそ、生まれついてではなく、やむを得ずなってしまった者がただの人間よりも弱いという事はないと、何処か思っていたのかもしれない。
 多少魔術の心得があるグリフレットは、余り使わない回復系の白魔術を彼女の腹部に向けて試みる。
「ぅあっ…」
「!!?」
 予想外だった。
 まさか、ただの魔術……しかも白魔術に苦痛を覚えるなんて。
 しかしこの行動が、殆ど力をなくしていた彼女に何かしらの影響を与えたのは確かだった。
「………っ」
 痛みからか、彼女はゆっくりと瞳を開いた。きちんと梳かしていれば綺麗だと思われる銀の髪が、冷や汗で額や首にこべりつき、悲壮感をかもし出している。何も知らない人が見たら、全てが少女の味方をしそうな、なんともお得な外見。
 少女は傷が癒えていないことに何処かほっとしたようだった。
「アンタが何者なのか言って貰おうか」
 目覚めたことを確認して問いかけたグリフレットに、少女はどこか虚空を見つめるような、覚醒していない瞳を向ける。
「………?」
 少女は無言のまま首を傾げた。先ほど襲い掛かってきた事はすっかり忘れているらしい。
「アンタは、何故俺に襲い掛かった」
「ご…ごめんなさい。本当にごめんなさい。何処か怪我でも…?」
 怪我をしているのはアンタだろう。という言葉は喉まで出掛かりそのまま飲み込まれる。
 会話が上手いのか、天然モードなのか、最初のグリフレットの質問は完全に流されてしまっていた。
 本当に襲い掛かってきたときとはまるで別人のような少女に、グリフレットは微かに眉根を寄せる。
「アンタは何者で、何故、俺に襲い掛かった」
 もう一度、問いかける。
 沈黙。泳ぐ彼女の視線が、言おうか言うまいか迷っているようにも見えた。
「………あなたを狙ったわけではないの」
 ただ、近づいて来た者に反射的に反応してしまっただけで。
「…………っ」
 弾かれたように少女が顔を上げる。
 向けられた殺意と銃声。
 グリフレットは反射的に振り返る。ウルティマブレスレットが元々持っている質量に反してその形を変化させた。

―――カン! カン!

 秒速平均350mで放たれた弾丸が、まるで跳ね返った小石が当たった程度のような音を立てて弾かれる。
 グリフレットは銃声が止んだことに盾をゆっくりと降ろし、銃弾が飛んできた方向を見た。
 裏路地とはいえ、こんな往来で発砲してくるのだからどんな悪党かと思えば、
「……牧師、神父か?」
 黒のカソックに身を包んだ、表情だけは穏やかな微笑の男性。ただ……瞳だけは笑っていなかったが。
 神父はまた銃口をグリフレットに向ける。
 次の銃弾に備え盾を構えたグリフレットの存在に、神父はすっと眼を細めた。
「庇うのですか?」
 神父の問いにグリフレットは怪訝げに眉根を寄せる。
「いえ、問題ありません」
 共に屠るのみ。と呟かれた言葉はグリフレットには届いていない。
 拳銃からどうもマガジン方式のマシンガンに得物が変わっている。攻撃と防御とそれに巻き込んだビルと地面から粉塵が巻き起こした。
 突然、神父から放たれる銃弾の音が止んだ。
 遠距離攻撃では視界が悪く、当てられないと踏んだからだろうか。
「Escapo」
 ぼそりと、小さく神父が呟いた。英語に似ているが、英語ではない。だが、ヨーロッパ辺りの言語は音が似ているため、グリフレットにも神父が呟いた言葉の意味が分かった。
 グリフレットは神父に警戒しながら自分の後ろを流し見る。
 少女の姿はこの騒動の中忽然と消えていた。
 神父は全てに興味をなくしたようにだらりと腕をたらし、そのままグリフレットに背を向けて歩き出す。
「待て」
 ブレスレットを盾から銃に変化させ、その銃口を立ち去ろうと背を向けた神父に放つ。
―――バンッ!
 神父の頬に赤い筋が1本。もちろんわざと外したのだ。
「何故俺を狙ったか話してもらおうか。貴様も今の女の仲間なのか?」
 少女の仲間かと問われ、神父は不機嫌をあらわにして顔をしかめた。が、その後、卑下するようにふっと笑う。
「自意識過剰な男性(ひと)ですね」
 何もしてこなければ、何もしない。なぜならば、興味も何もないから。殆ど今まで視界にさえ入っていなかったのに。
「神の…裁きを」
 掲げた右腕から迸るのは、最上級の魔術とも取れない光の…白の洪水だった。







 即座にブレスレットを銃から盾に変え、グリフレットはその白の洪水をやり過ごした。
 盾に守られなかった外側はモノの見事に何もなくなっている。
 まるで白紙にでも戻すかのように。
「最近のカトリックは物騒な得物を持っているんだな。もっとも物騒なのは英国国教会も同じだがな」
 彼のような神父ばかりではないことも分かっているが、突き詰めて言えば彼のような神父を野放しにしているとも言えるのだ。
 グリフレットはブレスレットにそっと触れる。
 ブレスレットは月明かり浴びて鈍く光っていた。
























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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3425/グリフレット・ドラゴッティ/男性/28歳/グラストンベリの騎士。遺伝子改造人間】


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■         ライター通信          ■
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 VamBeat −Incipit−にご参加有難うございます。ライターの紺藤 碧です。
 どちらの味方でもない感じが結構楽しかったです。質問には余り答えられなくて申し訳ないです。
 それではまた、グリフレット様に出会えることを祈って……