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■広場の薬屋■ |
川岸満里亜 |
【3368】【ウィノナ・ライプニッツ】【郵便屋】 |
「いらっしゃい!」
元気な声と共に、ドアが開いた。
「ごめんね、先生出張中なんだ。でも、薬の調合だけなら、あたしがどうにかするから、どーんと任せてよ!」
診療はしばらく休みのようだ。
しかし、診療室には変わらず様々な薬が並んでいる。
「実はあたしが調合してるんじゃないんだ。あたしのお姉ちゃんに有能な薬師がいてさー、だから、ちゃんと薬の手配はできるから、なんなりと申し付けてよね!」
そう言って、少女ばバンと肩を叩いてきた。
ここは錬金術師の診療所。
しかし、錬金術師ファムル・ディートの姿はない。
“自称ファムルの娘”のキャトルと、ファムルの元弟子ダラン・ローデスが交代で店番をしているようだ。
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『広場の薬屋〜完成〜』
依頼してあった魔法具を受け取りに、ウィノナ・ライプニッツは職人の元を訪れた。
直ぐに必要なものではなかったが、構想から作成までかなり時間が経っており、出来上がりが待ち遠しくて仕方が無かった。
気付けば、駆け足で店に飛び込んでいた。
「指輪と針、出来てますか?」
「ああ、君か。早かったな。丁度今、最終チェックが終わったところだ」
そう言って、壮年の職人は、まず三連の指輪をカウンターの上に乗せた。
「どうだい?」
その指輪は、ウィノナが考案した図柄よりずっと細かく細工が施されており、高級感が溢れていた。
(ダランには似合わな……くもないか、金持ちのお坊ちゃんだし)
指輪を眺めるウィノナの顔に笑みが浮かぶ。自分が身に付けたいくらいの出来であった。
「ありがとうございます。とても気に入りました!」
「そうか、それはよかった」
職人は笑みを浮かべながら、もう一つの依頼品を取り出して、カウンターに乗せる。
それは、針だ。
ラスガエリでつくった細く長い針だった。
その細さにウィノナは少し不安になる。
「この針って、どれくらいの強度があるんですか?」
「何に使うかは知らないが、こういう形状を選ぶからには、何かを刺すんだろ? そう思って、他の鉱石を混ぜて、硬度を上げておいたぞ。あんたが持って来た石は脆いからな。まあ、普通の縫い針程度の硬度はあると考えてくれていい」
「うわっ、ありがとうございます」
ウィノナは心からお礼を言った。
依頼品と引き換えに、代金を支払うと、ウィノナは再び頭を下げて、お礼を言う。
どれだけの効果があるかはまだ分からないが、依頼通り、そして期待以上の品をこの職人は作ってくれた。
「なんだかお嬢ちゃん、訳有り風で、思いつめたようにも見えたからね。こりゃ失敗するわけにはいかないって思ったんだよ」
最後に、職人はウィノナにそう語ったのだった。
そんな風に見えていたのかと、ウィノナはちょっと苦笑する。
「それでは、また何かの際にはよろしくお願いします」
「おう。次は彼氏と一緒に婚約指輪の注文においで」
「ははは、随分先になりそうだけれど、必要になった時にはまた必ず来ます」
そう約束をすると、ウィノナは職人の店を出て、この指輪を必要としている人物の元に向うのだった。
* * * *
その日、ダラン・ローデスはファムル・ディートの診療所にいた。
ダランには薬の知識が全くないため、店番も出来ていないようだが、本人的には主不在の家を守ってるつもりのようだ。
外で魔術の練習をしていたダランに声をかけて、共に診療所に入る。
そして診療室のソファーに、向かい合って腰掛けた。
「はい、これ。随分時間かかっちゃったけど」
ウィノナは、袋から三連の指輪を取り出して、ダランの前に置いた。
「お、おおおおおおおおお……」
ダランは恐る恐るといったように、指輪に手を伸ばした。
「嵌めてみていいか?」
「もちろん、というかもうそれダランのものだから」
頷いて、ダランは指輪を左手の薬指に嵌めた。
人差し指用に作ったのに、何でそこに……と思いもしたが、ウィノナは黙って見ていた。
「はうあっ」
ダランが悲壮な声を上げた。
「なに? キツイ?」
「そうじゃなくて、ホントに魔術が使えねぇー」
「う、うん。今は3つ必要ないよね。2つ外して、1つだけ嵌めるといいよ」
「なるほど、これ外せるのかー!」
嬉々として、ダランは指輪を分解し、1つだけ嵌めなおした。
「うん、これなら大丈夫。まあ普段は魔力抑えてても支障ねぇしな……。大きな魔術使う時だけ、指輪外せばいっか」
「そうだね。今は」
もし、将来的に体内の魔力の状態が悪くなるのなら。その時は指輪を外せなくなるだろう。
だけれど今はまだ、ダランの魔力の状態は比較的安定しているため、ずっとつけている必要はないと思われる。
「おし」
ダランがにやりと笑った。
「ありがとなー、ウィノナー!」
突如、ダランががばっとウィノナに抱きついてくる。
ウィノナはヒラリと身をかわす。ダランがあんな顔をした時はこういう行動に走る事が多い。
「なんだよー、喜びを2人で分かち合おうと思ったのに」
「もう分かち合ってるって」
「んー、でもさ」
ダランはソファーに座りなおして、こう続けた。
「お礼はちゃんとさせてくれよな〜。何がいい、何がいい?」
その言葉にウィノナは笑いながら――でも、心の底から笑うことが出来ていなかった。
なぜなら、この診療所にいるべき人がいないから。
一緒に、喜びを分かち合いたい人が、自分達の隣に本当ならいるはずなのに。
だから、お礼はお預けだ。
ファムルが戻ってきてから、考えようとウィノナは思っていた。
「どんなお礼を求めたら、ダランが困るか考えてるんだけど〜」
そうウィノナが答えると、ダランは真剣な表情で腕を組んだ。
「そりゃ、家まるごと1件とか言われたら、俺もさすがに困るけど、それでもウィノナの頼みなら……うーん」
真剣に考える様を、ウィノナは軽い笑みを浮かべながら、見ていた。
* * * *
ダランと別れた後、ウィノナは懐からもう一つの魔法具を取り出した。
ケースを開けて、慎重に取り出す。
細い縫い針のような魔法具。ダランには秘密で、作ったもの。
しゃがみこんで、土に刺してみる。感触はやはり、縫い針と変わらない。
生き物に刺す場合、刺した場所によっては逆に命を奪いかねないので、注意しなければいけないだろう。
いつも持ち歩いていよう。
そして、出来るだけ、素早く取り出せるように身に付けていよう――。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3368 / ウィノナ・ライプニッツ / 女性 / 14歳 / 郵便屋】
【NPC / ダラン・ローデス / 男性 / 14歳 / 駆け出し魔術師】
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■ ライター通信 ■
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ライターの川岸満里亜です。ご参加ありがとうございました。
ダランの魔力を抑える指輪、ついに完成いたしました。ありがとうございます!
これでダランが魔力の暴走で突然倒れるなどということはなさそうです。
お礼に関しましては、いつか受け取ってやってください。
針の方は本文中にもありますように、普通の縫い針程度の強度があるとお考え下さい。
それでは、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
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