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■不思議の国行き特急切符 2■

智疾
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
『終点、不思議の国〜不思議の国〜。お降りのお客様はくれぐれもお忘れ物の御座いませんよう、お気をつけ下さい』



「何でこう俺達は『こういうの』に巻き込まれるんだ……」
大きく溜め息をついて、草間はジャケットの内ポケットに仕舞い込まれていた煙草へと手を伸ばした。
「兄さん、まだ駄目ですよ。構内は禁煙です」
隣で鞄を手にした零が、其れを見咎める。
「大体な、おかしいと思わないか?普通。気が付いたら興信所から知らん駅に飛ばされて、しかも零の手には旅行鞄。帰ろうとしても無理矢理に電車に乗せられて。遙瑠歌の力でも興信所には戻れないと来た」
「申し訳御座いません……」
電車を降りた二人の傍に立っていた遙瑠歌が、微かに眉を寄せて礼儀正しく頭を下げた。
「に・い・さ・ん!?」
普段表情を変えない小さな少女の姿を見た義妹は、眉を吊り上げて。
「〜〜〜!?」
同時に、物凄い勢いで草間の足の甲を踏みつける。
声にならない絶叫を上げる草間と、怒りの表情の零を見て、遙瑠歌は小さく首を傾げた。
「草間・武彦様。どうかなさいましたか」
どうやら少女からは二人の足元が見えなかったらしい。
此れ幸いと、零はにっこりと笑みを浮かべる。
「いえ、何もないですよ?ねぇ、兄さん?」
暗に『言うな』というオーラが出ている気がするのは、草間の気のせいだろうか。
何も言わない草間と、笑顔のままの零、そして訳が分からずに首を傾げたままの遙瑠歌。
その場の空気が澱み始めた、次の瞬間。
更に其れをぶち壊しかねない『もの』が、影から飛び出してきた。

「大変だ大変だ!急がなくっちゃ急がなくっちゃ!時間がないよ!間に合わないよ!」

「……は?」
「あれって……?」
目を丸くした草間兄妹に、唯一冷静に其の状況を飲み込んだのは、世間知らずで常識知らずのゴスロリ少女だった。
「ウサギ、で御座いますね」
<不思議の国行き特急切符2>

<Second Mystery>
『終点、不思議の国〜不思議の国〜。お降りのお客様はくれぐれもお忘れ物の御座いませんよう、お気をつけ下さい』



「何でこう俺達は『こういうの』に巻き込まれるんだ……」
大きく溜息をついて、草間はジャケットの内ポケットに仕舞い込まれていた煙草へと手を伸ばした。
「兄さん、まだ駄目ですよ。構内は禁煙です」
「武彦さん、まだ駄目よ。公衆マナーは守って」
草間の行動を見咎めて同時にそう言ったのは、鞄を手にした零と、草間の後に列車から降りたシュラインだ。
「大体な、おかしいと思わないか?普通。気が付いたら興信所から知らん駅に飛ばされて、しかも零と遙瑠歌の手には旅行鞄。帰ろうとしても無理矢理に電車に乗せられて。遙瑠歌の力でも興信所には戻れないと来た」
「申し訳御座いません……」
シュラインより先に電車を下りて、零と草間の傍に立っていた遙瑠歌が、微かに眉を下げて礼儀正しく頭を下げた。
「に・い・さ・ん!?」
普段表情を変えない小さな少女の、其の表情を見た義妹が眉を吊り上げ。
「〜〜〜!?」
物凄い勢いで、草間の足の甲を踏みつけた。
声にならない絶叫を上げる草間と、怒りの表情の零、そして其の二人を見て苦笑するシュライン。
三者三様の其の行動に、遙瑠歌は小さく首を傾げた。
「草間・武彦様。如何かなさいましたか」
どうやら遙瑠歌からは草間兄妹の足元が見えなかったらしい。
此れ幸いと、零はにっこりと笑みを浮かべて遙瑠歌と視線を合わせる為に腰を屈める。
「いえ、何もないですよ?ねぇ、兄さん?」
暗に『言うな』というオーラが出ている気がするのは、草間の気のせいだろうか。
(気のせいじゃないわよ武彦さん。零ちゃん本気で怒ってるわ)
苦笑が思わず口から零れそうになって、古参の事務員は自分の手を口元に当てた。
何も言えない草間と、笑顔のままの零、笑みをかみ殺すシュラインに、訳が分からずに首を傾げたままの遙瑠歌。
其の場の空気が微妙にものに変わろうとし始めた、次の瞬間。
更に其れをぶち壊しかねない『もの』が、影から飛び出してきた。

「大変だ大変だ!急がなくっちゃ急がなくっちゃ!時間がないよ間に合わないよ!!」

「……は?」
「あれって……?」
目を丸くした草間兄妹と。
「先行き、更に不安になったわね……」
溜息を着いたシュライン。
そして唯一冷静に、いや、空気が読めないせいか、すんなりと其の状況を飲み込んだのは、世間知らずの常識知らず。
「ウサギ、で御座いますね」
ゴスロリ少女、遙瑠歌だった。



其のウサギは、怪奇探偵として不本意ながらも名の知られている草間よりも有名な『もの』だった。
色は白。
瞳の色は赤。
ウサギとしては、まぁそれだけなら普通なのだが。
赤と黒のタータンチェックのチョッキを着込み、金色の懐中時計を『右前足』でもち、顔に『丸眼鏡』をかけ。
追い討ちをかけるように『二足歩行』で走る。
問題は其れ等だった。

「何つーか、先が其れなりに読めてきたのは俺だけか?」
うんざりした表情を隠そうともしない草間の肩に手を置いて首を振ったのは。
「本当に残念だけれど、私も同じよ」
もう片方の手で米神を押さえたシュラインだ。
「この光景はもう、あれしかないでしょう」
「俺は『怪奇』だけでも手一杯だってのに、これ以上どうしろってんだ」
低く呻いた草間の傍に立っていた小さな同居人だけはマイペースに。
「先日拝読しました『不思議の国のアリス』に、あちらの『時計ウサギ』様が登場されておりました」
「あぁ、其の通りだろう。認めたくないが、あれは間違いなく童話の世界の生き物だ」
肩を落とした草間と同じ様に、シュラインもまた肩を落としたのだった。
其の瞬間。
突然ウサギが驚いた様に飛び上がり、草間達へと顔を向けた。
もう此れ以上は何も驚くまいと思っていた草間だったが。
ウサギの絶叫に、電光石火の勢いで突っ込みを入れる破目になろうとは。
よもや思いも寄らなかっただろう。
「あああああ!!やっと来たのですね!捜索隊が!!」
「誰が捜索隊だ!!」
ウサギの頭に、草間が勢いよく拳を落とす。
「痛い!何と攻撃的な捜索隊だ!いやでも待て待て。攻撃的という事は、それだけ捜索が早く済むという事になる!何とも素晴らしい事!!私の首も此れで安泰、刎ねられない!」
「人の話を聞けこのウサギ!!おまえの耳は飾りか!!」
「ちょっと武彦さん!幾らなんでもそんなに暴力を振るうのは駄目よ!」
拳を止めるシュラインと、後ろから草間を羽交い絞めにする零。
そして、やはり空気が読めずに傍観している遙瑠歌。
そんな4人を見て、白いウサギはキィキィと甲高い声で叫んだ。
「早く探してくれたまえ!此れ以上お待たせすると、女王陛下が悉く首を刎ねてしまう!」
「何を、お探しすれば宜しいのでしょうか」
「遙瑠歌!」
ウサギの言葉に問い掛けた遙瑠歌に、素っ頓狂な声で草間が叫ぶ。
此れ以上の面倒事は全くもって御免なのだ。
それは恐らく、草間だけではなくシュラインや零も思っていることであって。
しかしながら、遙瑠歌は空気が読めない子。
残念ながら止めようとする草間達の悲痛な心の叫びは届かない。
「お分かりにならない?はっ!其れはまた可笑しな話だ!何の為の捜索隊なのか?いやいや、分からずともお教えすれば探す事は出来るだろう。其れは極簡単な探し物ですよお嬢さん」
芝居がかった話し口調のウサギは、ああだこうだと言いながら、漸くその内容を口にした。
「帽子屋の屋敷からドードーのミートパイが脱走したのですよお嬢さん。チェシャー・ネコが言うには日が沈まないうちに口に入れたそうなのだが、日が暮れた途端にいなくなってた!青虫が言うには焼けた後は香ばしいにおいが立ち込めていたが、焼ける前には逃げ出してた!三月ウサギが言うには……」
「おいちょっと待て!さっきから聞いてれば、おまえの言葉は支離滅裂だぞ!?」
「そうですね。ミートパイが脱走って、食べ物は自分では動きませんし」
零の言葉に、ぴくんと耳と鼻を動かしたウサギは、頭を数度横に振った。
「全くもって嘆かわしい!知らないとはいえあまりだろう?ミートパイは逃げ出すさ。当然の事ではないか!」
「……どうやら、私達の常識は全く通じない世界みたいね」
長々と語る白ウサギを見やって、シュラインは大きく溜息をついた。
「兎に角早く探してくれたまえ。時計の針が1周回り終わるまでに探し出してくれなければ、全員首を刎ねられる!」
白ウサギは自分の持っていた懐中時計を器用にその前足に持つと、草間達へと突きつけた。
「ほら見たまえ、もう半周してしまっている!ドードーのミートパイを早く探して女王陛下にお渡ししなければ!!」
「1周したら、じゃないのか!?」
何故かウサギの言葉に煽られる形で焦る草間の問い掛けに、白ウサギはまたも何度も首を横に振ってみせる。
「何を言っているんだ君は?確かに女王陛下の仰せでは1周回り終わるまでだが、君達が此処にやって来るまでに既に半分は回ってしまっているのだよ!時間は止められない限り止らない仕組みになっているからね。だからあと半周なのだよ。分かるかね?」
「この……人が下手に出てりゃあ偉そうに」
「武彦さん。こんな時にどうかとも思うけど、貴方全然下手に出てないわよ?」
「兄さんは何時でも偉そうですから」
突っ込まれてぐ、と草間が口を噤む。
「草間・武彦様。此れは、御依頼なのではないでしょうか」
次の瞬間、そう告げたのは小さなゴスロリ姿の少女。
「そうねぇ……だとしたら、強引だけど辻褄が合うかもしれないわ」
顎に軽く手を添えて、シュラインは少し考えを纏める様に目を瞑り。
「こうは考えられないかしら。武彦さん宛に届いたあの不思議な手紙と切符。其れは、此方の―そうね、例えば、そこの白ウサギ辺りが依頼をしようとして届けた」
「つまり、なんだ?あの不気味な列車に乗って此処まで俺達を呼び寄せて、探し物をしろっていう、回りくどい依頼だったって事か?」
「強引だと最初に言ったでしょう?でも、其れなら武彦さんに拒否権はないんじゃないかしら」
シュラインの言葉に、草間は目を見開いた。
「拒否権がない、だと!?」
声を荒げた草間に、当たり前じゃない、と呟く。
「だって、武彦さんや私達は列車に乗って此処まで来てしまった。どうやら帰る為には、その『ドードーのミートパイ』とやらを探す必要がありそうでしょう?」
「つまり、帰る為には依頼を引き受けないといけない、という事ですか?」
零の言葉に、一つ頷く。
「そうでないと、私達ひょっとしたら永遠に自分達の世界に帰れないかもしれないわ」
そこまで言って、シュラインは小さな同居人に視線を移した。
「遙瑠歌ちゃんの力でも、此の世界からは抜け出せないのよね?」
其の問い掛けに、遙瑠歌は無表情のままで頷く。
「何故か、わたくしの力をもってしても歪みを呼び出す事すら出来ません。お力になれず、申し訳ございません」
「いいのよ、気にしないで。確認したかっただけだから」
白銀色の髪を優しく撫でて、最終確認の為にシュラインは草間を見つめた。
「後には退けないわ、武彦さん。腹を括る必要がある。兎に角、探し物を見つけましょう」
説得するような眼差しのシュライン。
同意の表情で首を縦に振る零。
相変わらずの無表情の中にも、微かな意思表示を見せる遙瑠歌。
そして、諸悪の根源ともいえるだろう未だに焦っている様子の白ウサギ。
其れ等を見て、草間は此処に来て一番大きく溜息をつくと、頭をガシガシと掻いた。
「あくまでも帰る為、だからな!」
気がつけば草間は、駅の構内だという事も忘れて内ポケットから煙草を取り出し、火をつけていた。
けれど、其れを注意する人間は、最早存在しなかった。



<To be Next…>

■■■□■■■■□■■     登場人物     ■■□■■■■□■■■
【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【草間・武彦/男/30歳/草間興信所・探偵】
【草間・零/女/年齢不詳/草間興信所・探偵見習い】
【NPC4579/遥瑠歌/女/10歳(外見)/草間興信所居候・創砂深歌者】

◇◇◇◆◇◇◇◇◆◇◇   ライター通信     ◇◇◆◇◇◇◇◆◇◇◇
御依頼、誠に有難う御座いました。
連作の二話目にして、漸く世界が見えてきた、といった所でしょうか?
どうやら此の世界は、一般的に知られているあの有名な物語とは少し違う様です。
果たして興信所一行は無事に自分達の世界に戻れるのでしょうか?
それでは、またのご縁がありますように……