■SPIRAL EDGE // 林檎と宝珠■
藤森イズノ |
【7420】【猫目・アリス】【クラッカー+何でも屋+学生】 |
「なぁ。林檎、好き?」
そう聞かれたのが、事の始まりだった。
俺さー、すっげー好きなんだよね、林檎。
何で、あんなに美味いんだろ。やべーだろ、あの美味さは。
そう言って笑う海斗は、ちょっとウットリしているように見えた。
少し、異常かもしれない……そう思わせるほどの、林檎への愛。
それを散々聞かされた挙句、強制連行。
何でも、林檎を使った新デザートを作るんだとか。
まず、至高の素材(林檎)を得ようとする辺り。
彼は、本物の林檎ラバーなんだなぁ、と実感せざるを得なかった。
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INNOCENCE // 林檎と宝珠
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OPENING
「なぁ。林檎、好き?」
そう聞かれたのが、事の始まりだった。
俺さー、すっげー好きなんだよね、林檎。
何で、あんなに美味いんだろ。やべーだろ、あの美味さは。
そう言って笑う海斗は、ちょっとウットリしているように見えた。
少し、異常かもしれない……そう思わせるほどの、林檎への愛。
それを散々聞かされた挙句、強制連行。
何でも、林檎を使った新デザートを作るんだとか。
まず、至高の素材(林檎)を得ようとする辺り。
彼は、本物の林檎ラバーなんだなぁ、と実感せざるを得なかった。
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「うん。やっぱり。この子……魔物だわ」
「マジかよ。どれどれ。何て名前だ? えぇと……ルニアドラゴン? 聞いたことねぇなぁ」
「もともとは高山に住んでるらしいから……はぐれたとかかしら」
「ふぅん。大変なんだな、こいつも」
本部二階のライブラリーにて、蔵書を漁っていた夏穂と、
それに付き合い、傍でガムを噛んでいたアリス。
先日のエッジ討伐の際に、懐いて付いてきてしまった子竜について調べていた。
結果、この子竜が魔物であることが判明する。
ルニアドラゴン。成長すれば、全長五メートルを超える巨竜だ。
魔力の高い山に住み、ひっそりと生活……。
人間に害を及ぼす可能性は極めて低いけれど、
何かの拍子でキレてしまうと手に負えない……か。ふぅん……。
魔森は魔力に満りた神聖な場所だから、寄せられたのかしら。
何にせよ、大変だったでしょうね。まだ小さいし。
授乳期は僅からしいから、もう一人でも生きて行けるんだろうけど、
さすがに、あの森に放っておくわけにはいかないわよね。
何かと魔物が発生するし。凶暴なのが出たら、太刀打ちできないわ。
懐かれたのも何かの縁。大切に大切に、見守っていかなくちゃね。
いつか私の元を離れる、その時まで。
子竜の頭を撫でてやりながら、淡く微笑む夏穂。
彼女の母親のような優しい表情を見やり、アリスは苦笑する。
ほんっと、こういうのに懐かれるよな、あんたは。
一種の才能だよな、これって。すごいと思うぜ、今更だけど。
マンガをパラパラと捲りながら、ふぁぁと欠伸をするアリス。
と、そのとき。
バァンッ―
「ぬぁっ!?」
勢い良く扉が開き、その拍子にアリスはテーブルから落ちてしまった。
ひっくり返ったまま見やれば、そこには満面の笑みを浮かべた海斗。
海斗はニカッと笑い、二人に告げる。
「見つけたっ! なぁ、林檎採取付き合ってくれ!」
「……林檎?」
「何なんだよ、てめぇは。いつもいつも唐突に……」
起き上がり、やれやれと溜息を落としたアリス。
何でも、海斗は林檎のデザートが食べたいらしい。
その材料である林檎を、今から採取しに行くというのだ。
クスクス笑いながら、夏穂は本を棚にしまって言う。
「林檎なら、冷蔵庫にたくさん入ってるでしょ?」
「だめ! だめなんだよ、あんな普通の林檎じゃ!」
「ふふ。そうなの?」
「そーなの! なぁ、ついて来てくれよー。すぐそこだからさー」
グイグイと服を引っ張りつつ言う海斗。
夏穂は、一生懸命に話す海斗に笑い、いいよと返した。
「猫さんも、一緒にね」
「おー! たくさんいればいるほど有難いっ!」
「……何でうちまで。まぁ、いいけどよ」
巻き添えをくらい、同行することになったアリス。
善は急げ、そんなわけで、海斗は夏穂とアリスの手を引き、駆け出した。
*
海斗に手を引かれ、連れて来られたのは魔森の中にある大樹の下。
一際大きい大樹には、色とりどりの林檎が実っている。
「蒼い林檎なんてあるんだな。微妙に気持ち悪ぃな、あれ」
木によじ登っていく海斗を身ながら、ポツリと呟いたアリス。
確かに、ちょっと不気味だ。けれど、魔力によって熟した蒼林檎は、とても美味しい。
見た目はちょっとアレだけど、味は格別なのだ。と、海斗が言った。
「投げるからさー! 受け取ってくれなー!」
木の上から大声で叫んだ海斗。
大きなバスケットを持つアリスと夏穂は、揃って頷いた。
次々と林檎を取り、ポイポイと下へ投げやっていく海斗。
夏穂とアリスは器用にバスケットを揺らし、一つ残らずキャッチしていく。
蒼馬と空馬に加え、子竜も協力している。
採取はサクサクと進んでいった。いった……のだが。
「…………おい」
「〜〜〜♪」
「おいっ!」
「んっ? 何だー?」
「どんだけ取るんだよ、てめぇはっ」
「成ってる分、全部」
「はぁ?! ふざけんなっ。そんなに取っても困るだろ……って、痛っ!」
「あっははは! へたくそ〜〜〜!」
投げやられた林檎が頭にヒットし、むかっと苛立つアリス。
「てめぇ、そこ動くなよ!」
バスケットを置き、木によじ登っていくアリス。
大樹の上で、猫の喧嘩のようなものが勃発してしまった。
ギャーギャーと暴れる二人を見やりつつ、クスクス笑う夏穂。
喧嘩するほど仲が良いっていうけど。どうかしらね。
微笑み、少し休憩しようとバスケットを置き、腰を下ろそうとした時だった。
ふと、茂みで、キラリと何かが光った……ような気がした。
魔物……じゃないわね。何も感じないし。何かしら?
トコトコと茂みに歩み寄り、ザッと掻き分けてみる。
すると、そこには、キラキラと輝く蒼い宝珠があった。
これ……エッジから出る宝珠? 似てるけど……ちょっと違うみたいね。
形が違うもの。エッジから出たものは丸いけれど、これは三角。
う〜ん? 何かしら。持って帰ってもいいのかな? 首を傾げていると。
ぱくっ―
「あっ」
傍にいた子竜が、宝珠を飲み込んでしまった。
慌てて吐き出させようとする夏穂。
何なのか理解らないのに飲み込んじゃ駄目じゃない。
ぺーしなさい、ぺー。
喉を擦って吐き出すように促すものの、遅かったようだ。
ゴクリと波打つ子竜の喉。完全に飲み込んでしまった。
大丈夫かな、と不安気な表情で見やる夏穂。
うっすらと、蒼く染まった子竜。
けれど、それ以外に異変はないようだ。
キィキィと楽しそうに鳴いているし、問題はなさそう。
そういえば、さっき読んでいた本に書いてあったわね。
ルニアドラゴンは、大切だと判断したものを飲み込み、体内に隠す習性があるって。
大切なもの……だと判断したのね、それを。
うん。間違ってはいないと思うわ。
どっちみち持って帰ろうと思っていたところだし……まぁ、いいか。
ふぅと息を吐くと同時に、木上での喧嘩も治まったようで。
ボロボロになった海斗とアリスが、大樹から下りてきた。
「ん? 何してんだ、夏穂?」
「また、何か変な生き物、拾ったんじゃねぇだろうなぁ?」
林檎が山盛り入ったバスケットを持ち近づいてくるアリスと海斗。
夏穂はクスクス笑い、何でもないよと微笑み返した。
*
「うぐぐぐぐぐぐ……げふぅぅ……」
自室にて、何とも苦しそうに唸っている海斗。
採取した林檎を使って作ったデザートを食べ過ぎてしまったようだ。
夏穂自慢の林檎シャーベット。冷たいデザート故に、食べすぎ厳禁。
なのだが、大好きな林檎デザートを前に、海斗が抑制できるはずもなく。
「ほんま、アホやな。こいつ……」
自分で作ったタルトを頬張りつつ呆れ笑いするアリス。
夏穂は海斗の傍に付きっきりで、あれこれと看病している。
七つ道具の一つである救急箱から、あれこれと薬や道具を取り出して、
甲斐甲斐しく優しく、至れり尽くせりな看病を続ける夏穂。
唸る海斗に優しい言葉をかける彼女の横顔は、聖母の如しだ。
たまには叱ってもいいと思うんだけどな。ほんと、お前は優しいよなぁ。
そういうとこが良いっていうか、好きなんだけど、うちは。
夏穂の横顔を見やり、つられて優しい表情になってしまうアリス。
けれど、どこかおかしい。そのことに、アリスは気付いていた。
チラチラと夏穂は見やる。蒼く染まった子竜を。
大丈夫だとは思うけれど、不安が拭えないのだろう。
さっきから、やたらと、そいつを見てるよな、お前。
な〜んか、あったんだろ。隠し事してるな?
まぁ、いいけどよ。そのうち、何かあれば話してくれるだろうから。
後で、部屋でゆっくり聞かせてもらうってのもアリだしな。
「う〜〜〜〜う〜〜〜〜〜……」
それにしても、うるさいな、こいつは。
ほんっまアホやで。どうにもならんな。
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7182 / 白樺・夏穂 (しらかば・なつほ) / ♀ / 12歳 / 学生・スナイパー
7420 / 猫目・アリス (ねこめ・ありす) / ♀ / 13歳 / クラッカー+何でも屋+学生
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
シナリオ参加、ありがとうございます。
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2008.07.27 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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