■SPIRAL EDGE // スプリガンの壷■
藤森イズノ |
【7182】【白樺・夏穂】【学生・スナイパー】 |
「……うっとおしいよ」
「いーから、いーから。ほれほれ」
「嫌だってば」
「ちょっと突っ込むだけだろ。ほら、早く〜」
「しつこい……」
イノセンスアジト、エントランスにて。
歩きながら、何やら言い合いをしている海斗と梨乃。
いや、言い合いというよりは、海斗が金魚のフンのように付き纏っている感じか。
海斗の手には、紅い壷。 ……見るからに怪しい代物だ。
何でも、友人からタダで貰ったのだそうで。
壷の中には、これまた紅い液体が並々と入っている。
この中に手を突っ込むと、魔力が増幅する……らしいのだが。
何やら、嫌な予感。
おそらく、梨乃はそれを感じ取っているのだろう。
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INNOCENCE // スプリガンの壷
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OPENING
「いーから、いーから。ほれほれ」
「嫌だってば」
「ちょっと突っ込むだけだろ。ほら、早く〜」
「しつこいってばぁ……」
イノセンス本部、セントラルホールにて。
歩きながら、何やら言い合いをしている海斗と梨乃。
いや、言い合いというよりは、海斗が金魚のフンのように付き纏っている感じか。
海斗の手には、紅い壷。 ……見るからに怪しい代物だ。
何でも、友人からタダで貰ったのだそうで。
壷の中には、これまた紅い液体が並々と入っている。
この中に手を突っ込むと、魔力が増幅する……らしいのだが。
何やら、嫌な予感。
おそらく、梨乃はそれを感じ取っているのだろう。
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「はー。つまんね。お前ってノリが悪ぃよなー。ばーか」
「……どうせ、変なこと起こるんでしょ?」
「違うって。何回も言ってるだろ。魔力増幅! 奇跡の壷だよ」
「その言い方が怪しいんだってば」
「お買い得ですぜ〜奥さん。ほれほれ、いかがですか〜」
「あぁ、もぅっ。しつこいっ。ほんとにっ」
ギャーギャーと言い合いをしながら、こちらに向かってくる海斗と梨乃。
ホールにあるソファに座り、子竜を抱いてマッタリとしていた夏穂は首を傾げた。
何してるのかしら。随分とヒートアップしてるみたいだけど。
まぁ、また海斗が何かしつこく何かをせがんでるんだろうけどね……。
苦笑しながら見やっていると、バチリと海斗と目が合った。
何故だろう。その時、ビビッと何かが全身に走った。
そう、まるで一目惚れのような……って、そうじゃなくて。
これは明らかにアレだ。嫌な予感、ってやつだ。
「夏穂! 夏穂! これ! これ!」
ダダッと駆け寄ってきて、ズィッと壷を差し出した海斗。
(……?)
海斗が差し出した壷は、真っ赤で、ちょっと変な形。
チラリと覗き込んでみれば、中にも紅い液体が並々と入っている。
「なぁに? これ」
首を傾げて尋ねた夏穂。
キョトンとしている夏穂に、海斗は言った。
「手。突っ込んでみて。こん中に」
「手を……? どうして?」
「入れればわかる! 楽しいぞ〜」
「……そうなの?」
疑ったり勘ぐったりすることなく、素直に言葉を受け止めた夏穂。
その素直さ加減に苦笑し、梨乃は「無視したほうが良いですよ」と言った。
そんな梨乃の発言に、更に首を傾げる夏穂。
海斗はケラケラと笑い、梨乃の背中をグイグイ押して排除を試みる。
マスターに呼ばれてるんだろ、早く行けよと言われ、ハァと溜息を落とした梨乃。
あんたがしつこくせがんでくるからでしょ……。
そうは思ったが、言ったところでどうにもならない。
梨乃は、もう一つ溜息を落とし、いそいそとマスタールームへ。
念押しとばかりに「無視したほうが良いですよ」と言い残して。
「ったく。あいつ、うぜーな。邪魔すんなってんだよ」
ブツブツと文句を言っている海斗。壷を見やりつつ、夏穂は思う。
何かしら。随分と警告してたみたいだけど。
手を入れるだけで、魔力が増加するのよね?
それなら、試してみる価値はあるんじゃないのかしら。
私は大して魔力増加だとか、そういうことに興味はないけど……。
むぅ? と首を傾げている夏穂に、海斗は再度ズィッと壷を差し出す。
「はい。どーぞ。入れて、入れて」
「…………」
楽しそうに笑いながら言う海斗に、つられるようにして微笑む夏穂。
ちょっと気にかかるところはあるけど。別に構わないわよね。
海斗、すごく自信あるみたいだし。どれどれ……?
チャプ―
大して警戒することなく、壷の中に手を入れた夏穂。
これで、いいの? 特に何も変わった感じはしないけど……って、あらら?
ふと顔を上げて海斗を見やった瞬間、異変に気付く。
どうしたことか。みるみる身体が縮んでいくではないか。
ニヤニヤと笑う海斗の顔が、どんどん大きくなっていって。
最終的に、夏穂は親指サイズまで小さくなってしまった。
抱いていた子竜まで、一緒に小さくなっている。
「あっははは! ちっこくなった!」
しゃがんで夏穂を見やり、楽しそうに笑う海斗。
なるほど。こういうことだったのね。
ちょっとビックリしたけど……まぁ、もう慣れっこだわ。
あなたのイタズラは、今に始まったことじゃないもの。
それにしても、大きいわね。踏まれたりしたら、おしまいだわ。
っていうか、その変な壷。どこから持ってきたの?
クスクスと笑っている夏穂を見やり、ニヤリと笑う海斗。
「せっかくだから、えすこーとしてやるよ」
「え……? きゃ!」
摘むようにして夏穂を持ち上げ、そのまま自分の帽子の上に乗せた海斗。
帽子の溝にスッポリと挟まった夏穂は、そのまま固定。
その姿のまま、色んなところに行ってみよう。
いつもと違った視点になって、きっと楽しいぞ。
海斗は、そう言って歩き出した。……何ともいい笑顔だ。
*
「あっはっは! 似合う似合う! 可愛いぞ、夏穂」
「……そう?」
ちょっと照れ笑いを浮かべつつ、クルリと回ってみる夏穂。
倉庫に連れて来られた夏穂は、着せ替え人形と化していた。
千華が人形用に作った様々な服を、あれこれ着せては御満悦。
さすがに着替えているところを覗いたりはしないが、何だかな。
意外と、コスプレイが好きだったりすんじゃなかろうか。この男は。将来が不安だ。
あれこれ着せた中、彼が一番お気に召したのは、可愛らしい水色のドレス。
童話『不思議の国のアリス』の主人公、アリスが纏っているドレスと同じものだ。
着替え(というか着せ替え)を済ませた後は、レストランで食事。
とはいえ、この身体だ。食事をするのは容易なことではない。
「……重いわ」
いつも使っているスプーンが、何ともデカい。
持ち上げることすら出来ず、夏穂はペタリと座り込んだ。
そんな夏穂を見てケラケラ笑い、海斗はスプーンに苺を乗せ、それを夏穂の目の前に置いてやった。
取ってくれたことには感謝する。
でも、苺もデカい。どうやって食べろというのか。
やむなく、苺に抱きつくようにして、ぱくりと齧りついた夏穂。
いつもは一口、二口で食べれるのに。これは大変ね。
全部食べたら、お腹を壊してしまうわ。
食後に紅茶を飲めないのも、辛いところね……。
着替え、食事を済ませた後は、お散歩。
とはいえ、夏穂は海斗の頭に乗ったまま。
魔森にある泉にやって来たのだが、何という迫力か。
目の前にある泉は、もはや泉ではない。海だ。
向こう岸まで泳ごうとしたら、途中で力尽きちゃうわね、これは。
そんなことを考えてクスクス笑っていると、
茂みから、ガサッと森の動物が姿を見せた。
何度か見かけたことのある、白いリスだ。
何かに引っ掛けたのだろうか。リスは、尻尾に怪我を負っていた。
「あらあら。大変。治療しなくちゃ」
テケテケとリスに駆け寄り、これまた小さくなった救急箱から、
薬やら包帯やらを取り出して、傷の手当てをする夏穂。
このサイズだと、あなたみたいに小さい動物の手当てが楽ね。
せっせせっせと手当てをする夏穂を見ながら、海斗はクスクスと笑う。
何だかな〜。ちっこくなっても、夏穂は夏穂。
やってることは、変わんねーな。まぁ、当然かもしんないけど。
リスの怪我の治療を終え、海斗の膝の上に乗せられて座っている夏穂。
見上げれば、高く蒼く広い空。
わぁ……何だろう、この感じ。
開放感っていうか、スッとするっていうか。
小さいと不便なことが多いなって思ってたけど、
こうして見ると、小さいのも悪くないかもしれないわね。
などと夏穂は思っているが、彼女の護獣は、そんな悠長に構えてはいられない。
傍にいなかった所為か、小さくならなかった蒼馬と空馬は、
森の中でマッタリしている夏穂と海斗を発見すると、
勢い良く海斗に突進して不満を露わにした。
主と仲間(子竜)を元に戻せ。
二匹の鳴き声は、そう訴えていた。
と、そのとき。
ポンッ―
「!!」
イタズラ、というか妙な液体がもたらした効果というか。
それが切れて、夏穂の身体は元のサイズに戻った。
不思議なことに、服までサイズが変換されていた。
元に戻ると同時に服が裂けて……という色っぽい展開にはならなかったということだ。
海斗の膝の上、キョトンとしている夏穂。
そんな夏穂の頬を撫で、海斗は尋ねる。
「どーだった?」
「……ちょっと、楽しかった。かな……?」
「あははっ。そりゃ良かった!」
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7182 / 白樺・夏穂 (しらかば・なつほ) / ♀ / 12歳 / 学生・スナイパー
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
シナリオ参加、ありがとうございます。
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2008.07.27 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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