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■広場の薬屋■ |
川岸満里亜 |
【3368】【ウィノナ・ライプニッツ】【郵便屋】 |
「いらっしゃい!」
元気な声と共に、ドアが開いた。
「ごめんね、先生出張中なんだ。でも、薬の調合だけなら、あたしがどうにかするから、どーんと任せてよ!」
診療はしばらく休みのようだ。
しかし、診療室には変わらず様々な薬が並んでいる。
「実はあたしが調合してるんじゃないんだ。あたしのお姉ちゃんに有能な薬師がいてさー、だから、ちゃんと薬の手配はできるから、なんなりと申し付けてよね!」
そう言って、少女ばバンと肩を叩いてきた。
ここは錬金術師の診療所。
しかし、錬金術師ファムル・ディートの姿はない。
“自称ファムルの娘”のキャトルと、ファムルの元弟子ダラン・ローデスが交代で店番をしているようだ。
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『広場の薬屋〜秘密〜』
魔女の屋敷から下りてきたウィノナ・ライプニッツは、真っ先にファムル・ディートの診療所へと向った。
郵便屋の仕事の方は今日まで休みを貰っているため、今日は夜まで診療所で過ごすことができる。
小さな平屋の診療所は、この時期雑草で姿が隠れてしまう。
しかし、今年はそのままにしておいた方がいいだろう。隠しておくために。
「キャトルいる〜?」
木造のドアを開き、診療所に入り込むと「いるよー」と声があがった。
声のした部屋――診療室を覗くと、キャトルはファムルの事務机の上を片付けているところだった。何か作業をしていたらしい。
「ウィノナいらっしゃーい」
キャトルは笑顔で迎えてくれた。
「ちょっと時間ができたからさ、一緒に勉強しようと思って、本持って来たんだ」
「え?」
ウィノナはキャトルに魔術の本を渡す。
「これって……」
それは、聖都でも販売されている子供向けの魔術の本であった。
「キャトルのお姉ちゃん達に、キャトルが魔術を使うための助言もらおうと思ったら、使わせちゃダメだって言われちゃった。だけど、変な男が寄って来た時の護身用にも必要だからって話して、どうにか本を選んでもらったんだけど……みんな、あまり協力的じゃなくて……」
ウィノナは少し怪訝そうにキャトルを見る。
明らかに浮かない顔をしている。
「ウィノナ、お姉ちゃん達に何か話した?」
「ん? あの国のこととか、捕まってたことは話してないよ」
「うん、それもそうだけどね。あたしの体が改善してきたってこと、あまりお姉ちゃん達には話せないから、さ」
「え? そうなの?」
それは良いことであり、皆喜んでくれること……のように思えたが、考えてみれば、同じような治療を施せば、キャトルの姉達の状況も改善するはず。だけれど、魔女の屋敷ではそういった治療は行なわれていない。
「本当に本当に本当に……あたしは我が侭で、自分勝手なんだ。お姉ちゃん達皆も、決していい状態じゃないし、もう危ないお姉ちゃんもいるのに、薬、自分の分しか作れない。自分の分しかないんだよ」
「言ってないんだ」
キャトルは辛そうに首を縦に振った。
ウィノナはその薬について、詳しく知っているわけではない。
ウィノナが知っていることは、魔術を使うことが出来なかった彼女が、ファムルの助けにより、体質が改善しつつあるようだ……という曖昧な状況だけだった。
「肉体強化の薬を、定期的に飲んでるんだけどね、その薬については、調合のできるお姉ちゃんに作成手伝ってもらってるから、そのお姉ちゃんには話してはある。だけど、材料にとある人の「血」が使われているから、自分の分しか作れない。お姉ちゃんも何も言わないで作ってくれている。多分、他の皆にも言わないでくれてると思う。あと、問題なのは……」
キャトルはウィノナの腕を見た。
白い腕に嵌められた、銀色の腕輪を。
「今はあの方が眠りについてるから、話せるんだけどね。あたしの身体はファムルの治療薬だけじゃない方法でも、治療してもらって、改善に向かってるんだ。だから徐徐に魔術を使えるようになると思うし、そのうち外見も本来の姿に戻っていくと思う」
「本来の姿?」
首を縦に振って、キャトルは話を続ける。
「あたしの体は色素が異常なんだ。この異常が改善されたら、体中の色が薄くなるんだよ。……で、今のその状態、ええっと……クラリス様に知られたらマズイんだ」
「なんで?」
「ん、あたしがその腕輪してないのは、マジックアイテムを身に付けると体の調子が悪くなるからなんだけど、身体の状態が改善したと知られたら、腕輪嵌められちゃうと思うんだ。あたしは問題児だから絶対!」
確かに、この腕輪を嵌められれば、行動が制限されるだろう。しかし、万が一危ない状態になった時には、クラリスが助けてくれるはずではあるが……。
「ウィノナは命の危険があった時限定で助けられると思うけれど、あたし達は危ないことをしそうになった時点で、強制的に連れ戻されるんだよ」
「そうなんだ……」
それは是非ともキャトルに嵌めてほしい。などと少しだけウィノナは考えてしまった。なにせ今のキャトルは危なっかしくて仕方がない。
「ウィノナにもその腕輪、外して欲しいな……もし、アセシナートとのことを知られたら、あたしこっちに来ること出来なくなっちゃうよ」
「う、うん……」
ウィノナは軽く目を泳がせた。
というか、既にウィノナは色々知ってしまっている。ウィノナはさほど監視はされていないだろうが、それでも多少は、魔女クラリスも例の件を把握している可能性がある。
キャトルは手を伸ばして、ウィノナの手をとった。腕輪を外そうとしてみるが、やはり今のキャトルの力では無理だった。
「あと少し、魔力が上手く使えれば、外せると思うんだけどな……って、あ、ごめん……ごめんね……」
キャトルはまた謝罪の言葉を述べた。
「またあたし、自分の事ばかり考えてた。ウィノナはこの腕輪外さないで。そうすれば、もしもの時はクラリス様が助けてくれると思うから。ウィノナも危なっかしいからね、守ってもらってなきゃダメだよ」
「……」
すぐには、何も言葉が出てこなかった。
とりあえず、ウィノナが気付いたことといえば……。
このままでは、キャトルは何か大きな決断をした時、自分に本心を明かすことはないだろうなということだった。
そして、危ない場所に行く際に、自分に声をかけてくることもないだろうと。
魔女達に隠すために、自分にも隠すだろうと。
(寂しいな、それって)
ウィノナは鈍く光る銀の腕輪をみて、複雑な気持ちになった。
「魔術はさ」
キャトルはウィノナが持って来た本を手にとって、ぱらぱらと捲った。
「魔女が学ぶものに関しては、知識としては最低限知ってるんだ。いつか使えるようになるかもしれないって思ってたから。あと、こういう子供向けの本は、ホント助かる。あたしは……本当に小さな魔法でも、コントロールで失敗して大爆発を起こす可能性、あるからさ」
「えっ!?」
「多分、だけどね」
そう言って、キャトルは笑った。
夕方までの間、ウィノナはリミナに教えてもらった魔力を体力に変える方法について、独自に訓練を行なった。コツもつかめ、集中できる環境では、スムーズに行なえるようになってきた。
この方法だと、食物の摂取なくして、エネルギーを増やすことができるが、筋肉の疲労などを治す効果はないようだ。
キャトルは夕方まで本を読んだり、魔力のコントロールの訓練をしたり、イメージトレーニングをしたりしていた。
そして夜、2人は外に出た。
月明かりの中、キャトルの身体は普段よりも若干薄く見えた。
キャトルはウィノナが持って来た本を開き、短い呪文を唱えながら、イメージを膨らませて魔法を発動する。
「うわっ!」
突然の眩しい光に、2人の少女は飛びあがって驚いた。
キャトルが使ったのは、小さな光球を生み出す魔法だった。
しかし、起きた現象は異常なほどの光。広場全体を映し出す、まばゆい光であった。
ウィノナも同じ呪文を唱えてみる。――手の中に仄かな明りが浮かび上がる。
他のことを一切考えず集中を続けていれば、ウィノナは光球を同じ形状のまま維持していられる。
それは蝋燭代わりに、ちょっと周りを照らすだけの、本当に初歩的な魔法だ。
「まだ間違っても炎の魔術とか発動できないよなあ……。診療所燃やしちゃうかもしれないし」
キャトルはため息をついた。
その後、2、3度同じ魔法を発動してみるが、結果は同じであった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3368 / ウィノナ・ライプニッツ / 女性 / 14歳 / 郵便屋】
【NPC / キャトル・ヴァン・ディズヌフ / 女性 / 15歳 / 魔力使い】
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■ ライター通信 ■
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ライターの川岸満里亜です。
キャトルとの訓練ありがとうございます。
後半部分の流れにはなりませんでしたが、ウィノナさんの想いとして大切に受けとっておきます。
発注ありがとうございました。
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