■広場の薬屋■
川岸満里亜
【3510】【フィリオ・ラフスハウシェ】【異界職】
「いらっしゃい!」
 元気な声と共に、ドアが開いた。
「ごめんね、先生出張中なんだ。でも、薬の調合だけなら、あたしがどうにかするから、どーんと任せてよ!」
 診療はしばらく休みのようだ。
 しかし、診療室には変わらず様々な薬が並んでいる。
「実はあたしが調合してるんじゃないんだ。あたしのお姉ちゃんに有能な薬師がいてさー、だから、ちゃんと薬の手配はできるから、なんなりと申し付けてよね!」
 そう言って、少女ばバンと肩を叩いてきた。

 ここは錬金術師の診療所。
 しかし、錬金術師ファムル・ディートの姿はない。
 “自称ファムルの娘”のキャトルと、ファムルの元弟子ダラン・ローデスが交代で店番をしているようだ。
『広場の薬屋〜身を護る為に〜』

 日中は各々仕事に勤しみ、夜。太陽の光が弱くなった頃、フィリオ・ラフスハウシェはファムル・ディートの診療所を訪れた。
 最近、沢山の薬草や魔法草の提供を受けたらしく、キャトル・ヴァン・ディズヌフは自分で作れる薬は自分で、作ることのできない薬は実家へと運び、姉に調合をしてもらっているらしい。
 キャトルの元に薬草が集ったり、仲間が武術や魔法の手解きをしてくれていることは……本当はあまり喜ばしいことではない。
 物質は必要なだけあればいい。力も必要なだけあればいい。
 こうして彼女が欲するということ、彼女に与えられるということ。それは、彼女に危機が迫っていることに他ならない。
 それを解っていながら。だけれど、フィリオも彼女に強くなってほしいからではなく、少しでも自分自身を守ることが出来るようになってもらうために、診療所に通っていた。
「これ、ずっと前に使い方教えてもらった武器だよね」
 今日、フィリオが持って来たのは、警棒型のスタンガンであった。
 診療所前の広場に出て、物陰に隠れ相手にダメージを与える方法、そして相手の攻撃を掻い潜り、打ち込む方法を教えていく。
 無論、1日2日で身につくはずもないので、当分の間こうして通って指導してあげる必要がありそうだ。
「隠れるのって苦手だな。やっぱり、掻い潜る方を身に付けないとね」
「でも、キャトルの場合は一度でも相手の攻撃を受けたら、身動きできなくなりそうですから。自分から攻める必要のある時には、相手の不意をつかなければダメですよ」
「うーん、そっか」
 フィリオは木の枝を、キャトルが持つ警棒に向けた。
 キャトルは身体を右にずらし、フェイントをかける。
 フィリオはキャトルのフェイントに乗ってみる。
 キャトルは警棒を背で持ち替えて、左から打ち込んできた。
 ぺしっ。
 フィリオに警棒が触れる前に、フィリオの木の枝が、キャトルの肩を叩いた。
「これが剣だったら、右腕切り落とされていたかもしれませんね」
「うんでも、腕切り落とされても、脇腹に打ち込んだし。ちゃんと電流も発動させるから大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないですよー」
 フィリオは苦笑した。
 肉を切らせて骨を絶つ。キャトルの思考回路はそんな風に働くようだ。
「そんな無謀な方法では、自分も助かりませんよ」
「そっかー。でも、そのうち強力な治癒魔法使えるようになると思うからさ。そしたら、死ななきゃ肉体はどんなに傷ついても、魔法で治せるようになるよ」
 治ればそれでいいというものではないだろう。
 フィリオは大きく吐息をついた。
「それでは、その『魔法』ですが……少し、訓練してみますか?」
「うん」
 月明りの中、キャトルは微笑みを見せた。

 診療所に戻って、今度は魔術についてキャトルの話しを聞く。
 キャトルが魔術をまともに使えない理由は、体内の魔力の状態が悪いからだと聞いてはいる。
 その状態は、聖獣ユニコーンの力により少しずつ改善してはいるはずだ。
「具体的に、発動をするとどうなるのですか?」
 フィリオの問いに、キャトルは腕を組んで眉間に皺を寄せた。
「危なくて、滅多にやってない。攻撃魔法は勿論、回復魔法も一歩間違えば、相手の肉体を滅ぼしかねないからさ。補助魔法とかでも、何が起きるかわからないからね……。色々教えてもらったり、自分でも調べてみたりして、知識として知ってはいるんだけれど、もう少し身体の中の状態が安定してからじゃないと、発動の訓練とかはできないかも」
「そうですか……では、危険ではない魔法を発動してもらってもいいですか? 何かの際には押さえ込みます」
「ううーん、じゃ、ほんのちょっとだけ」
 そう言って、キャトルは子供用の魔術書を取り出した。
「やっぱ熱のない光の玉が一番かなあ。風の魔術だと家がふっとぶかもしれないし……」
 ぶつぶつ言いながら、キャトルは光魔術のページを開いた。
「じゃ、いくよ」
 フィリオはキャトルの体内の様子を感じるため、彼女の腕を掴んで首を縦に振った。
 キャトルが小さく呪文を唱えて、片手で印を結んだ。
 途端、辺りが眩しい光に覆われる。
 2人とも目がくらんで、片手で目を覆った。
「キャトル、消せますか?」
「まって、まって、まって……っ」
 慌てながら、キャトルは魔術を消滅させる。
「よ、よよよかった、消えた」
 ようやく落ち着き、目を開いてキャトルを見ると、彼女はばつが悪そうに笑っていた。
 フィリオが感じ取った彼女の力――それは、恐ろしいほどに膨大なものだった。到底、フィリオに押さえ込むことはできない。
「大丈夫だよ、あたしは我を忘れて魔術を発動したりはしないから」
 キャトルは真剣な目でそう言った。
 不安気な目で、彼女を見てしまったのかもしれない。
「わかってます。しかしキャトルの力は、本当に驚異的ですね。自分自身で安定させる以外に、方法はないのでしょうか?」
「そうだね……ディセットお姉ちゃんくらいコントロールに長けたお姉ちゃんが側でサポートしていてくれたら、もっとマシに使えるんだと思う。その他は多分方法ないよ」
「そのディセットさんは、キャトルの実家にいるのですか?」
 フィリオの問いにキャトルは首を左右に振った。
「別の場所で人間と一緒に暮してる。でも考えてみれば、あたしのサポートじゃなくてディセットお姉ちゃんが一人で魔術を発動した方が、ずっと効果を表せるはずだから、お姉ちゃんにサポートしてもらうっていうのじゃ、何の意味もなさないんだよね」
「そうですか……」
 やはり、キャトルの魔力に関しては、もう少し時間をかけて、安定させていくしかないようである。
 それまで、キャトルの周りに争いごとが起きぬよう。
 彼女が危険な目に遭うことがないよう、フィリオは願うのであった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3510 / フィリオ・ラフスハウシェ / 両性 / 22歳 / 異界職】
【NPC / キャトル・ヴァン・ディズヌフ / 女性 / 15歳 / 無職】

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸満里亜です。
ご指導ありがとうございました!
スタンバトンの扱いも、以前より上達したと思われます。このままお借りして、当分持ち歩かせていただきますー。
魔術に関してはまだまだ安定した使用は無理ですが、次第に使えるようになっていくのだと思います。
それでは今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

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