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■クロノラビッツ -message-■

藤森イズノ
【7182】【白樺・夏穂】【学生・スナイパー】
 --- CHRONO LABBITZ -----------------------------------------------
 
   Can't you see,
   when you wish hard enough,
   so that even a star will crush,
   the world we live in will certainly change one day.
   Fly as high as you can, with all your might,
   since there is nothing to lose.

   星を砕くほど、想い募らせれば。
   いつかきっと、俺達の世界は変わっていくんじゃないだろうか。
   溢れる力の限り、羽ばたいて見せてよ。
   失うものなんて、ないんだから。

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   クロノラビッツ。
   時を刻む、微かな音が聞こえる。
 クロノラビッツ -message-

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 CHRONO LABBITZ ---
 
 Can't you see,
 when you wish hard enough,
 so that even a star will crush,
 the world we live in will certainly change one day.
 Fly as high as you can, with all your might,
 since there is nothing to lose.

 星を砕くほど、想い募らせれば。
 いつかきっと、俺達の世界は変わっていくんじゃないだろうか。
 溢れる力の限り、羽ばたいて見せてよ。
 失うものなんて、ないんだから。

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 滅多に纏わない、漆黒。
 ブラウス、ドロワーズ、フラワーバレッタ、トートバッグ。
 そのどれもが、何色にも染まらず、何色をも染める漆黒。
 気まぐれなの。本当に、気まぐれ。
 こうして、漆黒を纏うのは、気まぐれなこと。
 だからこそ。だからこそ、疑わなかったのかもしれないわ。
 今、思えば。この日、漆黒を纏ったことさえも。
 気まぐれなんかじゃなくて、定められたことだったのかもしれない。
 そう、思うの。

 普段は純白。真っ白なロリータファッションを纏っている夏穂。
 けれど今日は、いつもと真逆な漆黒を纏っていた。
 どうして? と問われても、何て返せばいいのか理解らない。
 ただ、何となく。そういう気分だったから、としか。
 小雨が儚げな雰囲気を醸し出す、森の中。
 夏穂は、傘も差さずに、また、どこへ行くわけでもなく。
 あてもなく、森を歩いていた。いや、彷徨っていた、そう言った方が正しいかもしれない。
 雨に濡れ、額に張り付く前髪を整えつつ、夏穂はフゥと息を吐く。
 どうしてかしら。どうして私、ここに来たのかな。
 好き好み、この森を訪れることが多い夏穂。
 普段は、そう。森林浴だったり、読書だったり。
 この森で、好きなことを好きなだけして、その時間を満喫する。
 満たされる時間。彼女にとって、それは、もはや生活の一部と化している。
 けれど、今日は生憎の雨模様。
 誰かに吐き散らすことはないけれど、夏穂は雨を嫌う。
 だから、雨の日は、こうして外に出ない。ようにしている。
 自宅で、自室で。雨が上がり、青空を拝めるまで、ひたすら眠る。
 そう、いつもなら。いつもなら、今頃は、深い夢の中にいるはずなのに。
 どうして外に出たのか、どうして此処に来たのか。
 自分のことは、自分が一番わかってる。
 だからこそ、不思議で仕方なかった。
 一歩、また一歩。踏み出す度に、自分に問う。
 どこへ、行くの? と。
 立ち止まることはなかった。いや、立ち止まれなかった。
 疑問に思うまま、それでも、歩みが止まることはない。
 どこへ向かっているのか、理解らない。
 次第に強くなっていく雨。
 その中で。
「……Can't you see」
 ポツリと、ポロリと、漏れた言葉。
 夏穂が口にしたのは、とある神話の始まりの唱。
 雨音に掻き消される中、夏穂は続けて、神話を唱う。
 いつかどこかで、読んだ神話。
 可愛らしい水色のウサギは、悪魔の使い。
 確か、そんな内容だった。
 まるで童話のような始まり方なのに、終焉が何とも儚くて。
 だからこそ、私は刻んだのかもしれない。
 何だったかしら。あの神話の名前。えぇと、確か……。
 唱う神話、その名前を思い出そうと空を見上げる。
 頬に、瞼に、鼻先に、落ちて濡らす雨粒。
 その感覚に、心地良さを覚えつつ、思い出す。
 神話の名前は、クロノラビッツ……時うさぎ。
 そう思い出すと同時に、一説を唱い終えた。
 伏せていた目を開き、何を思うわけでもなく前方を見やる。
 その時だった。
 ガサリと茂みが揺れ、一匹の……水色のウサギが姿を現したではないか。
 ふわふわの尻尾と耳を揺らし、こちらを見やるウサギ。
 バチリと交わる視線。その中で、夏穂は思う。
 あぁ、そうか。これも夢なのね。
 私は今、夢の中にいるんだ。
 そうよね。おかしいもの。
 こんな雨の中、外に出るなんて。
 おかしいもの。
 夢なら理解できる。この装いも、この現状も。
 そう把握した夏穂は、心のどこかでホッと安堵していた。
 夢であるべき。そう思うが故に。
 けれど。
 水色のウサギは、その把握を払うかのように、夏穂へと近づいてくる。
 目の前で止まったウサギは、夏穂を見上げ、円らな瞳で首を傾げた。
 本当に、そう思うの?
 そう、尋ねられているような気がした。
 夏穂はしゃがみ、水色のウサギに手を伸ばす。
 その柔らかな感触が、手指を伝いませんように。
 そう願いながら、手を伸ばす。

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 温かく、それでいて柔らかな、優しい温もり。
 あぁ、願わくば。この腕の中で、一生を終えられますよう。
 幼心に願った、叶わぬ叶わぬ、ささやかな欲望。
 私を護り、抱きしめる、その腕に刻まれた紅い蜘蛛。
 いつも目に入るそれを、疑問に思うことはなかった。
 それもまた、彼女の一部なのだと把握していたからかもしれない。
 けれど、どうしてかな。何故か、あの日。
 私は聞いた。聞いてしまった。
「ねぇ、ママ。この蜘蛛さんは、ママのお友達?」
 尋ねられて、何と返したか……そう、彼女は、こう返した。
「ふふ。この蜘蛛さんはね、ママの……消せない傷なのよ」
「お友達じゃないの?」
「ふふ。出来うることなら、お友達にはなりたくなかったかな?」
「あのね、ママ。そういうときは、嫌だって言えばいいんだよ」
「そうね。でも……もう、離れられなくなってしまったから」
 淡く微笑んで言った。そう、彼女は……ママは言った。
 離れられない。そう聞いて、幼心に嫌な気持ちになったのは事実。
 ママを困らせるような真似、しないで。
 そう思ったのは事実だけれど。
 淡く優しい、その微笑みを見たから。
 私は悟ったんだ。
 あぁ、そうか。
 ママも、蜘蛛さんと離れたくないんだ。って。

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 冷たい、凍るような雨の中。
 カランと音を立てて、血に落ちた銀色のナイフ。
 私は見ていた。そのナイフを染める紅が、雨に流される様を。
 そして、そのナイフの傍で、重なり合うようにして眠る、両親を。
 震えていたのは、寒かったからか。怖くて仕方なかったからか。
 カタカタと揺れる手を、抑えることに必死だった。
 あの後、どうやって私は家に戻ったんだっけ……。
 あぁ、そうだ。あの人に抱かれて、戻ったんだ。
 お姉ちゃん。
 そう慕う、かけがえのない存在だった。
 綺麗で強くて、何より優しくて。
 口にするのが恥ずかしかったから、一度も言わなかったけれど。
 私は、あなたのようになりたいと思っていた。
 お姉ちゃんが教えてくれたこと。
「夏穂。約束して。何があっても笑顔でいること。いいわね?」
 他には何も、強要しなかった。
 ただ一つだけ。ただ、それだけ。
 お姉ちゃんは、私に求めた。
 どんなときも、笑っていられる強さを。
 でもね、難しいんだよ。
 それが、何より難しいの。
 またも雨の中。私は見ていた。
 冷たい、もう動かない、お姉ちゃんを。
 何度も名前を呼んだよ。叫んだよ。
 約束したから、泣かなかった。
 そう、あなたの名前を叫びつつ、私は笑っていたんだ。
 冷たくなっていくばかりの、あなたの腕に触れながら。

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 ハッと我に返り目を見開く。
 次々と脳内で再生された、記憶の断片。
 降りしきる雨、その音に、どれが真実が把握できずにいた中。
 夏穂を見つめていた水色のウサギが、諭すかのように姿を変えた。
 目の前に現れたのは、自分。
 漆黒を纏い、雨に濡れた、今の自分、そのものだった。
 鏡に映る自分の姿のような、その存在は。
 私を見つめて、何かを呟く。何度も何度も、小さな声で。
 何を言ってるのか、聞き取れない。
 けれど、大切なことを言っている。それは理解った。
 だから身を乗り出して、もう一人の自分の声に耳を澄ます。
 あなたは、ううん。私は、何を伝えようとしているの?
 必死に聞き取ろうとしたけれど、それは叶わなくて。
 もう一人の私は、ふっと煙となって消えてしまう。
「待って」
 何を伝えようとしているの? 教えて、聞かせて。
 当然、煙となった自分を捕まえることは出来なくて。
 森の中、残されるのは私だけ。
 俯き、おもむろに手を伸ばした、救急箱。
 その底に、隠してあった桐箱。
 ここにあると、忘れていたわけじゃない。忘れるはずもない。
 けれど、こうして。手にとるのは、あの日以来だね。
 桐箱から取り出すは、一丁の赤い銃と、一丁の青い銃。
 笑顔でいられる強さを求めた、かけがえのない『姉』からの贈り物。
 二丁の銃を手に、夏穂は淡く微笑んだ。
「笑顔……これで、いいのよね?」
 誰に尋ねるわけでもなく、小さく漏れた確認の言葉。
 その言葉に応じるかのように、雨が上がり、空に青が戻っていく。
 水色のウサギ。あの神話で、悪魔の使いとされていた存在。
 その存在と接触したこと、もう一人の自分が、何かを求めていること。
 頭の中、一本の線で結ばれた、その結果。
 時が満ちたと感じられずにはいられなかった。
 森の奥へと、踏み入っていく夏穂。
 彼女が向かうのは、ラビッツギルド。

 星を砕くほど、想い募らせれば。
 いつかきっと、俺達の世界は変わっていくんじゃないだろうか。
 溢れる力の限り、羽ばたいて見せてよ。
 失うものなんて、ないんだから。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7182 / 白樺・夏穂 (しらかば・なつほ) / ♀ / 12歳 / 学生・スナイパー

 シナリオ参加、ありがとうございます^^
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 2008.09.17 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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