■ラビッツハンター試験■
藤森イズノ |
【7192】【白樺・雪穂】【学生・専門魔術師】 |
ラビッツギルドにて実施されている、ハンター試験。
特に日程が決まっているわけでもなく、
試験は唐突に、気まぐれに実施される。
この試験に合格した者は、
晴れて正規のラビッツハンターの称号を得ることとなり、
ギルドの全域に出入りすることが可能になる。
ラビッツギルドの上層には、
あらゆる謎と知識、あるいは富があると噂されており、
ギルドに出入りする者、関与する者の大半は、
皆、この試験に合格し、正規のハンターとなることを望む。
中には、歪みきった目的でハンターの称号を欲する者もいるようだが……。
|
ラビッツハンター試験
------------------------------------------------------------------
ラビッツギルドにて実施されている、ハンター試験。
特に日程が決まっているわけでもなく、
試験は唐突に、気まぐれに実施される。
この試験に合格した者は、
晴れて正規のラビッツハンターの称号を得ることとなり、
ギルドの全域に出入りすることが可能になる。
ラビッツギルドの上層には、
あらゆる謎と知識、あるいは富があると噂されており、
ギルドに出入りする者、関与する者の大半は、
皆、この試験に合格し、正規のハンターとなることを望む。
中には、歪みきった目的でハンターの称号を欲する者もいるようだが……。
------------------------------------------------------------------
「えーと……嫌だったら、そう言ってくれて構わないんですけど」
ポリポリと頭を掻きながら、苦笑している浩太。
彼の視線の先には、何やら、ガチャガチャと道具箱を漁っている雪穂。
えぇと、どこだっけな、確か、この辺に〜……あ、あったあった。
箱の中から、カラフルなドライバーセットを見つけて嬉しそうに微笑む雪穂。
浩太は、更に苦笑を浮かべて、雪穂に再度尋ねた。
「えーと……雪穂さん。僕の話、聞いてる?」
「ん。聞いてるよ〜」
「返事、待ってるんですけど……ははは……」
「…………」
頬を掻きながら笑う浩太を見やり、雪穂はピタリと作業を止めた。
うーん。珍しい、かな。キミの、そういう顔って。
いや、顔っていうか何ていうか。返答を急ぐって辺りがね〜。
キミってさ、こう言っちゃ何だけど、いつもボーッとしてるじゃん?
おっとりしてるっていうかさ。急ぐとか、そういうところ、あんまり見ないよね。
それなのに、急いでる。キミは、返事を急かしてるんだよね。
公園のベンチで日向ぼっこを兼ねつつ作業していた雪穂の元へ、
テクテクと歩み寄ってきて、浩太は探るように目的を話し出した。
その内容、彼が、雪穂に歩み寄った理由。
それは、ラビッツギルドに正規ハンターとして所属してみないかという提案。
とはいえ、正規ハンターは、誰でもすぐになれるものではない。
簡単な試験があり、それをパスせねばならないのだそうだ。
そんなわけで、浩太は雪穂に受験を勧めている。
試験は、本日。午後二時から実施されるらしい。
あと二十分ほどで開始となる。
時間がないから急いでいる、そうも取れる。
取れるけれど……どうにも、引っかかる。
浩太は控えめな男だ。それは、誰もが知っている。
何度も彼と行動を共にしてきた雪穂も、勿論、その辺りは把握している。
それなのに、この行為。まるで、イノセンスに連れて行かれた、あの日。
海斗と梨乃(というか海斗)の、強引な勧誘を思い出す。
誰かに、連れて来いって頼まれたとかかなぁ……。
ん〜。そういうのとは、ちょっと違うのかなぁ……。
まぁ、何にせよ、こうして声を掛けられるのは、ありがたい話だよね。
それに、言われなくても、僕は近いうちに……。
「えーと。雪穂さん。嫌だ、と。そう捉えて良いですか?」
「あ、ううん。試験ね。僕、受けるよ〜」
「あっ、そうですか」
「うん。あの、うさぎさん。色々と気になるしね〜」
「わかりました。じゃあ、本部へ案内しますね」
「うん〜」
案内されなくても、知ってるんだけどね、実際。
何度か近くまで行ってるし。様子を見にね。
中に入るのは、初めてだなぁ。どんな感じなんだろ。
あんまり、前と変わってないような気もするけどさ……。
道具箱の中、双子の姉から預かった二丁の銃を、そっとしまい、浩太の後を付いていく雪穂。
向かうは、試験会場・ラビッツギルド。
*
ふ〜ん。そうかぁ。やっぱり、中は前とほとんど一緒かぁ。
ちょっとだけ、ツマンナイな〜とも思ったりするけど。
変わらないっていうのも、悪くないよね。
久しぶりに『帰ってきた』って感じがする……かな?
「キミ達ってさぁ、本当に突発的に動くよね〜」
「え?」
「いきなり解散! とかさぁ。僕、ビックリしたよ」
「あぁ、イノセンスですか。まぁ……何ていうか、すみません」
「……思ってないよねぇ、そんなこと」
「え?」
「笑って謝られてもねぇ。そういう時は、嘘でも真面目な顔しなきゃ駄目だよ〜」
「……すみません。あ、ここです。どうぞ」
(まだ笑ってるし……)
浩太に促され、また、彼が依然、笑みを浮かべていることに苦笑しつつ。
開かれた扉の中へと入っていく。
広く、真っ白な部屋には、机と椅子が並んでいた。
既に何名かが、試験を受けている状況のようだ。
「終わったら、教えて下さいね」
「ほ〜い」
一番後ろの席へと着席し、即座に机へ頬杖をつく雪穂。
先に試験を受けている面子、その背中を見やる。
中には、見覚えのある背中も、いくつか確認できた。
やっぱり、そうかぁ。僕だけじゃないんだよね、うん。
イノセンスで活動してた人ばっかりだ。
引継ぎっていうか、そんな感じで連れてきてるのかなぁ。
まぁ、まったくの素人さんを連れてきても、意味ないかもしれないしねぇ。
うんうん、と頷きつつ、机の上にある紙へと視線を落とす。
置かれていたのは、何の変哲もない……問題と解答用紙。
いわゆる、ペーパーテストというやつなのだろう。
さほど難しい問題は見当たらない。
それでも、中には一つや二つ、難問が用意されているもので。
(む……)
パッと答えを導き出せない。
そんな問題に遭遇したとき、雪穂が取る行動。
それは、後回し。
そのまま放ったらかしにすることは断じてない。
先に簡単な問題をサクサクと解いて済ませてしまって。
後から難しい問題を、じっくりと楽しむ。彼女は、そういうタイプだ。
むむ……なかなか難しいな、これ。
この問題だけ、レベル高くない?
他の問題は、誰でも解けそうな簡単なのばっかりなのに……。
このテスト、作ったの……マスターのお爺ちゃんなんだろうな〜。
こういう、ちょっとした意地悪とか、好きだもんねぇ。
負けないぞ〜。えーと、ここがこうで、あの公式を使えば……あれぇ〜?
悩みに悩み、その時間。二十五分。
問題用紙の裏は、答えを導き出す為のメモや思案でビッシリと埋め尽くされた。
頑張った甲斐あって、どうやら答えを導き出すことが出来たようだ。
ただ、自信がある! ということでもないらしく、
雪穂の表情は、微妙に曇っている。
伸びをしつつ苦笑している雪穂を確認し、
終わったことを把握した浩太は、彼女の手を引き、ギルドの外へ。
「ん? どこ行くの? もう終わり?」
「いえ。次は実技テストですね」
「ふ〜ん。実技ね。何すればいいのかな?」
「えーと……。クロノラビッツは、もう見ましたよね?」
「水色のウサギさんだよね」
「そうです。それを、捕まえてきて下さい」
「え。あのウサギさんって、そこらへんにいるものなのかな?」
「いえ。見つけてもらうのは、テスト用にマスターが作ったダミーですね」
「ふむふむ。なるほど」
「森のどこかにいるので。見つけたら、証拠を持ってきて下さい」
「証拠? 証拠って何?」
「その辺は、お任せします。僕は、ここで待ってるんで」
「……わかった〜。んじゃ、行ってくるね」
「いってらっしゃい」
浩太に見送られ、森の中へと踏み入った雪穂。
ギルドがある湖をグルリと囲っている巨大な森。
森のどこかにいるから〜って言われてもなぁ。
かなり広いよね、この森。何度か遊びには来てるけど……。
どうしようかなぁ、闇雲に探すのも、どうかなぁ。
立ち止まり、む〜んと考え込む雪穂。
しばし黙って思案し、雪穂は一つの仮説を立てる。
この間、遭遇したとき。あれって偶然だったのかな。
……違うよね。もう一人の僕に会ったわけだし。
僕を待ってたのかな。もし、そうなら。
こっちが必死になって探さなくても良いんじゃないかな。
探して見つけるような、見つかるような、そんな存在じゃないような気がするんだよね……。
あくまでも仮説。実際は、どうなのか理解らない。
けれど、可能性はゼロじゃない。
というわけで、雪穂はピタリと行動を停止。
ちょこんと、その場に座り込み、またガサガサと道具箱を漁りだす。
預かっている二丁の銃を手に、あれこれ思案していたときだ。
ふっと背中に刺さるような、視線。
パッと振り返ると、そこには、あの水色のウサギ。
相変わらず、可愛いなぁ、だなんて、ほのぼのしている暇はない。
目が合うと同時に、ダミーラビッツは魔物へと姿を変えた。
猫のような……いや、むしろライオンのような姿。
マスターが好き好みそうな風貌にクスクス笑う雪穂。
さぁて、どうしよっか。テストだから、それなりだよね、向こうのチカラは。
チラリと二丁の銃を見やって笑う。
うーん。これのテストもしたいんだけどなぁ。
僕、銃って苦手なんだよねぇ……。
滅茶苦茶なことになったら、後々めんどくさそうだし……。
ここはおとなしく、いつもどおりにいこっか。
懐からスペルカード『レイピア』を取り出し、詠唱・解放。
チャッと構え、見据えるターゲット。
ニヤリと笑った雪穂。その表情の変化に、ダミーラビッツは身震いを覚えた。
森の中、響く笑い声と、必死に逃げ惑う……何とも哀れな泣き声が響く。
*
「お疲れ様です」
「うん」
「……大丈夫ですか?」
「ん? 何が?」
「いや、傷だらけなので……」
「あ、うん。だいじょぶだよ〜。いつものことだしね〜」
「……そうでしたね」
ダミーラビッツを討伐し、その証として、髭と爪を持ち帰った雪穂。
それらを受け取り、浩太は満足そうに微笑んだ。
体中傷だらけな雪穂を心配していたりもするけれど。
腕に負った傷を、あまり得意ではない治癒魔法で治療している雪穂。
そこへ、浩太は『合格』を告げた。
「え〜? 即日発表なの?」
「あははっ。はい、そうですよ」
「な〜んだ。ワクワクできると思ったのになぁ〜」
試験結果、その発表を待つ、あのドキドキ感。
実際に味わったことはないけれど、それ故に。
雪穂は、その感覚を味わえるのでは、と期待していたようだ。
即日発表だったことと、合格という結果を聞いて、雪穂は苦笑した。
何ていうんだっけ、こういうの。八百長……? あれ? 何だっけ。
最初から、始めから、結果は決まっていたのではないか。
形式だけ、とりあえずの試験。
決まりだから、受けないわけにはいかなくて。
けれど、不合格になる確率はゼロだった。
浩太が接触してきたこと、珍しく返答を急いだこと。
すべてが、納得の上で一本の線で結ばれる。
要するに、僕のチカラが必要だってことだよね。
チカラを貸して欲しい。そういうことなんだろうなぁ。
僕はね、嫌だなんて言わないよ。
あのウサギさんの存在が気になってるのも事実だし、
それにね、何よりも、僕が、もう一人の僕の存在が気になるんだ。
何か、伝えようとしているのなら、ちゃんと聞いてあげなくちゃ。
僕が助けてとサインを出しているのなら。僕が助けてあげなくちゃ、でしょ?
「とりあえず、ギルド内を軽く案内しますね。……あんまり前と変わってないですけど」
「あはは。よろしくね〜」
------------------------------------------------------
■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7192 / 白樺・雪穂 (しらかば・ゆきほ) / ♀ / 12歳 / 学生・専門魔術師
NPC / 黄田・浩太 (おうだ・こうた) / ♂ / 17歳 / ラビッツギルド・メンバー
クロノラビッツ:オープニング派生シナリオ参加、ありがとうございます。
海斗にしようかと思ったんですが…ここは敢えて、浩太を向かわせておきます。
気さくで砕け、無邪気な口調で可愛らしい雪穂さんの場合、
海斗と言葉の掛け合いをさせると、微妙にカブってしまい、
どっちがどっちだか理解らなくなってしまいそうだったので(笑)
丁寧・敬語な口調である浩太との掛け合いで、
より一層、彼女の可愛らしさが引き立つのではなかろうか…と思った次第です。
というか、未だに浩太が敬語を使っているという事実がアレですけれども。
そのうち、少し砕けた口調に……なるかな?
合格、おめでとうございます。正規ハンターとしての御活躍、期待しております。
後続シナリオへの参加、よろしければ、いつでもどうぞ。御待ちしております^^
---------------------------------------------------------
2008.09.24 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
---------------------------------------------------------
|
|