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■Mission0:報酬を使い切れ!■ |
紺藤 碧 |
【2872】【キング=オセロット】【コマンドー】 |
先日、そういえば郵便屋――確か、特急配達員と言っていたか――を助け、受け取った特別特急切手。
1回だけなれば、普段は買わないような高いものを買ったっていいし、使用期限や消費期限がない消耗品を大量に買いこんだっていいだろう。
ただ、1回だけという制限があるため、逆を言えば、1つの店で賄える範囲内になってしまうのが少々残念ではあるが、それでも好きなものが買えるのは嬉しい。
さて、何を買おうか。
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Mission0:報酬を使い切れ!
先日蘇芳から報酬として貰った特別特急切手――いわゆる小切手を手に、オセロットは考え込んでいた。
「……日用品や食料は事足りている」
普段生活するうえで必要な物品には不自由な生活はしていないし、
「嗜好品の類も間に合っている」
ヘビースモーカーで大量の煙草を消費するといっても、やはり生活に差しさわりが出るようなほどではない。
オセロットはどうしたものかと天井を仰ぎ見る。
何でもいいと言っていた。同じ店内で賄えるのならば、何でもと。
椅子の背をゆっくりとブランコのようにもたれ掛けながら、上下にゆらゆらと動く天井を見つめ、ふと、何かを思いついたのか、その口元に笑みをたたえて立ち上がった。
「そうだ。蘇芳を誘って街に出てみるか」
蘇芳の休みがいつかは分からないし、もしかしたら配達でいないかもしれない。
一番居るとすれば総合郵便局が妥当か。
はてさて、総合郵便局は何処にあったかな。
オセロットはエルザードのマップを取り出し、総合郵便局の位置を確認すると、小切手を手に部屋をあとにした。
エルザード内でも比較的日当たりのいい場所に建てられた総合郵便局の建物は大きい。
しかし、目立たない……というか地味だが。
「いいか! 俺は絶対に今日から休暇だからな!」
オセロットが扉に手をかけるよりも早く、中からそんな少年の声と共に郵便局の扉が内側から開かれる。
「久しぶりだな、蘇芳」
「お。何か配達か?」
休暇という言葉が本当だと告げるように、いつも腰につけている尻を隠してしまうほど大きな配達鞄は持っていないことを確認すると、オセロットは小切手を取り出した。
「いや、今日はこれを使おうと思って、これから休暇なのだろう? 少し買い物に付き合ってくれないか」
「OK! 休暇っつっても一人じゃ―――いや、さっさと行こう」
蘇芳は言いかけた言葉を止めて、オセロットの背中を押すように街中へと駆け出す。
言いかけた言葉がなんとなく予想が出来て、オセロットはくすっと笑う。
たぶん、休みは欲しいが一人じゃつまらないといったところなのだろう。
街道を歩きつつ、店が立ち並び白山羊亭もあるアルマ通りにたどり着く。
「今日、買い物に付き合ってもらったのは他でもない。服を見繕ってほしくてな」
「え!? ちょっと待ってくれ!」
蘇芳は、上限金額とか、そういった類のめぼしのために付き合ってほしいと言われたと思ったらしく、動揺して止めにはいる。
「俺に服のセンスとか求められても無理だぞ!」
ぶっちゃけ、殆ど制服で過ごしている事が多いため、私服なんぞ自分のでさえ無頓着なのに、他人の服なんて!
余りにも動揺している蘇芳にオセロットはふっと笑い、
「そんな洒落たものを選んでもらおうと思っているわけじゃないさ」
視線を一度蘇芳からエルザードの外へと向けて、また蘇芳へと戻す。
「蘇芳の依頼を引き受けるずっと前の話だが――」
オセロットは白いシャツの上に、黒い軍服のようなコートを何時も羽織っていた。
どこか思い返すように瞳を伏せる。
「あることで盛大に傷めてしまってね。別に後悔や未練があるわけではないが新しいものを手に取る気も起きなくてな」
解決へと至ろうとする行動によって傷めたのだし、コートが駄目になったことを後悔と言うならば、あの街で行動した全てが後悔ということになってしまう。
「そのままにしていたが……まぁ、もうそろそろ、いいかと思って」
オセロットがそのコートに何かしらの想いを込めていたのではないかと蘇芳は思う。
「合うものが見つかるかわからないが、良かったら一緒に見てくれ」
けれど、そんな何か大きな転機ともなるような物を選ぶ相手に選んでくれたことに悪い気はしない。それに、
「そっか。コートなら…まぁ、うん」
コートならそこまでセンスも要求されまい。
「でも、ホンキで、あんまし、服屋は詳しくないからな」
「分かっているさ」
あの蘇芳の狼狽ようはただ事ではなかったか。
アルマ通りは沢山の店があるが、同じような店が一箇所に集中しているわけではなく、言ってみれば商店街のため、店の並びはバラバラだ。
まずは、通りに差し掛かり、一番最初に目に付いた店の戸をくぐる。
「未練ないって言ったけどさ、ないなら直ぐ捨てたりとかしないか?」
ボロボロなんだろ? そう言われ、オセロットの動きがふと止まる。
確かに直ぐ捨てられなかったということは、自分では感じていない未練をあのコートに持っていたのかもしれない。
「きっとあれだ。喪失感って奴なんだよな。多分」
「どうだろうな」
蘇芳の言うとおり、無くなってしまったことが大きすぎて自分でも気がついていない感情だったのか、ただ面倒くさがっていただけなのか。
「黒の軍服みたいって言ってたよな」
やはりお互いが思い描くようなものに差が有りすぎては選びにくい。
「以前が軍服のようなデザインだからといって、今回もまたそれがいいとは言わないが、ファッション性よりは実用性が高そうなコートを選びたいと思っている」
そのデザインでなくてもと言っても、気がつけば似たようなものを選んでいるのも服選びの不思議だと思う。
会話をしつつコートを見るが、どうやらこの店は実用性という面の服屋ではなく、次の店に移動する。
「裾ってやっぱ長い方がいい?」
ハンガーにかけてあるコートを見つつ、蘇芳が尋ねる。
「そうだな…そう拘りがあるわけではないが、短いよりは長いものの方が好ましいな」
前のコートは、くるぶしには届かないが、ふくらはぎ辺りの裾丈だった。
「それと、出来るだけ内ポケットがあるものがいい」
「何で?」
手に取っていたコートを持ったまま、蘇芳が首を傾げる。
「最近は本数も減らしてきているが、結構なヘビースモーカーでね。煙草を入れたいんだ」
女性物の服は男性物と違って胸ポケットがついていないものが多く、すっと取り出せる位置に煙草を常備しておくことが難しい。
だから、いつも羽織るだろうコートのその位置にポケットがあったらとても便利だと思ったのだ。
「んー…こっちよりはこっち…だよなぁ」
蘇芳の手に残ったのは、トレンチコート。
どうやら蘇芳は、ステンカラーコートよりも、トレンチコートのほうが似合うと思ったようだ。かといって現在ではトレンチコートも幅が広く、軍服からカジュアルまで多岐にわたる。
そもそもトレンチコートとは軍用コートから始まったデザインでもあるため、余り前と変わらないようなものになってしまいそうな気もする。
オセロットは蘇芳があれこれと見ているコートを横から覗き込む。
「あ、これ可愛くね? これ!」
可愛い……。
まあ、多少可愛くても実用性が高ければいいか。
ニコニコ笑顔で蘇芳が手にしたコートは、バックリボンに裾が切り替えになっている膝丈あたりのコートだった。
ダブルボタンにベルトが乗っからないデザインのためか、裾が少し広がって見える。
バックリボンが気にかかったが、腰ベルトを一周させない辺りは脱ぎ着がしやすそうだ。
「では、候補にあげておこう」
店の名前と、コートを記憶して、次の店へと移動する。
コートというものの商品の宿命か、使われている布のデザインの違いはあれど、形の違いというのはさして見受けられない。
しかしどうも蘇芳が選ぶコートは、腰ベルトがリボンタイプのものが多い気がする。
……好きなんだろうか。
その部分を除けば普通のトレンチコートなため、断るような部分もない。
「これもカッコいいと思うんだけど、シングルボタンよりはダブルボタンがいいと思うんだよな」
襟がテーラー系ではなくシャツ系で、胸と腰のポケットについたボタンがアクセントにもなっているコート。
隠しポケットにするデザインが多い中、このコートはポケットもデザインの一部に取り入れたものになっていた。
ただ蘇芳はこのコートがシングルボタンなことが気に入らないらしい。
「オセロットはどっちが好みだ?」
「私は、どちらでも」
ファッション性よりは実用性。ダブルでもシングルでも前を締めなければ実は同じだったりもする。
「蘇芳がそれがいいのなら、それも候補に入れておこう」
「ちょっと不満なところもあるけどな」
詳しくないとは言ったが、服は嫌いではないのかもしれない。
次の店で蘇芳が手に取ったのは、肩にケープがついたタイプのトレンチコート。
最初に選んだコートと次に選んだコートを足して2で割って、肩にケープをつけたようなデザインだ。
これも一応候補に入れて店を出る。
余り多く候補を立てても、候補が多すぎて絞り損ねることもある。
3つ辺りがちょうどいいだろう。
「今日買わないのか?」
まぁ選んで直ぐに買うというのも衝動買いチックでよろしくないとは思うが、蘇芳にしてみればちょっと気になるところでもある。
「ああ、検討して後日買おうと思う。今日はありがとう」
「いや、まぁ…うん、役に立ったならいいけどさ」
選ぶコートに偏りはあったが、悪いものではない。
「ああ、助けになった。選んでくれたお礼だ。お茶でも飲まないか?」
「いいね!」
時間もちょうどおやつの時間か。オセロットはスコーンが美味しい店があると、蘇芳を連れて改めて歩き出した。
☆―――登場人物(この物語に登場した人物の一覧)―――☆
【2872】
キング=オセロット(23歳・女性)
コマンドー
☆――――――――――ライター通信――――――――――☆
Mission0:報酬を使い切れ!にご参加ありがとうございます。ライターの紺藤 碧です。
コートのことは当方も気にかかっていたのですが、いつどう切り出そうか、切り出してもいいものか思いあぐねていたところでした。
今回明確なデザインのコートを3種ほど用意してみました。ちょっと当方が選んでて楽しかったのが蘇芳にそのまま出てしまいました。蘇芳のキャラじゃない気もします。でも選びたかったんです。
選んだコートのモデルにしたものの画像を当方のサイトに掲載しておきますので、よろしかったら参考にしてください。
それではまた、オセロット様に出会えることを祈って……
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