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■D・A・N 〜Second〜■

遊月
【7092】【美景・雛】【高校生・アイドル声優】
 呪具。力持つ道具。
 それが必要だった。それを求めていた。
「やっと……」
 その先は音にならない。心で呟く。
 呪具を持つ手に力がこもった。
【D・A・N 〜Second〜】



 美景雛がそこに辿り着いたのは、偶然以外の何物でもなかった。
 特に理由なんてものは無く、ただ何となくそこに辿り着いたのだ。そしてそこに見知った人の姿を見つけ、立ち止まった。
 夜闇に溶ける黒一色の服装、すらりと伸びた長身。端正な横顔には、触れれば切れるような雰囲気が漂っていた。
「……月華、さん?」
 思わず名を呼ぶと、彼は弾かれたように振り返った。
「美景……さん」
 雛の姿を捉えた瞳が、戸惑うように揺れる。
「……何かあったんですか」
 これを合わせて三度目の邂逅だが、これまで月華がこのように内面を露わにしたことはなかったと思う。いつもどこか掴めない、陽葉とはまた違った意味で飄々としていたのに。
 雛の問いに、月華は一瞬迷うような素振りを見せ――そして、首を横に振った。
「あったといえばあった。だが、美景さんには関係の無い話だ」
 そう言われてしまえば、付き合いが長いわけでもない雛には何も言えない。
 しかし明らかに様子のおかしい月華を置いて立ち去ることもできず、何か話題はないかと視線を彷徨わせ、月華の手の中の包みに目を留めた。
 瞬間、全身がぞくりと粟立つ。
(なに……?)
 黒い布らしきもので包まれた、恐らく手のひらサイズの何か。それが一体何なのか、雛の目からは全く分からない。
 けれど、すごく嫌な感じがする。何がどうとはいえないけれど。
「あの、それ――」
 指差し、それは一体何なのかと尋ねようとした矢先、嫌な気配が強まり、月華の手の中のモノから禍々しい光が放たれ――。
 そして、雛の意識は暗転した。

◆ ◇ ◆

「美景さんっ!?」
 突如雛の姿が消え、月華は思わず声を上げる。しかしその声は誰に届くことも無く、虚しく空気に溶けて消えた。
「……っ、何故だ! 封印してあったはずなのに…!」
 苛立ちを滲ませ叫ぶ。乱暴に布を解き、露わになったそれを睨みつけた。
 それは呪具。『人の心を喰らう』と言われていた鏡。自分達の悲願を叶えるはずだったもの。
 封印されていたはずのそれは、何も関係の無い少女を標的として発動してしまった。
『呪具にあたったって何の解決にもならないよ、月華? さっさと帰さなかったことを後悔しようが、封印されてるということに油断していた自分を責めようが構わないけど、もっと優先すべきことがあるんじゃないかな?』
「……陽葉。だが、これは――」
『ワタシたちの悲願を叶えるための道具なのは分かっているよ。だけど、巻き込んでしまったのは君だろう? 協力はしないよ。君がソレを手に入れたことは、ワタシにはあまり喜ばしくなかったしね』
 率直な物言い。しかし事実ではある。
 月華は唇を噛み締め、一度目を閉じ、そして小さく呪を唱えた。瞬間、足元に淡く陣が浮かび上がる。
 指が白くなるほどに強く呪具を握り締め――それを思い切り地面に叩きつけた。

◆ ◇ ◆

 果ての見えない暗闇。
 その中に、雛は居た。
(あれ、月華さんは? っていうかここどこ?)
 首を傾げるも、周囲には闇が広がるばかり。いくら月華が黒尽くめでも、さすがに全く見えないことは無いはずだ。ということはこの場に月華はいないということになる。
(えっと……もしかして、あの嫌な感じのするものが原因なのかな)
 タイミング的には恐らくそれで間違いないだろう。だが、それがわかったところで自分がどうすればいいのかは全く見当がつかない。下手に動いて何かまずいことが起こったりしても困る。
 再び首を傾げ周囲を見渡した雛は、先まで黒一色だった世界に変化を見つけて、そちらに顔を向けた。
(……子供?)
 黄金に近い蜂蜜色の髪、新緑を映したかのような瞳。子供特有のふっくらとした可愛らしいといえる顔には、感情らしきものが全く浮かんでいなかった。人形と見紛うほどの完璧な無表情。
 その顔に、見覚えがあるような気がした。けれど、記憶を辿るより先に、雛の心に浮かんだ感情は――恐怖。
 子供は身動きすらしない。呼吸をしているのかも不安になるくらい、微動だにせずただそこに居る。そんな子供に恐怖を抱く所以などあるはずが無いのに。
(……こわ、い。嫌。見たくない)
 無意識に後退する。やはり子供は少しも動かない。
 恐怖、嫌悪。そして――哀しみ。
 じわりと涙が滲む。その理由さえ雛には分からない。分からないけれど、浮かぶ感情は鮮烈で。
 どうしようもなく、雛はただ何もかもを否定するように首を振った。
(なにこれ、なんで、どうして、……いやだ、みたくない、こわい…っ)
 理由も知れずただ溢れ出す感情が、頂点に達そうとする。
 何かが、歓喜の声をあげたような気がした。


―――……かっしゃぁあん。



 何かが割れる音が、した。
 闇が消え、人形のような子供も消える。世界に光が戻った。
「……美景さん。大丈夫か?」
 とん、と誰かが肩を支える感触がする。耳に落ちた自分の名を呼ぶ声は、月華のそれで。
 何か言わなければと口を開くけれど、唇が震えて上手く言葉を紡げない。けれど彼に心配させないようにと、精一杯の力をかき集めて、振り返る。
 何とか笑みを浮かべて、今にも脱力して座り込みそうなのを堪えて月華に向き直った。
「げ、月華さん。よく分からないですけど、私は大丈夫です。ほら、――」
 体を動かし大丈夫だとアピールしようとしたが、かくんと膝が抜けたことでそれは失敗に終わった。
 それを予期していたかのように月華が雛を支え、目線を合わせてから口を開く。
「無理は、しなくていい。全て俺が招いたことだ。責は俺にある。……だから、無理して笑わないでくれ」
 支える手から直に伝わるぬくもりと、真摯に紡がれたその言葉に、雛の涙腺は決壊した。
 ぽろぽろと止め処なく流れ落ちる涙を、月華の指が拭う。
「――…すまない」
 ぽつりと落とされた謝罪は、苦渋に満ちていた。向けられた瞳が泣きそうに見えたのは、目の錯覚か、それとも。
 何を言うことも出来ずに、雛は伝わるぬくもりに縋り付いて、ただ泣き続けた。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7092/美景・雛(みかげ・ひな)/女性/15歳/高校生・アイドル声優】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、美景さま。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜Second〜」にご参加くださりありがとうございました。

 微妙な距離感がじれったい…!と思いつつ執筆しました。
 月華は色々な意味であと一歩が足りませんね。彼なりに必死で線を引いているからなのですが。
 想像で書かせていただいた部分も多いので、イメージからあまり外れていないことを願います。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。