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■D・A・N 〜本屋にて〜■

遊月
【3636】【青砥・凛】【学生、兼、万屋手伝い】
 ふと、目に入った本屋に立ち寄ってみる。
 店内をうろうろと歩いていると、視界の端に見覚えのある姿が。
 一体どんな本を読むのだろう、と思って、そちらに足を向けた。
【D・A・N 〜本屋にて〜】



 自動ドアの向こう側に一歩踏み出して、青砥凛は僅かに表情を緩めた。
 学校帰りによく立ち寄る本屋だ。暇なときや空いた時間を潰す際に訪れている。
(今日は…どこ、見ようかな……)
 心中で呟いて、凛は店内を見回した。
 視線を彷徨わせながら足を進め、少し考えた末にフィクションの物語が並ぶ一角へと移動する。
 背表紙に目を走らせてどれを手に取ろうかと手を伸ばしかけたその瞬間、ふと凛は目線を横に向けた。それはただ何となくだったのだが。
 眩い金髪、整った顔立ち、深い青の瞳。以前、気づかぬうちに落としていた凛のピアスを拾ってくれた人の姿がそこにあった。
 しかし、何より凛の興味を惹いたのはその人の手の中の本だった。
(あれ? 僕が買ってる本……。続編…出たんだ……?)
 そう思いながら、改めて本を持つ手の持ち主の顔を見る。
「えと……この間の、カガリ…さん……?」
 凛の声に開いていた本から目を離した彼――カガリは、凛に目を向けて僅かに目を見開いた。
「あ、えーと確か、この間の」
「うん……この前、ありがとう……このピアス、大切なものだから……助かった…」
「いえいえ、ただ拾っただけだし。たいしたことしたわけじゃないから」
 やはり先日と同じように軽く返される。
「そういやなんか宵月がお世話になったみたいだね。まあ妙な縁ができたみたいだし、仲良くしてあげて」
 宵月とカガリはほぼ同い年くらいに見えるのに、その片割れから『仲良くしてあげて』などと言われて凛は戸惑う。『お世話をした』意識も無いからどう言葉を返すべきか悩んでいる間に、カガリはまた口を開いた。
「あ、……さっき呼んでたし、多分宵月から聞いてるとは思うけど一応。僕の名前はカガリ。君の名前も一応教えておいてくれると嬉しいんだけど」
「………青砥、凛……」
「青砥さんね。うん、覚えた。別によろしくしてもしなくてもいいけど、一応よろしく」
「よろ、しく……」
 何だか先日会ったときよりも随分と明け透けな――というかむしろ適当ささえ漂う態度だ。もともとこういう気質なのかもしれないが。
 カガリの言葉が切れたのを見計らい、今度は凛が口を開く。
「カガリさんも…その本、好き……? 僕は……凄く好き……」
 少しだけ顔を緩ませた凛の目線から、己の手の中の本を指し示していると分かったのだろう、カガリは一度件の本に目を落とし、それからまた凛を見た。
「うん、まあ嫌いだったら手に取らないけど。好きというよりは興味深いかな」
 新刊を見つけたら手を伸ばす程度にはね、と微笑むカガリ。
 凛はその本――シリーズの内容を思い返す。超能力を持つ兄弟の逃避行を描いた作品で、能力を持つ故の苦悩や悲哀が主軸に置かれている。
 凛自身も異能を持っている。札を使った術や、瞳を覗かせることによって癒す能力。小説に描かれている兄弟とは違った力であっても、異能であるという点においては相違ない。
 だからこそその小説に感銘を受け、己の能力についても考えるようになったのだ。
 そのようなことを訥々と語る凛を、カガリはどこか哀しげな瞳で見つめていた。
「僕の、能力……納得して、使いたい…そう思う……」
「……なるほどね」
 小さく呟いて、カガリは笑みを浮かべた。
「宵月が君を気にかける理由が何となく分かったよ。……自分が君みたいに考えてたら、何かが変わったのかもとか思ってるのかな。だとしたら馬鹿としか言いようが無いわけだけど。それに君は『似てる』しね。あんまり入れ込まなきゃいいけど、――って、ああ、むしろ僕にとっては好都合か」
 意味深な言葉に凛は瞳を瞬かせる。
 けれどカガリはさらに笑みを深めただけで、詳しくを語るつもりは無いようだった。それに、凛自身も彼らの秘密に踏み込んではいけないような気がして問おうとは思えない。
 ふと落ちた沈黙を破ったのはカガリだった。
「それで、青砥さんはこの本買うの? 僕はそろそろ清算しようかなと思ってたところなんだけど」
「あ……うん、買おう……かな…」
「じゃあさ、もし時間あるなら付き合ってほしいんだけど」
「……?」
 疑問符を浮かべた凛に、カガリはにこりと笑んだ。
「甘味処めぐり。……ひとりじゃちょっと虚しいからね」
 意外な言葉に僅かに目を見開いて、それから少し迷ったのち、凛は了承の意を込めて頷いたのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3636/青砥・凛(あおと・りん)/女性/18歳/学生、兼、万屋手伝い】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、青砥様。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜本屋にて〜」にご参加くださりありがとうございました。

 カガリとの二度目の邂逅ということで、前回よりはどういう奴なのかが分かるんじゃないかなと思います。
 でもなんか結構飄々としてるような気がします。何考えてるのかとか分からない感じで。
 勝手に『甘味巡りへゴー!』な流れになりましたが、お茶とお菓子がお好きなら大丈夫なはず…もちろん代金はカガリ持ちだと思われます。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。