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■Hope and despair.■

藤森イズノ
【7707】【宵待・クレタ】【無職】
 焦っているわけじゃないんだよ。
 ただ、キミの態度が気に入らないんだ。
 まるで、俺のことなんて気に留めていないだろう?
 そいつらと一緒にいる時間に夢中になって必死になって。
 何度も何度も呼んでいるのに、見向きもしないだろう?
 その態度が気に入らないんだ。とても不快なのさ。
 だからね、キミに全てを教えてあげる。
 躊躇うことなんてしないよ。全てを、その身体と心に叩き込んであげる。
 忘れることなんて、出来やしない。忘れることなんて、出来るはずがないんだ。
 全てを知ったら、キミはどんな顔をするかな?
 自分がどういう存在なのか知ったら、どんな顔をするだろうね?
 あぁ、考えただけで、どうにかなってしまいそうだ。
 こんなにも興奮を覚えさせる存在。キミは俺にとって、かけがえのない存在だよ。
 銀色の時計台。そこで腕を組み、ニヤつきながら待っているJ。
 様々な妄想に興奮を覚え、一人悶えるJのもとへ、やがて待ち人がやって来る。
 ゆっくりと歩み寄ってくる愛しき存在へ、Jは微笑みを向けた。
「いらっしゃい」
 Hope and despair.

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 焦っているわけじゃないんだよ。
 ただ、キミの態度が気に入らないんだ。
 まるで、俺のことなんて気に留めていないだろう?
 そいつらと一緒にいる時間に夢中になって必死になって。
 何度も何度も呼んでいるのに、見向きもしないだろう?
 その態度が気に入らないんだ。とても不快なのさ。
 だからね、キミに全てを教えてあげる。
 躊躇うことなんてしないよ。全てを、その身体と心に叩き込んであげる。
 忘れることなんて、出来やしない。忘れることなんて、出来るはずがないんだ。
 全てを知ったら、キミはどんな顔をするかな?
 自分がどういう存在なのか知ったら、どんな顔をするだろうね?
 あぁ、考えただけで、どうにかなってしまいそうだ。
 こんなにも興奮を覚えさせる存在。キミは俺にとって、かけがえのない存在だよ。
 銀色の時計台。そこで腕を組み、ニヤつきながら待っているJ。
 様々な妄想に興奮を覚え、一人悶えるJのもとへ、やがて待ち人がやって来る。
 ゆっくりと歩み寄ってくる愛しき存在へ、Jは微笑みを向けた。
「いらっしゃい」

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「……何の、用なの……」
 Jの目をジッと見据えて尋ねたクレタ。
 何とも不気味な招待状だった。掌に浮かんだメッセージ。
 時計台で待ってる。全てを教えてあげる。
 掌に浮かんだそのメッセージは、どんなに擦っても消えなかった。
 ヒヨリたちに見られてしまえば、余計な心配をかけてしまう。
 そう判断したクレタは、Jの要望に応じる形で誘いに乗った。
 自分から決して目を逸らさずにいるクレタを見つめ返し、Jはクスクス笑う。
 あぁ……いいね。本当に、いいね……。キミの、その目。何度見ても、堪らないよ。
 敵意剥き出しの、その目。うん、その目も素敵だ。素敵だよ。素敵だけど。
 俺を、そんな目で見るなよ。俺を、そんな目で見る権利、お前にはないんだよ?
 賢くなりすぎてしまったのかな。あいつらの所為で。
 キミの可愛い目を、俺に頼りきったあの目を、取り戻したい。
 どんな手を使ってでも、取り戻したいんだ。
 クレタ。キミはね、一つ、大きな勘違いをしている。
 それは、キミ自身について。その、身体について。
 キミは、その身体を自分のものだと思っているね?
 違う。そうじゃない。その身体は、キミのものじゃなくて俺のもの。
 身体だけじゃないよ。心も、声も。全て、俺のもの。
 ははっ。そんな顔するなよ。大丈夫、理解りやすく教えてあげる。
 クレタ。キミは今、時守として生きているね? あいつらと共に。
 それならば、歪みも知っているね? 何度も見てきたね?
 そう、あれは時が歪んだもの。迷子になった時間が助けてくれって訴えているものだ。
 ねぇ、クレタ。歪みには、色々な種類があること、知ってるかい?
 あぁ、そうだ。ルージュ。紅い歪みも、その一つだね。怨みに満ちた歪み。
 それだけじゃないんだよ。他にも、数え切れないくらいの種類があるんだ。
 キミが、まだ見たことのない歪みは、きっと軽く千を超える。
 驚いたかい? ははっ。そうだね。確かに、ちょっと多すぎかもしれないね。
 うん? 他には、どんな種類があるのかって?
 ねぇ、クレタ。そんなことは今、どうでもいいんだ。
 質問なんてしないで。質問しても良いだなんて、俺、言ってないだろ?
 キミは黙って、俺の話を聞いてれば良いんだ。いいね? 黙って。喋るな。
 数ある歪みの中でもね、特に変わった……いや、もはや歪みと呼ぶには相応しくないものがある。
 その歪みはね、意思を持ち、言葉を話し、触れると温かいんだ。
 わかるね? そう。人だ。人の形をした歪み。
 コーダと呼ばれる、その歪みは、普通の歪みのように、闇に発生したりしない。
 作るんだ。時を操り、形にして。
 コーダを作ることが出来るのは、時を操れる者だけ。
 そう。要するに、時守・時呼・時狩。この空間に生きる者しか作り出すことが出来ない。
 更にね、コーダを作り出すことは、とても難しいんだ。
 永い永い歴史を誇るこの空間で、作り出せた奴は一人もいなかった。
 でもね、クレタ。たった一人だけ。コーダを作ることに成功した奴がいたんだ。
 誰だと思う? ……いいね。本当に、賢くなったね。そう。俺だ。
 誰も成功しなかったことを成し遂げた。俺は、自分に酔いしれたよ。
 そして同時に、自分が生み出した存在を誇り、愛した。
 でもね。あんなに愛してあげたのに。そいつは、突然俺の手を離れ、いなくなった。
 約束していたのに。遠くに行くなって。俺の目の届くところにいろって。
 いなくなったそいつを探して、俺は外の世界を渡り歩いたんだ。
 けれど、どんなに探しても呼んでも、見つけることが出来なかった。
 諦めたわけじゃないけれど、一度、戻ろうと思ってね。
 俺は、この空間に戻ってきたんだ。それは、半月ほど前のこと。
 戻ってきて早々、驚いたよ。
 探していたそいつが、俺の目の前を通ったんだから。
 ねぇ、クレタ。もう、理解るだろ? 何となく、理解ってるだろ?
 その『もしかして』を、確信に変えてあげる。ちゃんと聞いて。

 人の形をした、時の歪み。それが、キミの正体。キミは、俺に作られた存在なんだよ。

 Jの口から語られた真実。Jと自分の関係。自分の正体。
 目を逸らさず、その全てを聞き終えて、クレタは唐突に思った。
 この人は……寂しい人だ。
 信じないだなんて、僕は……そんなこと言わない。でも、驚きもしない。
 戸惑うこともないし、不安になることもない。その事実を、ちゃんと受け止めた上で、納得できる。
 少し前の僕なら、きっと俯いて、その事実に押し潰されていたと思う。
 僕は下を向いたりしないよ。真っ直ぐに、その目を見ることが出来る。
 強くなったのは、ヒヨリたちのお陰。ヒヨリたちが、教えてくれたんだ。
 でも僕は、今よりもっと強くなって、自分一人で、ちゃんと決断出来るようにならなくちゃ駄目なんだ。
 そうしないと、置いていかれてしまうから。そんなことしないってヒヨリたちは言うだろうけれど。
 一緒に歩きたいんだ。同じ歩幅で。時々、遅れて待たせてしまうこともあるかもしれないけど。
 一緒に歩いてくれるから。だから僕は……。
「おい、クレタ。何言ってんだ? 一緒に歩く? お前は、一人じゃ歩けないんだよ?」
 俺が手を引いてあげないと、俺と手を繋いでいないと、お前は歩けないんだ。
 他の奴じゃ駄目なんだよ。お前は、俺じゃないと駄目なんだから。
 腕を掴むJの手を払い、クレタは目を伏せて呟いた。
 もう……いないんだよ。Jが愛した僕は、もう……いないんだ。
 ただ黙って傍にいて、それが幸せだと思ってた僕は……もう、いないんだよ。
 Jにとって、都合の良い……人形だった頃の僕は……もう、いないんだよ。
 そんなの幸せとは呼べないんだって。そう気付いたんだ。僕は、気付いたんだ。
 僕の全てを知って、それでもなお、一緒にいてくれるヒヨリたちが気付かせてくれた。
 想われるだけじゃ、幸せになんてなれないんだ。
 僕も、想わなくちゃ。負けないくらい、想い返さなくちゃ、幸せになれない。
 一緒にいる時間を大切に、時間を共有できることの歓びを感じて。そうして生きていく。
 一人じゃないんだ。僕には、僕を必要としてくれる人がいるんだよ。
 その人たちと、一緒に生きていきたいって。僕は、そう思ってるんだ。
 もう、理解ったでしょう……? 僕は、もう還らない。その腕の中には還らない。
 そこにいるよりずっと幸せを感じられる場所を見つけたから。
 あなたに触れられても、抱きしめられても、僕はもう、嬉しくないよ。
 あなたの腕の中で幸せを感じていた頃の自分に戻りたいとも思わない。
 全てを理解したからこそ、二度と戻りたくないと思うんだ。
 あなたは、僕を愛してなんかいなかった。
 だって、そうでしょう……?
 本当に愛していたのなら、あんな研究施設に僕を放り込まなかったはずだもの。
 本当に愛していたのなら、あんな辛い記憶を埋め込まなかったはずだもの。
 あなたの青い目を、僕はとても不気味に思う。嫌なことばかりを思い出させる目。
 もう、その目で僕を見ないで。求めないで。応えないから。僕は、もう二度と。
「……ざけんなよ。おい、クレタ!」
「触るな」
 さようなら、J。僕はもう二度と、あなたの名前を呼ばない。

クレタ。キミは、人を愛せないんだ。何故か理解るかい? 教えていないからさ。
俺がキミに教えたのは、愛され方だけ。その身の委ね方だけ。
どうすれば気持ち良いか、もっと気持ち良くなれるか。俺は、それしか教えていない。
愛し方を教えなかったのは、知って欲しくなかったから。
だって、覚えてしまったら、誰かに試してみたくなるだろう?
知らなくて良いんだ。愛し方なんて。キミは、愛され方だけ知っていれば良い。
 どうして。どうしてだ、クレタ。人を愛することを覚えてしまうなんて。恥を知れ。
 俺を不快にさせる。それが、どんなに下劣なことか……それさえも、忘れてしまったのかい?
「……け…な。……ざけんな」
 一人残されたJは、怒りを拳に込めて時計台を殴りつける。
 闇に響くその音が、ほんの僅かに。鐘の音のように聞こえた気がした。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
 NPC / J(ジェイ) / ♂ / ??歳 / 時狩 -トキガリ-

 シナリオ『Hope and despair.』への御参加、ありがとうございます。
 辿り着きました。お待たせしました。そして、お疲れ様です。
 あぁ、そうですか、わかりましたよと、このままJが引き下がるとは思えませんが、
 絶対に揺るがない想いと、これまでに築き上げて重ねてきた経験と信頼があれば。
 何が起きても、大丈夫だと思います。何だか嬉しいような寂しいような、
 不思議な気持ちになっている私がいます(笑)つД`)・゚・。・゚゚・*
 以上です。不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 2008.11.19 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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