■クロノブレイク■
藤森イズノ |
【7707】【宵待・クレタ】【無職】 |
クロノクロイツに発生する歪み。渦のように闇を漂うそれは、本来は無音だ。
音もなく、ひっそりと発生し、発生したあとも静寂のままに闇を漂う。
だが、何事にも例外は存在するもので。
ごく稀に、隣接する歪みが融合してしまうケースがある。
早急に気付くことが出来れば、時呼の『クロノステイ』で融合を剥離することが可能だが、
対応が遅れてしまうと、歪みの融合は続き、歯止めがきかなくなってしまう。
クロノクロイツはとても広い空間だ。歪みは、そのあちこちに発生する。
故に、歪みが融合し始めても、すぐには現場を特定することが出来ない。
現場を特定できるのは、大抵、既に手遅れの状態になってから。
雪崩のような轟音が響き渡ることで、時守らは現状を把握し、苦笑しながら現場へ向かう。
融合を続け、途方もない大きさまでに膨れ上がってしまった歪み。
ビリビリとノイズ音のようなものを放ちながら漂う、巨大な歪み。
この現象を、クロノブレイクと呼ぶ。
「はぁ〜……。デカいな。過去最大じゃねぇか、これ」
帽子を押さえつつ、見上げて言ったヒヨリ。
そんなヒヨリに呆れ、ナナセは黒い鎌をどこからともなく出現させて告げた。
「ボーッとしてないで、手繋いでよ」
「おぅ。はいはい」
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クロノブレイク
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クロノクロイツに発生する歪み。渦のように闇を漂うそれは、本来は無音だ。
音もなく、ひっそりと発生し、発生したあとも静寂のままに闇を漂う。
だが、何事にも例外は存在するもので。
ごく稀に、隣接する歪みが融合してしまうケースがある。
早急に気付くことが出来れば、融合を剥離することが可能だが、
対応が遅れてしまうと、歪みの融合は続き、歯止めがきかなくなってしまう。
クロノクロイツはとても広い空間だ。歪みは、そのあちこちに発生する。
故に、歪みが融合し始めても、すぐには現場を特定することが出来ない。
現場を特定できるのは、大抵、既に手遅れの状態になってから。
雪崩のような轟音が響き渡ることで、時守らは現状を把握し、苦笑しながら現場へ向かう。
融合を続け、途方もない大きさまでに膨れ上がってしまった歪み。
ビリビリとノイズ音のようなものを放ちながら漂う、巨大な歪み。
この現象を、クロノブレイクと呼ぶ。
「はぁ〜……。デカいな。過去最大じゃねぇか、これ」
帽子を押さえつつ、見上げて言ったヒヨリ。
そんなヒヨリに呆れ、ナナセは黒い鎌をどこからともなく出現させて告げた。
「ボーッとしてないで、手繋いでよ」
「おぅ。はいはい」
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クロノブレイクと化してしまった巨大な歪みを還す。
その為にには、時守全員のチカラを合わせることが必須となる。
上空、闇を漂うクロノブレイクを見上げ、地上で14人の時守が立つ。
そして両隣の仲間と手を繋いで。文字通り、円を描く。
時守らは心を無にし、目を伏せて歪みに声を掛ける。
いくつもの歪みが融合したクロノブレイク。
混ざり合う歪みは、どれも別のものだ。何の関与もない。
目を伏せて心を無にした時守たちは、その中の一つに意識を集中させる。
波長が重なり合う歪みを求めて。
やがてクロノブレイクは解かれ、14の歪みに分裂を遂げる。
分裂した14の歪みは、円を描く時守の数と同一だ。
歪みは上空から時守らを見下ろし、狙いを定める。
自分と波長が合う奴は誰だ。さきほど、自分に意識を集中させていたのは誰だ。
闇を漂いながら歪みはそれを探り、自らと最も波長の合う時守を見つけると、
その時守の心臓めがけて、猛スピードで落下してくる。
その光景は巨大な矢が降ってくるようなものだ。
黒い矢と化した歪みが心臓に突き刺さる。
時守らは、次々と闇に倒れ背をついた。
命を絶たれたわけではない。
歪みを還す。大仕事の始まりだ。
もう一度。ママの温もりを感じられるって。そう思ったの。
よろしくね、と言って微笑んだ人。パパが連れてきた、新しいママ。
でもね、ママと呼べたのは、その日だけ。次の日から、私は地獄に突き落とされた。
パパの前では普通なの。とても優しくて、温かい人だった。
でもね、パパ。パパがいなくなると……この人は、鬼になるんだよ。
すごく怖い目で私を見るの。私を、何度も何度も叩くの。
痛いって泣き叫べば泣き叫ぶほど、もっと泣かそうとしてくるの。
どうして痛い思いをするのか理解らなくて。私は、ただ謝り続けたよ。
「ごめんなさい、ごめんなさい。もう、しないから。ごめんなさい」
何をしないのか、何がいけないことなのか。わからないまま、繰り返し謝ったよ。
悪いことなんてしていないのに。謝るしか出来なかったんだよ。
その痛みは、妹が生まれてから更に酷くなった。
絵を描いて見せても、私の絵はグシャグシャに丸められてゴミ箱に。
妹が描いた絵は、壁に飾られていった。どんどん、飾られていった。
誕生日だって、そう。私には何もくれなかったのに。
妹には、可愛いクマのぬいぐるみと、大きなケーキ。
急に雨が降り出して身動き出来ずに困っていたときも、そう。
妹は抱っこされて、暖かいお家に帰るのに、私はそのまま。
ついて行こうとすれば「来るな。汚い」って言われて。
何をしても、私は妹に勝てないの。
私のほうが上手でも、それを認めてはくれないの。
「あんたなんか、いなくなればいいのよ」
何度も聞かされた言葉。ママじゃないママの願いごと。
私がいけないんだって、ずっとそう思っていたの。
私が良い子にしていれば、し続けていれば、怒られることもないんだって。
でもね、疲れちゃったんだ。ごめんなさいって謝るの、もう疲れちゃったよ。
だって、そうでしょ? 私はね、悪いことなんて何もしてないの。
それなのに、どうして謝らなくちゃいけないの? ねぇ、どうして?
再婚した母親に疎まれる少女が生んだ、悲しい歪み。
クレタの心を射抜いた、最も波長の合う歪み。
けれど、歪みは悲しみから憎悪へと変わっていく、その途中。
私がいなくなるんじゃなくて、みんながいなくなっちゃえばいいんだよ。
ママじゃないママも、何もかもを手に入れる妹も、私を見放し捨てたパパも。
みんな、いなくなっちゃえばいいんだ。みんな、消えてしまえばいい。
再生された辛い過去から、ビジョンは現在のものへと。
小さな部屋の片隅、少女がハサミを見つめてブツブツと何かを呟いている。
それからすぐに、扉の開く音とガサガサという袋の音。楽しそうな話し声。
どうやら、自分を置いて買い物に行っていた家族が戻ってきたようだ。
ハサミを見つめる少女の瞳は淀み、死んだ魚のよう。
近づいてくる足音、話し声。……まずい。
あと数秒後、その場が血の海になってしまわぬように。
クレタは神に祈るよう、両手を組み合わせて少女の心に介入した。
冷たく冷え切った、氷のような少女の心。
本来なら、楽しいことでいっぱいであるはずの少女の心。
その冷たさを肌に感じた瞬間、クレタの目から、とめどなく涙が溢れた。
愛されたいのに、愛されない。愛情が、一番必要な時期なのに。与えてもらえない。
悲しいね。寂しいね。辛いね。切ないね。でも、絶望に囚われないで。
きっと、いるから。現れるから。見てくれる人が、君を見てくれる人が必ず現れるから。
手を差し伸べてくれる人がいるから。あきらめないで。
その手が伸びてくるまで……ううん、自分から、その手を探しにいかなくちゃ。
待っていても伸びてこないのなら、自分で探しにいかなくちゃ。
君はもう、十五歳になった。辛い過去は確かな経験として残るかもしれないけれど。
何がいけないことで、何を幸せと呼ぶか。もう、君は理解るはずだよ……。
そこに幸せがないのなら、幸せになれないと気付けているのなら、一歩踏み出してごらん。
誰かに護られないと生きていけないだなんて……そんな情けないこと言わないで。
少し厳しいかもしれないけれど、確かな想いだった。
護られていた記憶があるからこそ、温もりを覚えているからこそ、また求めた。
けれど、同じ温もりなんて、どんなに探しても求めても手に入らない。
そのことに、君はもう気付いているはずだ。いつまでも過去に縋っていちゃいけないんだって、気付いているはずだ。
遠い世界にいる少女と対話するように、温かい光で少女の嘆きを包み込む。
心に突き刺さったままの硝子の刃を、ゆっくりと光で包んで溶かす。そんなイメージで……。
無数の刃が溶けて消えて行く、その最後を確認した瞬間だった。
パリンと硝子が割れて粉々になるような音が響いて―
ふと目を開けば、そこには自分を覗き込む仲間たちの顔。
繋いだ手は、そのまま。右手はヒヨリの左手と、左手はナナセの右手と繋がったまま。
何があっても離しちゃいけない。そう言われていたから? そうじゃない。
絶対に離さないと、離せるものかと心に決めていたから。
信じている温もり。僕のチカラの拠り所。想いが還る場所。
「おかえり。で、お疲れさん」
「お疲れ様」
ニコリと微笑んで労ったヒヨリとナナセ。
二人は勿論のこと、他の仲間も既に仕事を終えた後のようだ。
歪みを還すことに、誰よりも時間を費やしたクレタが目覚めるのを、全員で待っていた。
繋いだままの手を見やった後、跡形もなく消えたクロノブレイクを見上げてクレタは淡く微笑んだ。
ねぇ、ヒヨリ。ねぇ、ナナセ。人を信じられなくなるって……すごく悲しくて切ないことだね。
少し前までは、必要のないことだって僕も思っていたけれど。
信じたって裏切られるって、約束も、破る為に存在するものなんだからって、そう思っていたけれど。
悲しくなったんだ。まるで、昔の自分を見ているようで。誰も信じられなくなった、あの子が可哀相で仕方なかった。
ねぇ、あの子も、知ることが出来るかな。僕のように……人の温もりを知ることが出来るかな。
信じることの素晴らしさや、温かさを……知ることが、出来ますように……。
ヒヨリに抱きつき、声を殺して涙するクレタ。
そんなクレタの頭を撫でながら、ヒヨリとナナセは顔を見合わせて微笑んだ。
大丈夫。大丈夫だよ、クレタ。こんなにも、お前は優しい。
優しいお前の心に触れて無反応だなんて、そんな奴いるはずがないよ。
在るべき場所へ還ったのが、還せたのが何よりの証拠。
いつまでも泣いてないで。顔を上げて、笑ってみせろ。
時守なら、メソメソすんな。笑ってなんぼの使命だろう?
「立てるか? 抱っこしてやろうか」
クスクス笑いながら言ったヒヨリ。
そんなヒヨリに、ナナセは呆れ笑いながら「過保護」と言ってのけた。
過保護で何が悪い? と開き直るヒヨリと、溜息を落とすナナセ。
まるで、お父さんと……お母さんみたい……。
涙をパーカーの袖でゴシゴシと拭い、クレタは顔を上げて淡く微笑んだ。
「一人で、歩けるよ……」
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
NPC / ヒヨリ / ♂ / 26歳 / 時守 -トキモリ-
NPC / ナナセ / ♀ / 17歳 / 時守 -トキモリ-
シナリオ『クロノブレイク』への御参加、ありがとうございます。
クロノブレイクは怖いものでも何でもなくて。
怖いのは、分裂した歪みと一騎打ちすることになる事態。
波長が合う=同情できてしまう。
そこで同情ではなく、同調すること。それが成功の秘訣。
一緒に嘆くのではなくて、背中を押してあげること。
それがどんなに難しいことか。気付けているでしょうか。
以上です。不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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2008.11.22 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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