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■14人目の時守候補■

藤森イズノ
【7781】【緋染・瑞樹】【暗殺者・限定された何でも屋】
 真っ暗な空間に、ポツンとある白い椅子。
 椅子の前でピタリと立ち止まれば、どこからか声が聞こえた。
「いらっしゃい。じゃあ、座って」
 その声に促されるがまま、椅子に座る。
 闇の中から聞こえてくる声。その声の主は、幾つか尋ねた。
 偽ることなく、その一つ一つに答えを返していく。
 無意味だと思った。嘘をついても、すぐにバレてしまうと理解していた。
 だから、ありのままを伝える。何ひとつ、偽らず。

 鐘を鳴らさねばと思うが故に。

「−……!」
 ハッと我に返れば、目の前には銀色の時計台。
 夢じゃない。夢を見ていたわけじゃないんだ。
 思い返していたんだ。過去を、思い返していた。
 けれど、この心に痞える違和感は何だろう。
 自分の存在さえも、酷く曖昧に思えてしまう。
 けれど、覚える違和感に戸惑う暇なんて、与えられない。
「じゃあ、行こうか。失敗しても構わないから」
 肩にポンと手を乗せ、微笑んで言った男。
 あなたは誰ですか? と、そう疑問に思うことはなかった。
 何故って、知っているから。何もかもを。
 もちろん、これから何処へ向かうのかも理解している。
 鐘を。鐘を鳴らさなくちゃ。
 その為に必要な経験は、全て網羅せねば。
 そうさ。自分は、14人目の時守(トキモリ)候補。
 14人目の時守候補

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 真っ暗な空間に、ポツンとある白い椅子。
 椅子の前でピタリと立ち止まれば、どこからか声が聞こえた。
「いらっしゃい。じゃあ、座って」
 その声に促されるがまま、椅子に座る。
 闇の中から聞こえてくる声。その声の主は、幾つか尋ねた。
 偽ることなく、その一つ一つに答えを返していく。
 無意味だと思った。嘘をついても、すぐにバレてしまうと理解していた。
 だから、ありのままを伝える。何ひとつ、偽らず。

 鐘を鳴らさねばと思うが故に。

「−……!」
 ハッと我に返れば、目の前には銀色の時計台。
 夢じゃない。夢を見ていたわけじゃないんだ。
 思い返していたんだ。過去を、思い返していた。
 けれど、この心に痞える違和感は何だろう。
 自分の存在さえも、酷く曖昧に思えてしまう。
 けれど、覚える違和感に戸惑う暇なんて、与えられない。
「じゃあ、行こうか。失敗しても構わないから」
 肩にポンと手を乗せ、微笑んで言った男。
 あなたは誰ですか? と、そう疑問に思うことはなかった。
 何故って、知っているから。何もかもを。
 もちろん、これから何処へ向かうのかも理解している。
 鐘を。鐘を鳴らさなくちゃ。
 その為に必要な経験は、全て網羅せねば。
 そうさ。自分は、14人目の時守(トキモリ)候補。

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 へぇ〜……。不思議な場所だねぇ。真っ暗だ。でも足元はフワフワしてて温かい。
 さて。どうして僕は、こんなところにいるんだっけな?
 首を傾げて、辺りを見回した瞬間のことだった。
 突然、目の前に銀色の椅子が出現。あらら……? 手品?
 ふむふむ……。特に変わったところはないみたいだね、普通の椅子だ。見た目は。
 綺麗な装飾だなぁ。アンティーク? こういうのって、すごく高価なんだよね? 確か。
 そんなことを考えながら、僕は座ったよ。出現した椅子に、ストンと腰を下ろした。
 だって、そういうことでしょう? 座れ、ってことだったんだよね?
 着席して数秒後、また不思議な光景が目に飛び込んできた。
 向かいに、もう一つ椅子が出現して……そこに、黒い帽子を被った男が座っていたんだ。
 綺麗な顔してるなぁっていうのが第一印象だった。あくまでも、第一印象ね。
 男の手元には書類のようなものが置かれていて、それを見ながら男は言った。
「いらっしゃい」
「……ニーハオ」
「え? あぁ、こんにちは」
「ふぅん。わかるんだ」
「ここに書いてあるからね。そのへんも。んじゃ、名前と年齢を、はりきって、どうぞ」
「…………」
 おかしな質問だなぁって思ったよ。絶対、書いてあるでしょ。
 さっきの挨拶に関することが書かれてるなら、名前と年齢も当然書いてあるでしょ。
 あぁ、そうか。確認ってやつだね? うん。確認は大事だよね。うんうん。
「名前は、緋染・瑞樹。歳は16だよ。……ねぇ、君は何て言う名前? 何歳なの?」
「ん。俺はヒヨリ。歳は……いくつに見える?」
「……そうだなぁ。26くらい」
「お。すごいな。当たり」
「……あはは。ご褒美は?」
「ないよ」
 ヒヨリは即答した。即答して、クスクス笑いながら僕を見つめた。
 何かおかしなこと言ったかなぁとも考えたけど、そうじゃなかったんだよね。
 ヒヨリが笑っていたのは、僕の姿形、顔付き。錯覚を覚える、その外見に笑っていたんだ。
 自覚はあるよ。間違われることも多いしね。でも僕は男だから。あ、多分ね? ふふ。
 お互いにクスクス笑い合って、一息ついた時だった。
 スッと立ち上がって、ヒヨリは僕に歩み寄ったんだ。
 そして、僕が咥えていた棒付きキャンディをスポンと抜き取った。
 あまりにも良い音がしたから可笑しくて。僕は、またクスクス笑ったんだ。
 ヒヨリは言ったよ。人と話すときは、こんなものを咥えてちゃいけませんって。
 僕はね、はーいって返事しながら、ゴソゴソと白いポシェットを漁ったんだ。
 そして、今度はコーラ味のキャンディを取り出して、また口に咥えた。
 人の話、聞いてる? そう言いながら、ヒヨリは何度も没収したね。
 でも、何度も繰り返す内に諦めて、没収しなくなった。
 何回没収されても、僕が次々とポシェットからキャンディを取り出すもんだから。
 落ち着かないんだよ、こうして咥えてないと。いつからだったかなぁ、これがないと落ち着かなくなったのは。
 ヤレヤレと肩を竦めて、ヒヨリは言ったね。最後の質問だよって。
「瑞樹。お前は、時間ってものをどう思ってる?」
「時間……?」
 時間はね。そうだなぁ……人の隣に、傍にいつもいるもの。かなぁ?
 何だか、童話のあれみたいだけど。僕は、そう思うよ。
 いつだって傍にあるからね。悲しいときも嬉しいときも時間は巡ってる。
 あぁ、そうだ。ただ傍にあるだけじゃないね。記憶に残るものだね。
 何かを思い出すとき、思い出しているのは場景だって思いがちだけど、そうじゃないね。
 人が思い出しているのは、思い出すのは、他ならぬ『時』だよね。
 何月何日、何時何分。一度きりのその瞬間を、人は頭に刻んでる。
 要するに……時間イコール記憶ってことかな。うん、多分そんな感じ。
 正直、凄い能力だなって思うんだ。どんな能力よりも凄いと思うよ。
 目に見えないものを記憶として残せるんだから。人って凄いよね。
 うん? 僕? 僕は……そういうの、ないよ。
 残しておかなきゃって思わなかったから。
 残す必要のない経験。僕の過去なんて、そういうのばかりさ。
 あれぇ? おかしいね。そう思うのに、思っているのに、ちゃんと思い出せちゃうんだ。
 どうでもいいことも、記憶として頭に残ってる。あぁ、そうか。もう一つわかったよ。
 自然と記憶されるものでもあるんだ。時間って。オートセーブ機能みたいなものだね。
 これ、厄介なオプションだなって思うよ。僕はね。
 だって、覚えておきたくないことのほうが鮮明に刻んじゃうんだもん。
 おまけに、頭に残されたそれは、自分の意思で消すことが出来ないんだよね。
 人は『忘れる』っていう、これまた不思議で凄い能力も持っているけど。
 その能力を持ってしても、記憶はなかなかね……。面倒だなぁって思うよ。
 必要ないとは思わないけど、厄介なものだなぁって。そう思う。

 時間って、面倒くさいね。

 ポンと肩を叩かれて、ゆっくりと振り返る瑞樹。
 振り返った先では、ヒヨリがニコリと微笑んでいた。
 漆黒の空間の中心部。そこに聳える、銀色の時計台。
 もう、何度足を運んだか、わからない。
 この日も、瑞樹は時計台を見上げて思い返していた。
 動くことのない、時計台の針を、じっと見つめながら。
「じゃあ、行こうか。失敗しても構わないから」
 そう言って、ヒヨリは瑞樹の頭をポンポンと叩いて歩き出す。
 どこに行くんだっけ? そう、尋ねることはなかった。
 理解っているから。聞かされていたから。
 僕は、助けに行くんだよね。彷徨うばかりの、時間を。助けに、行くんだよね。

 *

 所々に赤が混じった銀色の髪。ちょっとだけクセっ毛。
 長いその髪を軽く結っていることに加えて、顔付きも幼く可愛らしい。
 こんな容姿だから、子供扱いされることが多いんだ。
 女の子と間違われて、イカつい お兄さんに声を掛けられることもあるしね。
 でも、それを嫌だと思ったことはないよ。どうしてって? 楽しいから。
 人を見た目で判断する人。その多さが可笑しくて仕方ないんだ。
 面白いからといって、あはははははって声を出して笑うことはないよ。
 笑えないわけじゃないけど。そこまで面白いものでもないしね。
 元気ないね? とか、何か怒ってるの? とか、そう尋ねられてばかりだけど、僕は楽しいよ。
 楽しんでるから、別に気にしなくていいんだ。
 そもそも、僕が何を思っていようと、関係ないと思うんだよね。
 知ったところで何が変わるわけでもないし。
 寂しいことを言うんだねって、哀れむような目で見られたこともあるけど。大きなお世話だよ?
 僕は楽しんでる。それを表に出さないだけで、心から楽しんでるよ。
 僕のことをもっと知ろうと頑張る、その目とか。本当、面白いよ。
 もっと見て。もっと探ってごらんよ。僕を楽しませてよ。
 バレないように楽しませてもらうから。もっと楽しませて。
 舌の上で転がすんだ。コロコロと、僕は転がすんだ。
 甘いキャンディと、楽しませてくれる人達を。
 見事なものでしょ? あぁ、拍手はいらない。褒め言葉もいらない。
 目に見えないものじゃなくて、ちゃんと目に見えるものを頂戴。
 そうだなぁ、出来れば甘いお菓子が良いな。
 ご褒美をくれたら、もっともっと上手に楽しんであげる。
 バレないように上手に楽しんで、君をソワソワさせてあげるよ。 

 漆黒の闇の中、ぽっかりと開いた穴。時の歪み。
 もしも、あのとき。そう考える人がいる限り、何度でも生まれる歪み。
 歪みに巡るのは、期待と後悔。淡い期待と、惜しみなき後悔。
 後悔なんて、するだけ無駄なんだよ。残念だけど、どう足掻いても時間は戻らない。
 呆れもするけれど、ちょっとだけ羨ましい気持ちもあるよ。
 僕にはないからね。もう一度、やり直したいと思う時間なんて、ないから。
 オマケに、今は楽しいか? と訊かれても、うんとは言えない。きっと、僕は、ずっとこんな感じ。
 このままで別に何の問題もないから、どうにかしようとも思わない。
 でも、ちょっと気になるかなぁ。楽しいんじゃないかなぁ。
 そうやって、過去を思い返して懐かしんで、やり直したいと思えるのって楽しいんじゃないかなぁ。
 もしも、それが凄く楽しいことだってハッキリと理解ったら、覚えたくもなるんだけどね。
 このドス黒い色からして、さほど良いものではないよね。
 まぁ、そりゃそうか。後悔してるんだもんね。当たり前か。
 おかしなことを言うなぁ、僕も。後悔してみたいだなんて。
 そんなのどうでもいいのに。珍しいよね。自分で言うのも何だけど。
 穴から、蛇のようにうねりながら出現する黒い渦を見据え、ヤレヤレと溜息。
 長い灰色のマフラーと同時に、瑞樹の身体がしなやかに揺れた。
 白い花が刺繍された黒いチャイナジャケットで闇を舞う、その姿は、まさに舞踏のようで。
 ゆるやかな一連の舞を終えた瑞樹は、ピタリと静止し……目を伏せて深呼吸。
 研ぎ澄まされたその呼吸までもがピタリと止まって、次の瞬間、瑞樹はカッと目を開き拳を前に突き出した。
 ヒュッという音が聞こえて三秒後。歪みを囲うように風が舞い、その風は刃のように……歪みを斬り刻んだ。
 消してしまうわけではない。教えてあげるだけ。ちょっと心がチクッとするだけ。
 過ぎた時に、いつまでも引きずられることの無意味さを説いてあげるだけ。
 斬り刻まれた歪みは、申し訳なさそうに、とても謙虚に音もなく消えていく。
 在るべき場所へ還っていく歪みへ。心の中で「さようなら」
 構えを解いて、フゥと息を吐く瑞樹。
 ヒヨリは満足そうに微笑んで言った。
「お疲れ様。うん、何の問題もないね。合格」
 拍手を送るヒヨリを見やって、瑞樹は肩を竦めながら、またキャンディを口に咥えた。
 こんな感じで良いんだ? 簡単だね。余裕だよ。まだまだイケるけど。面倒くさいから、それはパスね。
 無表情のまま、勝ち誇ったような口調で感想を述べた瑞樹。
 ヒヨリはクスクス笑いながら瑞樹に歩み寄り、右瞼に人差し指を宛がった。
「こっち、見えてないだろ。逆にそれが命中率を高めてんのかな」
「……へぇ。よく気付いたね。いつから気付いてたの?」
「ずっと前から」
「ふぅん……?」
 普通はね、僕が言わないと誰も気付かないんだ。右目が見えていないこと。
 ずっと前から知ってたっていう言葉には、ちょっと納得いかないところはあるけど、凄いね。
 そういうのも、能力の一つなのかな? 僕もいつか、そうやって何でも見抜くことが出来るようになるのかな?

 時の番人、時守(トキモリ)

 時の歪みを繕う者。それを使命と認め、全うする存在。
 我等の目的は、ただ一つ。鐘を鳴らすこと。
 高らかに、高らかに、響け、轟け、鐘の音。
 その日まで、我等は唱い続けよう。幾年月、果てようとも。
 その日まで、私は唱い続けよう。幾年月、果てようとも。
 この身を持って、時への忠誠を。

 ― 8032.7.7

 *

 分厚く黒い日記帳。その最初のページ。
 刻まれた思い出の紡ぎを目で辿りながら、瑞樹は淡く微笑んだ。
 おかしいよね。こうして書き留めているなんて。どうしてかな。
 どうして、残しておきたいと思うようになったんだろう。
 どうでもよかったのに。過ぎていく時間なんて、どうでもよかったのに。
 誰かがこれを見たら、間違いなく笑うだろうね。大笑いするだろうね。
 僕も可笑しいと思うよ。過去を懐かしめるものを残しておくなんて、僕らしくないもの。
 懐から取り出す、白い懐中時計。
 時を刻まぬ、その時計が示す時間。
 3時0分28秒。
 取り戻すべき時間へ。瑞樹は淡く微笑みかけた。
 鐘が鳴るまで。再び、時が動き出す。その日まで。
 僕は唱い続けよう。幾年月、果てようとも。
 この身を持って、時への忠誠を。
 愛しき人と、笑えるように。
「あ、ここにいたか。瑞樹、仕事だ。すぐ出るぞ」
「面倒くさいけど、仕方ないよね」
「……お前は、本当に可愛くないな」
「そう?」
「顔は可愛いんだけどなぁ。勿体無い」
「それ、ヒヨリには言われたくないよ」
「……お前、そのキャンディ引っこ抜いて、唇縫い付けるぞ」
「出来るものなら、やってごらんよ」
「ほんと、可愛くない。可愛くないわ〜」
「どうもありがとう」
「褒めてねぇっつの」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7781 / 緋染・瑞樹 / ♂ / 16歳 / 暗殺者・限定された何でも屋
 NPC / ヒヨリ / ♂ / 26歳 / 時守 -トキモリ-

 シナリオ『14人目の時守候補』への御参加、ありがとうございます。
 ちょっと屈折しているといいますか…生意気な感じになっております。
 人を見下すような真似はしないけれど、冷めているような感じで。世渡りは上手そうですね^^
 いつか、歳相応の、偽りのない可愛い笑顔を見れたら良いな…と思います。
 ※アイテム『時守の懐中時計』を贈呈しました。ご確認下さいませ。
 以上です。不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 2008.11.20 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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