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■黄の歪み - シンメトリー -■

藤森イズノ
【7707】【宵待・クレタ】【無職】
 話していた。その瞬間、まるで邪魔をするように出現した歪み。
 二人の間に生まれた歪みは、いつもよりもグニャグニャに歪んでいるように思えた。
 加えて、色が異質だ。普通は黒い。真っ黒な渦のようなもの。それが歪みだ。
 けれど、出現した歪みは、目がチカチカするほどに鮮やかな黄色。
 黄色い歪みは『レモネード』恋愛が深く関与した、甘酸っぱい歪み。
 ヒヨリとナナセが教えてくれた。それを思い出して、互いに顔を見合わせる。
 どういうものか、事前にそれが理解っているのなら、慌てることはない。
 やってみよう。二人だけで。きっと大丈夫。
 ヒヨリたちがいなくても、大丈夫だってこと。証明してみせよう。
 互いに成長したことを、確かめるように。想いを重ねよう。
 頷き合い、逆方向へと駆け出す。
 14人目の時守。
 同じ肩書きを持つ二人の初協演。
 素晴らしい演奏が出来ますように。
 黄の歪み - シンメトリィ -

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 話していた。その瞬間、まるで邪魔をするように出現した歪み。
 二人の間に生まれた歪みは、いつもよりもグニャグニャに歪んでいるように思えた。
 加えて、色が異質だ。普通は黒い。真っ黒な渦のようなもの。それが歪みだ。
 けれど、出現した歪みは、目がチカチカするほどに鮮やかな黄色。
 黄色い歪みは『シトリン』恋愛が深く関与した、甘酸っぱい歪み。
 ヒヨリとナナセが教えてくれた。それを思い出して、互いに顔を見合わせる。
 どういうものか、事前にそれが理解っているのなら、慌てることはない。
 やってみよう。二人だけで。きっと大丈夫。
 ヒヨリたちがいなくても、大丈夫だってこと。証明してみせよう。

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 黒い鎌を出現させ、フゥと息を吐いたオネ。
 その横顔を、クレタはジッと見つめた。
 視線に気付いたオネが、ふっとクレタを見やる。
 シトリンを、こうして見るのは二人とも初めてのことだ。どういうものか知ってはいても、還したことはない。
 とはいえ、歪みは歪み。少し異質ではあるけれど、還せないものではない。還さねばならぬものだ。
 クレタはオネを見つめたまま、動かない。その眼差しが物語るのは「どうするの?」その想い。
 オネに頼るだとか、そういうことではなくて。オネが、どう動くのか。クレタは、それを知りたい。
 闇雲に向かっていくのは無謀だ。ちゃんと計画を立てて動かねばならない。
 けれど、じっくりと話し合っている暇はなさそうだ。
 シトリンの動きが活発になっている。心なしか、少し大きくなったようにも見える。
 猶予がないのなら。クレタの頭には、瞬時に『調和』が浮かんだ。
 一人ずつ勝手に動くわけにはいかない。でも、どうするか考えている時間もない。
 それならば、オネがどう動くのか。どう動きたいのか。それに合わせて自分が動けば良い。そう思った。
 連携というか、協力して何かを行うという行為を苦手としていたのに……大きな変化である。
 歪みを……還す。還すのには、気持ちが……想いがなくちゃ駄目……。
 ただ還せば良いって、やっつけで動くのは……いけないこと。
 歪みの中にある想いを汲んで、その気持ちに同調する……同情じゃ、駄目……。
 還さなきゃ……って思うんじゃなくて、還してあげたい……そう思うことが大切。
 もう、理解ってる。必要なもの……。必要な想い……。
 だから、聞かせて。オネが、どう動こうとしているのか……動きたいのか……。
 その音に、鼓動に合わせて……動くから。君が、気持ち良く動けるように。
 クレタの要望を聞いたオネは、ニコリと笑って鎌を構える。
 オネは、明確にしなかった。自分が、どう動くか。動きたいかを明確しないまま。
 タッと駆け出し、シトリンに向けて波動を放つ。
 唐突で突拍子もないオネの動きにクレタは目を丸くした。
 まるで、自分勝手に動いているように思えたからだ。
 連携する気は、ないのか。そう思わせた。
 だが、すぐに気付く。
 時守が、大鎌から発動するクロノバックは、連発が出来ない。
 その為、初発を放ったオネは、しばらく思うが侭に動けない。
 ウサギのように飛び跳ねて、シトリンから離れるオネ。
 ストン、と闇に着地すると同時に、オネはヒヨリを見やった。
 バチッと交わる視線。その瞬間、気付く。自分が、どうすべきか。
 闇に指を躍らせて、光をポンポンと出現させ、シトリンに向けて放つクレタ。
 放たれた光の珠は、シトリンの動きを一時的に封じる。
 宙に留まり、バイブレーションする携帯電話のように小刻みに揺れるシトリン。
 揺れる歪みの中、映る情景・想いは、恋に対する後悔。
 あなた以上に私を理解ってくれる人はいない。そう思ったが故に結ばれた。
 けれど、甘い生活はすぐさま音を立てて崩れた。
 誰よりも愛しい人が旦那様になることの喜び。
 その幸せは、僅か1ヶ月で終了してしまった。
 毎夜毎夜、違う女の人の香りを漂わせて帰ってくる愛しい人。
 あなたしかいないと思ったのに。勘違いだった、自分の愚かさ。
 出会えたことに後悔はしれないけれど。あなたの本性を見抜けなかった自分を悔う。
 歪みの中で再生される記憶は、幸せな日々と苦しい日々が、やたらと入り混じっていた。
 クレタが放った光の珠が、ゆっくりと消えていく。
 自由に動けるようになったシトリンは、苛立ちから暴走。
 だが、ジャストタイミング。光の珠が消えると同時に、オネのスキルチャージが完了する。
 口元に淡い笑みを浮かべながら波動を放つオネ。
 放ち終えた後は、またすぐにシトリンから離れて身構えながらクレタを見やる。
 どうするか、どうやって還すか。考える必要なんてないんだ……。
 再び光の珠を放ちながらクレタも淡く微笑んだ。
 二人の呼吸は、まるで機械のようにピッタリだ。
 発動するスキル、その効果が持続する時間、チャージまでに要する時間。
 それらが全て、見事に繋がっていく。ブレスなしのエンドレスソング。
 逃げる隙も、何かを仕掛ける隙も与えられない。
 けれど、そこには不思議な優しさがあった。
 追い詰められているというよりは、包み込まれているような。
 ビュンビュンと飛び回っていたシトリンは、やがて動きを止め、ただ揺れる。
 二人が奏でるメロディに酔いしれるように。
 話し合ったわけでもないのに、どうしてこんなに心地良く動けるんだろう。
 声を掛け合うこともなく、いつしかアイコンタクトさえも不要になって。
 思うが侭に動いているのに、音が重なり合う。素晴らしいハーモニー。
 クレタは指を踊らせながら、オネは鎌を躍らせながら……覚える心地良さに酔いしれた。
 クレタの踊る指が指揮代わりとなって、Fine(フィーネ)。
 演奏がピタリと止むと同時に、シトリンはクルクルと回りながら煙となって消えていく。
 まるで、踊り終えて舞台袖に戻っていくダンサーのようなシトリンの動き。
 クレタとオネは顔を見合わせ、クスクス笑う。

 *

「へぇ……。お前らが二人でねぇ……」
「うん。あ、これスコア。目を通したらナナセに渡してね」
「あぁ、了解。……ふ〜ん。で、どうだった?」
「どうって?」
「協奏の感想」
「えぇとね、うーんと……。楽しかった。ね? クレタ?」
「……うん。夢中に……なった……」
 ヒヨリへの報告を済ませたクレタとオネは、また顔を見合わせて笑う。
 先程の心地良い時間を、互いに思い出しているかのように見えた。
 嬉しそうに笑う二人を見やり、テーブルに頬杖をつきながらヒヨリは言った。
「なるほどね。お疲れさん。戻って良いよ」
「うん。あ、クレタ。お腹空かない? 一緒にお昼食べようよ」
「うん……。いいよ……」
「何食べたい? 僕ね、スパゲッティ食べたい」
「うん……。それで良いよ……?」
「ほんと? じゃあ、僕が作るね。トマト好き?」
「え、と……」
 話しながら去っていくクレタとオネ。
 その背中を見送って、すぐにヒヨリは携帯で連絡を入れた。繋ぐ先は、ナナセだ。
『何? また、くだらないことだったら怒るわよ』
 つい先程、仕事をサボってナナセに電話をかけて、カレーを熱く語ったヒヨリ。
 どうでも良い話に散々付き合わされたが故に、ナナセは不機嫌だ。
 話があるなら、わざわざ電話してこないで部屋に来れば良いじゃないと、
 ごもっともな意見を述べながら深い溜息を落とすナナセ。
 電話越しのヒヨリは、クスクスと笑っていた。
 ナナセのヒステリーが可笑しいわけじゃない。
 ヒヨリは、オネに渡されたスコアを見ながらナナセに報告する。
 歪みを還す際、時守が行わなければならないスコア記録。
 どのようにして歪みを還したか、見れば瞬時に把握することが出来る。
 その体裁は、まさに楽譜だ。一音ずつ口ずさめば、曲として成立している。
 どのように還したかによって演奏は異なり、スコアも異なる。
 ヒヨリやナナセ、ベテラン時守が残すスコアは、どれも秀逸なものだ。
 中でも、ヒヨリとナナセが協奏で残したスコアは、誰よりも何よりも美しい。
 二人が奏でるハーモニーに敵う協奏は、誰にも出来ない。……はずだった。
 誇示することはないけれど、心のどこかで少し誇っていた部分がある。
 俺達に敵う奴はいないよなぁ、と、そう思っていた。思ってたんだけどさぁ……。
 電話越しに口ずさむヒヨリ。聞いたことないメロディ。そして、何て美しいメロディ。
 自分とヒヨリが奏でたものではない。記憶にないメロディだ。
『それ、誰のスコア……?』
 ポツリとナナセが呟いた。ヒヨリはクスクス笑って作曲者を告げる。
 クレタとオネの協奏。初めて奏でた、二人のハーモニー。
 まさか、ありえない。初協奏で、こんなにも見事なものを残すだなんて。
 驚きを隠せないナナセに、ヒヨリは笑いながら言った。
「今すぐ俺の部屋、来い。見せてやっから」
 電話を切ると、すぐさまバタバタと駆けてくる音が響いた。
 近づいてくるその足音に、ヒヨリは目を伏せて苦笑する。
 いやはや、参ったね。まさか、あいつらがこんなにもデキるとは。
 ライバル出現……ってやつかね、これは。んん〜。久しぶりに、ゾクッとした。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
 NPC / オネ / ♂ / 13歳 / 時守 -トキモリ-
 NPC / ヒヨリ / ♂ / 26歳 / 時守 -トキモリ-
 NPC / ナナセ / ♀ / 17歳 / 時守 -トキモリ-

 シナリオ『黄の歪み シンメトリィ』への御参加、ありがとうございます。
 募集枠2が埋まらなかったので、オネとの協奏となっております。
 それに伴い、番外編から 核シナリオに変わっています。
 スコア(楽譜)について、少し明らかにさせて頂きましたが…。
 天才を脅かす天才。ライバルは、意外と近くにいるものです。
 仲間であり、音を競うライバルでもあり。そんな関係が成立する瞬間。
 大して気にしていないように見えるかもしれませんが、
 ヒヨリは、かなり焦っています。代表として、これはマズイでしょ〜…的な思いです。
 ナナセは危機感たっぷりですね(笑)彼女が全力疾走するなんて、レアなことです。
 これからも、素敵なメロディを奏でて下さい。名曲、たくさん残して下さいね^^
 オネが、絶対無二のパートナーに……なるのかな? なるのかも?
 以上です。不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 2008.11.28 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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