■D・A・N 〜Third〜■
遊月 |
【7266】【鈴城・亮吾】【半分人間半分精霊の中学生】 |
――…失敗、した。
まさかこうも容易く逃げられてしまうとは。
早く見つけなければならない。アレは周りに害を与えるものでしかないから。
必要だったとは言え、対策を万全にせずに呼び出したのは自分の落ち度だ。
……焦って、いたのかもしれない。
もう、時間がないのだ。
気配を探る。かすかに残るそれを辿って、空間を渡った。
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【D・A・N 〜Third〜】
放課後。窓の外には夕焼け空が広がっており、教室内をも橙に染めている。そんな中、己の席に座り眉間に皺を寄せ、鈴城亮吾は悩んでいた。
(やっぱ気になる……っつーかあんな思わせぶりな言い方されたら誰だって気になるって! ……でも別にケイさん分かっててやってるわけじゃないだろうし、だったら突っ込んで聞いたら嫌な気持ちにさせちまうかもだし、それどころか嫌われたりとか避けられたりとかするかもだし――)
考えるのは、とある縁で知り合った人物――ケイのこと。自分でもよく分からないが、どうにも彼のことが気になるのだ。『呪具』とやらに関わってしまったりしたこともあって、その思いはますます強まっていたのだが。
(よくわかんねぇけど嫌われたくはねぇし、やっぱ直接聞くのはなー…つーかそもそも連絡手段ねぇから会うのって偶然に頼るしかないんだっけか。あーなんで俺メアドとか聞いとかなかったんだ!?)
最後に会った日からこうして色々と考えているのだが、結論は出ない。というか同じことを延々と考えるだけに終わる。
そんな日々が続いていた亮吾は、鬱屈していた。――つまるところ、爆発寸前だった。
(……っつーかこういう風に悩むのって、なんか俺らしくないよな?)
ふとその事実に気付く。そうなれば思考は坂を転がり落ちるように加速して。
(よし! とにかくケイさんを探そう! んで会ってからのことはそのとき考える!!)
これまで悩んでいたのはなんだったのかと問いたくなるような早さで、ケイへ突撃することを決定した。
手早く荷物をまとめると教室を飛び出し、昇降口へ向かう。靴を履き替え駆け足で校門へと向かい、さてどこへ向かおうかと思案しようとしたのだが。
「鈴城くん!」
「へ、――ッケイさん?!」
校門を出た途端、目の前に探し人が現れた。どこか余裕のない、焦ったような瞳が自分を射抜き、亮吾は気圧される。
「無事? 何もなかった? 変な気配感じたりとか変な空間に取り込まれたりとかしなかった?」
挨拶もすっ飛ばしての唐突な質問に完全にペースを乱されつつ答える。
「いや、何もなかった……です」
「そう。――よかった」
ふう、と安心したように溜息をつくケイ。意気込んでいたのに出鼻を挫かれたことに対して、亮吾が理不尽な怒りを感じながら口を開こうとした、その瞬間。
周囲の景色が、変わった。
◇ ◆ ◇
「時間差、――っていうよりは、謀られたんだろうな……」
思案気に目を伏せてケイが呟く。亮吾はといえば突然すぎる出来事にまだあまり状況を把握できていなかった。
夜闇よりもさらに深い、完全なる闇。先程まで周囲を当たり前のように照らしていた夕陽はどこにも見えず、それどころか地面すら危うい。とりあえずこの状況の理由に見当がついているらしいケイに声をかける。
「あの、ケイさん、ここって――」
最後まで言う前に、ケイははっと亮吾に顔を向け、申し訳なさそうな、何かを悔いるかのような表情で口を開いた。
「ごめん、鈴城くん。また巻き込んじゃったみたい」
恐らくはわざとだろう、苦笑と軽い声音。誤魔化したいのだろうか、と一瞬考えた。しかし。
(迷ってる……っぽい、気が)
何が、と聞かれれば雰囲気が、としか答えようがないが。何となくそんな気がしたのだ。
「これは完全に、俺の落ち度だから。鈴城くんには危害が行かないように何とかする。――一応召喚主は俺だし、多分どうにかなるはずだから」
安心させるように笑顔を浮かべて、ケイが言う。だが、それに亮吾が言葉を返そうとした瞬間、ケイの顔が驚愕に彩られた。
そして響く、声。
「ケイ兄」
親しみが込められた声音。それは亮吾の背後から聞こえた。振り返った亮吾の目に、鮮烈な白が飛び込んでくる。
(子供?)
無邪気に笑む、10歳前後だろう子供がそこにいた。肩に届くくらいの銀髪と、抜けるように白い肌が、この暗闇の中存在を主張している。
「久しぶりだね、ケイ兄。どれくらいの時が経ったのか、時の止まった僕には分からないけど。元気そうだね。兄様を留めてるんだから、もっと弱ってるのかと思った」
驚いちゃった、と無邪気な声音で紡がれる言葉に対して、ケイは搾り出すようにして声を紡ぐ。
「なん、で……、だって、君は、」
「うん。死んだよ。ケイ兄が兄様を留めるより前に。もちろん、魂すら存在しないよ? それはケイ兄が一番よく知ってることじゃない」
「俺、が――」
「そう、ケイ兄だけが知ってるんだよ。兄様と僕以外で、ケイ兄だけが」
「俺、だけが……知ってる? 何、を」
傍から見ていても視線の定まらない――どこか危うい様子のケイが呟くように言った言葉に、白い子供は声をあげて笑った。
「そうだよね、知らないよね。だって全部兄様が隠したもの。ケイ兄が苦しまないようにって、全てを犠牲にして隠したもの。だからケイ兄は知らないんだよ。忘れちゃったんだ。僕を殺したのが誰か。兄様の魂が削られていったのは何故か。……ねぇ、それは罪だよ、ケイ兄。ケイ兄の、最初の罪だ。やっと楽になれるところだった兄様を自分の都合で、勝手な感情で留めただけじゃないんだよ。それよりもっと前に、ケイ兄は罪を犯してるんだ」
「や、め……」
ケイの顔が苦悶に歪む。瞳が揺らぐ。
「苦しい? 逃げたい? ……そんな気持ち、僕と兄様はとっくに味わってるんだよ? 今更過ぎるよ。もっと苦しんで。無知は罪だよ、ケイ兄。その無知が、僕と兄様の死をいたずらに遠ざけて、苦しめたんだ。ねぇ、だから、」
にこり、と。場にそぐわない、恐怖に染まったケイの表情とはかけ離れた笑顔を子供は浮かべた。その姿形が一瞬で、シンのものへと変わる。
「早く、死なせてくれ」
「――ッッああぁああぁぁあ!!!」
魂切るような絶叫が、ケイの口から迸った。頭を抱え、痛みに耐えるかのように身体を折り曲げる。
シンの姿をしたモノはそれを満足げに見下ろしていた。
――…そして、その一連の流れを見ていた亮吾は。
プツッと、頭のどこかで何かが切れるのを感じた。
(…なんっか、よくわかんねーけどムカつく!!)
その怒りは、わけの分からないこの状況にだったり完全に自分を無視している子供――シンの姿をしたモノにであったり自分の存在を忘れてるんじゃないかと思われるケイにだったりした。
(もう、流されてばっかいるのも、受身でいることも止めだ止め! つーかもう知るか色々と!)
『黒い箱』から空間に関する術を片端から引き出し、強引に『場』を作り変えて主導権を握る。シンの姿をしたモノが一瞬驚愕を浮かべたが無視して速攻で自分とケイを空間から切り離し、元いた場所――現実世界の校門前に転移させる。それと同時に謎の空間を丸ごと縮小し、恐らくは元凶である、子供になったりシンになったりしたモノを閉じ込めて注連縄でぐるぐる巻きに縛って、――ケイに向かって投げつけた。
「ケイさんっ!」
どこか呆然として自分を見るケイをビシッと指差す。行儀が悪いとかそういう瑣末な問題は無視だ。
「もう遠慮とか止めた! 根掘り葉掘りお構い無しに全部聞き出してやるから覚悟しとけよ!」
「りょう…ご、くん」
「逃げるのも誤魔化すのも思わせぶりなこと言うのも却下だからな!」
啖呵を切った亮吾だったが、そこが限界だった。
唐突に視界がブラックアウトする。理由は歴然としていた。
(やべ、燃料切れ……)
地面に向かって倒れこむ自分を知覚しつつ、意識の消失と地面との邂逅はどちらが早いだろうかなどと呑気に考える。しかしその結果を得ることはできなかった。
「鈴城君!」
自分の名を呼ぶ声がすぐ近くで聞こえて、誰かの腕が身体を支えるように回った。それがケイではなくシンのものであるのを認識したのを最後に、亮吾の意識は途切れたのだった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【7266/鈴城・亮吾(すずしろ・りょうご)/男性/14歳/中学生】
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■ ライター通信 ■
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お久しぶりです、鈴城様。ライターの遊月です。
「D・A・N 〜Third〜」にご参加くださりありがとうございました。久しぶりですのに遅くなって申し訳ありませんでした…!
色々匂わせつつ、詳しい説明は次回!みたいな終わり方ですみません…。
こんなキャラでよかっただろうか…と久々すぎて不安になりつつも、楽しく執筆させていただきました。
『子供』が色々言ってますが、多分その辺もシンあたりが説明してくれることと思います。
ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
リテイクその他はご遠慮なく。
それでは、本当にありがとうございました。
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