■依存ショウ■
藤森イズノ |
【7707】【宵待・クレタ】【無職】 |
傍にいるとドキドキする。ドキドキして、満たされる。
でも、そこで、それだけで満足することが出来なくて。
もっと、もっとって欲しがってしまう。
知らないことは何もない。
そのくらいまで、その領域まで踏み込みたい。
他の奴に笑いかけていたり、楽しそうにしていると頭が変になる。
自分のいないところで、この人は、こんな顔をするのかって。
その表情さえも、自分のものにしたいと願うようになってしまう。
とにかく、全部。全部知りたいんだ。全部、欲しい。
おかしいよね。こんなの。欲張りっていうより、異常だよね。
性別とか年齢とか、そんなの関係ないんだ。
この空間で共に生きる人、仲間全員に、その想いを抱いてる。
勿論、きみのことも……。
ねぇ、俺、変かな。やっぱり、変なのかな。
気持ち悪いって思う? 逃げようって……思う?
他愛ない話をしていたのに。いつしか、尾根に異変が起きた。
闇を這いながら、ジリジリと近付いてくる。
その異様な雰囲気に、思わず後退り。
けれど、ソファにぶつかってしまって。
「っわ」
そのままソファに埋もれるようにして倒れ込めば、
尾根は、覆い被さるようにして乗ってきて、両腕を押さえた。
見下ろす、その瞳は……。切なさに満ちているような、そんな気がした。
ジッと見つめながら、尾根は尋ね続ける。
「ねぇ、俺、変かな。変なのかな」
繰り返す、その瞳に……。見覚えがあるような、そんな気がした。
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依存ショウ
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傍にいるとドキドキする。ドキドキして、満たされる。
でも、そこで、それだけで満足することが出来なくて。
もっと、もっとって欲しがってしまう。
知らないことは何もない。
そのくらいまで、その領域まで踏み込みたい。
他の奴に笑いかけていたり、楽しそうにしていると頭が変になる。
自分のいないところで、この人は、こんな顔をするのかって。
その表情さえも、自分のものにしたいと願うようになってしまう。
とにかく、全部。全部知りたいんだ。全部、欲しい。
おかしいよね。こんなの。欲張りっていうより、異常だよね。
性別とか年齢とか、そんなの関係ないんだ。
この空間で共に生きる人、仲間全員に、その想いを抱いてる。
勿論、きみのことも……。
ねぇ、俺、変かな。やっぱり、変なのかな。
気持ち悪いって思う? 逃げようって……思う?
他愛ない話をしていたのに。いつしか、尾根に異変が起きた。
闇を這いながら、ジリジリと近付いてくる。
その異様な雰囲気に、思わず後退り。
けれど、ソファにぶつかってしまって。
「っわ……」
そのままソファに埋もれるようにして倒れ込めば、
尾根は、覆い被さるようにして乗ってきて、両腕を押さえた。
見下ろす、その瞳は……。切なさに満ちているような、そんな気がした。
ジッと見つめながら、尾根は尋ね続ける。
「ねぇ、俺、変かな。変なのかな」
繰り返す、その瞳に……。見覚えがあるような、そんな気がした。
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何度も何度も執拗に繰り返す。
訊ねているくせに、答えを聞きたいはずなのに。
答えさせる猶予を与えぬように、尾根は繰り返した。
クレタに、動揺している様子はない。ただジッと動かず、尾根を見上げる。
揺れる栗色の髪、柔らかそうな髪。女の子みたいな声。
今、自分の両腕を押さえつけて組み敷いているのは、間違いなく尾根だ。
それなのに、どうしてだろう。どこか、別人のような。そんな気がする。
怖いだとか、そんなことは思わない。心は静か。落ち着いているよ。
自分でも驚くほどに冷静なんだ。少し驚きはしたけれど、焦ってはいない。
ねぇ、尾根。もう訊かないで。何度も何度も同じことを訊かないで。
答えを聞きたいのなら、ちゃんと言うから。聞かせてあげるから。
隙間を頂戴。答えを返せる隙間をくれないと、返してあげることは出来ないよ。
小さな声で呟いたクレタの言葉に、ようやく繰り返すことを止めた尾根。
両腕は押さえたまま、目を泳がせて言葉を待つ。
聞きたいのに聞きたくない。そんな気持ちなんだ、きっと。
少し驚きはしたけれど、気持ち悪いだなんて……そんなことは思わないよ。
理解できない気持ちじゃないから。その気持ち。
聞きたいから訊いたはずなのに、いざ尋ねると怖くなる。
聞きたくないって、心のどこかで思ってしまう。
だから目を逸らす。出来うることならば、耳も塞いでしまいたい。
きっと、きみはそう思ってる。……僕も、そうだった。
きみの目、今、泳がせているきみの目は、似てる。
愛していると告げ、腕を掴んだヒヨリの瞳に、とてもよく似ている。
でも、一つだけ。決定的に異なるところがあるんだ。
交わらない視線。
想いを告げた後、僕はきみと視線を交えていない。
変わらずずっと、こうしてジッと見上げているけれど交わらない。
目を逸らすことを、ヒヨリはしなかった。
あの日、目を逸らしたのは僕のほうだった。
きっと今、きみは怖いんだろう。こうして見つめられていることが。
あの日の僕と同じように。
尾根が発した想いを理解できないわけではないけれど、同調は出来ない。
クレタは、ここまで強く想うことを理解できずにいる。また、その経験もない。
大切だと思い実感することはあっても、欲したりはしない。
いや、しないのではなく、出来ないのだ。
与えられる愛情しか知らないから、欲することが出来ない。
少しだけ、羨ましくも思う。誰かを心から欲する気持ちを抱くことを。
自分にはない気持ち、知りえない気持ちだからこそ、クレタは実感する。
自分と尾根が、まったくの別人、別物であることを、切々と。
同時に違和感を覚える。覚えたそれは、いつまでたっても払えない。
告げた想いは、本心なのだろうか。
いつから、そう思うようになった?
僕のことを欲しいと願うようになった?
はっきりと言える? 明確な時期を、きみは言える?
きっと……出来ないはずだ。本心じゃないから。
僕じゃなく、木ノ下さんや斉賀に同じことをしても、きみは、そうして目を逸らすだろうか。
聞きたくないって……きっと、思わないはずだ。
逆に、聞きたくて仕方なくて、何度も尋ねるんじゃないかな。
目を逸らすことなく、相手の目を見て繰り返すんじゃないかな。
きみのことを、変な人だなんて言うつもりはないけれど、少しおかしいなと思うんだ。
きみだけじゃなく、他の皆も、近頃……妙な言動が多いような気がするんだ。
話す分には普通だし、いつもどおりなんだけれど、どこか妙で。
焦っているような、そう、時間に追われているような……そんな風に見えるんだ。
僕が真実を知る度に、この空間自体が歪んでいくような、そんな気がするんだ。
ねぇ、尾根。きみも、その不思議な雰囲気に流されてないかな。引き摺られてないかな。
思い出して。ちゃんと、見てあげて。自分のこと。
木ノ下さんと斉賀が大好きだよね、きみは。
誰よりも何よりも二人のことを思ってるはずだよね。
きみが欲しいのは、僕じゃない。
見誤っているんだ。きみが本当に欲しいのは、僕じゃない。
木ノ下さんと話しているときの尾根は、凄く明るくて素直。
斉賀と話しているときの尾根は、凄く楽しそうで可愛い。
そんなきみを見る度、僕は心の中で微笑んできたんだ。
他人事なのに、自分のことのように嬉しい気持ちになったんだよ。
きみが二人を想う姿は、僕を幸せな気持ちにさせるんだ。
きっと、自分だけではなく他の皆も、そう思っているはずだ。
思い出せば、今自分がしている行為に疑問を抱くはずだ。
もしもここで想いに応えるような答えを貰えたとしても、嬉しくなんてないはずだ。
本当に欲しいものじゃないんだから。まがいものなんだから。錯覚なんだから。
見つめたまま繰り返す内、尾根は目を泳がせることを止め、スッとクレタから離れた。
胡坐をかいて項垂れる尾根の背中は、しょんぼりしているように見えた。
身体を起こしたクレタは淡く笑い、尾根の背中をポンと叩いて促す。
こんなところでボーッとしてて良いの? 二人のところに行かなくて良いの?
きっと待ってるよ。今日は、ウルサイのが来ないなぁって言いながら。
「ごめんねっ。ありがと」
背中を向けたまま立ち上がり、そう告げて尾根は駆け出した。
向かう先は、二人のところ。大好きな人のところ。
*
「欲張りな男だと、そう思うか?」
いいえ。そんなこと、微塵も思いません。
あなたが、思うが侭に求めてくることで、僕は満たされる。
僕が、あなたに差し上げられるものなんて、たかが知れています。
この身体と心。僕は、それしか持ち合わせていませんから。
声にして発することはしないけれど、僕は願っています。心のどこかで。
あなたが、もっと欲してくれないかと。もっと、貪欲に欲してくれないかと。
無理矢理でも構わない。痛くても辛くても構わない。奪って下さい。何もかも。
口に出来ないが故、余計に想いは募ります。
どうすれば良いのか、わからなくなっているんです。
僕を見下ろすあなたの目が、あまりにも綺麗で。
幸せだと感じるけれど、満たされるけれど。
出来うることならば、叶うのならば、もっと、もっと。
塞がれた口、掌の中でなら。
あなたの掌の中でなら、想いを吐いても良いですか。
「…………」
どうして今、このタイミングで思い返してしまったのだろう。
ソファに凭れ、クレタは溜息を落とした。鮮明に残る記憶。
同じような場景、状態。それなのに、違った。
先程は何も感じなかったのに、平然としていられたのに。
あの日の自分は、惑っていたではないか。幸福の中、酔いしれて。
異なる想い、自分の有様。クレタは、ゆっくりと瞬きしながら唇に触れた。
思い返すだけに留まらず、今すぐ立ち上がって駆け出して。
時の狭間へ、あなたがいる場所へ向かいたいと思っている。
偉そうに諭したくせに……僕は、何なんだろう。
誰かを心から欲する気持ち。僕は、それを知らない。知らない……んだよね?
知らない……はずだ。 僕は……どうしたいんだろう。
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
NPC / 尾根・弘一 / ♂ / 16歳 / 時守 -トキモリ-
シナリオ『 依存ショウ 』への御参加、ありがとうございます。
他人を諭し、己を知る。諭し諭され。愛のカタチ。
いつしか開幕している、依存ショー。主役は自分。
尾根の依存も当てはまるのですが、クレタくんの依存も当てはまる。
依存する相手は違えど。演じるショーは同じもの。
そんな、シナリオタイトルに仕掛けたトリックのタネ明かし。
以上です。不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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2008.12.05 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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