■劣等感と喪失感■
藤森イズノ |
【7707】【宵待・クレタ】【無職】 |
ギルドへ依頼通達。
今回の依頼人は、外界:東京に住まう少女。名前は、ルリ。
ルリには、双子の兄がいる。この双子の兄が、依頼に深く関与。
双子の片割れ、弟の方は、とても社交的で明るい。名前は、トオル。
双子の片割れ、兄の方は、とても内気で物静か。名前は、リョウ。
三人は、近所でも評判の仲良しの三兄妹……だった。
半月程前から、三人の間に亀裂が生じ、ぎこちない状態が続いている。
その一番の原因は、トオルとリョウの関係だ。
双子であるが故に、何かと比べられることも多い。
トオルは器用で、人当たりも良い。何事も、その性格で乗り切るタイプ。
一方、リョウは不器用で、人付き合いが苦手だ。その為、敬遠されてしまう。
仲が一気に悪くなったのは、二人が大学に入って間もない頃。
入学時は、誰もが認める仲の良い兄弟だったのに。
通学を重ねる内、リョウに異変が起こる。
次々と新しい友達を作って、毎日楽しそうに暮らすトオル。
リョウは、その背中を遠くからジッと見つめていた。
抱く想いは、大きく分けて二つある。
一つは、兄である自分よりも、世渡りの巧い弟への劣等感。
もう一つは、ずっと一緒にいた弟が、遠くへ行ってしまったような喪失感。
その二つの想いは、日増しに大きくなっていった。
入学から半年が過ぎた今、事態は一刻を争う状況になりつつある。
ルリは聞いた。
真夜中、部屋で一人、リョウが呟いた言葉を。
リョウが口走った『殺意』が、もしも現実のものとなってしまったら……。
もう二度と、三人で楽しく暮らすことが出来なくなってしまう。
手遅れになる前に、何とかしなくては。
そうは思うものの、ルリには、リョウを諭し止めるチカラがない。
大切な双子の兄、生じた亀裂、その修繕と修復。
ルリは一人、部屋の隅で蹲って、目を伏せ願う。
お兄ちゃんを助けて。
|
劣等感と喪失感
-----------------------------------------------------------------------------------------
ギルドへ依頼通達。
今回の依頼人は、外界:東京に住まう少女。名前は、ルリ。
ルリには、双子の兄がいる。この双子の兄が、依頼に深く関与。
双子の片割れ、弟の方は、とても社交的で明るい。名前は、トオル。
双子の片割れ、兄の方は、とても内気で物静か。名前は、リョウ。
三人は、近所でも評判の仲良しの三兄妹……だった。
半月程前から、三人の間に亀裂が生じ、ぎこちない状態が続いている。
その一番の原因は、トオルとリョウの関係だ。
双子であるが故に、何かと比べられることも多い。
トオルは器用で、人当たりも良い。何事も、その性格で乗り切るタイプ。
一方、リョウは不器用で、人付き合いが苦手だ。その為、敬遠されてしまう。
仲が一気に悪くなったのは、二人が大学に入って間もない頃。
入学時は、誰もが認める仲の良い兄弟だったのに。
通学を重ねる内、リョウに異変が起こる。
次々と新しい友達を作って、毎日楽しそうに暮らすトオル。
リョウは、その背中を遠くからジッと見つめていた。
抱く想いは、大きく分けて二つある。
一つは、兄である自分よりも、世渡りの巧い弟への劣等感。
もう一つは、ずっと一緒にいた弟が、遠くへ行ってしまったような喪失感。
その二つの想いは、日増しに大きくなっていった。
入学から半年が過ぎた今、事態は一刻を争う状況になりつつある。
ルリは聞いた。
真夜中、部屋で一人、リョウが呟いた言葉を。
リョウが口走った『殺意』が、もしも現実のものとなってしまったら……。
もう二度と、三人で楽しく暮らすことが出来なくなってしまう。
手遅れになる前に、何とかしなくては。
そうは思うものの、ルリには、リョウを諭し止めるチカラがない。
大切な双子の兄、生じた亀裂、その修繕と修復。
ルリは一人、部屋の隅で蹲って、目を伏せ願う。
お兄ちゃんを助けて。
-----------------------------------------------------------------------------------------
「え……。私?」
食器を片付けながら、木ノ下はキョトンとした表情を向けた。
クレタは言葉を放つことなく、ただコクリと一度だけ頷く。
特に明確な理由ではないけれど、何となく……木ノ下ならば同調できるのではないか。
ヒヨリから口頭で伝えられた外界からの『依頼』
その内容を聞いた瞬間、クレタの頭にポンと木ノ下が浮かんだ。
依頼主は三人兄妹の末っ子である妹。上の兄は双子。
仲の良い三人組……といえば、身近にデジャヴを生む存在がある。
立場的にも似たり寄ったりだ。木ノ下は、常に尾根と斉賀の間に立つ。
二人が喧嘩しようものならば、率先して仲裁に入る。
木ノ下に全面任せるだとか、助けて欲しいだとか、そういう気持ちでいるわけじゃない。
ただ……クレタには『兄妹』というものが、どのようなものなのか理解らない。
皆と仲良く話はするけれど、血縁関係とまではいかない。
何となく、オネとは……兄弟って、こんな感じなのかなとは思うけれど……。
ジッと見つめるクレタの眼差しに、木ノ下はクスリと笑って同行を承諾してくれた。
尾根と斉賀に伝えてくるから、少しだけ待ってて、とその場を去って行く木ノ下。
クレタは、言われるがまま。その場に、ちょこんとしゃがんで木ノ下が戻るのを待つ。
振り返って見やる、クレタの表情に、木ノ下は再度微笑んだ。
どうして私なのかしらって思ったけれど……まぁ、そうね、彼の中では私が適任なのよね。
それにしてもクレタくん……気付いてるかしら。……気付いてないわね、あの顔は。
以前なら、こんな依頼、僕には無理だよってすぐに断ったでしょうに。
兄妹っていうか……家族? その感覚を、無意識の内に知りたいと思っているのね、きっと。
生まれたての頃から知ってるからこそよねぇ。この切ないような微妙な感覚。
いつでも傍にいるヒヨリやJは、もっと切なくなってるでしょうね……。
まぁ、良いことだとは思うわ。成長してる証だもの。
だからこそ切ない気持ちになるんでしょうけど……。
「とまぁ、そういうわけで。私は出掛けてくるから」
「いってら〜!」
「お土産よろしく」
「……宿題、ちゃんと済ませておくなら考えても良いわ」
「やっとくやっとく。なっ、斉賀?」
「お前は、俺の丸写しするだけだろ……」
*
外界、東京―
依頼人である少女『ルリ』は、双子の兄と共に立派なマンションで暮らしている。
三兄妹の両親は既に他界しており、この家は両親が子供達の為にと生前に用意していたものだ。
食費や光熱費などは、彼等の叔父にあたる人物が面倒を見ている。
双子の兄が揃って大学に通い続けていられていることにしても、
末っ子の妹が高校に通い続けていられていることにしても、金銭的には何不自由ない生活を送っている。
亡き両親が、どれだけ子供達のことを思い生きていたかが理解る生活模様だ。
感心しながら、整理整頓された室内を見回す木ノ下。
出された紅茶を手に取り、クレタは窺うように少しだけ目線を上げた。
今回の依頼人である少女、ルリ。三兄妹の末っ子。
自分と同い年のはずなのに……とクレタは切ない目でルリを見やる。
痩せこけた身体。生気のない目。やたらと吐き落とす溜息。
東京という街に生きる『一般的な女子高生』とは、まるで別人だ。
生きることに疲れ果てた女……若々しさなど、微塵も感じない。
ルリの荒れた手肌を見て、クレタはすぐに悟った。
この子は、責任感の強い子なんだ。
辛くても、それを表に出すことなく頑張るタイプ……。
お父さんやお母さんがいなくなったことで、
自分が、しっかりしなくちゃって気を張って生きてきた……。
本来ならば、兄二人が支えにならなくちゃいけないのに……。
その兄二人の関係が、余計に、この子に気を張らせているんだ……。
憶測でしかないけれど……きっと、この子は二人の前では、こんな顔しないんだと思う。
二人の前では、あくまでも明るく気丈に振舞っているんだと思う。
自分の所為で、二人の関係が余計にこじれてしまうことを畏れて。
立派だとは思う。でも……それよりも、可哀相だなって思う……。
あぁ、駄目だね。同情なんて。しちゃいけないって言われているのに。
大切なのは、同情するんじゃなくて……同調すること。
うん……。わかってる。わかってるよ。頭では理解っているけれど。
コクコクと紅茶を飲みながら目を伏せたクレタ。
その横顔を見やって、木ノ下は淡く微笑み、話を切り出した。
「ねぇ、ルリちゃん。お兄さん、二人とも外出中なの?」
「……リョウお兄ちゃんは、昨晩から帰ってきてません」
「えぇと。もう一人のほうは?」
「……トオルお兄ちゃんなら、部屋で寝てると思います」
「……。そう」
淡々と答えたルリに苦笑を浮かべた木ノ下。
〜だと思います、だなんて。何て悲しい言葉だろうか。
同じ家に暮らす家族なのに、お互いが何をしているか曖昧だなんて。
何となく理解ったような気がした。
こんなにも広くて綺麗な家なのに、どうして冷たい感じがするんだろうって。
紅茶を口に運び、フゥと息を漏らした木ノ下。
その横顔を見やり、クレタはルリを促した。
部屋にいるという、双子の兄。その片割れを、ここに連れてきてくれないかと。
大切なのは……きちんと、話をすること。
異変を感じ取ったのなら、その原因を追究すること。
それはきっと、傍にいる家族の務め……なんじゃないかなって思うんだ。
何とかしてあげたいって思う気持ちは勿論あるけれど、同時に、もどかしい気持ちもあるんだよ。
どうして……どうして、こうして他人に頼る結果になってしまったんだろうって。
三人がちゃんと向き合って、御話することが出来たなら……。
ルリさんが、こうして僕等に助けてくれと言うこともなかったのにって。
悲しいよ。僕には……家族ってものが、どういうものなのか、どんな感じのものなのか理解らないけれど。
イメージでは、温かくて……優しくて心がホカホカするような。そんな関係なんだ……。
全部が全部、そんな温かなものじゃないのかもしれないけれど……。
ちゃんと向かい合って御話するべきだよ。僕等、ここにいるから。
御話が終わるまで、ちゃんとここにいるから。
だから、御話して。三人だけの思い出とか、約束とか。
忘れただなんて、そんなこと言わないで。そもそも、そんなこと言えないはずだよ。
だって、忘れるはずがないんだから。
お互いの気持ちを、隠すことなく偽ることなく話してみて……。
言わないと伝わらないことって……あるんだ。
どんなに親しい間柄でもね……。つい最近、僕は、それを学んだんだ。
血の繋がったお兄さんに対して『怖い』という感情が芽生えてしまうのは悲しいこと。
でも、生まれたときから、ずっと怖かったわけじゃないでしょう……?
三人でいることの楽しさを知っているからこそ、恐怖に戸惑うんでしょう……?
一番可哀相なのはルリさん……と思いがちだけれど。そうじゃない。
三人ともだよ……。いつでも傍にいたのに、バラバラになってしまうなんて。
そんなの、悲しすぎるよ。一緒にいられる時間には限りがあるんだから……大切にしなくちゃ。
命の灯が燃え尽きてから後悔しても遅いんだよ。
あの時、ああしていれば……だなんて、どんなに願っても戻ってこないんだ。
時間は、戻ってこないんだから。
うん、そのまま続けて。もっと、教えて。
リョウさんのこと。二人にとって、リョウさんがどんな人か。
ほらね、そうやって記憶を辿っていけば……見えてくるでしょう……?
劣等感と喪失感。リョウさんが悩まされる、その原因が。
紅茶を飲みながら、四人で御話。
記憶を辿りながら、四人で御話。
そうして会話を続ける内に、扉が開く音。
ビクリと揺れたルリの肩。ピクリと揺れたトオルの眉。
クレタと木ノ下はクスクス笑い、声を揃えて言った。
「ついでに、紅茶のおかわり、良いですか?」
*
「クレタくん。どうだった?」
賑やかな街を歩きながら、木ノ下がやぶからぼうに尋ねた。
クレタはキョトンとした眼差しで木ノ下を見上げる。
質問の意味が理解らないって顔ね。それは。
まぁ、理解らないのなら理解らないで、そのままでも良いんだけれど。
こうして一緒に行動したんだもの。たまには、私も感じてみたいの。あなたの成長ってものをね。
家族に対する想い、憧れのようなもの。依頼を請け負った際に生まれていたであろう、その感覚。
質問の意味を理解したものの、クレタは、俯いて神妙な面持ち。
憧れ……ているのかな。僕……。
わからないからこそ、憧れるのかな……。
これって、夢みたいなもの……? 家族が欲しいって……そう、心のどこかで願っているってこと?
僕にはないものだから……? 求めても手に入らないものだからこそ余計に……?
わかんないよ……。どうだったかって聞かれても……。でも、そうだな……。
ちょっとだけ、羨ましいって思った……かもしれない。
「ふふ。そう。じゃあ、戻りましょうか。―あっ!」
「うん……?」
「尾根と斉賀にお土産買ってかないと駄目なのよ。付き合ってくれる?」
「うん。いいよ」
「何が良いかしらね。やっぱり、食べ物かしら」
「うん。そう、かな……」
「たい焼きとか良さそうね。どこだったかしら、あの人気のお店。え〜と……あっち? あれ、こっちだったかしら?」
お土産。外の世界に来たら、みんな買って帰るよね。
僕は……買って帰ったことない。どうしてだろう。必要ないような気がしたからかな。
でも今日は……そういう感じじゃないかも。僕も、買って帰りたいって思ってる。
何を買って帰ろうかな。何をあげたら、喜んでくれるかな。何でも喜んでくれるかな。
こんなに……こんなに『おかえり』を早く聞きたいと思うなんて、待ち遠しく感じるなんて……初めてだ。
-----------------------------------------------------------------------------------------
■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
NPC / 木ノ下・麻深 / ♀ / 16歳 / 時守 -トキモリ-
シナリオ『 劣等感と喪失感 』への御参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
-----------------------------------------------------------------------------------------
櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
-----------------------------------------------------------------------------------------
|
|