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■スキマ■

藤森イズノ
【7707】【宵待・クレタ】【無職】
 ギルド本部、3階にある自室。
 以前に所有していた自室空間と、ほとんど一緒。
 ただ、以前よりも少しだけ広くなった。気持ち程度だけれど。
 あぁ、そうか。広くなったから……その分、あそこに……。
「…………」
 見やる先には、隙間。自室空間の隅に、ぽっかりと空いた隙間。
 別に、そこまで気にすることもないんだろうけれど、
 目に入ってしまい、あれ? と思ってしまった瞬間、手遅れだ。
 気になってしまう。まるで、あの空間だけ置いてけぼりを食らっているようで。
 何となく、可哀相な……。そんな気がした。
 時計を見やれば、時刻は午前10時。
 今日は緊急の仕事もなさそうだし……出掛けようか。
 ぽっかりと空いた隙間、寂しそうな、その隙間を埋める為に。
 スキマ

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 ギルド本部、3階にある自室。
 以前に所有していた自室空間と、ほとんど一緒。
 ただ、以前よりも少しだけ広くなった。気持ち程度だけれど。
 あぁ、そうか。広くなったから……その分、あそこに……。
「…………」
 見やる先には、隙間。自室空間の隅に、ぽっかりと空いた隙間。
 別に、そこまで気にすることもないんだろうけれど、
 目に入ってしまい、あれ? と思ってしまった瞬間、手遅れだ。
 気になってしまう。まるで、あの空間だけ置いてけぼりを食らっているようで。
 何となく、可哀相な……。そんな気がした。
 時計を見やれば、時刻は午前10時。
 今日は緊急の仕事もなさそうだし……出掛けようか。
 ぽっかりと空いた隙間、寂しそうな、その隙間を埋める為に。

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(…………)
 扉をノックしようとして、手を止める。
 ……そういえば。僕からJを誘うって……あんまりない、のかな。
 というか、初めてのような気がする。いつだって、僕は寄り添うように傍にいただけで。
 自分から、ああしたいだとか、こうしたいだとか……希望を口にすることはなかったから。
 口にすることが許されていなかったからっていうのもあるけれど、
 厳密に言えば、必要がなかったんだよね……。傍にいるだけで十分だったから。
 そりゃあ……こうして欲しいかも、って希望を抱いたことは少なからずあったけれど。
 別に不満だったわけじゃない。そのままでも、十分だったから……それらを口にすることはなかった。
 何だろう……。この感じ。いつものドキドキとは少し違う。
 ワクワクするような高鳴りじゃなくて……ソワソワ?
 あれ? ワクワクとソワソワって違う感じだったっけ……。
 扉の前で硬直して、どのくらいの時間が経過したことやら。
 まるで時間が止まったように動けずにいるクレタ。
 時間が経つにつれて緊張は増していく。耳が熱い。
 どうしよう。やっぱり、止めておこうか。
 もしも断られたら悲しいし。そうだよ、断られる可能性だってあるんだ。
 Jだって、いつも暇なわけじゃない。僕に付き合う時間がないときだってある。
 それに、面倒だと思われる可能性だってある。そうだよ、よくよく考えたら、面倒じゃないか?
 しょうもないことに付き合わせるなんて、何だか気が引ける。そうだよね、やっぱり止めるべきだよね。
 ……思うんだけど。引き返そうかなって思うんだけれど。どうしよう、動けない。
 物凄い粘度のテープが足の裏に貼り付いているみたいだ。ピクリとも動けない。
 あぁ、どうしよう。こんなところ、誰かに見られたら笑われてしまう。
 ヒヨリになんて見つかったら、何やってんだ? って大笑いされてしまう。
 それは恥ずかしい。でも、動けない。動けない状態の今も、既に十分恥ずかしい。
(……う〜)
 身動き出来ずに硬直して、早5分が経過した。
 その時、ガチャリと扉が開く。
「むぐ」
 驚いた拍子に口から飛び出た滑稽な音。
 扉を開けてクレタを見やるJは、クックッと肩を揺らして笑っている。
 何をやってるんだ、キミは。いつ入ってくるのかなってワクワクしてたのに。
 全然来ないんだから。ほんとにもう。待ちくたびれたよ、どうしてくれるの?
 笑いながら言ったJ。クレタは金魚のように口をパクパクさせる。
 喋っているつもりなのだが、声が出ていない。かなり動揺しているようだ。
 緊張に高揚、驚きに戸惑いが重なって、もう何が何やら。
 パニック状態のクレタの頭を撫で、Jは深呼吸を勧めた。
 ゆっくりと息を吸って、ゆっくりと息を吐く。
 あぁ、そうそう。呼吸の仕方、思い出した。こんな感じだった……。
 少し落ち着いたのか、クレタは俯いてフゥと息を吐く。
 困らせる為に来たんじゃない。笑われる為に来たわけでもない。
 僕が、あなたの部屋を尋ねた理由は、ひとつだけ。
 もしも、もしも時間が空いていたらで構わないんだけれど。
 買い物に……付き合って欲しいんだ。
 えぇとね、買うものは……机と椅子。
 僕の部屋、ぽっかりと空いたスペースがあって。
 その隙間が、何だか見ていて可哀相になるっていうか切なくなるっていうか。
 だからね、その隙間を埋めてあげようと思って……机と椅子を買いに行きたいんだ。
 自分の部屋に置くものだし、いつでも目に入るものだし、
 せっかくだから、Jと選んでみたいなぁって思ったんだ。
 もしもだよ……。もしも、時間が空いてたらで鎌わないんだけど……。うん……。
 モゴモゴボソボソと伝えるクレタ。
 何を言っているのか、正直わからないところは多々あった。
 けれど、一番伝えたいことは理解る。一緒に出掛けたいと、そういうことだ。
 へぇ、なるほど。キミからの御誘いですか。初めてだね?
 内容に色気がないのが残念だけれど、まぁ、良しとしよう。
 色気のある御誘いは、まだ無理だろうからね。うんうん。
「じゃあ、早速出掛けようか。準備は出来てる?」
「えっ……と。いい、の……?」
「何が?」
「一緒に出掛けるの……。何か、用事とか……」
「ないよ。あっても放置。優先度ってものがあるからね」
「……そ、か」
「ん。じゃあ、行こうか。その格好で行くの? さすがに寒いんじゃない?」
「え……と。うん……」
「俺の上着貸そうか。おいで」
「う、うん……」

 外界、フラスタットという世界を歩く二人。
 どこへ買い物に行こうか、そこまで決めていなかったクレタは首を傾げて悩み倒した。
 そんなクレタに笑いながら、Jが勧めた場所がここだ。
 非常に小さな星で、街はここしか存在していない。
 雰囲気は何となくレトロな感じ。道行く人の服装も、レトロでオシャレな雰囲気だ。
 小さな星ゆえに、暮らしている人も少ない。
 街の大通りだというのに、クレタとJ以外に数名しか歩いていない。
 大きな通りを歩いているのに、こんなにも自分の足音がハッキリ聞こえるなんて不思議な感じ。
 雑踏の中、自分の足音はどこかなって探しながら歩くのも楽しいけれど、
 こうして、はっきりと聞こえるのもまた楽しいね……。
 それに、足音は一つだけじゃないから。
 重なり合うようにして、あなたの足音も、ハッキリ聞こえる。
 僕の歩幅に合わせて、ゆっくり歩いてくれる、柔らかくて優しい足音。
 Jから借りたファー付きのジャケットにヌクヌクしながら微笑むクレタ。
 頬にあたる風は、やっぱり冷たいけれど。心はポカポカ……幸せな気持ち。
 歩きながら並ぶ店を見やり、Jは尋ねた。
「机と椅子って言うけど。キミの部屋になかったっけ」
「えとね……。あるけど、書き物をするときに少し不便なんだ……」
「あぁ、パソコンが乗ってるから?」
「うん……。いちいちキーボードを避けるの面倒だし……」
「ふぅん。書き物なんてするんだ?」
「えっ……と、ね」
 ニヤニヤと笑いながら顔を覗き込んだJ。
 ハッとして、目を逸らしてしまう。しまった。うっかり口走ってしまった。
 書き物だなんて。そんなこと言ったら、追求されるのは当然なのに。
 何を書いているのか、日々連ねているのかなんて言えないよ。言えるわけがないよ。
 目を泳がせながら、話を逸らそうとあれこれ考える。
 その時、ふと、とある店が目に留まった。
 華やかでオシャレな店が並ぶ中、一軒だけ、ひっそりと。
 ひっそりと存在していた店。看板には『MT』と書かれている。
 その雰囲気に吸い寄せられるようにして、クレタは早足で店へと向かう。
 何か気になるものを見つけたときの目。本人は気付いていないけれど、その目は、まるっきり子供だ。
 楽しそうな玩具を見つけたとき、それを欲しがるときの子供の目と一緒。
 Jは笑いながら後を追い、店の中を覗き込んでいるクレタの背中を押すように店の扉を開けた。
 店の中は、バニラのような香りで満ちていた。
 胸焼けするような甘ったるい香りではない。とても上品で、それでいてさりげなく甘い香り……。
 店内を覆っている雰囲気に酔いしれながら、物色するクレタ。
 好みとしては……金属製のものじゃなくて、木製が良いな……。
 見ていてホッとするような。でも、辞典や本を何冊か置けるくらい、大きめのやつが良い……。
 色は、黒とか……茶色とか、暗めの色が良い気がする……。
 目に痛い色は疲れてしまうから……。
 それに、奇抜な色を持ってきてしまうと部屋のバランスが狂ってしまう。
 僕の部屋は、自分で言うのもなんだけど……こう、ぼやっとしてる感じだから……。
 そういえば、Jの部屋は、どんな感じだったかな。
 何度もお邪魔してるのに、思い出そうとすると難しいね……。
 どんな部屋かだなんて気にしている暇がないからかな。
 いつだって、部屋を見回す余裕なんて与えずにJは……―
 あれこれ考えながら店内を歩く内、Jがピタリと立ち止まった。
「わ……」
 ぽすっと背中に衝突してしまうクレタ。
 見上げながら、どうしたの? と尋ねると、Jは嬉しそうに微笑んで指差した。
 指差した先にあったのは、黒い机と椅子。要所に、十字架のワンポイント。
 キミのイメージにピッタリだ、と笑うJ。
 ピッタリなのかどうか、それは定かではないけれど、好きな雰囲気なのは確かだ。
 クレタは、ゆっくりと歩み寄って触れてみる。
 触れた瞬間、手指がほんのりと温かくなった……ような気がした。
 物との出会いもまた、運命的なものだ。
 先々、長く世話になる物と遭遇した瞬間、恋に落ちたときのような感覚を覚える。
 生まれる前から、出会うことが決まっていたかのような。そんなキザでクサい感覚。
 机と椅子を撫でながら、クレタは淡く微笑んだ。
 その表情は「会いたかった」と言っているかのようで。
 Jは、微妙な心境に陥る。いやいや、机と椅子に嫉妬とか。さすがに、ねぇ。

 *

 購入した机と椅子は、そのままクレタの自室へと送られる。
 どうやって一瞬で転送したのか、それは理解らない。
(……? ……?)
 理解できずに首を傾げているクレタ。
 先程まで、ここにあったのに。机とテーブルは、忽然と消えた。
 送っておきましたよ、と店員は言うけれど。一体、どうやって?
 手品のような転送に、クレタは興味津々の御様子だ。
 どんなにキョロキョロしても、理解ることはない。
 手品なんかじゃない。タネも仕掛けもない。
 こういうことが普通に出来る世界なんだから。
 Jは笑いながらクレタの手を引き歩き出す。
「可愛いけど、そこまで。いくら考えても無駄だよ」
 せっかくだから、ご飯でも食べていこう。良い店を知ってるんだ。
 Jの提案にクレタはコクリと頷いた。
 イイ感じの物が見つかって良かったね、と笑うJ。
 うん……良かった。見つからなかったら、また日を改めてって心構えだったから。
 あっさりと見つかったことに、ちょっとだけ残念な気持ちもあるけれど……。
 これで、あの切ない隙間を埋めることが出来る。もう、悲しくなんてならない。
 J。今日は、付き合ってくれて本当にありがとう。
 見つけてくれた机と椅子、大事にするよ。あなたが選んでくれたようなものだから。
 今夜から僕は、あの椅子に座って、机の上で紡ぐんだ。あなたの記憶と、思い出を。
 美味しいお店は、どこにあるの? どんなメニューがあるの?
 楽しみだな……。外で一緒に食事するなんて、久しぶりだね。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
 NPC / J / ♂ / ??歳 / 時狩 -トキガリ-

 シナリオ『 スキマ 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 2008.12.19 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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