■貴方と私が愛し合うこと■
藤森イズノ |
【7707】【宵待・クレタ】【無職】 |
拒んでも無駄よ。私、貴方の傍を離れないから。
直感っていうのかしら。こういうの、私、初めてなの。
運命って、本当に存在するのよ。素敵な巡り合わせ。
生まれる前から決まっていたの。貴方と私が愛し合うこと。
だから、拒んでも無駄なのよ。ねぇ、触って。
触って確かめて。こんなにドキドキしてるの、私。
ねぇ、貴方は? 貴方も、ドキドキしてるでしょう?
ギュッてして。抱き寄せて。その胸音に耳を傾けたいの。
自分から抱きつくなんて、そんな、はしたない真似できないわ。
女は待つものなの。いつだって、待っているのよ。
ねぇ、ギュッてして。早く。待ってるんだから。
私のドキドキ、その身体で聞いてよ。
Jに言い寄る女の子の姿。もはや、見慣れた光景だ。
こうして目にするのも、何度目だろう。
僅かに開いた扉の隙間から覗きこむ室内。
ソファの上で、積極的に言い寄る女の子、フウカ。
いつもなら、しつこいって言って、その場を離れるのに。
今日は何だか……いつもと違う?
Jの異変を予感すると同時に、それが間違いでないことを理解する。
言い寄るフウカを見つめ、Jは溜息混じりに、その頬に触れた。
……ちょっと待って。まさか。ちょっと、待ってよ。
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貴方と私が愛し合うこと
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拒んでも無駄よ。私、貴方の傍を離れないから。
直感っていうのかしら。こういうの、私、初めてなの。
運命って、本当に存在するのよ。素敵な巡り合わせ。
生まれる前から決まっていたの。貴方と私が愛し合うこと。
だから、拒んでも無駄なのよ。ねぇ、触って。
触って確かめて。こんなにドキドキしてるの、私。
ねぇ、貴方は? 貴方も、ドキドキしてるでしょう?
ギュッてして。抱き寄せて。その胸音に耳を傾けたいの。
自分から抱きつくなんて、そんな、はしたない真似できないわ。
女は待つものなの。いつだって、待っているのよ。
ねぇ、ギュッてして。早く。待ってるんだから。
私のドキドキ、その身体で聞いてよ。
Jに言い寄る女の子の姿。もはや、見慣れた光景だ。
こうして目にするのも、何度目だろう。
僅かに開いた扉の隙間から覗きこむ室内。
ソファの上で、積極的に言い寄る女の子、フウカ。
いつもなら、しつこいって言って、その場を離れるのに。
今日は何だか……いつもと違う?
Jの異変を予感すると同時に、それが間違いでないことを理解する。
言い寄るフウカを見つめ、Jは溜息混じりに、その頬に触れた。
……ちょっと待って。まさか。ちょっと、待ってよ。
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僕の為に作り生んでくれた存在。フウカは、僕の世話をしてくれる人。
そのはずなんだけど、僕はずっと疑問だった。
だって、生まれてから一度も、僕はフウカと話していない。
そんなに可愛らしい声だったんだって、今ちょっと驚きもしてる。
フウカは、いつだって、あなたの傍にいた。この一週間、絶え間なく。
だから、僕は話せていない。あなたと話せていないんだ。
御話がしたくて来たのに。どうして……? どうして、こんなことになってるの?
僅かに空いた扉の隙間から、中を覗き見ているクレタ。
Jの部屋。他愛ない話でも構わないから、話がしたかった。
しばらく聞いていない声を、聞きたいと思ったから。
だが、クレタは硬直したまま動けずにいる。
ソファに座るJの背中。その隣に、華奢な背中。
フウカ。一週間前にJが新たに生んだコーダなる存在。
クレタの言う通り、フウカは本来、クレタの世話をすべき存在だ。
その為にJが作ったのだから。だが、フウカはクレタに無関心。
与えられた仕事を放棄して、生みの親であるJに入れ込んでいる。
入れ込んでいるというよりは、もはや陶酔、心酔しているような感じだ。
一週間、絶え間なくフウカはJに言い寄り、愛しているのだとアプローチ。
二人が一緒にいる光景は、何度も目にしている。嫌でも目に入る。
フウカが言い寄る度に、Jは呆れて押しのけていた。不愉快そうに。
その表情を確認できたから、心のどこかで安心していたのかもしれない。
どんなに言い寄っても、Jが応じることはないから、と。
だが、今日は、いつもと様子が違う。
いつも適当に邪険に扱うのに。今日は、違う。
「キミは、本当にしつこいな。誰に似たんだろうね」
クスクス笑いながら、Jはフウカの頬に触れる。
頬に触れるJの手をキュッと握り、フウカは微笑み返した。
「貴方でしょ。今更、何を言ってるの? ふふ」
「おかしいな。俺って、そんなに積極的じゃないんだけど」
「可愛い冗談ね。 笑ってあげる」
「それはどうも」
目を伏せて微笑み続けるJ。
いつもと違う、その態度は誤解させても仕方ないものだった。
寧ろ、誤解させようとしているのか。そうじゃなく、本気で応じるつもりなのか。
Jの柔らかい態度。当然、フウカは、チャンスとばかりに攻め込む。
「ねぇ。もう我慢できないの。わかるでしょう?」
トロンとした目で見つめ、衣服を脱ぎながらJに迫るフウカ。
ソファの背もたれに埋まっていく、二人の姿。
「ふふ」
意味深なフウカの笑い声だけが聞こえてきた、その瞬間。
「止めて!」
バタンと扉を押し開けて、クレタは室内へと踏み込んだ。
その大きな音と声に、フウカは驚いて身を起こす。
Jは横たわったまま、動こうとしない。
部屋に踏み込んだクレタは、真っ直ぐにJの元へと歩いて行った。
「ちょっと。何よ、邪魔しないで」
不快を露わにして文句を言うフウカだが、そんなもの目にも耳にも入るものか。
ムカッときた……。頭にきた。嫉妬って、どんな気持ちか。よく理解ったよ。
ザワザワしてる。心が落ち着きなく、ザワザワしてる……。
何のつもりなの。僕を、こんな気持ちにさせて楽しい?
あなたは、どうしたいの。僕を、どうしたいの。
「…………」
溢れる想いを口にしようとはするものの、言葉が詰まって出てこない。
まず、どの想いから口にすべきか。混乱状態にある脳では、その判断が出来ない。
何も言えぬまま、クレタはただ、Jをジッと睨み付けた。
Jは目を逸らさない。そればかりか、僅かに微笑んでいるようにも見えた。
それが余計にイライラさせて。思わず、飛び掛ってしまいそうになる。
クレタは唇を噛み締めて、必死に堪えた。堪える必要なんてないのに。
ふざけるなって……イライラする気持ちを外に出してしまえばいいのに……。
しないんじゃなくて、出来ないんだ。僕には、そんなこと出来ない。
暫しの沈黙の後、クレタは大きな溜息を落とす。
それまで強張っていた表情や肩からも力が抜けて、ダラリと。
僕は……勝手だ。Jを責めることなんて出来ないじゃないか。
僕だって、ヒヨリや皆と仲良くしてる。
ここまで親密な関係ではないけれど、一緒に出掛けることなんて日常茶飯事だ。
僕が抱いたザワザワした気持ち。心の奥底で何が醜いものが蠢くような感覚。
きっと、Jを、あんな気持ちにさせてしまったこと、あるんだろうな……。
本当、僕は勝手だ。自分ばっかり。
しかも、あなたの愛情を疑うような真似まで。酷いよね。
最低だ。あなたの気持ちを考えていなかったんだから。
「……め……なさい」
俯き、小さな声で何かを発したクレタ。
何て言ったのか。理解っているくせに。
「何? 聞こえない」
Jはクスクス笑いながらクレタの腕を引いた。
引かれるがまま、Jの傍へストンと腰を下ろしたクレタ。
顔を上げて、ジッとJの瞳を見つめる。
勝手なのは理解ってるけど、心底想ってるから言うよ。
今、言わなきゃ……。きっと、ずっと言えないから。
言いたいんだ。伝えたいんだ。言わせて。
スゥと息を吸い込んで、想いを口にしようとしたものの。
半裸状態のフウカが、そのまま黙っているはずもない。
「ちょっと。何なのよ、あんた。邪魔って言ってるでしょ」
パーカーのフードを掴んで、半ば強引にクレタを立ち上がらせて外へ放り出そうとするフウカ。
言いたいことがあるんだ。僕は、絶対にここを避けない。
クレタはグッと堪えて、その場から動かぬように踏ん張る。
その態度が、余計にフウカを刺激した。
「いい加減にしなさいよ。あんた、何様のつもり?」
怒りを露わにして、クレタに殴りかかるフウカ。
Jは、怒りに満ちたフウカの手を掴んで言った。
「いい加減にするのはキミのほう」
「な……。何よ、どうして」
「今すぐ、ここから出て行け」
「どうしてよ! 私を抱いてくれるつもりだったんでしょう?」
「まさか。そんなこと出来るわけないだろ」
「じゃあ、どうして―」
「うるさい。いいから、出て行け」
「嫌よ! だって、私―」
「あぁ、そう。じゃあ、いいよ。そこにいればいい」
「そうでしょ! だって、私のほうが―」
「直接、理解させてやるよ。 はい、クレタ。続きをどうぞ?」
ニコリと微笑んで首を傾げたJ。
クレタは少しばかり目を泳がせた。
すぐ傍には、感情を剥き出しにして沸騰しているフウカがいる。
彼女を余計に刺激してしまうのでは。その不安と、恥ずかしさが同時に胸を占める。
けれど、このまま黙っているわけにもいかない。伝えたいから。どうしても、伝えたいから。
ここで伝えねば、ずっと後悔することになるだろうから。
コクリと息を飲んで、クレタは小さな声で想いの吐露を始める。
嫌なんだ。勝手なのは理解っているけれど。
あなたが、僕以外の誰かに触れることが、嫌で堪らない。
あなた以外の人と、どこかへ出掛けることはあるけれど、僕は触れさせたりしない。
あなた以外の人に触れられても嬉しくないし、触れられると罪悪感に苛まれるから。
ねぇ、あなたがもしも、ただ話すことすら嫌だと思うのなら。それすらも止めるから。
あなたが嫌だと思うこと、全て止めてみせるから。
だから、御願いだよ。僕以外の人に触れないで。
応えようとしないで。優しくしないで。話さないで。抱かないで。
想いを吐き出した途端、それまでの緊張が解けて、心を占めるものが羞恥だけになる。
クレタは俯いて、ただ、ひたすらに自分の手元を見つめ続けた。
どんな顔をしているのか。理解るが故に、顔を上げることが出来ない。
そんなクレタを笑い、Jはグッと腕を引いて自分の傍へと引き寄せる。
「うん。知ってる」
その言葉と一緒に贈呈される、額への口付け。
入っていけない、完全なる二人だけの世界。
それを目の当たりにしたフウカは、ムッとした表情で。
「私、諦めないから。覚えておきなさいよ」
悪者のような台詞を残し、スタスタと部屋を出て行った。
それは、高慢そうに見えて、実に情けない、負け犬の背中。
二人きりになると、余計に照れ臭い。恥ずかしい。
俯いたままのクレタ。愛おしそうに、その頬を撫でてJは耳打つ。
無関係な誰かが傍にいると、余計に恥ずかしいだろ。
自分の全てを他人に見せるかのようで、恥ずかしいだろ。
でも、こんなにも好きなんだって、再認できたんじゃない?
ちょっと意地が悪いことをしたかなって反省してたんだけど。
キミが必死に想いを吐き出す顔を見てたら、反省なんて、どこかへ消えちゃった。
もっと見たい。もっと聞きたいって思っちゃった。
キミは全力で拒むかもしれないけれど、機会があれば、また。
こうして、キミを辱めたいなぁ、なんて。思っちゃ駄目?
「ねぇ、クレタ。でも、逆に。興奮しなかった?」
クスクス笑いながら耳元で尋ねてくるJ。
うん、確かに。だなんて、言えるはずがないじゃないか。
恥ずかしくて、そんなこと言えないよ。
もう止めてよ。これ以上、心を引っ掻き回して遊ばないで。
あなたにとっては遊びでも、僕にとっては……苦しいことなんだから。
「……もう、やだ」
泣きそうな顔をして訴えるクレタ。
Jはクスクス笑いながら、その顔を自身の胸へと埋めた。
わかった、もうしないよ。なんて、そんな言葉は吐かない。吐いてやるものか。
クレタが翻弄される日々は、まだまだ続きそうだ。
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
NPC / J / ♂ / ??歳 / 時狩 -トキガリ-
NPC / フウカ / ♀ / 18歳 / コーダ
シナリオ『 貴方と私が愛し合うこと 』への御参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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2008.12.19 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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