コミュニティトップへ




■DUMMY LOVER■

藤森イズノ
【7707】【宵待・クレタ】【無職】
「とまぁ、そういうわけだから。頑張って来い」
「…………」
 頑張って来いと言われても、正直、困る。
 どうすれば良いのか、わからないじゃないか。
 そもそも、どうして自分が請け負うことになってるんだろう。
 他にいるじゃないか。適任っぽい人は、いくらでも。
 そこまで考えたところで、理解した。
 あぁ、そうか。いつもの悪戯だ。
 ヒヨリお得意の、タチの悪い悪戯だ。
 無理だと、どんなに拒んでも無駄なんだろうな。
 諦めるしかないのか。悔しいけれど、こうなっては、どうしようもない。
 それにしても、酷い悪戯だ。というか、厄介な依頼だ。
 恋人のフリをして欲しいだなんて。一体、何の為に。 
 DUMMY LOVER

-----------------------------------------------------------------------------------------

「とまぁ、そういうわけだから。頑張って来い」
「…………」
 頑張って来いと言われても、正直、困る。
 どうすれば良いのか、わからないじゃないか。
 そもそも、どうして自分が請け負うことになってるんだろう。
 他にいるじゃないか。適任っぽい人は、いくらでも。
 そこまで考えたところで、理解した。
 あぁ、そうか。いつもの悪戯だ。
 ヒヨリお得意の、タチの悪い悪戯だ。
 無理だと、どんなに拒んでも無駄なんだろうな。
 諦めるしかないのか。悔しいけれど、こうなっては、どうしようもない。
 それにしても、酷い悪戯だ。というか、厄介な依頼だ。
 恋人のフリをして欲しいだなんて。一体、何の為に。 

-----------------------------------------------------------------------------------------

 正直、気乗りはしない。出来うることなら、放棄したい……と思っていた。
 けれど、どんな内容であれ、仕事は仕事。ヒヨリから任された立派な仕事だ。
 やりたくないからやらないだなんて、そんな勝手が許されるはずもない。
 それに、笑ってはいたけれど、ヒヨリは時折、表情を強張らせた。
 ヒヨリも同じなんだ。悪戯心だけで依頼しているわけじゃない。
 そりゃあそうだ。だって、ギルドに届いた正式な依頼なんだから。
 それを悪戯のタネだけになんて使えるはずがないんだ。
 ヒヨリは、そこまで愚かな人じゃない。
 時の回廊を経由し、依頼人である女子高生『マコト』が暮らしている外界:東京へと赴くクレタ。
 ヒヨリから依頼された仕事、その内容は、マコトの恋人のフリをするという内容。
 どうして偽物の恋人が必要なのかというと、
 一週間ほど前から、マコトはストーカー行為に悩まされている。
 その犯人に、諦めさせる為、偽の恋人が必要となるらしい。
 諦めさせる為に、偽物の恋人を隣に置く……。それって、どうなんだろう。
 かなり追い詰められているような状況なのかな……。そこまでしなきゃならないくらい。
 これは、僕の勝手な憶測だけど……それじゃあ、解決には至らないような気がする。
 よくわからないけれど、人を好きになる気持ちって……みんな、どこか病的なところがあるから。
 だって、わからないでしょ……。どうして、その人を好きになるのか。
 姿形も声も、生まれた時間も場所も、生活も、何もかもが違う人なんだ。
 他人を好きになるって、凄いことだと思うんだ。僕はね……。
 そこには、きっと、すごいパワーが生じてると思うんだ。
 第三者には、どうすることもできないような、大きなチカラ。
 ヒヨリが、よく『フられたら気持ちの切り替えが肝心』っていうけれど、
 それ、相当難しいことなんじゃないかなって……僕は思うんだ。
 だって、それまで大好きだった人を忘れるなんて……難しいじゃないか。
 一人の人を永遠に愛し続けるとか……そういうほうが、素敵だと思う。
 でも、理解ってるんだ。そっちのほうが、ずっとずっと難しいことだってことくらいは。
 ただの理想論だよね……。こうだったらいいのにな、っていう……非現実的な理想論……。

 外界:東京―

 相変わらず騒々しく、それでいて賑やかな場所だ。
 東京に戻ってきたのは久しぶり。3ヶ月振りくらいだろうか。
 街は、すっかりクリスマスモード。色とりどりの電飾が街を彩り、幻想的な雰囲気。
 依頼人マコトとの待ち合わせ場所である東京駅へと向かい、クレタはキョロキョロと辺りを見回した。
 出発前にヒヨリから受け取った写真を確認しつつ、依頼人を探す。
 すぐに見つかる予感。その予感は的中し、マコトは容易に発見できた。
 何というか……目立つのだ。ただ、そこにいるだけで圧倒的な存在感。
 某アイドルに顔が似ていることもあり、スタイルが良いこともあり。可愛いという意味で目立つ。
 マコトに歩み寄って声を掛けつつ、クレタは内心『不憫』に思っていた。
 こんなに目立つと、疲れるんじゃないかなぁ……。嫌でも目立つって……良いようで可哀相。
 一人になりたい時だってあるだろうけれど、この子は、それが出来ないんじゃないかな……。
 何となくだけど……。まぁ、雰囲気っていうのは、生まれ持ったものだから……。
 今回だけに限らず、今までも何度か、こういう事件に悩まされていたんじゃないかなぁ……。
 合流して早々、マコトはニコッと笑い、躊躇うことなくクレタの腕に絡みついた。
「…………」
「ちょっと。あからさまに、嫌そーな顔しないでよ」
「……うん。ごめん」
「後ろ見て。柱の影」
「…………」
「朝から、ずっと尾行てるの。あいつ」
 確認する犯人の顔や姿形。なるほど。どこにでもいそうな男の子だ。
 クレタと同じくらいの歳だろう。まぁ、マコトのクラスメートらしいから、それは当然なんだけれど。
 クレタとマコトは、腕を組んだまま歩き出す。犯人は、物陰に隠れながら追尾。
 あぁ、そっか……。ストーカーって、こんな感じなんだ。
 聞いたことはあるけれど、実際に体験したことなんてないから、どんな感じなのか理解らなかった。
 これは、確かに嫌な気持ちになるね。いつでもどこでも見られているような、監視されているような。
 立場は違うけれど……ちょっとだけ、過去を彷彿させる感じ。……嫌な気分だな。
 こんなのが一週間も続いたら、そりゃあ、我慢できなくもなるよね……。
 クレタは溜息を落としつつ、マコトと会話し、彼女がどんな人物であるかを、さりげなく探る。
 普通に会話をする過程で十分だ。その人が自然体で話すことで、性格が理解る。
 どこか店に入って、向かい合って話すよりも、こっちのほうが自然な感じになる。
 いかにもって感じで構えると、犯人に悟られたりもしてしまうだろうから。
 華やかな街を歩きつつ、他愛ない話を繰り返す二人。
 会話から読み取れたマコトの性格は、一言で言い表すなれば『明快』
 好き嫌いがハッキリしていて、好奇心も旺盛。
 楽しいことが大好きで、退屈な時間を嫌う。
 でも、いつでも誰かと一緒にいないと嫌だっていうわけでもなくて。
 一人で、のんびりと過ごす時間も、大騒ぎする時間と同じくらい大切にしている。
 マコトとの会話で、一つ。妙に引っかかるところがあった。
 それは、犯人に関する話。
 マコトは、犯人を『あいつ』と呼ぶ。
 まぁ、自分を嫌な目に遭わせている犯人に対する呼び方としては、普通かもしれない。
 気になったのは、重要なのは、呼び方ではなく、犯人との関係だ。
 犯人について、マコトは、やたらと細かく説明した。
 自分で調べあげるにしても、そこまで追求するのは難しいだろう。
 誕生日や出身地、血液型、趣味、特技、そして、小さな頃のニックネーム。
 そこまで聞いた時点で、あぁ、そうか。と把握する。
 ストーカー犯は、マコトにとっては他人じゃない。
 幼馴染、という関係なのだ。
「どうしたもんかしらね、これ。手の施しようがないってヤツぅ?」
 公園のベンチに腰掛けて、大きな溜息を落としたマコト。
 クレタは、自動販売機で買ったホットココアを渡して隣に腰を下ろす。
 犯人は、少し離れた場所にある木の陰に隠れて、こちらを見やっている。
 その様子をチラチラと振り返って確認するマコト。
 その横顔に、クレタは一つの可能性を見出した。
 もしかしたら。その可能性を確認する為に、クレタはマコトに尋ねようとする。
「ねぇ、きみ……」
「キス」
「え……?」
「キスしよっか」
「何で……?」
「だって、今、恋人同士でしょう。私達」
「そうだけど……」
「このくらいしなきゃ、あいつは諦めないと思うの」
「…………」
「ね。ほら、早く」
「……出来ないよ」
「どうして? あ、割り切ってそういうこと出来ないタイプ?」
「そうじゃなくて……。……まぁ、そういうことかもしれないけど、結局は……」
「仕事なんだから割り切って協力してよね、ほら」
 迫り、キスを強請るマコト。クレタは何とも言えぬ切ない気持ちに苛まれた。
 好きな人がいるのに、他の好きでもない人とキスするなんて、おかしいよ。
 大好きだって思える人とするから幸せな気持ちになるんじゃないの……?
 ねぇ、マコト。どうして、そんなに焦ってるの……?
 うまくはぐらかされてしまったけれど、もう一度。仕切りなおしで訊いてもいいかな……。
 合流してから、ずっと、違和感があったんだ。
 きみの言動に違和感があった。趣味とか、学校での話をするときよりも、
 犯人の情報を教えてくれていたときのほうが、楽しそうに話してたんだ。きみは。
 それからね、決定的なことが一つあるよ。
 きみの目。眼差し、その視線。
 犯人が、今、どこにいるかを、きみはすぐに僕に伝えた。
 どこにいても、何をしていても、きみはすぐに犯人を見つけるんだ。
 人混みの中でも、いとも容易く見つけてしまうんだ。
 それだけ神経質になっているのかなって、最初は、そう思っていたけれど……。
 違うよね。ねぇ、マコト。きみの本心は……。
「……そんなことしても、マコトは喜ばないよ」
 目を伏せた状態でポツリと呟いたクレタ。
 クレタの背後には、帽子を目深く被り、金属バットを構えた犯人の姿。
 今にも襲い掛からんとしている犯人だが、マコトが動じる様子はなかった。
 悲しそうな顔で俯き、言葉を失ってしまう。
 やっぱり、恋愛って……どこか、病的なところがあるよね。
 相手を想うがあまり、おかしな行動に出てしまったり。
 それが、相手を悲しませたりしていることすら気付けなくなってしまって。
 素直になれない限り、空回りし続けるんだ。きみたちに必要なのは、素直になること。ただ、それだけだよ……。
 時間が勿体無いって思わない? せっかく、お互いに想い合っているのに、
 素直になれないってだけで、擦れ違って空回ってしまう。
 その無駄にした時間で、どこかへ出掛けたり、一緒に美味しい御飯を食べたり出来るのに。
 人間は、限られた時間の中でしか生きられないんでしょう……?
 それなら、後悔なんて、出来るかぎりしないほうが良いに決まってる。
 ちゃんと向かい合って、御話してみるべきだよ。
 恥ずかしがらないで、自分の気持ちを相手に伝えなきゃ。
 言わないと伝わらないことだって、たくさんあるんだから……。
 言わずに後悔なんて……それ以上に悲しいことなんて、ないんだよ。

 *

「おかえり」
「うん。……ただいま」
 クロノクロイツに戻って来て、クレタは早々にヒヨリへ報告書を渡す。
 仕事は無事に完了した。何の問題もなく、それこそ、あっさりと。
 小さな溜息を何度も落としながら歩いていくクレタ。
 その背中に苦笑して、ヒヨリは言った。
「テラスって待ってるって言ってたような気がするな、そういえば」
「…………」
 その言葉を聞いた途端、クレタの歩みは速くなった。
 やや急ぎ足から競歩、そして全力疾走へ。
 階段を駆け上がりながら、クレタは自分の目頭が熱くなっていく感覚を覚えていた。
 偉そうなこと言えるような立場じゃないんだ。人に恋愛を語るなんて、分不相応なんだ。
 マコトたちに、素直になりなよって。二人の間に入って、互いを歩み寄らせたけれど。
 そうしながら、僕は寂しくて仕方なかった。どうしてか、わかる?
 あなたが教えてくれたことだから。
 心と身体で、あなたが僕に教えてくれたこと。
 それを他の誰かに教えてあげるのが、凄く嫌だったんだ。
 結果的には、二人を救ってあげることが出来たけれど。
 その代わりに、大切なものを失くしたような気がするんだ。
 あなたが教えてくれたこと、あなたとの思い出。
 それを消費して、僕は解決してしまったんじゃないかって。
 余計な心配だよって、笑って。そんなことくらいじゃ、失くなりやしないって。
 そう言って、笑って欲しいんだ。それだけで、安心できるから。
 2階テラスにあるソファに座って紅茶を飲んでいる『待ち人』の姿を確認し、
 クレタは、ゆっくりと歩み寄りながら、乱れた呼吸を整える。
 恋愛って病的。自分で言ったことだけど、今、僕、それを実感してるよ。

-----------------------------------------------------------------------------------------

 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
 NPC / ヒヨリ / ♂ / 26歳 / 時守 -トキモリ-
 NPC / マコト / ♀ / 17歳 / 依頼人
 NPC / ハヤテ / ♂ / 17歳 / マコトの幼馴染

 シナリオ『 DUMMY LOVER 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
-----------------------------------------------------------------------------------------
 2008.12.23 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
-----------------------------------------------------------------------------------------