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■子守唄■

藤森イズノ
【7707】【宵待・クレタ】【無職】
 寝付けない、眠れない。何度目かもわからぬ寝返りを打つベッドの上。
 眠ろうとすればするほど、目が冴える。余計なことを考える。
 明日の朝御飯は何だろうとか、明日は何しようだとか。
 もう何度も考えたのに。同じことをグルグルグルグル延々と。
「……はぁ」
 無意識に出た溜息だった。一体、何なんだろう。この現象は。
 近頃、こうして定期的に眠れない夜が訪れる。
 翌日は酷いものだ。寝不足で仕事どころじゃない。
 よろしくない状況だとは思うんだけれど。
 どうしたものかと思い悩み、ワラにも縋る思いで決断。
 羊を数えてみよう。暗示の類だけれど、何もしないよりはマシなはず。
(羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹……)
 三匹まで数えたところで、また余計なことを考える。
 数えた羊は、どこに行くんだろう。増えるばかりの羊……。
 羊だらけになってしまうのではないか。餌や寝床は、どうなっているんだろう。
 くだらない。実にくだらない心配である。だから何だというのだ。
「…………」
 ムクリと起き上がり、わしわしと頭を掻いた。
 駄目だ。今日も眠れそうにない。参ったな、明日も寝不足か。
 明日は、大きな仕事が入っているのに。皆に迷惑をかけるわけには……。
 ベッドの上で膝を抱え、ガックリと項垂れながら溜息を落としていた。
 そこへ。
 コツコツ―
 扉を叩く音。こんな時間に誰だろう。
 時計を見やれば、時刻は深夜1時半。
 不思議に思いながらも、心のどこかで喜んでいる自分がいた。
 眠れぬ夜を埋めてくれる人が、現れたのではないかと。
「はい……?」
 ガチャッ―
 子守唄

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 寝付けない、眠れない。何度目かもわからぬ寝返りを打つベッドの上。
 眠ろうとすればするほど、目が冴える。余計なことを考える。
 明日の朝御飯は何だろうとか、明日は何しようだとか。
 もう何度も考えたのに。同じことをグルグルグルグル延々と。
「……はぁ」
 無意識に出た溜息だった。一体、何なんだろう。この現象は。
 近頃、こうして定期的に眠れない夜が訪れる。
 翌日は酷いものだ。寝不足で仕事どころじゃない。
 よろしくない状況だとは思うんだけれど。
 どうしたものかと思い悩み、ワラにも縋る思いで決断。
 羊を数えてみよう。暗示の類だけれど、何もしないよりはマシなはず。
(羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹……)
 三匹まで数えたところで、また余計なことを考える。
 数えた羊は、どこに行くんだろう。増えるばかりの羊……。
 羊だらけになってしまうのではないか。餌や寝床は、どうなっているんだろう。
 くだらない。実にくだらない心配である。だから何だというのだ。
「…………」
 ムクリと起き上がり、わしわしと頭を掻いた。
 駄目だ。今日も眠れそうにない。参ったな、明日も寝不足か。
 明日は、大きな仕事が入っているのに。皆に迷惑をかけるわけには……。
 ベッドの上で膝を抱え、ガックリと項垂れながら溜息を落としていた。
 そこへ。
 コツコツ―
 扉を叩く音。こんな時間に誰だろう。
 時計を見やれば、時刻は深夜1時半。
 不思議に思いながらも、心のどこかで喜んでいる自分がいた。
 眠れぬ夜を埋めてくれる人が、現れたのではないかと。
「はい……?」
 ガチャッ―

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 添い寝してくれるのは嬉しいよ……。
 でもね、余計に眠れなくなりそうなんだけど……。
 モゾモゾと動きながら、何ともいえぬ表情を浮かべるクレタ。
 寝所を探している可愛い猫のようにも見えるし、物欲しそうで色っぽくも見える。
 うん、一緒にベッドに潜ったのは失敗だったかな。キミのそれ、天然だからね。困ったもんだ。
 クスクス笑いながら、枕に肘を付いて、もそもそと動き続けているクレタを眺めるJ。
 その視線に気付いたクレタはピタッと動きを止めて、そろ〜りとJを見上げた。
「腕枕してあげようか」
「えっ。い、いいよ……」
「遠慮することないのに」
「……(余計寝れなくなるよ)」
 小さな溜息を落としたクレタ。そんなクレタをクルンと反転させ、
 Jは、クレタの顔を自分の間近に持ってくる。
 この人は、もしかすると。僕を寝かせに来てくれたのではなくて、
 逆に眠りを妨げに来たのではなかろうか。それも、全力で。
 そんなことを考えつつ、クレタは目を泳がせて、また小さな溜息を落とした。
 ふふ。そんな呆れたような溜息落とさないでよ。
 確かに、寝ないで、このまま……って気持ちはあるけど。
 キミ、最近ずっと睡眠不足でしょう。隈が消えないからね。心配してたんだ。
 いつもそうだ。キミは、冬になると寝付きが悪くなって睡眠不足になる。
 寒いからかな? 寒さが、キミを心細くさせているのかな?
 眠れないのは辛いからね。眠そうな顔してるキミを見るのは嫌だし。
 一緒にいる時に欠伸なんてされたら、事情は理解っていても切ないしね。
 一瞬で眠りに堕ちることが出来るような、そんな魔法みたいなチカラがあれば良いんだけれど、
 生憎、俺はそんなチカラを持っていないから、別の方法で眠らせてあげる。
 眠れずにいるキミの隣で、何度も俺がしてあげたこと。覚えてる?
 そうそう、御話。キミが大好きな御話。
 いつしか、キミは自分から強請るようになったね。
 眠れないから、御話してよって。そう言いながら、俺のベッドに潜り込んできた。
 懐かしいな。その度に嬉しかったんだけど。キミは、忘れてしまったかな。
 クスクス笑いながら、目を伏せて言ったJ。クレタは、Jの前髪を見つめつつ返す。
 御話……。うん、覚えてるよ。何度も何度も聞かせてくれた御話。
 でも、その御話の最後、僕知らないんだ。
 いつも途中で眠ってしまったから。
 目覚めて、続きを御話してよって強請ったけれど、
 あなたは、それは駄目って言って御話してくれなかった。
 夜じゃないと御話できないんだって言うから、僕は何度も御願いしたんだ。
 本当は、すんなりと眠れる夜でも。御話を最後まで聞きたかったから。
 うん。御話、して。今日は、最後まで聞くよ。聞けそうな気がするから……。

 ― あるところに、羊達が仲良く寄り添って暮らしていました。
 羊達は、みんな御揃いの、真っ白でふかふかな毛を着ています。
 羊達は、とっても仲が良くて、どこへ行くにも何をするにも一緒でした。
 仲良しな羊達は、毎日に幸せと充実を感じながら暮らします。
 ところが、ある日。一匹だけ、黒い子羊が生まれました。
 真っ白な羊達の中に、一匹だけ真っ黒な子羊。
 遠くから見ても、黒い子羊は目立ちます。
 仲間達は、黒いからといって子羊を苛めたりはしません。
 色は違えど、同じ仲間なのだからと、同じように接していました。
 でも、その優しさが逆に黒い子羊を苦しめます。
 みんなはとっても優しいけれど、自分は、みんなと違う。
 どうして自分だけ、みんなと違うんだろう。
 黒い子羊は、次第に羨むようになりました。
 仲間達の真っ白な毛を、羨むようになりました。
 悲しくなった子羊は、みんなと同じ真っ白な毛になれやしないかと、あれこれ試します。
 何度も何度も、痛くなるくらい身体を洗ってみたり、
 真っ白なペンキで自分の身体を塗りつぶしてみたり、
 抜け落ちた仲間の真っ白な毛を食べてみたり……。
 けれど、子羊の毛が白くなることはありませんでした。
 自分の居場所がないように思えた子羊は、ある日、旅に出ます。
 仲間達は、どこかへ消えた子羊を必死に探しました。
 けれど、子羊は遠くへ遠くへ、仲間達から見えないところへと遠ざかってしまいます。
 自分の姿が目立たない、真っ暗な場所に辿り着いたこともありました。
 けれど、真っ暗な世界は怖くて心細くなってしまいます。
 賑やかな街へ辿り着いたこともありました。
 けれど、珍しい子羊を人々は面白がって指差します。
 色んなところを旅して、自分の居場所を探すものの、なかなか見つかりません。
 このまま、自分は孤独なまま死んでしまうのだろうか。
 それならば、切なくても真っ白な仲間たちの傍にいれば良かったかもしれない。
 旅を続ける内に、子羊は気付きます。
 自分が、何よりも怖いと思っているのは、ひとりぼっちになることなのだと。
 それに気付いた子羊は、仲間達のところへ戻っていきました。
 けれど、戻ってきた子羊を、仲間達はしらんぷりします。
 意地悪しているわけではありませんでした。
 あぁ、そうか。これが、ひとりぼっちになるってことなんだ。
 子羊はポロポロと涙を零しながら、仲間達の傍を離れて、また旅に出ます。
 どこへ行けば良いのか、自分の居場所はどこにあるのか。
 自分で居場所を捨ててしまったことを嘆きながら、子羊は歩きます。
 その途中で、素敵な出会いがありました。
 子羊と同じ、真っ黒な毛を来た羊と遭遇したのです。
 その羊もまた、子羊と同じように自分の居場所を探していました。
 捨ててから大切さに気付く、その切なさを胸に抱いていました。
 二匹は寄り添い、言葉を交わすように互いの鼻を舐め合います。
 やがて、二匹は一緒に暮らしはじめます。
 ところが、どうすれば良いのか理解りません。
 失ったことの恐怖から、二匹は臆病になっていました。
 けれど、ぎこちない関係を、解決してくれるものがありました。
 それは、時間でした。
 時を重ねていく内に、二匹は互いのことを深く知るようになりました。
 心がぴったりと重なりあったとき、二匹の周りが美しい草原へと変わりました。
 二匹は草原を仲良く駆けて、幸せに暮らします。
 けれど、忘れることはありませんでした。
 かつての仲間と、ひとりぼっちになる意味を。
 二匹が忘れることはありませんでした。

「…………」
 スヤスヤと寝息を立てているクレタを見やり、Jはクスクス笑う。
 残念。今日も最後まで聞けなかったね? もう少しだったのにな。惜しいね。
 もしかしたら、今ならまだ、キミに届くかもしれないから尋ねてみようか。
 夢の中でも良いから、答えてごらん、クレタ。問題だよ。
 子羊が覚えた『ひとりぼっちの意味』 キミには、わかるかな。
 ふわふわと浮かんでいるような感覚、虚ろな意識。そこへ降ってきた言葉。
 ひとりぼっちの意味……。きっとね……それはね……『忘れられる』ってこと……。
 何よりも悲しくて切ないこと……。僕も子羊と同じ気持ち……。
 ひとりぼっちは、怖くて嫌だよ……。
 一人でいたほうが楽なんだって思っていた頃もあるけれど……それは、本音じゃない。
 怖かったから、本当に、ひとりぼっちになったらどうしようって不安だったから。
 そうやって自分に言い聞かせることで、恐怖や不安を紛らわしていただけ……。
 忘れないでね。何があっても、僕のこと、忘れないで。
 僕も忘れないから。ずっとずっと、忘れないでね。
 服をキュッと掴んで、深い眠りへと堕ちていくクレタ。
 その頬を撫でながら、Jは目を伏せて笑った。
 忘れるなんて。そんなこと、出来るはずがないだろ。
 寧ろ、教えて欲しいくらいさ。忘れることが出来るのなら、その術を。
 おやすみ、クレタ。良い夢を。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
 NPC / J / ♂ / ??歳 / 時狩 -トキガリ-

 シナリオ『 子守唄 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 2008.12.24 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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