■再歪■
藤森イズノ |
【7707】【宵待・クレタ】【無職】 |
ゾクッと背筋を走る、この感覚。
何度も体感したことのある、この感覚。
そうだ。これは……どこかで『歪み』が発生した時に覚える感覚。
ギルド本部にある自室。読んでいた本をソファに置いて立ち上がる。
どうして? もう、歪みは発生しなくなったはずじゃ……。
妙な胸騒ぎを抱きつつ、窓から外を拝む。
見渡す限りに広がる漆黒の闇。いつもどおりの光景。
何だろう。どうして、こんなにソワソワするんだろう。
皆も、気付いたかな。何かが起ころうとしてる、ううん、起きていること。
不安を胸に、仲間達のところへ行こうと身を翻そうとした時。
窓の外、映る景色の片隅に『人影』を確認した。
誰なのかは理解らない。人影は、逃げるようにして去って行く。
胸騒ぎの原因は、あの人影だ。
直感した瞬間、部屋を飛び出した。考えている暇はない。
ただ、あの人影を追いかけて捕まえなくちゃ。
そうしないと、何も把握することが出来ない。そう思った。
一心不乱に駆け下りる階段。途中でヒヨリと擦れ違う。
異様な雰囲気で駆ける自分に、ヒヨリは声を掛けた。
「おい、何だ。どした」
耳には入ったけれど、心にまでは届かない。
立ち止まることも、振り返ることもせず、駆け続ける。
ごめんね、ヒヨリ。
時間が、ないんだ。
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再歪
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ゾクッと背筋を走る、この感覚。
何度も体感したことのある、この感覚。
そうだ。これは……どこかで『歪み』が発生した時に覚える感覚。
ギルド本部にある自室。読んでいた本をソファに置いて立ち上がる。
どうして? もう、歪みは発生しなくなったはずじゃ……。
妙な胸騒ぎを抱きつつ、窓から外を拝む。
見渡す限りに広がる漆黒の闇。いつもどおりの光景。
何だろう。どうして、こんなにソワソワするんだろう。
皆も、気付いたかな。何かが起ころうとしてる、ううん、起きていること。
不安を胸に、仲間達のところへ行こうと身を翻そうとした時。
窓の外、映る景色の片隅に『人影』を確認した。
誰なのかは理解らない。人影は、逃げるようにして去って行く。
胸騒ぎの原因は、あの人影だ。
直感した瞬間、部屋を飛び出した。考えている暇はない。
ただ、あの人影を追いかけて捕まえなくちゃ。
そうしないと、何も把握することが出来ない。そう思った。
一心不乱に駆け下りる階段。途中でヒヨリと擦れ違う。
異様な雰囲気で駆ける自分に、ヒヨリは声を掛けた。
「おい、何だ。どした」
耳には入ったけれど、心にまでは届かない。
立ち止まることも、振り返ることもせず、駆け続ける。
ごめんね、ヒヨリ。
時間が、ないんだ。
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変化というべきか、成長というべきか。自分でも理解らない。
けれど、確かなことは。はっきりと言えるのは、自分の意思で此処に来たこと。
それだけは、間違いなく真実。たった一つ、自信を持って言える真実。
夜を待つ暮らしを続けて選んだのも僕自身。
薬を喉に落とせば、深い眠りに誘われて。心地良かった。
光から逃げることが出来たから。そうすることが一番だと僕は思ってた。
飲めと強要されたことは一度もなかったはずだ。毎日、僕は自分の意思で薬を飲んだ。
いつしかそれは、欠かせない行為の一つになっていて。
少しでも摂取の時間が遅れれば、不安になった。
ほんの数秒でも、僕は怖くなって。
ねぇ、薬は? 薬の時間、過ぎてるよって。そう告げたんだ。
美味しくなんてないよ。苦くて不味いだけだった。でも、そんなことはどうでも良かったんだ。
ただ、光から逃げる術を。僕は、それしか知らなかったから。
自分を弱虫だと自覚したのは、薬をせがむようになってから。
あぁ、僕は……どうしてこんなにも弱いんだろうって。
目を逸らすばかりで、逃げてばかりで。ちっとも成長しないなぁって思ってた。
でも……薬を飲んで眠れば、そんな情けない感覚からも解放されたんだ。
情緒不安定……だったんだろうね。今、こうして思い返すと、そう理解できるよ。
どうして光が怖いのか。その理由が理解らなかったんだ、あの頃の僕は。
簡単なことだったのに。何もかもを思い出した今では、こんなにも容易く理由を手繰り寄せることが出来る。
怖かったのは、光じゃないんだ。眩い光の温かさ。それが……あなたの抱擁と酷似していたから。
切なくて堪らなくなるから、僕は逃げた。どうして切ないのか理解らなかったから。
ずっとずっと、僕は求めていたんだ。あなたのことを。もしかしたら、生まれる前から、ずっと。
自分の弱さに呆れることは、今でもあるよ。
抱かれている時なんて、それそのものだ。
呆れるというよりは、虚しくなるような……そんな感覚。
過去の名残なのかな。それとも、これは、僕自身の性格なのかな。
どう思う? って聞かれても、答えられないよ。
答えを知っているのなら、教えて欲しいくらいだもの。
「ねぇ、あれ、持ってる?」
微笑みながら尋ねられて。僕は頷き、懐から砂時計を取り出した。
あれ、と言われて、それが何なのか、すぐに理解る感覚に少しだけ違和感を覚えたけれど。
取り出した砂時計を確認して、きみは笑う。
時は未だに硬直したまま。銀色の砂が落ちることはない。
どう足掻いても落ちない砂を確認して、きみは僕の頭を撫でて言った。
「急がないと……間に合わなくなっちゃうよ? わかってる?」
うん。理解ってるよ。理解っているんだけど……ちょっと、難しいんだ。
自分がしようとしていることが、堪らなく恐ろしいことのような気がして。
昨晩、試みてはみたけれど……いざとなると、逃げ出してしまうんだ。
僕の言葉を聞いて、きみはクスクスと笑った。その笑顔が、懐かしい。
「キミって、本当。弱虫さんだね」
「…………」
言い返すことなんて出来ないよ。だって、その通りだから。
時間がないって理解っているのに、怖くなって逃げ出してしまうんだから。
しょうがないなぁって苦笑されて当然だよね。うん……ごめんね……。
ねぇ、クレタ。一度、自分と向き合ってみたらどうだろう?
何も難しく考える必要なんてないんだよ。
ただ、部屋で一人、何も考えずに座っていればいい。
心を落ち着かせて、自分の鼓動を聞いてごらんよ。
そうすれば、聞こえてくるはずだよ。
鼓動に併せて、どんどん高鳴る感情に気付くはずだよ。
ねぇ、クレタ。今更、止めるだなんて言わないでね?
そんなこと言われたら、がっかりしてしまうよ。
せっかく生まれてきたのに、意味がなくなってしまうから。
忘れないで。僕はキミ自身。キミの欲望が生んだ存在なんだ。
キミが生んだんだから、責任持って。放棄なんて許されないことだよ。
もう一度、最初から説明してあげようか。良い機会かもしれないから。
キミと瓜二つの僕。何もかもが同じだね。顔も声も背丈も、纏う香りも。
ただ一つだけ、違うところがあるんだ。どこか理解る?
うん、そう。右目だね。キミの右目は青い。あの人と同じだ。
そりゃあ、そうだよね。あの人から貰ったものなんだから。
でも、僕の右目は青くない。だって、あの人のことを知らないから。
キミが愛して止まぬ人。彼が、どんな人なのか、僕には理解らない。
教えてよって御願いしたこともあったね。でも、キミは頑なに拒んだ。
残念だなって今も思っているけれど、無理に聞こうとは思ってないよ。
だって、教えたくないんでしょう? それほどまでに愛しているんでしょう?
だからこそ、僕が生まれた。キミの欲望がカタチになって、僕を作った。
ちょっと滑稽な話だよね。キミの欲望を誰よりも知っているのに、
その欲望の核になっている人のことを僕は知らないんだから。
ねぇ、クレタ。後悔してるだなんて、そんなこと言わないでね。
僕は嬉しいんだ。こうして、キミの中から飛び出して一つの存在として此処にいられることが。
ねぇ、クレタ。僕から目を逸らさないでよ。
僕は、キミの欲望そのものなんだから。
教えてあげるから。
理解らなくなったら、何度でも僕のところにおいでよ。
キミが何を想い、どうしたいと思っているか、何度でも教えてあげる。
キミが求めているのは、愛しい人。その全て。
果てしなく大きく膨らむばかりの感情を、キミはぶつけたいと思ってる。
あの人が思うよりも、もっともっと、この気持ちが大きいんだってことを伝えたいと思ってる。
どうすれば伝えることが出来るだろうって、キミは毎晩悩んだ。
結果、僕が生まれて。その瞬間、キミは答えに辿り着く。
そうだよ、クレタ。
欲しいのなら、自分から手を伸ばさなきゃ。
欲しいのなら、奪わなくちゃ駄目なんだ。
黙っていても、キミの欲求が満たされることはないんだよ。
理解った? 思い出した? キミが、どうすべきか。どうしたいか。
ねぇ、その砂時計、絶対に失くさないでね。
キミと僕を繋ぐ、唯一のモノなんだから。
また理解らなくなったら、こうして会いに来て。
会いにくるのが面倒だったら、砂時計の台座、その裏を御覧よ。
キミが自分で定めた『タイムリミット』が書かれているから。
おや、来客だ。残念ながら、キミが喜ぶ来客ではないね。
それじゃあ、クレタ。またね。応援してるから。
キミが満たされる日を、僕も心待ちにしているからね。
ふっと煙となって消えた、もう一人の自分。
クレタは、フゥと息を吐き落として、ゆっくりと振り返った。
振り返った先にいたのは、ヒヨリだった。
ヒヨリは、歩み寄りながら尋ねる。
「お前も、感じたのか?」
「うん……?」
「歪み。あれが発生する時の独特な雰囲気」
「うん……そうだね……」
「ビックリしたぞ。血相変えてダッシュするもんだから」
「ごめんね……」
「何だったんだろうな。今は消えてる。一時的なモンかな?」
「うん……。気のせいだったのかもしれないね」
「気のせい? ん〜。どうだろな」
「寝ぼけてたのかもしれないよ……。僕も、ヒヨリも……」
「まぁ、確かに最近寝不足だけど。どうだろうな。気になるから調べてみようか」
「多分……。無駄だと思うけど……」
「ん? 何で?」
「うん……。何となく……」
「何だそりゃ」
クスクス笑うヒヨリを横目に、クレタは歩き出しギルドへと戻っていく。
何となく、だなんて嘘。無駄だって、本当に思ってる。理解ってる。
だって……原因は僕だから。僕の欲望が生んだ歪みなる存在が、ついさっきまで此処にいたんだから。
嘘をつくのは、いけないことだって。それは勿論、理解ってる。当然だよ。
でも、嘘をつかなきゃならない時もあるんだ。
物凄く勝手な御願いだけれど、笑っていて。
ヒヨリは、そのまま。笑っていてくれれば良いから。
深くを追求することはしないで。出来る限り……放っておいて。
いつまでも放置なんて、出来ない人だってことも理解ってる。
だから、僕は急ぐよ。ヒヨリたちが気付く前に……願いを叶えなくちゃ。
愛しい、あなたへ。
僕が、こんなにも、あなたを想っていることを御存知ですか。
こんな言い方は少し気が引けるけれど、あなたにも責任があると思うのです。
僕に、愛する感覚を、愛される感覚を、その歓びと幸せを。
絶え間なく、あなたが教えてくれたが故に僕は欲張りになった。
あなたの呼吸さえも自分のものに。
そう強く願う僕を……どう思いますか。
成長したね、と喜んでくれますか?
微笑みながら、息絶えてくれますか?
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
NPC / ヒヨリ / ♂ / 26歳 / 時守 -トキモリ-
シナリオ『 再歪 』への御参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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