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■100人に1人の逸材■

藤森イズノ
【7192】【白樺・雪穂】【学生・専門魔術師】
 しつこい。いい加減にして、と張っ倒したくなる位、しつこい。
 今日が初めてというわけでもないから、余計にイライラ。
 登校して早々に、今日もまた、金魚のフンの如く付きまとって来る人物。
 その人物は、執拗に繰り返す。
「キミこそまさに、100人に1人の逸材!」
 胡散臭い口説き文句。嬉しくないといえば嘘になるけれど。
 でも、どうも気乗りしないのだ。有難いとは思うけれど。
 他の、例えば趣味とか、そっちに時間を投じたいと思っているから。
 何度言われても、応じる気はない。応じる気は……ないんだけれど。
 一度だけ。そう言われると、仕方ないなぁと思ってしまうではないか。
 あぁ、ハメられた。見事にハメられたね。
 すぐに気付いた。気付いたからこそ、悔しいです。
 100人に1人の逸材

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 しつこい。いい加減にして、と張っ倒したくなる位、しつこい。
 今日が初めてというわけでもないから、余計にイライラ。
 登校して早々に、今日もまた、金魚のフンの如く付きまとって来る人物。
 その人物は、執拗に繰り返す。
「キミこそまさに、100人に1人の逸材!」
 胡散臭い口説き文句。嬉しくないといえば嘘になるけれど。
 でも、どうも気乗りしないのだ。有難いとは思うけれど。
 他の、例えば趣味とか、そっちに時間を投じたいと思っているから。
 何度言われても、応じる気はない。応じる気は……ないんだけれど。
 一度だけ。そう言われると、仕方ないなぁと思ってしまうではないか。
 あぁ、ハメられた。見事にハメられたね。
 すぐに気付いた。気付いたからこそ、悔しいです。

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 スヤスヤと、HAL本校中庭にてお昼寝中の雪穂。
 とても気持ち良さそうに眠っている。おや……ちょっとだけヨダレが。
 こうして見ると、ごく普通の可愛らしい少女そのものだ。
 まさか、彼女が天才魔術師だとは、誰も思うまい。パッと見ただけでは。
 季節は冬だが、HAL校内はポカポカ陽気。まるで春の如しだ。
 本校を囲っている魔法障壁が関与しているらしいが、詳しいことは理解らない。
 何か、美味しい食べ物を食べている夢を見ているのだろうか。
 雪穂は「もっと食べたい〜」と寝言を繰り返している。
 夢の中にいれど、すぐさま気付く。人が近付いてくる、その気配。
 雪穂は目を閉じたまま、まだ半分夢の中にいる状態で尋ねた。
「誰〜……?」
 その声にピタリと足を止めて苦笑する人物。
 何で理解ったんだろう。こっそり近付いて驚かせてやろうと思ったのに。
 悔しそうに笑っているのは、海斗だ。
 夢うつつの雪穂へ歩み寄り、海斗は、ぽふぽふと雪穂の頭を撫でる。
「雪穂、雪穂。起きろって」
「何〜……」
「緊急なんだ。急いで行かないとマズイことになっちゃうから、早くっ」
「あう〜……何なの〜……」
「ほら、早く。こっち、こっち!」
「むにゅ〜……」
 腕を引かれ、強引にどこかへと連れて行かれてしまう雪穂。
 こうして、海斗が目的を明らかにすることなく強引に手を引いていくのには、もう慣れた。
 入学して、まだ日は浅いけれど、もう慣れてしまった。
 その慣れ具合から、いかに振り回されているかが理解る。
 加えて、強引にどこかへと連れて行く、その場合。
 大抵、ロクなことにならない。
 緊急だと海斗は言ったけれど……。
「……ふぁふ」
 大きな欠伸をしつつ、辺りを見回す雪穂。
 連れて来られたのは、プレイホールだ。
 まぁ、ごく普通の学校で言うなれば体育館のような場所。
 現在時刻は16時半。既に授業は終わっており、放課後の時間帯。
 プレイホールには、クラブ活動に打ち込む生徒で溢れ返っている。
 ゆっくりと眠気が消え、目が覚め始めた瞬間。
 連れて来られた場所から、雪穂は海斗の目的を把握した。
「きみってさ〜。ほんと、しつこいよね〜」
 肩を竦めて笑いながら言った雪穂。
 海斗はケラケラ笑いながら、雪穂の背中をグイグイと押しやる。
 差し出すようなカタチで。海斗は告げた。
「連れて来たぞー!」
 その声に応じて、パッと一斉に振り返る生徒達。
 剣道部に在籍している生徒達だ。そう、ここは、剣道部のスペース。
 楽しそうに笑っている海斗に歩み寄り、クスクスと笑う生徒がいる。
 麻深だ。女ながら、剣道部にて主将を務めている凄腕生徒。
「連れて来るだけなら簡単よね。海斗くん」
 笑いながら言った麻深。海斗は、連れて来ただけでも偉いだろと自慢気に語る。
 こうして、剣道部の面子の前へ差し出されるのも何度目になるだろう。
 そもそも、剣道部に在籍していない海斗が、なぜ、こんな勧誘のような真似をするのか。
 まぁ、大方の予想はつく。きっと『モノ』が絡んでいるに違いない。
 例えば、学食の食券だとか、最近校内で流行っている『魔法のノート』だとか……。
 とはいえ、麻深の言うとおり、連れて来るだけなら簡単だ。誰にでも出来る。
 海斗が受け取れるであろう『報酬』も、連れて来るだけでは貰えまい。
 雪穂が、剣道部に入部して、そこで初めて報酬が受け取れると考えられる。
 事の始まりは、雪穂の立ち振る舞い。
 体術を学ぶ授業を受けていた際、海斗は雪穂の動きにキラリと目を輝かせた。
 以前から、麻深から伝えられてはいたのだ。
 剣道に向いていそうな子がいたら教えてね、と。
 入学してからというもの、雪穂の評判はウナギノボリだ。
 魔術は勿論のこと、軽い身のこなしには定評がある。
 剣道部だけならず、他の運動系クラブも欲しい逸材である。
「雪穂ちゃん。何度も御免なさいね」
 姿勢を正し、ペコリと頭を下げて謝罪した麻深。
「別にいいよ〜。もう慣れたしね〜」
「そう。……えぇと。どうかしら? やっぱり、駄目かな?」
 微笑みながら尋ねてくる麻深。彼女が『どう?』と尋ねている点は、もちろん入部に関することだ。
 体験からでも構わないから、是非。麻深から、何度も言われている。
 別にね〜嫌だってわけじゃないんだよ〜。剣道は面白いしね。
 でもね〜……時間がね。拘束されちゃうのが、何となぁく引っかかるんだぁ。
 お昼寝する時間って僕にとっては、とっても大事なものだし〜。
 魔術の勉強も欠かせないしね〜。僕の本業は、そっちだからさぁ。
 う〜んと首を傾げながら苦笑している雪穂。
 何度も断っている為、何となく気まずい。
 今日は、どうやって断ろうか、はぐらかそうか。
 そんな、あれこれ考えている様子の雪穂を見やりつつ、海斗が提案した。
「一回さ、やってみれば?」
「ふぇ〜?」
「お試しって感じで。な、麻深?」
「私は構わないけど……。雪穂ちゃん次第ね」
「ん〜……。まぁ、いいかなぁ。ちょこっとだけね〜」
 雰囲気に飲まれたというべきか、言ってしまった。承諾してしまった。
 ニヤリと笑った海斗。その表情を見て雪穂は苦笑した。
 しまったな〜。失敗したかな〜。そういうことかぁ〜。
 一回くらいなら〜と思ったけど、その時点でハマってるんだね〜これ。
 たかが一回、されど一回ってやつかなぁ〜……。
 余計に断りにくい状況になってしまったことを悔やみつつ、麻深と対峙する雪穂。
 借りた防具はサイズピッタリで、やたらと身体に馴染んでいる。
 竹刀を構え、雪穂は姿勢を正してペコリと一礼。
 相手は主将だ。それも、かなり評判の。
 麻深とは、まだそれほど親しい間柄ではないが、彼女の強さ、その噂は耳にしている。
 たかが一回、されど一回。お試しとはいえ、やるからには真剣に。勝ちに行く。
 装備を整えてから、雪穂の目付きが変わった。
 ほんの少し前まで寝ぼけ眼だったのに。
 構えながら、麻深は気を引き締めた。
 だが。
 プレイホールに、スパァンと爽快な音が響き渡る。
 その音が響き渡った瞬間、時間がピタリと停止したような感覚。
 さきほどまで立っていた場所に雪穂がいない。
 ホールにいる生徒達は、自身の目を疑った。
 一体何が起きたのか理解らずにいた麻深だったが、
 審判を勤めていた部員が、どもりながら「一本」と告げたことで把握するに至る。
 音を置き去りに。俊足の抜き。
 いつの間にやら麻深の目前に移動していた雪穂。
 プハァと息を吐き、雪穂は笑って言った。
「こんな感じ?」

 どよめきのプレイホール。
 群がってきた生徒たちに囲まれ、押し潰されそうになりながら笑う雪穂。
 有段者である彼女だが、こうして『勝負』や『手合わせ』を実行したのは久しぶりだ。
 雪穂の相手を務めていたのは、もっぱら彼女の父親。
 だが、父親は他界している。以降、手合わせなんぞする相手もなく。
 久しぶりの緊張感と達成感に、雪穂は御満悦の様子だ。
 パシンパシンと雪穂の背中を叩きつつ、入部を推す海斗。
 報酬の為に連れて来ていたのだが、今や、そんなことは頭にない。
 ただ純粋に、入部するべきだ、いや、入部してあげるべきだと思っている。
 自慢したりはしないけれど、麻深には、それなりの自信があった。
 油断してはならぬと、すぐに把握することは出来たものの、把握したときには既に手遅れ。
 まるで動きを追えず、あっという間に一本取られてしまった。
 しつこくしすぎるのは失礼なことだからと、どこか遠慮していたのだが。
 麻深も、すっかりスイッチが入ってしまったようだ。
 冷静さを欠き、熱心に真剣に、本気で勧誘を繰り返す。
 普段からは想像できない主将の『アツさ』に部員達は呆然としている。こんなにも喋る人だったのかと。
 ズイズイと身を乗り出して熱く語る麻深を前に、少々押されつつも雪穂はケラッと笑う。
 そうだね〜、いいよ、入部してみるよ。
 久しぶりに楽しかった。あの緊張感、やっぱり好きだなぁ、僕。
 一人じゃ体感できないものなんだよね、あれって。
 誰か、相手がいないと成立しない雰囲気だからね〜。
 入部を決意してくれた雪穂に、剣道部員たちは大喜び。
 敵うはずがないと理解っていながらも、こぞって手合わせを申し出る。
 凄いと思うからこそ、その業を体感してみたいと思うのだろう。
 だが、詰め寄ってくる部員達の隙間をスルスルと縫うようにして、雪穂は逃げて行く。
 待ってくれと乞う言葉に笑いながら、雪穂はヒラヒラと手を振って……エスケープ。
 気持ち良く眠ってたところを起こされちゃったから、まだまだ眠いの〜。
 誰かに起こされるんじゃなくて、自分で起きないと、お昼寝したことにはならないからね〜。
 欠伸をしながら、再び中庭へと戻っていく雪穂。
 非常に気まぐれ。されど逸材。
 素晴らしい人材を入手した剣道部の未来は明るい……かな?

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7192 / 白樺・雪穂 / ♀ / 12歳 / 学生・専門魔術師
 NPC / 海斗 / ♂ / 19歳 / HAL在籍:生徒
 NPC / 木ノ下・麻深 / ♀ / HAL在籍:生徒

 シナリオ『 100人に1人の逸材 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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