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■仰せのままに■

藤森イズノ
【7707】【宵待・クレタ】【無職】
 頭がボーッとする。喉がピリピリする。
 咳き込めば、その度に胸が締め付けられるように痛い。
 眠ってしまえば楽なんだろうけれど、苦しくて眠ることも出来ない。
 虚ろな目で天井を見上げれば、心の中で弱音を吐いてしまう。
 もしも。もしも、ずっと、このままだったらどうしよう。
 起き上がることが出来ないままだったら、どうしよう。
 どこかへ出掛けることも、美味しいものを食べることも、
 嬉しいと笑うことも、幸せだと感じることも出来ぬまま。
 もしも。もしも、ずっと、このままだったらどうしよう。
 病に伏せると、こんなにも弱くなるものなのか。
 そんなことないんだって、治るんだって。
 ただの風邪なんだから。理解っているのに。
 どうして、こんなに不安になってしまうのかな。
 理解出来ぬ不安に、思わず泣いてしまいそうになる。
 唇を噛み締めて、泣かぬようにと堪える。
 でも、どんなに堪えても、隣にいる人には伝わってしまうから。
「その顔。さてはまた、変なこと考えてるね?」
 クスクス笑いながら、額に手を乗せる優しい人。
 冷たい掌の感触に、心が落ち着いていくような気がした。
 あぁ、そうか。もしかしたら。
 自分は、その手が欲しかったのかもしれない。
 その温度を、求めていたのかもしれない。
 仰せのままに

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 頭がボーッとする。喉がピリピリする。
 咳き込めば、その度に胸が締め付けられるように痛い。
 眠ってしまえば楽なんだろうけれど、苦しくて眠ることも出来ない。
 虚ろな目で天井を見上げれば、心の中で弱音を吐いてしまう。
 もしも。もしも、ずっと、このままだったらどうしよう。
 起き上がることが出来ないままだったら、どうしよう。
 どこかへ出掛けることも、美味しいものを食べることも、
 嬉しいと笑うことも、幸せだと感じることも出来ぬまま。
 もしも。もしも、ずっと、このままだったらどうしよう。
 病とは、こんなにも人を弱くさせるものなのか。
 そんなことないんだって、治るんだって。
 ただの風邪なんだから。って、理解っているのに。
 どうして、こんなに不安になってしまうのかな。
 理解出来ぬ不安に、思わず泣いてしまいそうになる。
 唇を噛み締めて、泣かぬようにと堪える。
 でも、どんなに堪えても、隣にいる人には伝わってしまうから。
「その顔。さてはまた、変なこと考えてるね?」
 クスクス笑いながら、額に手を乗せる優しい人。
 冷たい掌の感触に、心が落ち着いていくような気がした。
 あぁ、そうか。もしかしたら。
 自分は、その手が欲しかったのかもしれない。
 その温度を、求めていたのかもしれない。

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 風邪を引いたJを看病した、その翌日のことだ。
 クレタもダウンした。見事なまでに伝染されてしまったらしい。
 あなたが楽になるならば、と望んだのは事実だけれど、これは相当キツい。
 苦し過ぎて呼吸さえも躊躇うようになる。そうすれば、余計に息苦しくなるのは当然で。
 胸にかかる負担を抑えながら、小さく息を吸い、また、小さく息を吐く。
 謙虚な呼吸を繰り返しつつ、クレタは、額に手を乗せるJを見やった。
 朝食の時間になっても食堂に来ないことを心配して部屋に様子を見に来たのだが、
 早々に、Jはクックッと笑った。笑い事ではないのだけれど。
 昨日と立場が逆転している。そっくりそのままの逆転っぷりが可笑しくて。
 笑いながらも、Jは献身的な看病を続けている。
 時刻は正午。
 極限に具合が悪いのだが、それでもお腹は空く。
 何かを食べたいと思える時点で、回復の兆しが見える。
 すぐさま特効薬を飲ませたことが幸いしているのだろう。
 だが、まだ熱は高いまま。もう暫く、ゆっくりと休む必要があるだろう。
 お腹が空いたかもしれない……と呟いたクレタ。
 その言葉に頷き、Jはスタスタと部屋を出て行った。
 数分後、トレイ片手に部屋へと戻ってきたJ。
 トレイの上には、小鍋とレンゲが乗っている。
「起きれる?」
「ん……」
 支えて貰いながら、ゆっくりと身体を起こす。
 テーブルの上にあるトレイを見やってクレタは尋ねた。
「ごはん……?」
「うん。おかゆ。美味しいかどうかは微妙だけど」
「……作ったの?」
「たまにはね」
「……そっか。ありがとう……」
「どういたしまして。はい、口開けて」
「…………」
 少々躊躇ったものの、言われるがまま口を開けたクレタ。
 自分で食べれるよと言いたいところだけれど、中々キビしそうだ。
 ちょっと恥ずかしいけれど、ここは甘えさせて貰うしかあるまい。
 口へ運ばれたおかゆを、ゆっくりと瞬きしながら味わうクレタ。
 ふわふわの卵が、何だか優しい気持ちにさせる。
 コクリと飲み込んで、クレタは更に尋ねた。
「……不思議な匂いがする」
「あぁ。アミピコだね」
「……あみ……ぴこ?」
「外界の調味料。誰が買ってきたのかわからないけど勝手に使ってみた」
「……そっか。うん……いい匂い……」
「何となく元気になるような気がしない?」
「うん……する……かも……」
「ふふ」

 おかゆのお陰だろうか。身体がポカポカと温かいような、そんな感覚。
 高熱による不快な暑苦しい感じは、どこかへと消えてしまった。
 呼吸も先程より穏やかになっているような気がする。
 眠るクレタの髪を撫でながら、優しく微笑むJ。
 キュッと掴まれた指先に、幸せを覚える。
 キミは苦しいかもしれないけれど。
 こんな風に、ゆっくりと時間が流れていくのを感じるのも良いね。
 けれど、やっぱり……キミとはお喋りしていたいな。
 楽しそうに嬉しそうに、こんなことがあったんだって話すキミの顔が、早く見たいよ。
 緩やかに過ぎていく時間、繋いだ指先、掌から全身へ伝わる柔らかな髪の感触。
 その全てに酔いしれるようにして目を伏せていたJ。
 そこへ、カチャリと扉の開く音。
 見やれば、そこにはコーヒーカップを手に持ったヒヨリの姿があった。
 ヒヨリは何も言わずに微笑みながら歩み寄り、Jの隣に腰を下ろす。
「だいぶ良さそうだな」
「まぁね」
 差し出されたカップを受け取り、投入した砂糖とミルクの量を確認した後、
 満足気に頷いてコーヒーを口に運んだJ。
 まだ少し苦しそうではあるものの、朝よりは明らかに顔色が良い。
 真っ青だったもんだから、かなり心配したんだ。良かった良かった。
「それにしても、特効薬の効き目は凄いな」
「味も凄まじいけどね、あれは」
「お前、昨日、飲むのヤダって駄々捏ねたんだって?」
「捏ねてない」
「嘘つけ。夕食の後、クレタが言ってたぞ」
「捏ねてない」
「見たかったなぁ、駄々っ子なお前」
「……本当、うるさいね、キミは」
 静かにしろと苦笑しながらヒヨリの背中をパシンと叩いたJ。
 その時、クレタがフッと目を開いた。
「ほら、キミが騒ぐから起きちゃったじゃないか」
 不愉快そうな表情で言ったJ。ヒヨリは肩を竦めてコーヒーを口に運ぶ。
 Jの隣に、もう一人。誰かがいるような気がする。
 そう思うだけで、その人物がヒヨリだということに気付いていない様子のクレタ。
 寝ぼけているのだろうか。意識が朦朧としているのだろうか。
 クレタは目を伏せて、そっと手を伸ばした。
 伸ばした手は、真っ直ぐにJの手元へ。
 Jは手を取り首を傾げた。
「うん? どうして欲しい? 何か欲しいものあるのかい?」
 こんな風に弱りきっている姿、あなたには見られたくないんだけれど……。
 あなたの優しさを痛いほどに感じることが出来るから、幸せだなって思うところもあるんだ……。
 どうして欲しいって……。欲しいものはあるのかって……?
 何が欲しいって……Jが欲しい。
 もう少し強く握って。痛いかもって思えるくらいが丁度良いんだ……。
 僕の名前を呼んで、何でも良いから、くだらないことでも良いから、御話して欲しいな……。
 あなたの体温と声は、僕の心を優しくさせるから……。
 息をすることも怖くなくなるような気がするから……。
 僕ね……ここへ来る前、薬を飲んでいた時、
 その副作用で、毎晩、今みたいに意識が朦朧としていたんだ。
 その時は、いつも、窓の外に浮かぶ月を見てた……。
 そうすることで、心が落ち着くような気がしたから……。
 あなたの綺麗な目を受け取る為の副作用だったんだって知っていれば、
 怖いだとか、不安になることもなかったのかもしれないけれど……。
 こうして触れられているのが、一番ホッとする。月なんかより、ずっと……。
 ねぇ、もっと。もっと、傍にきて……。
 感じたいんだ。あなたの全てを。
 今なら、すんなりと言えるかもしれない……。
 あなたが大きく関与している、僕の『欲求』を。
 実際に口にすることは出来ないだろうけれど……。
 言えるような気がするって、それだけで今は十分なのかもしれないから……。
 ねぇ、もっと。もっと、傍にきて……。
 感じたいんだ。あなたの全てを。
 ねぇ、もっと。もっと、触れて……。
 感じたいんだ。あなたの全てを。
 寝言のように呟いたクレタ。
 その言葉に微笑み、Jはヒヨリに確認した。
「聞こえた?」
「聞こえたよ。はっきりと全部」
「じゃあ、空気読んでよ」
「お前にだけは言われたくないなぁ、それ」
 苦笑しながらヒヨリは立ち上がり「お大事に」と言い残して部屋を出て行った。
 俺は空気の読めない男じゃ御座いませんので。
 それにしても、ちょっとヘコむなぁ。
 あの口調から察するに、俺には気付いてないよね。
 他のヤツなんて目に入らないとか、そういう感じですか。
 あ〜……何だろう、この敗北感みたいな。虚しいような感覚。
 ションボリしながらトボトボと歩くヒヨリ。
 歩きながらコーヒーを飲む姿を発見したナナセが駆け寄って叱る。
 追い打ちを掛けるように説教タイムへ突入。
(何だかなぁ……)
 ヒヨリは、更にガックリと項垂れた。


 頭を抱き寄せて添い寝。
 耳元で囁くのは他愛ない話。
 未だに朦朧とする意識の中、クレタは幸せそうに微笑んだ。
 あなたがいて良かった。あなたが、ここにいてくれて良かった。
 一人でこの苦しみに耐えるのは心細くて切なかっただろうから……。
 おかしなことを言っているかもしれないけれど、僕ね……あなたを待ってたんだ。
 あなたが来るのを、ずっと待ってた。
 いつから……? そんなの、もう忘れちゃった……。
 会いたかったんだよ、J。ずっと、ずっと、あなたに会いたかった。
 離れないでね。もう二度と。
 ずっと、ずっと僕の傍にいてね。嫌だなんて言わないでね……。
 もしも、そんなことを言うのなら、何度も何度も聞き返すから。
 何て言ったの? 聞こえなかったって……何度も、とぼけてみせるから。
 ねぇ……そのまま、御話、続けてて……。
 その合間にね、大丈夫? って……聞いてくれないかな……。
 しつこいくらい、うっとおしいって思えるくらいきいてくれないかな……。
 僕は、その度に笑って大丈夫だよって頷くから……。
 あなたが言うからこそ、意味のある言葉なんだ……。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
 NPC / J / ♂ / ??歳 / 時狩 -トキガリ-
 NPC / ヒヨリ / ♂ / 26歳 / 時守 -トキモリ-

 シナリオ『 仰せのままに 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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