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■スパイダー・レイン■

藤森イズノ
【7707】【宵待・クレタ】【無職】
 遠くから聞こえてくる……呻き声のようなもの。
 助けを求める、悲鳴のようにも聞こえるし、
 怒りを露わに、罵声のようにも聞こえる。
 どこから聞こえてくるのか。その出所を探す内、ギルドの外へ。
 白い花が咲き乱れている中庭にて、ふと見上げる。
 いつもと変わらぬ、漆黒の空。光皆無の闇の空。
 呻き声は、次第に近く、近く……。
 ― 空から……!
 そう気付いた瞬間、闇から無数の『何か』が降り注ぐ。
 スパイダー・レイン

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 遠くから聞こえてくる……呻き声のようなもの。
 助けを求める、悲鳴のようにも聞こえるし、
 怒りを露わに、罵声のようにも聞こえる。
 どこから聞こえてくるのか。その出所を探す内、ギルドの外へ。
 白い花が咲き乱れている中庭にて、ふと見上げる。
 いつもと変わらぬ、漆黒の空。光皆無の闇の空。
 呻き声は、次第に近く、近く……。
 ― 空から……?
 そう気付いた瞬間、闇から無数の『何か』が降り注ぐ。

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 闇に紛れて降り注ぐのは……矢だ。
 どこかで見たことのあるような形だけれど、
 今は、そんなことを思い返している暇はない。
 降り注ぐ矢を避け、ギルド入り口にある大きな柱に身を隠して再び空を見上げる。
 まるで、雨のように降り注ぐ漆黒の矢。
 とめどなく降り注ぐ矢が突き刺さった箇所からは、青白い炎が立ち昇る。
 空から降ってきていることは理解った。
 妙な声も空から聞こえてくる。それも理解る。
 でも、肝心なところは理解らぬまま。
 この声の主は誰だろう。この矢を降らせているのは、声の主なのだろうか。
 止むことなく降り注ぐ矢。ハッと我に返って視線を落とせば、気付く。
 矢が降り注いでいるのは、この付近だけ。
 ギルドを中心として、円状に降り注いでいる。
 狙いは、ギルド?
 ギルドそのものを狙ってくるなんて……そんな人物、心当たりがない。
 とにかく、このまま放っておくわけにはいかない。
 皆も、異変に気付いているはずだ。
 チカラを合わせて、何とかしなくちゃ。
 大切な、みんなの帰る場所を護らなくちゃ。
 慌てて身を翻し、ギルド内部へと駆け入って仲間のもとへと急いだクレタ。
 だが、いったい、どういうことか。
 誰一人として、この異常事態に気付いていない。
 全員、すやすやと寝息を立てているではないか。
 どうして? こんなことになっているのに、どうして眠っていられるの?
 起きて。大変なんだ。何とかしなくちゃ、大切な場所が燃やされてしまう。
 仲間の身体を揺すりながら、必死に訴えるクレタ。
 気が動転していたが故、ここでようやく気付く。
 自分自身に起きている異変に。
 放っているつもりだったのに、声が出ていない。
 その事実に気付いたクレタは、自身の喉に、そっと触れてみた。
 いつもは、ひんやりと冷たい肌が、やたらと熱を持っている。
 この感じ……どこかで……。
 思い返したいのは山々だけれど、そんな暇はない。
 クレタは仲間から手を離し、再びギルドの外へと駆け出した。
 どうして声が出ないのか。助けを求めることも、想いを伝えることも出来ぬではないか。
 皆が目を覚まさないのも、この現象が関与しているのかもしれない。
 それなら、僕がするべきことは、ひとつだけ。
 声が出ないことに対する、もどかしさに眉を寄せながら、
 クレタは両手を空に高く掲げ、光の能力を解放した。
 ギルド全体を覆う光の壁。
 降り注ぐ漆黒の矢は、弾かれて外へと転がる。
 大切な場所と、みんなを護る。
 僕にしか出来ぬ状況ならば、全力で応じるまで。
 でも……この対処は一時的なものに過ぎない。
 このまま延々と降り注いでこられては、いつか、僕の魔力が尽きてしまう。
 そうなったら、もう……僕だけのチカラでは、護ることが出来ない。
 光の壁を発動しながら、しきりに空を見上げるクレタ。
 声の主は、どこにいる。
 矢を降らせている犯人と同一人物の可能性が非常に高い、声の主は、どこにいる?
 一体、何の為に、こんなことするの。
 みんなを眠らせたのも、あなたなんでしょう?
 どうして? どうして、こんなことするの。
 大切なんだ。仲間も、帰る場所も。
 かけがえのないそれらを失ってしまうなんて、考えられないよ。
 沸き立つ怒りは抑えるから。だから、聞かせてよ。
 あなたが、こんなことをする理由を聞かせてよ。
 せめて、理由を明らかにしてから及んでよ……。
 何度も心の中で訴えるうちに、クレタの内にある怒りが大きくなっていく。
 抑えるつもりの怒りに抑制が効かなくなってくれば、それは能力にも反映される。
 どんどん分厚く、大きくなっていく光の壁。
 オーバースキルだ。
 この状況が、持続するのはマズイ。
 クレタの身体が参ってしまう。 
 だが、クレタ自身にも抑えることが出来ない。
 自分が現在、怒りに満ちていることにさえも気付けていない。
 漆黒の闇、その上空へと向かって伸びていく光の壁。
 オーバースキルが限界に達してしまった時。クレタの魔力が、底をついた瞬間。
 パリンとガラスの割れるような音が響き、光の壁はバラバラと崩れてしまう。
 どうしようもない。自分一人では、どうすることも出来ない。
 仲間が傍にいれば、みんなでチカラを合わせれば、どうってことないのに。
 その場に膝をつき、悔しそうに唇を噛み締めたクレタ。
 再び、漆黒の矢が降り注いでくる……かと思いきや。
(……。……?)
 辺りを静寂が包み込む。矢が降ってくる気配はない。
 クレタは首を傾げながら空を見上げた。
 すると、視界に、見知らぬ姿が映り込む。
 長く黒い髪を揺らす、とても妖艶な女性の姿。
(あなたは……)
 心の中でクレタが呟くと、どこからかクスクスと笑い声が響き。
 謎の女性は、舞うようにして闇の中へと溶けてしまった。
「……誰? ……!」
 声が元に戻った。クレタは、すぐさま立ち上がり慌ててギルドの中へ。
 仲間の安否を確認しようと、全員の部屋の扉をバタバタと開けていく。
 仲間達は、みなキョトンとした顔でクレタを見やった。
 こんな夜中に、何を騒いでるんだと笑われてしまう。
 先程までの状況を必死に伝えるものの、笑い話にされるだけ。
 証拠を見せようと仲間を外へ連れ出してみるものの、どういうわけか。
 各所に突き刺さっていたはずの漆黒の矢は、跡形もなく消えていた。
 ギルドは、いつもどおり悠然と……美しい姿を保っている。
「何で……。だって、さっき、僕……」
「っはは。寝ぼけてるな〜?」
 クスクス笑いながらクレタの頭を撫でたヒヨリ。
 クレタが必死に説明したことに、他の仲間も笑っている。
 確かに事実なのに。本当なのに。
 本当なんだ、嘘じゃないんだ。寝ぼけてなんかいない。
 あそこでも、ここでも、青白い炎が立ち昇ってたんだ。
「はいはい。わかったわかった。部屋戻って、寝ような」
 頭を撫でながら笑って言うヒヨリ。信じてくれない。
 まぁ、仕方のないことかもしれない。
 クレタが口にする事柄は、何ひとつとて確認できないのだから。
(どうして……)
 ヒヨリに背中を押されながら、ふと窓の外を見やったクレタ。
 どうして、何事もなかったかのように元通りになっているんだろう。
 聞こえた声は、誰のものだったんだろう。 
 あの……女の人は、誰なんだろう。
 納得いかぬ様子のクレタ。
 誰もが笑い話にしたけれど。
 ただ一人だけ、クレタの話を笑うことなく神妙な面持ちで聞いていた人物がいる。
 ジャッジだ。
 まったく……子供のような真似をしおって。
 何か? これは、宣戦布告のようなものかね?
 警告? なるほどな。そう受け取るのが妥当かもしれん。
 だが、少しは理解ったのではないかね。
 彼等の想いが、どれほど強いか、知ることが出来たのではないかね。
 うん? 彼の名前? あぁ、そうか。君は、まだ知らぬのか。
 彼の名は、クレタ。いいや、私が生んだ存在ではない。
 彼を生んだのは、Jさ。 いつ? そんなこと、もう忘れてしまったよ。
 随分と興味津々ではないか。まさか、気に入ったのかね?
 肩を竦めて苦笑したジャッジ。
 階段を降りていく、その横顔を目撃したクレタの胸が、何故かチクリと痛んだ。
(ジャッジ……?)

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
 NPC / ヒヨリ / 26歳 / 時守 -トキモリ-
 NPC / ジャッジ・クロウ / 63歳 / 時の執裁人

 シナリオ『 スパイダー・レイン 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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