■失踪■
藤森イズノ |
【7707】【宵待・クレタ】【無職】 |
あなたの全てを把握することは出来ないけれど、掴みきれないけれど。
それでも、あなたを疑ったことは一度もなかった。
少々イビツだったかもしれないけれど、
いつだって、あなたは『真っ直ぐ』だったから。
掴みきれないことが、もどかしくて不安になったこともあったけれど、
あなたが微笑んでくれれば、それだけで、何もかも信じられた。
傍にいること。声が聞けること、触れること。
それが、あなたと自分を繋いでいたのに。
どこへ行ってしまったのですか。
あなたが約束を忘れてしまうなんて。まさか、そんなこと。
どこへ行ってしまったのですか。
あなたは今、どこにいるのですか。何を想っているのですか。
どうして……何も言わずに消えてしまうのですか。
「…………」
一人、時計台を見上げる。頬を伝う、不安の象徴。
約束の時間から、3時間が経過していた―
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失踪
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あなたの全てを把握することは出来ないけれど、掴みきれないけれど。
それでも、あなたを疑ったことは一度もなかった。
少々イビツだったかもしれないけれど、
いつだって、あなたは『真っ直ぐ』だったから。
掴みきれないことが、もどかしくて不安になったこともあったけれど、
あなたが微笑んでくれれば、それだけで、何もかも信じられた。
傍にいること。声が聞けること、触れること。
それが、あなたと自分を繋いでいたのに。
どこへ行ってしまったのですか。
あなたが約束を忘れてしまうなんて。まさか、そんなこと。
どこへ行ってしまったのですか。
あなたは今、どこにいるのですか。何を想っているのですか。
どうして……何も言わずに消えてしまうのですか。
「…………」
一人、時計台を見上げる。頬を伝う、不安の象徴。
約束の時間から、3時間が経過していた―
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このままずっと、待ち続ける? 涙を零しながら?
あなたの名前を呟きながら? ここで、ずっと?
そんなこと出来るものか。ただ、黙って待つなんて出来やしない。
ううん。違う。……探しに来いって、言われてるような気がするんだ。
姿が見えないのなら、探せ。声が聞きたいのなら、探せ。
逢いたいと想うなら、見つけてごらん。出来るだろ?
そう言われてるような……そんな気がするんだ。
「クレタくん。やっぱり、私も一緒に行くわ」
身支度を整えているクレタの背中に声を掛けたナナセ。
クレタは振り返ることなく淡く微笑んで、靴紐を結びながら返した。
「ううん。僕、一人で行って来る。待ってて……」
僕にしか探せない。僕にしか見つけることが出来ない。
どうしてか理解らないけれど、強く、そう思うんだ。
もしも誰かと一緒に来たら、あなたはきっと隠れてしまう。
どうして一人で来ないんだって、顔を背けて怒ってしまう。
きっと……。だから、僕は一人で行くよ。
あなたが、いつも、そうしてくれたように。
僕も、恥らったり躊躇ったりすることなく、あなたを求めるよ。
あなたの名前を何度も何度も繰り返すから。応えてね、J。
いつでも、重なり合い寄り添うように、僕の中にある綺麗な二つの旋律。
一つは僕の鼓動。もう一つは、あなたの鼓動。
聞こえなくなったわけじゃない。旋律は、今もここに。
あなたの鼓動は、僕の耳に届いてる。
いつでも傍にいるんだ。忘れたりしないよ。
もっと鮮明に聞こえたら、あなたの手を容易く捕まえることが出来るのに。
耳の奥、小さく聞こえる鼓動を頼りに。クレタは時の回廊へと向かった。
ランツォーロにある……有名な庭園に行く約束をしてた。
あなたが、誘ってくれた。絶対に僕なら喜ぶはずだからと言って。
もしかしたら、そこにいるのかもしれないって一瞬、思った。
待ち合わせの過程を飛ばして、先に現地で僕を待っているのかもしれないって。
でも違う。多分、そこじゃない。
一緒に行くって約束したんだ……。
一人で行くなんてこと、あなたは絶対にしない。
どこへ……どこへ行くだろう。
僕なら、僕なら、どこへ行くだろう。
何もかもを放って、自分と向き合うとしたら。
自分の心を見つめながら、誰かを待つとしたら……。
ピタリと足を止めたクレタ。
そこは、外界:東京へと通ずる扉の前。
僕なら……繁華街から外れた、あのビルに行く。
そして、屋上で膝を抱えて座るんだ。
そうしてきた。僕が、そうしてきたように、もしかしたら、あなたも?
話したことはあった。あなたの膝の上、あなたの胸に背中を預けて、
紅茶を飲みながら、他愛ない話をしていた時、尋ねられたんだ。
自分だけの、とっておきの場所は、あるかい? って。
すぐさま頭に浮かんだから、僕は即座に返した。
何もかもを忘れていた頃、何度も足を運んだ場所。
そこで蹲り、月明かりを感じながら僕は目を伏せた。
喪失感のような、孤独感のような、それでいて安心感のような……不思議な感覚。
全てが、あなたを求める感覚だったことを、今は理解しているけれど。
僕の言葉に、あなたは笑った。嬉しそうに笑った。
俺のことを考えるための、とっておきの場所だったんだね、って。
全てを思い出してから、僕は、あの場所に行っていない。
必要なくなったから。寂しいだなんて、そんなこと思わなくなったから。
あなたが傍にいてくれる限り、僕はもう、二度と、あの場所には行かない。
ねぇ、J。
もしかして、不安なの?
あの日の僕のように、怯えているの?
でも、どうして? 僕は、ここにいるよ。
あなたの傍を離れるなんてこと、考えもしない。
そんなこと、出来るはずもない。だって、僕の心は、あなたでいっぱいだから。
求め続けた、愛しい人。
お互いに探してた。どこにいるんだって呼び合ってた。
求め続けて、ようやく。こうして、一緒にいられるようになったのに。
もう二度と離れたくないって思ったのに。
どうして? どうして、繋いだ手を離してしまったの。
何も言わずに消えないで。
怖いと思うのなら、迷わず僕の名前を呼んでよ。
いつだって、飛んで行くから。
一緒にいるのに、こんなにも傍にいるのに。
あなたのことを想っているのに、どうして……呼んでくれなかったの。
外界:東京にある、クレタの『とっておきの場所』
久しぶりに訪れたビルの屋上で、クレタは月を見上げて溜息を落とす。
ふわりと漂う、愛しい人の香り。けれど、それは残り香。
あなたが、ここにいたことは間違いない。
遅かったわけじゃないんだよね。
僕が来たことに気付いて、あなたは姿を眩ませた。
ねぇ、その行為が意味するものは……何なの。
逢いたくないってこと?
探しに来てって、見つけてごらんって言ったじゃないか……。
どうして、消えてしまうの。捕まえさせてくれないの。
理解らないよ。あなたのことが、理解らない。
どうすればいい……。僕は、どうすればいい?
ただジッと、黙って、あなたを待つことしか出来ないの?
そうすることしか許してくれないの?
そんなの酷いよ。
それなら、呼ばないで欲しかった。
探しに来いだなんて、見つけてごらんだなんて言わないで。
見つけさせる気がないのなら、逢う気がないのなら、呼ばないで……。
せっかく、こうして、探しに来たのに。ここにいたのは間違いないのに。
もう少しで届くところだったのに、スルリと抜けて……どこかへと消えてしまう。
捕まえることが出来なかったことへの、悔しい気持ち。
捕まえることをさせてくれないことへの、不安な気持ち。
逢いたいと想うのに、求めているのに、叶わない。
どうすれば良いのか、どうすることが正しいのか。
こんなにも想っているのに、ずっと傍にいたのに、心を読めない。
いつしか、悔しい気持ちは不安な気持ちに飲まれ、
クレタの心は、言い様のない恐怖に支配されてしまった。
グッと唇を噛み締め、涙を堪えながらクレタは引き返す。
呼んだところで、姿を現すことはないだろう。
どうして拒むのか、気持ちが理解できないからこそ悔しい。
引き返すことしか出来ない自分に、苛立ちが募る。
トボトボと引き返していくクレタの丸い背中を、Jは夜空から見つめていた。
来てくれて有難う、クレタ。見つけてくれて有難う、クレタ。嬉しいよ。
キミなら、きっと、すぐに見つけてくれるはずだって思ってた。
でも、切ないな。嬉しいのに、それよりも切ないよ。
すぐ傍にキミがいるのに、抱き寄せられない、この、もどかしさ。
名前を呼んでくれても、応じることの出来ない、この、もどかしさ。
ごめんね、クレタ。もう少しだけ。もう少しだけ、待っててくれるかい。
階段を降りていくクレタの背中を見届け、小さな溜息を落としたJ。
溜息を吐き切る前に、携帯が着信に揺れる。
通話ボタンを押し、耳に宛がうものの、Jは無言。
ただ、一言だけ。
目を伏せて、Jは返答した。
「あぁ、今、そっちに戻ったよ」
電話の向こう、Jと会話している人物が誰なのかは、わからない。
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
NPC / ナナセ / 17歳 / 時守 -トキモリ-
NPC / J / ??歳 / 時狩 -トキガリ-
シナリオ『 失踪 』への御参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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