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■スピリッターズにようこそ!二度目の事件。■

麻衣
【7849】【エリー・ナイトメア】【何でも屋、情報屋「幻龍」】
「はい、わたしがこの『超常組織スピリッターズ』の代表、エル・レイニーズよ」
「あたしは女子高生の故河・あずさ。超能力者です。あ、さっきのオバサンは霊能力に長けてるんだって」
「って、わたし32歳よ」
「十分オバサンじゃない。ねー由宇くん」
「そうかな?」
「じゃあここで由宇くんにも自己紹介させてみますか」
「波多野……。空間を自在にあやつります」
エルはあずさと由宇を前に出し、セリフをしゃべらせた。
「ぼくたち、わたしたちは、あなたの不思議体験で困っていることを解決します。連絡先はフリーダイヤル4949……(中略)」

「はい、カットー!」
 テレビカメラにいる監督兼カメラマンがカーンと木のはじける音を鳴らした。
「この映像でスピリッターズをどんどん宣伝しましょう」
エルは妙にやる気であったが、
「でもその映像、どこで流すの?」
という由宇のツッコミに周りはシン……と静寂に落とされた。

 結局このVTRはどこにも流されなかった……。
スピリッターズにようこそ!
 知る人ぞ知る「超常組織スピリッターズ」。空地のプレハブ小屋で、エル・レイニーズ、故河あずさ、波多野由宇がメンバーとしてやっているが、たいてい暇を持て余している。

「寒〜い。足もとから底冷えする寒さだわ」
 かじかむあずさに対し、余裕で漫画を読みふけっている由宇は、
「じゃあ超能力で火でも起こせば?」
と、いつもの無表情で言葉を返す。
「あたしは魔法使いじゃないってーの!」
近くにあった空洞だらけのティッシュ箱を由宇へ投げようとした瞬間、

ピンポーン。

あずさはティッシュを手から離し、ドアのほうへ向かった。
 そこに立っていたのは英国紳士を思わせる中世的な外見の者で、長い銀髪を緩く結び、薄い赤と薄い紫のオッドアイというめずらしい外見の持ち主だった。
(うわーすごい人来ちゃったよ……)
というのが子供たちの本音である。
「あの、お願いしたいことがあるのですが……」
耳まで赤くなるほど緊張してた2人は我に返り、
「あの、どうぞ寒いところですが入ってください。ボロボロのソファーですが、よ、よければおかけください」
「失礼します」
英国紳士はそれらしく静かに座り、あずさは台所へ行ったが、すぐに手招きで由宇を呼んだ。
『どうしよう。スーパーで売ってた安い紅茶しかないよー』
『じゃあそれを飲ませればいいじゃん』
『あの人絶対、味に詳しそうだよ。ダージリンとか飲むんだよ! きっと』
そうもめている2人の様子を見た紳士は、
「あ、特にお構いなく」
と助け舟を出した。
「ご、ごめんなさい。あたしたちまだ未熟者で……」
と汗をかきながら返事をしていた。

「それではお願いしたいことなんですが……」
「は、はい」
 実はあずさや由宇はこういうことには慣れていない。まだ15歳前後の少年少女なのだから無理もあるまい。
「ある交通路で、長い女性の髪が切られるというものらしいのです。しかし誰かの手によってハサミで切られたようなものではなく、剃刀か何か……違うもののようです。また、そこを通った人は気づかず、いつの間にか切られるようです。本来は僕に依頼してきたものなんですが、手に負えないと判断したので、お願いに参りました」

 紳士は笑顔でそう話し、あずさがその話を聞き、隣で由宇がメモをしていた。
「では今回は仮契約として受け取り、後に本契約を交わすことになりますがよろしいでしょうか?」
と、あずさは紳士を見ながらそう答えた
「決まり次第、お知らせしますね。ここにお名前とご希望の連絡先を書いていただけますか?」
と言うと、紳士は電話番号と自身の名前と思われる、「レイ・ナイトメア」と書き残し、この日は帰ってもらった。

 エル・レイニーズ(32歳)が帰ってくるまで2人で待っていたが、夕方になっても帰ってこないので、彼女の携帯にメールを入れたのち、自宅へ帰ることにした。

――数日後。

ピンポーン。

「年増女じゃないよね? チャイムだし」
 あずさは変に思いながらドアを開けると……。
「こんにちは。上がってよろしいですか?」
こないだ来たレイであった。
「ごめんなさい。まだ本契約にできてなくて」
「構いません。様子を見に来ただけですから」
「じゃあ上がってくだ……」
というあずさの声をさえぎるかのように、
「ごめんなさい。ちょっと事件が立て込んでて」
と年増……いや、スピリッターズのボスが帰ってきた。

 本契約にいたるまではすんなり終わった。今度は現場検証へ向かう。

 その事件が起きるという交通路にレイ、エル、あずさ、由宇は行くこととなった。
「あの〜。これってあたし実験台?」
イエローブラウンの長い髪の毛をしたあずさは、すごく嫌な顔して路地に立っていた。
「だって私はボブだし、由宇くんは短髪でしょう? もちろん依頼主には実験台なんて不可」
「髪なんてね、女の命なのよ! 美容院代はらってくれる? エクステだってつけてくれる?」
必死でまくしたてるあずさの声にも、エルは冷静に対応する。
「だってしょうがないでしょう? ウイッグには反応しないらしいし。大丈夫。いい腕の美容師さんに整えてもらうから」
 
 あずさは嫌そうな顔をしながら歩いていった。
「エル、霊体反応はある?」
ぼそっと由宇はエルに話しかけた。
「弱いけどあるわね。空間反応は?」
「なし」
3人はじっと、歩いていく彼女を観察していた。

「――!」
 いま目にした。あずさの髪の毛が何本か不揃いに切り落とされた瞬間を。
「空間反応はなし」
「霊体反応がアップ。……でも一瞬ね。かまいたちのような風で切り刻まれたようね」
そんな冷静な観察をしている彼らの前で、太陽にも届く鋭利な声を飛ばせながらあずさが走ってきた。
「美容院!」
一同はあきれたが、このままにしておくのはかわいそうなので、美容院に連れて行ってお開きとなった。

 少なくともこれで霊的な事件ということが確証された。エルは事務所のパソコンを開き、ため息をついた。
「霊的な事件なのはわかったけど、レイ・ナイトメアという人物も気になるわ。暇なときに調べてみましょう」

 24時某日。エルは単身あの交通路に立っていた。すると人影が見える。
「レイさんかしら? それともエリーさんと言うべきかしら?」
交通路にのびた蛍光ライトに照らされたため、できあがった影に話しかけた。やがて出てきたのはレイ――いや、エリー・ナイトメアだった。
「さすが刑事さん。僕の本名も調査済みですか」
「あなたはなぜここにいるの?」
「いや、偶然この近くを通ったので、様子を見ようと思ったらエルさんがいたんですよ」
やりにくいわね、とエルは思いながら徐霊に臨んだ。

「そこにいるんでしょう? 姿をぼかしていても私にはわかるの。少し話してみない?」
エルには見えている。うすくぼかした霊体が空気のように漂っているのを。すると霊はボブカットにパーマをあてた女性の格好を現した。
『あの長い髪の女がわたしの旦那に……』
「でもあなたがいまやっているのは、ただ髪を長い人を切って自分を満足させようとしているだけ。このままだと天国にも地獄にも行けないわ」
『でもやめられない……長い髪の女は嫌い……あの女はもっと嫌い……』

 と話し合ってる間にエリーの長い銀髪に気づき、霊は切り落としに行こうとした。
「しまった!」
女の幽霊はエリーの髪の毛をその大きな爪で斬り落そうとした。
「間に合わない!」
そう思った瞬間、霊ははじき飛ばされ、エリーの前には結界が張られていた。彼女はにっこり笑い、
「僕のことは気にしないで続けてください」
まさか彼女がそこまでの能力者とは思っていなかったので正直動揺したが、徐霊に戻ることにした。

「いまなら天国へ行かせてやることができるわ。承諾して」
『イヤだ、イヤだ、イヤだ! わたしはここに残る』
「じゃあ仕方ないわね」

 エルは手の中から黄色の拳銃を発生させ、霊に向かって発砲した。霊はするりとかわして空を飛んだが、エルは現役の刑事、すぐさま体勢をかえて一発撃ち込んだ。しかしこの霊は自由に動きや形を変え、するりと抜けていく。

「しまった!」

 エルは霊の居場所を見失い騒然としたまま立っていると、霊は背後にいてエルを侵食し始めた。

――

「ねぇ。あそこに女の子が立っているよ」
「なに変なこと言ってるの。そこには誰もいませんよ」

――

 霊は侵食をじわじわしながらも、
「負けるものか……」
とエルは右手を開き、あるものを発生させた。
「エルさん。まさかあなた……」
 エリーは思わず結界の外に出て走っていった。彼女は手の先に細いレイピアをにぎり、そして……。

 自分ごと霊をつらぬいた。

 霊はエルの身体から煙のように浮かび上がり、夜のプラネタリウムへと姿を消した。しかし成仏させた本人は倒れ込み、エリーは急いで救急車を呼んだ。

「特に異常はないけれど、昏睡状態ですね。様子をみましょう」
 かけつけたあずさや由宇も心配そうにしている。
「治るんでしょうか?」
あずさは真剣なまなざしで医者に問いただした。
「わからないねぇ。下手したらずっと植物……」
その先はつらくて3人は記憶に残さなかった。

 鼻のあたりから流動食を注入されているエルの姿が目にうつる。
そこにあずさは立ちすくみ、エリーと由宇は丸椅子に掛けた。
「年増女、起きてよ。いつもみたいに怒ってよ。そんな言い方するなって」
エルの身体をゆするあずさに向かって、
「やめなよ。そんなすぐには起きないよ」
由宇は複雑な表情であずさを見上げた。
「なによ。まさか由宇は治らないと思ってるの?」
「……そうかもしれないとは思ってる」
あずさが思わず由宇に手を挙げた時、
「すみません。僕がこんなことを頼まなければよかったんです。みんな……僕が悪いんです……」
「レイさんが悪いわけないじゃないですか。ただ悲しいの。涙……止まらなくなるの……」
あずさはずっと泣き続けていた。
「これはどこかで聞いた話ですが……」
とエリーはある話をしてくれた。世の中には生き霊と死霊と分けられていて、死霊は成仏させればあの世へ行くが、生き霊は死んでいないので、回復する可能性は多大にあること。
「いまは彼女を信じましょう。あずささん、由宇さん」

 その後、なぜかエリーがスピリッターズ事務所に出入りすることが多くなった。
「だって子供だけにまかせておけないでしょう?」
と、仕事の合間に来てくれてるようだ。自分も子供であるにも関わらず。正直あずさも由宇もエルの健康状態が心配で、何も手に付かなかったので、空気を和ませるエリーの存在がありがたかった。

LuLuLuLuLu

電話の音だ。エリーが真っ先に取った。
「……はい、はい。わかりました」
受話器を置いて、由宇やあずさの方を向かってこう言った。

「2人とも病院へ行きましょう! エルさんが目覚めたそうですよ」

 それを聞いた3人は事務所を飛び出して病院へ向かった。
最初にどんな言葉をかけよう? そんなことを考えながら。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7849 / エリー・ナイトメア / 女性 / 15歳 / 何でも屋、情報屋「幻龍」】

【NPC4783 / エル・レイニーズ / 女性 / 32歳 / 女刑事】
【NPC4829 / 故河・あずさ / 女性 / 15歳 / 女子高生】
【NPC4852 / 波多野・由宇 / 男性 / 14歳 / 男子中学生(不登校)】

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■         ライター通信          ■
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発注ありがとうございます。真咲翼です。
描写力未熟、読みにくさ大でごめんなさい〜と謝りたい気持ちもあるけれど、
だったら私にしか書けないものを書こうと思いました。
気に入ってくださると嬉しいです。