■「あなたのお手伝い、させてください!」■
ともやいずみ |
【7849】【エリー・ナイトメア】【何でも屋、情報屋「幻龍」】 |
トラブルメーカー。迷惑を振りまく疫病神。
などなど。
彼女はそんなイメージを持つサンタクロース。
宅配便を仕事にしてはいるが、世間は不況。彼女はいつも貧乏で、おなかを空かせている。
そんな彼女とあなたの一幕――。
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「エリー・ナイトメアさんのお手伝い、させてください!」
「すいませんね」
そんな一言にくるくると巻かれた金のツインテールが揺れる。
振り返って、呟いた相手を見つめた。
「とても多くて、僕だけでやったら終わらないんですよ」
本当にすまなさそうに言う少年のようにすら思える体躯の娘に、金髪の幼い娘は満面の笑顔を浮かべた。
「いいですよぉ。それを承知でお引き受けしたんですからぁ」
えへへぇ、とだらしのない笑みを浮かべる娘を見返し、彼女は微笑む。
「助かります」
***
数日前――。
資料で溢れ返っている自宅の部屋を見渡し、エリー・ナイトメアは軽く嘆息した。
不必要なものなどないが、これでは散らかり過ぎだ。
いくらなんでも……。
足元に転がるファイルを掴んで持ち上げると、その下にはクリアファイルに適当に入れられた書類が転がっていた。
どこへやったんだろうと思っていたのに……こんなところにあるとは。
「………………」
部屋の中心まで来て、見回す。
……これはまずい。いくらなんでも。
けれども一人でやるには資料の数が多すぎる。人手が必要だ。
「……はぁ。さて、どうしましょう」
のんびりと言いながらとりあえずファイルを拾い上げる作業を開始した。散らかる書類は後回しだ。
「手伝い、手伝いねぇ……」
何か頭のどこかで引っかかった。
しばし考え、あ、と思い出す。
前にどこかのチラシで見た。お手伝いもしますという、宅配便? なんでも屋? な、チラシだ。
どこだっただろう? エリーはさっと室内に目配せする。資料でもないものを取っておくわけはないので、おそらくはゴミ箱だ。
*
「こんにちはぁ」
ドアを開けたそこに立っていたのは、どう見ても小学生くらいの少女だった。
西洋人の少女はエリーを見上げて微笑む。
「あのぉ、お仕事を頼まれたサンタ便、じゃない、ステラですぅ」
「こんにちは。レイ・ナイトメアと言います。お手伝いはあなた一人ですか?」
偽名である名を名乗ったあとすぐに、大人は?
と言い掛けるがやめる。おかしい……なぜこんな子供が一人で来る?
エリーの視線を受け止めたステラが頬をぷくっと膨らませた。ますます幼く見える。
「こう見えてもサンタ便を切り盛りしているのはわたしですぅ! 立派な社会人なのですよ!」
「………………」
なんだろう。微笑ましい、という表現がぴったりだ。
顔だって、よく見れば整っていて可愛い。将来は美人になるに違いないだろう。
「そうでしたか。すみません。もっとたくさん人が来るのかなと思っていたもので」
「あ、そ、そうですよね。でもうち、わたしとレイしか居ないので……」
「従業員はお二人なのですか?」
「…………ま、まぁ、そんなところ……です」
汗を浮かべて難しい笑いを浮かべるステラだった。明らかに何かを隠していて、それがバレバレである。
(……あ。どうしよう)
エリーはこみ上げる笑いを堪えた。
いくらなんでもわかりやす過ぎる。こんな子も居るんだと思えば、どうしても可笑しい気分になった。
「では、中へどうぞ」
姿勢正しくステラを中へと促すエリーに、彼女はやっと自然に微笑んだ。
「はひー。広いですねぇ」
「そうですかね。無駄なスペースが多いと思いますけど」
資料をたくさん置くのに優れていても、広すぎると今のように手がつけられなくなるものだ。
だがエリーの内心など気づかず、ステラは感嘆の息を洩らして瞳をきらきらさせた。
「だってうちなんて、4畳半ですよぉ? こんなに広いとなんか手足をぎゅーっと伸ばせますねぇ」
「………………」
いま、4畳半とか言った?
エリーは一瞬足を止めそうになる。
なんだろうこの子。外見と印象が違う。貧乏なのか、もしかして。
「ステラさんには、資料の整理をお願いしたいんですけど」
話題を変えることによってエリーは彼女の関心をこちらに向けた。
ドアノブに手をかける。中が大惨事になっているのだが、彼女は驚くだろうか。
「資料についているラベルの色と同じ色のファイルに入れる仕事をやってもらいます」
「はい〜」
にこやかな笑顔だったステラは、開けられたドアの向こうの部屋の惨状に完全に固まってしまった。
「いつもなら、僕の相棒が居るんですが。今日に限って居ないんですよ」
苦笑するエリーの言葉にステラは反応しない。
「一緒に頑張りましょう」
「…………はひ」
頷きなのかよくわからない声を洩らし、ステラは落胆した。
やはりこの仕事を頼んだのは失敗だったかなとちょっと考えるが、俯いたステラがすぐに顔をあげてこちらを見てきたので驚く。
「やります! ガッツです! ガッツでいけば、大抵なんとかなります! お金以外!」
「…………」
最後の一言で、彼女の苦労がうかがえた気がした。
*
そんな感じで片付け始めてすでに二時間。
エリーもステラを手伝いながら、作業を進めている。しかし困ったことに、ステラは予想外にドジなのだ。
さっきも、ファイルを棚に入れようとして、別のファイルが上から落下して「ごちっ」と鈍い音を頭からさせていた。
振り向いた時には彼女が頭をおさえてうずくまっており、どういう状況かすぐに把握できてしまう。
(期待を裏切らない子ですね)
紫のファイルを持ってエリーの元にきた彼女は、まじまじとエリーを見てくる。
「そういえばナイトメアさんは、両目が色違いなんですねぇ。なんか髪の色も綺麗ですぅ」
かっこよい人ですぅ、と付け加えるステラの素直な感想でもある賞賛の言葉にエリーはちょっと戸惑った。
冷静沈着。どんな相手にだってそうだ。けれども。
(どう見ても……子供なんですよね)
妙な物体を見るような目で見てしまう自分がいる。
童顔の中学生や高校生、大人が居ても不思議ではない。だが……この娘は大人のつもりなのだ。それがどうしても、妙に見える。
長身のエリーからすればステラは小さい。かなり小さい。
「ありがとうございます。褒めていただいて、光栄ですよ」
笑顔で返すとステラは「もひょ?」と妙な奇声をあげて、照れた。……やはり変な女の子だ。
三時間が経過した頃、ステラが泣きそうな顔を……いや、実際、泣いていた。
「うわぁん、わたしが手伝ったら余計に散らかった気がしますぅ〜!」
「……いえ、そんなことは」
彼女が来る前よりはひどくない。だが、せっかく綺麗にまとめた書類をぶちまけてしまったのだ。
「すみません……わたし、役立たずで。ゆっくり慎重にやりますぅ」
「そんなに気にしないでください。二人でやれば片付きますから」
「いえ! ゆっくり慎重運転です!」
運転、は違う気がする。
彼女はゆっくり動きすぎて、今度はコケた。コケ方もスローモーションで、エリーは唖然としてしまう。
……ショートコントでも見ている気分だった。しかも、天然の。
支えに走れば良かったのだが、あまりにも意外なコケ方だったので見逃してしまった。いや、そもそもコケるものがないのに。
どてーんとコケた彼女はぶつけたお尻を摩り、浮かべた涙を堪えていた。
「ステラさん、大丈夫ですか?」
さっと手を差し伸べるが、彼女が唇を噛んで起き上がった。
「大丈夫ですぅ! お仕事を依頼されたのはわたしなのに、ナイトメアさんにご迷惑をおかけするわけにはいきません!」
どうやら意地を張っているようだ。
「痛いんじゃないです?」
さりげなく訊くと、
「痛くないですぅ! これっぽっちもお尻なんて痛くありません〜! ぶつけてないですぅ!」
やせ我慢が見え見えだった。
5時間後、資料はすべて片付いた。
「ありがとうございます、ステラさん。綺麗になりましたね」
部屋を見渡して優雅に言うエリーに、ステラは「はい」と喜んでいた。
*
お土産にもらった綺麗にラッピングされた袋の中には、手作りのカップケーキが二つ、入っていた。
「わはぁ」
ステラはその袋を何度も目の前に掲げては、感嘆の息を吐き出す。
お手製なんて!
(ということは、ナイトメアさんはお料理上手? お菓子作りが得意?)
甘いケーキやクッキー、タルトやチョコレートを想像してステラの口元がだらしなく緩み、涎がこぼれた。
「うひっ」
年頃の少女にあるまじき失態!
ステラは慌てて口元を拭う。外見は幼い少女なみだが、これでも16歳の乙女なのだ。
(あうぅ、なんてはしたない)
自身を叱り付け、目の前のエリーに笑顔を返す。
「美味しそうですぅ! ありがとうございますぅ〜」
「たいしたものでは。
僕、こう見えても食いしん坊ですから、こういうのは得意なんです」
「はひ? お菓子作りがですか?」
「疲れた時は糖分が欲しくなるじゃないですか」
微笑むエリーに、ステラはちょっと考えて大きく頷いた。
「そうですねぇ。甘いものの匂いとか嗅ぐと、それだけで幸せな気分になりますぅ〜。匂いがあれば想像して食べた気になれますぅ」
「…………」
今の言葉は聞かなかったことにしよう。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ! こんないいものまでいただいて、うひひ」
……最後の笑いも、聞かなかったふりをしよう。
大きく手を振って去っていく金髪のくるくる巻き毛を見送って、エリーは小さく息を吐き出す。
気づく、かな?
(中にこっそり手紙を忍ばせておいたんですけど)
感謝の言葉と、またいつでも遊びに来てくださいと。
そして……。
(さて、と)
きびすを返して家の中に引き返すエリーはふとそこで足を止めて考えた。
あのドジな少女が、自分の本名の書かれたメッセージに気づいて……どういう反応をするか。
想像して、思わず吹き出してしまう。すぐに姿勢を正して体裁を保ったが。幸いにも、誰にも見られていない。
(たぶんですけど)
いや、絶対?
最後の「エリー・ナイトメア」という自分の本名に彼女は頭の上に疑問符を浮かべて首を傾げるだろう。そして。
「はひぃ〜? 書き間違いですかねぇ。ファミリーネームしか合ってないですぅ」
なんて。
トンチンカンなことを言いながら、カップケーキを頬張るのだろう。
(ど、どうしたらいいんですかね。ちょっとツボに入りました……)
笑いを堪えるのにエリーは必死になり、口元を手で覆い隠し、後ろ手で玄関のドアを閉めたのだった――――。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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PC
【7849/エリー・ナイトメア(えりー・ないとめあ)/女/15/何でも屋、情報屋「幻龍」】
NPC
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】
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■ ライター通信 ■
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ご参加ありがとうございます、エリー様。ライターのともやいずみです。
なんだか少々手間取った片付けでしたが、いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。
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