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■戻らぬ仲間を■

藤森イズノ
【7707】【宵待・クレタ】【無職】
 外界へ仕事へ出掛けたオネとヒヨリからメールが届いた。
 その内容は、自分を呼びつけるものだった。それも、迅速な対応を求める雰囲気。
 何があったのか、何が起きているのか、詳しいことは理解らないけれど、
 二人が助けを求めていることはメールの文面からして明らかだ。
 急いで現場に向かわねば。
 状況が理解らないがゆえに準備のしようがないのが不安なところだけれど。
 二人が向かった先、現場は外界:ギルバアナ。
 そういえば、ギルバアナには巨大な兎がいるとナナセが言っていたような気がする。
 滅多に見かけないらしいけれど、もしかして……。
 どんなに考えたところで無意味だ。所詮、推測でしかない。
 今、自分がやらねばならぬことは案じることではなくて。
 一刻も早く、二人のもとへと向かうこと。
 でも……現場へ向かう前に、誰かに助言を乞うべきかとも思う。
 どうしよう。ダラダラと悩んでいる時間はない。
 戻らぬ仲間を

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 外界へ仕事へ出掛けたオネとヒヨリからメールが届いた。
 その内容は、自分を呼びつけるものだった。それも、迅速な対応を求める雰囲気。
 何があったのか、何が起きているのか、詳しいことは理解らないけれど、
 二人が助けを求めていることはメールの文面からして明らかだ。
 急いで現場に向かわねば。
 状況が理解らないがゆえに準備のしようがないのが不安なところだけれど。
 二人が向かった先、現場は外界:ギルバアナ。
 そういえば、ギルバアナには巨大な兎がいるとナナセが言っていたような気がする。
 滅多に見かけないらしいけれど、もしかして……。
 どんなに考えたところで無意味だ。所詮、推測でしかない。
 今、自分がやらねばならぬことは案じることではなくて。
 一刻も早く、二人のもとへと向かうこと。
 でも……現場へ向かう前に、誰かに助言を乞うべきかとも思う。
 どうしよう。ダラダラと悩んでいる時間はない。

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(……。いいや、行こう)
 誰かに助言を乞うことなく現場へと急ぐことを決断したクレタ。
 キジルやJに助言を乞えば的確なアドバイスを貰えただろうけれど、
 残念なことに、二人は今、揃って仕事に出掛けている。
 わざわざ携帯に連絡するのもタイミング次第では迷惑になるし、
 何よりも、今は、時間が一分一秒でも惜しい状況。
 具体的に何が起きているのかは把握することが出来ないけれど……。
 二人が向かった先は、外界:ギルバアナ。
 確か……そうだ、この扉から行ける。
 事前準備は疎かなまま。クレタは扉を開けて、飛び込んだ。
 慌てて飛び込んだが故に、異空間を経由する際に身体のバランスが崩れる。
 その状態のまま、到着してしまえば。
 ドサッ―
「いっ……」
 おもいっきり尻餅をついてしまった。
 お尻よりも腰に、ズキズキと痛みが走る。
(…………)
 痛みに顔を歪めながら、ヒョコヒョコと歩き出すクレタ。
 来たのは良いけれど……情報が少なすぎるのが厄介だ。
 ここに二人がいることは間違いないけれど、どこにいるのか理解らない。
 せめて、場所だけでも教えてくれたら助かるのに。
 携帯を見やりながら早足に歩き、考える。
 メールは……おそらく、見る余裕なんてないだろう。
 電話も……状況によっては、かなり危険を伴ってしまう。
 連絡を取り合うことが出来ぬのならば、道は一つだ。
 感覚を頼りに……耳を澄ませて二人の鼓動を聞き取るように意識を集中。
 あとはもう……運任せだ。
 Jの鼓動のように、はっきりと鮮明に聞き取ることが出来れば良いんだけれど……。
 歩きながら目を伏せ、二人の鼓動を感じようと集中。
 緊張の糸が、ずっと張り詰めたような状態が継続して、3分程が経過したとき。
(……これだ)
 耳の奥に届いた、微かな鼓動音。
 他の鼓動音と比べて、とても優しく柔らかなそれは、二人のものとしか考えられない。
 届いた呼吸音が呼ぶ方へ。クレタは一目散に駆け出した。

「オネ! 退け!」
「ちょっと待って……。隙が……」
「落ち着け!」
「待っ……わっ!」
「オネ!」
 鋭く巨大な爪から繰り出される攻撃。
 何だって、こいつは、こんなにデカいのに、こう素早いんだよ。
 舌打ちしながら、ザザザッと転がってくるオネを受け止めるヒヨリ。
 寸前で身を捩って回避したのか、オネのダメージはそれほどでもなさそうだ。
 けれど……逃げ続けるのには限界がある。いつまで体力が持つか。
 少しの間だけでも動きを封じることが出来れば何とかなるのに、
 こいつは、それをさせてはくれない。まぁ、当然なんだけど。
 それにしても、何だって、ここまで凶暴なんだよ。
 本来、こいつは大人しくて危害なんぞ加えない存在だろうが。
 俺達に非があるのか? 何か、機嫌を損ねるようなことしたか?
 いいや。してない。何もしてないのに背後から急に襲ってくるなんて、
 まるで通り魔じゃないか。あぁ、くそ。何だってんだ。
 手の打ちようがなく、危機であることを把握する度に苛立ちが募る。
 たかが兎。されど兎。ヒヨリとオネを襲うのは、巨大な兎。
 一目見ただけで、どんなに悪状況か把握することが出来る。
「ヒヨリ……! オネ……!」
 掠れた声で、クレタは二人の名前を呼んだ。
 その声は、確かに耳に届いている。
 クレタが来たことに、二人は間違いなく気付いている。
 けれど、応じることは出来ない。そんな余裕はないのだ。
 振り下ろされる爪から、必死に逃げ惑うヒヨリとオネ。
 巨大な兎は、どうやら目の前の獲物に夢中のようで、クレタには気付いていないようだ。
 二人の名前を呼ぶことは、控えるべきだ。
 自分の存在が、まだバレていないのならば、
 その状況を巧く利用するのが賢いだろう。
 クレタは巨大兎の背後へと回り、目を伏せて手指を躍らせる。
 指先から放たれた光は、ポンポンと灯り、階段状に光の踏み台を構築。
 構築を続けながら、クレタは光の階段を駆け上っていく。
 巨大兎の背丈と、同じ位置まで到達したら構築を止めて。
 クレタは、地上にいるヒヨリに目配せを送った。
 そのアイコンタクトが意味するものをすぐさま察したヒヨリは、
 手に持っていた漆黒の鎌を、クレタの手元目掛けて放り投げる。
 受け取った漆黒の鎌で、クレタは斬り裂いた。
 巨大兎の両ヒゲを、スパンと躊躇うことなく。
 ヒゲを失ったことにより、バランスを崩してフラフラとよろめく巨大兎。
 まだ、巨大兎はクレタの存在に気付いていない。
 ヒヨリが、ヒゲを目掛けて鎌を放り投げたのだと勘違いしている。
 よろめきながら、怒りに任せて爪を振り下ろす巨大兎。
 先程よりも凶暴に乱暴になってしまったのは痛いけれど、
 怒りから我を忘れて、隙が生じるようになっている。
 その隙をしっかりと見定め、ヒヨリとオネは軽々と攻撃を避けていく。
 反撃できれば更に良いのだが、そこまでの余裕は、まだなさそうだ。
 ヒョイヒョイと攻撃を避ける二人を見やりながら、クレタは次の手を。
 いつもは……僕が護りを担当するけれど。
 今日は、状況が状況だから、僕が攻撃を担当するよ……。
 とは言っても、皆のように一撃必殺の技があるわけじゃないから、
 ゆっくりと、ジワリジワリと削るような手法で。
 もう少しだけ、頑張ってね二人とも。
 疲労のピークが近そうだから、なるべく急ぐよ……。
 スッと胸元で手を組み、組んだ手に口付ける。
 空から降ってくるのは、巨大な光の槍。
 巨大兎の身体に突き刺さった光の槍は、更に輝きを増していく。
 標的の目には、この光の槍は見えていない。
 ただ、身体にグサリと何かが刺さる、その感覚と痛みだけが走る。
 これもまた、ヒヨリとオネの仕業だと勘違いしている巨大兎。
 目に見えぬ攻撃に、一層苛立ちが募る。
 我を忘れて暴れる最中も、光の槍は次々と突き刺さっていく。
 やがて、巨大兎の動きが、スローモーションのように鈍くなって。
 思うように動けぬ状態ゆえに、巨大兎に許される行為は、辺りを見回すことだけ。
 そこでようやく、巨大兎は気付いた。
 光の階段、その最上段で手を組んでいるクレタの存在に。
 だが、気付いたところでどうしようもない。
 足掻くこともままならぬ状況だ。
 必死に光の槍から逃れようとするものの、余計に食い込んでいくばかり。
 巨大兎の動きを封じたクレタ。
 それまで伏せていた目を開き、組んでいた手をパッと解き放つように離せば。
 突き刺さった無数の光の槍は、大きく膨張し……やがて、弾ける。
 水が飛散するような音と共に、光の大花火。
 柔らかく、そして優しい光に包まれて、巨大兎は煙となって消えていく。

 救うことが出来た。二人を、救うことが出来た。
 安心感から、その場にペタリと座り込んだクレタ。
 ヒヨリとオネは、ドタバタと光の階段を上って、クレタの身体を支える。
 こんなにも魔力を消費したのは初めてだ。
 身体にチカラが入らない。ふにゃふにゃと、まるでタコのよう……。

 *
 *

「どうして、凶暴化したのかしら……」
「そこが、わかんないところなんだよなぁ」
「調べてみるわ」
「よろしく」
「クレタくん……かなり衰弱してるわね」
「そりゃあな。あんだけ一気に魔力を放出すればなぁ」
「オーバースキルは?」
「や。それは大丈夫」
「そう。それなら、良かった」
「何だかんだで、能力的にも成長してるってことだよなぁ」
「そうね……。そろそろ、教えておくべきかもしれないわね」
「だな」
 大量に魔力を消費したことで、一時的に気を失っているクレタ。
 ベッドで眠るクレタの、幼くあどけない寝顔を見やりながら、ヒヨリは溜息を一つ落とす。
 早いよな……。まだまだ先の話だろうなって思ってたんだけど。
 こんなにも早く、オーバースキルについて、きっちりと教えねばならなくなるとは……。
 Jと同じくらいのスピードか? いや、あいつよりも早いな。
 頼もしいっちゃあ頼もしいんだけど……その分、心配にもなる。
 まぁ、大丈夫だとは思うけど。怖いのは、あいつが絡んだ時だな……。
 あいつが絡む問題になると、周りが見えなくなっちゃうからな、クレタは。
「……あ〜」
「どうしたの?」
「早く目、覚まさないかなと思って」
「説明?」
「いや。あいつが帰って来て、このクレタ見たら……な?」
「……。……そうね」
「ナナセ、お前、ちょっと玄関で見張ってて」
「わかったわ。戻ってきたら、ワンコールするわね」
「おぅ。あぁ、あと……なるべく、時間稼いどいてね」
「……頑張るわ」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
 NPC / ヒヨリ / 26歳 / 時守 -トキモリ-
 NPC / オネ / 13歳 / 時守 -トキモリ-
 NPC / ナナセ / 17歳 / 時守 -トキモリ-

 シナリオ『 戻らぬ仲間を 』への御参加、ありがとうございます。
 オーバースキル(略称OS):::::
 大量に魔力を消費してしまうことによって感覚が麻痺し、
 魔力が枯渇しているのにも関わらず、スキル発動を続けてしまうこと。
 最終的には絶命に至る、恐ろしい現象で御座います。
 ちょっとオマケ :::::
 結局この後、すぐにJが戻って来て衰弱しているクレタくんを見て、
 「どういうことだ」とキレたんじゃないかと思います。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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