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■嘘つき同士■

藤森イズノ
【7707】【宵待・クレタ】【無職】
 隠し事なんてしたくないけれど。
 そうせねばならない状況になったなら仕方がない。
 当然、心は痛む。嘘をつくのはいけないことだから。
 でも……どうしても。はぐらかさねばならないんだ。
 あなたが、どんなに追求してきても。
 嘘をつき通すことが出来るだろうか。
 ……自信はない。ついポロッと、嘘だと白状してしまいかねない。
 不安になるから、極力、あなたと接触しないように心掛ける。
 こうして部屋に篭ってジッとしていれば……時間は過ぎていく。
 嘘をつく必要がなくなるまで、ここから出たくないけれど。
 仕事もあるし食事もあるし……それは叶わぬ望み。
「……はぁ」
 漏れた溜息は、テーブルの上、時計の針へ。
 吐き落とした溜息が、針をグーッと動かしてやくれないかと切に思う。
 こんなにも時間の経過を遅く感じたのは、初めてのこと。
 嘘つき同士

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 隠し事なんてしたくないけれど。
 そうせねばならない状況になったなら仕方がない。
 当然、心は痛む。嘘をつくのはいけないことだから。
 でも……どうしても。はぐらかさねばならないんだ。
 あなたが、どんなに追求してきても。
 嘘をつき通すことが出来るだろうか。
 ……自信はない。ついポロッと、白状してしまいかねない。
 不安になるから、極力、あなたと接触しないように心掛ける。
 こうして部屋に篭ってジッとしていれば……時間は過ぎていく。
 嘘をつく必要がなくなるまで、ここから出たくないけれど。
 仕事もあるし食事もあるし……それは叶わぬ望み。
「……はぁ」
 漏れた溜息は、テーブルの上、時計の針へ。
 吐き落とした溜息が、針をグーッと動かしてやくれないかと切に思う。
 こんなにも時間の経過を遅く感じたのは、初めてのこと。

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 お前が辛そうにしてる時、それを黙って見ているだけだなんて。
 そんなこと、俺には出来ないよ。
 お前を苦しめている原因は理解ってる。
 俺じゃあ、どうしようもないことも理解ってる。
 それでも、傍にいてやりたいって思うんだ。
 いや、違うな。俺が、傍にいたいだけなのかもしれない。
 心の奥底にある汚い、醜い部分を曝け出してしまうなれば、あわよくば。
 あわよくば、お前を手に入れられやしないかと。そう思ってる。
 その野望を口にすることはしないよ。
 お前を困らせてしまうだけだろうし、余計に悩ませてしまうのは嫌だから。
 それなら何で、言ったんだって?
 伝えるつもりがないのなら、奪う気がないのなら、
 どうして、奪いたいと思っていることを白状したのかって?
 ……さぁ。どうしてだろうね。俺にも理解らない。
 口では、お前のことを思ってるフリして、本心は、そうじゃないのかも。
 悩めばいいって。
 俺を想って悩み狂えば良いのにって。
 そんなことを考えてるのかもしれない。
 あくどいよなぁ、それって。
 もしも、本当に、そうだったらどうする?
 ……あぁ、ごめん。そんな顔するなよ。冗談。
 大丈夫だよ。そんなこと考えてないから。
 おいで、クレタ。抱っこしてやる。
 恥ずかしがることないだろ?
 素直に甘えてごらんなさいな、たまには。
 落ち着くことは出来ないだろうけど、俺の腕じゃ物足りないだろうけど。
 気休め程度にでも、一瞬だけでも、寂しい気持ちが消えれば……それで、俺は満足。

 優しさに甘えていただけ。
 もっと酷い言い方をすれば、利用していただけ。
 ヒヨリは、利用されることを自ら望んでいたかのように思えたけれど。
 そこで躊躇うことなく、寄り添った僕って……何なんだろう。
 自室、ソファに凭れて物思いに耽るクレタ。
 Jが戻らぬ日々が続く中、何度も慰めてもらった。
 不安で仕方ない夜、その隙間を、ヒヨリは埋めてくれた。
 僕が自分から頼んだわけじゃない。ヒヨリが、何度も来てくれた。
 我慢できなくなって泣き出しそうになる、そのギリギリのところで、
 まるで、どこかから覗き見てるんじゃないかってタイミングで、来てくれた。
 支えてくれたこと、甘えさせてくれたこと、とても嬉しく有難く思う。
 ヒヨリがいなかったら、どうなっていたことか……。
 でもね、これって……すごく失礼なことなんじゃないかって思うんだ。
 Jが戻って来てからは、ずっとJの傍。ヒヨリのことなんて放ったらかし。
 自分の心の全てを占めるのはJなのだと、はっきり気付いた。
 改めて、僕は、Jを選んだんだ……。
 笑っていてくれればいいって、ヒヨリは言うけれど。
 あの日、ヒヨリが発した野望は、本音以外の何物でもなかったはずなんだ。
 それを理解した上で、僕は甘えた。寂しさに耐え切れなくて。
 応える気持ちなんてないくせに。一時的な気の迷い? 余計に失礼だ。
 僕のことを本当に想ってくれている、それが理解るからこそ、悔やむ。
 寂しい時だけ、心の拠り所を見失った時だけ、ヒヨリに甘える。
 絶対に拒まれないって確信があるからこそ、遠慮なく甘える。
 僕って……何て酷い奴なんだろう。
 もう駄目。もう、これ以上、ヒヨリに甘えちゃいけない。
 迷惑だからとか残酷だからとか、それ以前に、苦しいんだ。
 仲間として『好き』な気持ちが、別のものに変わってしまいそうで。
 例え、それが一時的なものだとしても。
 絶対に譲れぬ気持ちと愛しい人は、永遠に変わらぬまま。
 それなのに、もうひとつ……と求めるだなんて、欲張りすぎる。
 この気持ちは、僕の心の中だけに。
 誰にも言わない。絶対に、誰にも言えない。
 フラフラと、落ち着きない心を静めなきゃ。
 距離を縮めてしまわぬように、自制しなきゃ。
 触れようだなんて、思っちゃいけない。
 触れてほしいだなんて、思っちゃいけない。
 欲張ったら、一番大切なものまで失ってしまうんだから。
 誰にも言わぬ、秘密の気持ち。秘密の欲望。
 それに自制をかけるクレタの頬を、涙が伝う。
 ヒヨリからのプレゼント、対を成すブローチ。
 ふたつを組み合わせた時の姿が、あまりにも綺麗で。

 *
 *

「じゃあ、結局……クレタには何も説明してないってことだね?」
 グラスへワインを注ぎながら、淡い笑みを浮かべて確認したJ。
 Jの隣、目を伏せて座っているヒヨリは苦笑しながら頷く。
 お前が失踪した原因について、おおよそは気付いてるだろうけどね。
 でも、俺がお前を使いに出させたことは言ってない。
 まさか、お前を遠くへやった犯人が俺だなんて、クレタは思ってもいない。
 クレタを覗いた全員で話し合った結果、お前を使いにだすのが最善だという結果になり、
 満場一致な状態で、お前を使いに出したわけだけど。
 もしかしたら、俺だけ別の想いがあったのかもしれない。
 無理矢理にでも引き剥がして、心の隙間を生み出して。
 好機だとばかりに、そこを突けば……奪えるんじゃないかって。
 冗談でも嘘でもなく、あの日、クレタに発した言葉は、俺の本音なのかも。
「へぇ。それは何? 宣戦布告?」
 クスクス笑いながら、グラスを手渡すJ。
 ヒヨリはグラスを受け取り、ワインを一口喉に落として呟くように返す。
「さぁ。どうだろうね?」
 互いに微笑んではいるものの、ピリピリと張り詰めるような雰囲気。
 並び座る、二人の男。頭に浮かんでいる笑顔は、同じもの。
 はぐらかすっていうのも、立派な嘘の一つだよね。
 どうして、こんなことが出来るんだろうな、人間ってのは。
 ……まぁ、俺達は正式な人間っつうわけでもないけど。
 心から、便利だなぁと思ってるよ。
 どうだろうね? って、その言葉を。
 便利なのと同時に、面白くもある。
 お前が、挑発するような目で見てくることとか。
 面白いな。嘘、冗談、はぐらかし。挑発、衝突、せめぎ合い。 
 何が本音なのか……俺にも理解んない。
 あぁ、これは、はぐらかしじゃなくて本気で。
 ……そんな目で見るなよ。突き刺さるようで、痛い。
 理解らないままにしておくつもりはないから、ちゃんと答えを見つけるよ。
 答えが理解ったら、またここに来るから。
 その時は、遠慮なく。
 そうやって、冷たい目で蔑んでくれ。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
 NPC / ヒヨリ / 26歳 / 時守(トキモリ)
 NPC / J / ??歳 / 時狩(トキガリ)

 シナリオ『 嘘つき同士 』への御参加、ありがとうございます。
 何だろう。何気に、ドロドロしてきたような…(笑)
 最後の4行が何よりの嘘と矛盾となっておりますね。
 あれこれ脚色されてますが、素敵なプレイングご馳走様でした^^
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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