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■一日代表■

藤森イズノ
【7707】【宵待・クレタ】【無職】
 ほら、何だっけ。アレだよ、アレ。
 何事も経験! とかさ、可愛い子には旅をさせよ!とかさ。ああいう感じ。
 君の事を信頼しているからこそ。君の成長を願うからこそ。
 こうして、色々な経験をさせていこうと思うんだ。
 ニッコリと微笑み、いつもとは少し違う口調で言ったヒヨリ。
 そんなに楽しそうに笑いながら言われても説得力ないよ……。
 全部が全部冗談ってわけでもないんだろうけど、複雑。
 だって、要するに……仕事を押し付けられるってことでしょう? これ。
 あなたが普段、駆け回っているのを見ているからこそ……複雑。
 どんなに大変か理解っているからこそ……複雑。
 一日代表

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 ほら、何だっけ。アレだよ、アレ。
 何事も経験! とかさ、可愛い子には旅をさせよ!とかさ。ああいう感じ。
 君の事を信頼しているからこそ。君の成長を願うからこそ。
 こうして、色々な経験をさせていこうと思うんだ。
 ニッコリと微笑み、いつもとは少し違う口調で言ったヒヨリ。
 そんなに楽しそうに笑いながら言われても説得力ないよ……。
 全部が全部冗談ってわけでもないんだろうけど、複雑。
 だって、要するに……仕事を押し付けられるってことでしょう? これ。
 あなたが普段、駆け回っているのを見ているからこそ……複雑。
 どんなに大変か理解っているからこそ……複雑。

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「えと……よろしく……御願いします……」
 ペコリと頭を下げて言ったクレタ。その姿にナナセはクスリと笑う。
 強引にというか、無理矢理……1日、時守代表として動くことになった。
 クレタが現在いる場所は、ヒヨリの部屋。代表室でもある、そこ。
 窓際にある大きな机の上には、眩暈がするほど書類が積まれている。
 そういえば、ヒヨリの部屋に入るのって初めてだ。
 こんな感じなんだ……。掃除すれば広いんだろうけど……かなり窮屈な感じ……。
 などと、部屋を見回している時間なんてありはしない。
 1日だけとはいえ、代表を務めるのだ。
 中途半端な気構えで取り組むわけにはいかない。
 大変なことなのだと理解っているからこそ、集中せねば。
 うん、と頷いたクレタ。
 その仕草を『準備完了』だと捉えたナナセは、クレタへファイルを手渡す。
 パラパラと捲り、中を確認すれば、そこには、ビッシリとスケジュールが書かれていた。
(……ご飯とお風呂以外、全部仕事だ)
 こんなにも過酷なスケジュールで動いていたのかと呆然とするクレタ。
 こんなにもビッシリと仕事があるのに、
 どうして普段、ヒヨリは、あんなにも自由奔放に動き回っているのだろう。
 外の世界へ遊びにいく余裕なんて、まるっきり見当たらないのに。
 その疑問は、ナナセが解決してくれた。
 ヒヨリは、サボり癖があるというわけでもない。
 仕事を放棄して、どこかへ遊びに出掛けたことは一度もない。
 やるべき仕事をテキパキと片付け、余った時間で遊んでいるのだ。
 遊ぶ為の時間を作るために作業する。
 そのスピードと集中力は凄まじい。
 ナナセも、その辺りは感心しているそうだ。
(そうなんだ……)
 理解すると同時に、再認する。
 ヒヨリとは、凄い男なのだと。
 そう実感すれば、余計に気合が入る。
 時間は限られているから、ひとつの仕事に拘るのは避けるべきだよね……。
 かといって慎重すぎても駄目だろうし……。
 わからないことは、すぐにナナセに質問するようにしなきゃ。
 よし……頑張るぞ。

 *

 並んで歩くクレタとナナセ。
 ファイル片手に、まず一番にこなす仕事は……時空管理と巡回。
 クロノクロイツ全域を回り、異変がないかを確認する。
 侵入者がいた場合は、迅速に追放。歪みが確認できた場合は、迅速に還す。
 やるべきことが限られているがゆえに、簡単そうに思えるけれど、
 クロノクロイツは、とても広い。巡回するだけで一苦労だ。
 見回った箇所にチェックを入れながら、フゥと息を落としたクレタ。
 特に何の問題もなく、時空管理は終了……するかのように思えた。
「クレタくん」
 ポン、と肩を叩いてナナセが声を掛ける。
 うん? と首を傾げてクレタが振り返ると、ナナセは前方を指で示した。
 示された方向を見やれば、そこには見知らぬ男が二人。
 服装からして、外界……東京から来た侵入者だろう。
 ファイルをナナセに預け、すぐさま侵入者を追放しようと駆け出すクレタ。
 だが、ナナセはクレタの服をガシッと掴んで、それを阻んだ。
 どうして? と首を傾げるクレタへ、ナナセは丁寧な補足を。
 確かに、迅速に追放しなきゃならないって決まりになってるけれど、
 すぐさま問答無用で追放すればいいってわけじゃないの。
 侵入者がどこから来たか、何の為に来たかをハッキリさせて、
 写真に収めてから、捕まえて追放しなきゃ駄目なのよ。
「……そっか。でも、何の為に来たかっていうのは、見てるだけだと理解らないんじゃ……。しばらく尾行するとか……?」
「さっき渡した双眼鏡を使うの」
「あ。これ……だね?」
「そう。それで、侵入者を見て」
「…………」
 よく理解らぬまま、双眼鏡で侵入者を覗き込んだクレタ。
 覗き込んだ結果に、クレタは目をパチクリさせる。
 双眼鏡を介して見やると、侵入者が、ここに来た目的が理解る。
 頭の中に、ダイレクトに、その情報が入り込んでくるのだ。
 他人の気持ちが頭の中へ勝手に入ってくるようで、若干気持ち悪い感覚がある。
 侵入者の目的は、時守たちの居住区を探し当てること。
 探し当てて、どうしようとしているのかまでは理解らない。
 あくまでも、今回は偵察的なものなのだろう。
 何か、良いことをしてくれる可能性はゼロだ。
 彼等がもたらすのは、災いのみ。
 金や欲に支配されている時のような、ギラついた目を見れば、それは明確だ。
 侵入者の目的を確認し、次いで写真に二人の姿を収めて、準備完了。
 そこで、ようやく追放権限を得ることが出来る。
 追放する際には、手加減不要。
 出来うる限りの『恐怖』を刻んで追放するのが望ましい。
 そうは言われても、どうやって恐怖を与えれば良いのか理解らない。
 どうすればいいのかな、と戸惑っていたクレタ。
 見かねたナナセが動く。
「追放に躊躇いは不要よ」
 サラリと言い放ち、ナナセは、クロノバックを発動させた。
 突風を伴いながら、侵入者へと向かっていくクロノバック。
 それが侵入者と接触すると同時に、物凄い爆発音が響き渡る。
 あまりにも大きな音に、耳を塞いだクレタ。
 両耳を塞いでいた手をそっと離して顔を上げれば、
 クロノバックに飲み込まれて、侵入者達は悲鳴を上げながら、元の世界へと強制送還。
「これで終わりね。じゃあ、部屋に戻りましょうか」
 書類に何かを書きとめながら淡々と言ったナナセ。
「……。……うん」
 改めて思った。ナナセを、頼もしいと。あと……ちょっと怖いと。

 時刻は9時。2時間かけて時空管理と巡回を終わらせた。
 代表室へ戻ったクレタが、次にやらねばならぬことは書類整理。
 机の上に山積みになった書類全てに目を通し、要点を別書類に纏めねばならない。
 スピードも重要になるだろうけれど、それよりも確実にこなすべきだ。
 そう思ったクレタは、ひとつひとつ、丁寧に仕上げていった。
 お世辞にも速いとはいえないスピードだったけれど、ミスは皆無。
 終了すべき時刻から30分遅れて、ようやく終了した。
 こんなにも文字と接したのは初めてだ。
 普段から読書はするけれど、好きでやっていることだから苦痛はない。
 だが、仕事となると……目にせねばならぬものは難しいことばかり。
 机に突っ伏して、グッタリしているクレタ。休んでいる暇はない。
 少し過酷かなとも思うけれど、代表として務めている限りは、甘やかすことは出来ないの。
 今の時間なら、みんな起きてるだろうから、会いに行って。
 特に何をしてこいってわけじゃないわ。ただ、会うだけでいいの。
 何気なく会話して、その中で、みんなのスケジュールを確認してね。
 今日、何する予定? って直接訊いちゃ駄目よ。
 私は別に訊いても良いんじゃないかなって思ってるんだけど、
 ヒヨリがね、プライバシーの侵害は駄目だって言うから。
 一応、ここは、いつも、あの人がやってるとおりに動いてくれるかしら。
 仲間達のスケジュールを『さりげなく』確認し、頭に入れておくこと。
 それは、緊急事態への備えだ。
 もしも、何か大きな問題が発生してしまった時、すぐさま仲間を招集できるように。
 確認が終わったら、ちょっと休憩で、お昼ご飯を食べる。
 その後、すぐにまた移動。次は時の回廊に異常がないかを確認。
 余裕があれば、各世界へ赴いて回廊の番人達と話しておく。
 だが、今日は時間がないので不要。異常がないかだけを確認するだけで良い。
 それが終わったら、2度目の時空管理・巡回。
 滞りなく進めば、この時点で時刻が15時を少し回る。
 ここで、御茶を飲みながら、ちょっとだけ休憩。ほんの気休め程度だけれど。
 その次は、そのまま部屋で書類整理の続き。
 午前中に全部片付けたとしても、夕刻には、また同じくらいの量が机の上に乗る。
 書類整理が終わったら夕食を食べて、すぐさま移動。
 次に行うべきことは、時計台の掃除。
 ここまでくれば、仕事は残り僅か。
 普段から目にしている時計台を綺麗にするという行為は、不思議なものだった。
 この世界の象徴である銀色の時計台。全てが始まり、全てが終わる場所。
 時計台へのぼり、ゴシゴシと鐘を磨きながら、クレタは見下ろす。
 少しだけ高い場所から見渡すと、見慣れた世界も違って見える。
 小さな発見が妙に嬉しくて、クレタは微笑みながら鐘を磨いた。
 その姿を、下から見上げていたナナセもクスクス笑う。

 *

 時刻は23時過ぎ。
 いよいよ、最後の仕事。
 1日の終わりに代表がこなさねばならぬ仕事は『時告』
 今日1日を振り返り、その全てをジャッジへと報告せねばならない。
 何か気になることがあれば、それも併せて告げる。
 口頭だけでは不足するところがあるので、書類も添えて。
 執裁室にて、姿勢を正してジャッジへ時告を済ませるクレタ。
 所々、要点が抜け落ちている箇所があったけれど、そこはナナセがカバー。
 書類に目を通しながら、ジャッジは微笑んでクレタに尋ねた。
「1日務めての印象は、どんなものかね?」
「……えぇと。……大変でした」
「もしも君が望むのであれば、代表交代も検討するが?」
「えっ。いや、いいです」
「見事な即答だ」
 クックッと笑いながら、書類へポンと判を押したジャッジ。
 この瞬間、代表としての1日が終わる。
 ずっと持続していた緊張がようやく解けて、クレタは大きな溜息を落とす。
 ヒヨリとナナセが、いつもどれだけ大変か1日だけでもよく理解ったよ……。
 簡単なことだなんて、そんなことは一切思っていなかったけれど、
 実際にやってみて、実感した。こんなにもハードなんだね。
 発見とかもあって楽しく思えたところもあるけれど、
 正直、もうやりたくないなって思ってるよ……。
 凄いね。ヒヨリって凄い。ナナセも凄い。
 誰にでも出来るようなことじゃないよ、これ。
 色んな能力が、いっぺんに求められる……凄く大変な仕事だった。
 感想を抱くクレタの欠伸が止まらない。
(今日は……ぐっすり眠れそう……)

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
 NPC / ヒヨリ / 26歳 / 時守(トキモリ)
 NPC / ナナセ / 17歳 / 時守(トキモリ)
 NPC / ジャッジ / 63歳 / 時の執裁人

 シナリオ『 一日代表 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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