■白亜の屋敷■
藤森イズノ |
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【7707】【宵待・クレタ】【無職】 |
どうしてかな。どうして、ここにいるんだろう。
今日は、みんなと一緒に外界を巡る約束をしていたのに。
どうして、その約束を放ってしまったのかな。
違うよ。連れて来られたわけじゃないんだ。
今日は、自分から望んで、ここに来た。
どうやって、ここまで来たのかは覚えていない。
何の為に、ここに来たのかも理解らない。
ただ、吸い寄せられるように……辿り着いた場所。
目も眩むほど、真っ白な屋敷。
不思議に思うことは、もう一つある。
どうしてかな。どうして……迷わないんだろう。
どうして、屋敷の構造を把握しているんだろう。
向かう先は、どこ？ この先に、何がある？
問い掛ける必要なんて、ないんじゃないだろうか。
だって、理解ってるんじゃないの。
自分が今、どこへ向かって歩いているか。
その先に、何が、誰が待っているかも。
理解ってるんじゃないの。
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セツル・クロウ
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どうしてかな。どうして、ここにいるんだろう。
今日は、みんなと一緒に外界を巡る約束をしていたのに。
どうして、その約束を放ってしまったのかな。
違うよ。連れて来られたわけじゃないんだ。
今日は、自分から望んで、ここに来た。
どうやって、ここまで来たのかは覚えていない。
何の為に、ここに来たのかも理解らない。
ただ、吸い寄せられるように……辿り着いた場所。
目も眩むほど、真っ白な屋敷。
不思議に思うことは、もう一つある。
どうしてかな。どうして……迷わないんだろう。
どうして、屋敷の構造を把握しているんだろう。
向かう先は、どこ？ この先に、何がある？
問い掛ける必要なんて、ないんじゃないだろうか。
だって、理解ってるんじゃないの。
自分が今、どこへ向かって歩いているか。
その先に、何が、誰が待っているかも。
理解ってるんじゃないの。
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向かう先は……リビング。
リビングはね、二階にあるんだ。
階段を登って、それから右に曲がって……真っ直ぐ進めば、やがて銀色の大きな扉。
扉の前、ピタリと立ち止まって目を伏せたクレタ。
どうしてなんだろうって思う。どうして、ここまで迷わずに来れたのか。
まるで何度も通ったことがあるような、そんな足取り。
この扉の中で、あの人は待ってる。僕を待ってる。
僕の為に、お茶を用意して……淡く微笑みながら待ってるんだ。
不思議だね。その光景が、ほら。頭の中に、こんなにも鮮明に浮かぶ。
これは予想？ 希望？ それとも……記憶？
ここへ来る前、階段を登っている時にも、同じ感覚があった。
どこまでも続く草原。雲ひとつない、澄み渡った青い空。
足元には、絨毯のように……小さな白い花が咲いていて。
柔らかな温かい風に頬を撫でられながら、僕は屈んで、その花に触れた。
ねぇ、見て。綺麗だねって……そう、言いながら。
その言葉は、隣にいる "誰か" に向けて放ったもの。
その時、僕の隣にいたのは、長い髪を揺らす―
カチャリと扉を開き、そーっと中の様子を窺うクレタ。
ふわりと全身を包み込む、フレーバーティの香り。
ベルガモットの香りに迎えられ、踏み入れば。
ソファに座る妖艶な女性は、クレタを手招いた。
手招きされずとも、僕は……あなたの傍へ行っただろう。
だって僕は……あなたに会う為、ここに来たんだから……。
アンティークのソファとテーブル。
花柄のティーポットとティーカップ。
部屋を囲うように配置された棚には、本がズラリと並ぶ。
立派な暖炉に……火は灯っていない。
「暖かい季節だから、必要ないわ」
微笑みながら、スッとティーカップを差し出した女性。
クレタは素直にそれを受け取り、小さく頷いた。
どうしてかな。暖かいから、だなんて。
その理由に納得してしまったのは……。
柱時計が、時を刻む音。
響く、心地良いその音を耳にしながら……始まる、お茶の時間。
わからないことだらけで、戸惑っているでしょうね、あなたは。
でも違うわ。わからないんじゃなくて、思い出せていないだけ。
あなたは過去に何度も、ここへ来てる。仲間に連れられて。
でも、覚えていなくても無理はないかもしれないわ。
あなたは、生まれたての赤子だったから。
どうしてここへ連れて来られたのかも、理解っていなかったでしょうね。
明らかにせねばならない、その義務はないのだけれど。
こうして、あなたと御話できているんですもの。教えてあげるわ。
私の名前は、セツル。時の法を定める者。
難しく考える必要はないわ。
どの世界にも、ルールがあるでしょう？
どの世界にも、ルールを定める人っていうのがいるものでしょう？
ただ単に、クロノクロイツでは、私がその立場にいるって、それだけのこと。
この間、あなたは私に尋ねたわね。ジャッジと、どんな関係なの？ って。
それも、簡単よ。ジャッジと私は、番の鴛鴦。
同じ時に生まれ、同じく呼吸を始めた『時の初人』
時守らは、私とジャッジの間に生まれた子供達。
けれど、中には、それを拒み認めていない子もいるわ。
一番わかりやすいのは……ベルーダね。
あの子は自らをジャッジの『孫』と名乗ってる。
それは即ち、私を拒絶しているということ。
私の子供であることを誰よりも拒んでいる、何よりの証拠。
でもね、ベルーダのように偽りではなく、正式に『孫』と呼べる子もいるのよ。
そう……あなたのことよ、クレタ。
あなたは、Ｊから生まれた存在。
Ｊは、私とジャッジの間に生まれた正規の子供とは言えないけれど、
ジャッジの想いが生み出した存在であるという時点で、私の子供であるも同然。
そのＪから生まれたあなたは……私の孫以外の何者でもないわ。
あなたとこうして、御話が出来ること……嬉しく思う。
もっと、顔をよく見せて頂戴な。大きく成長した、あなたの顔を。
クレタの頬に触れ、微笑むセツル。
冷たくも優しい手指の感触に、クレタは全てを理解する。
懐かしい感覚、心安らぐ感覚。その全てが、一本の線で結ばれる。
間違いじゃなかったんだ。勘違いじゃなかったんだ。
僕が、あなたに抱いた、あの感覚は……確かなものだったんだ。
すんなりと受け入れることが出来たのは、思い出すことが出来たから故に。
そう。僕は、何度もここに来てる。皆と一緒に、あなたに会いに来てる。
あの頃の僕は、あなたがどういう存在なのか理解することが出来なくて。
ただ、Ｊの服をキュッと掴み、背中に隠れて、コソコソと、あなたを見てた……。
皆で仲良く、紅茶を飲みながら他愛ない話をする、幸せな時間。
そこに、僕もいた。確かに、いたよ……。
でも、いつからかな。いつからか、その記憶はプツンと途絶えた。
忘れたっていうよりも、忘れさせられたっていうのかな……。
いつしか、ここに来なくなったから。皆が、ここに来ることを拒んだから。
今日は行かないの？ 今日も行かないの？ って、僕、何度も尋ねたよ。
でも、みんなは顔を背けるばかりで……応えてくれなかった。
どうしてなのかな。どうして、ここに来なくなったんだろう。
ずっと気になってた。どうして、ここに来ることが『いけない』事になったのかって……。
目を伏せ、優しく微笑みながらクレタの頭を撫でるセツル。
その手指から伝わる、確かな温もりにクレタは安心感を覚える。
身を委ね、聞き入る御話。セツルの言葉の端々には、確かな愛情があった。
その最中、セツルは意味深な言葉をポツリと吐き落とす。
「時の歪みも私が、意図的に発生させているのよ」
「えっ……？ どうして―」
クレタが尋ねようとした瞬間だった。
バンと乱暴に扉を開けて部屋へ入ってくるヒヨリ。
ヒヨリの後ろには、Ｊを始め、仲間たちがズラリ。
仲間達の強張った表情に、クレタは目を丸くする。
どうして、そんなに怖い顔してるの？
そうクレタが尋ねる前に、ヒヨリは冷たい眼差しをセツルに向けた。
そして一言、言い放つ。
「こんにちは、誘拐犯」
「まぁ……。母親に対して、何です？ その口の利き方は」
「母親？ 時遊びに夢中のくせに？」
「……酷い言われようね」
「最低だよ。子供に迷惑をかける母親なんて」
「…………」
目を伏せ淡く微笑むセツル。
その表情は、悲しそうにも嬉しそうにも見えた。
どっちが正解なんだろうと、セツルの顔をジッと見つめるクレタ。
ヒヨリは冷たく、冷め切った目でセツルを見やりながらクレタを呼ぶ。
「クレタ。何してる。早く、こっちに来い」
自分を呼ぶ仲間の声。けれど、クレタは応じることが出来ない。
身動きできないのは、躊躇っているからか、戸惑っているからか。
目の前のセツル。その微笑みの真意が知りたい。
ねぇ……どっちなの？ 悲しいの？ 嬉しいの？
わからないよ。わからない。どうして、こんなに難しいの……？
どうして、そこまで心を隠すの……？
本当なのか嘘なのか、わからなくなる。
僕等のことを大切に想ってるって、その言葉さえ。
信じて欲しいって……思ってないの？ 信じてもらえなくてもいいの……？
違うよね？ 僕等のことを話す、あなたの声……すごく優しい声だった。
心から愛してる。その気持ちが伝わってくる声だった。
だから僕は、あなたに寄り添ったんだ。
安らぐ、落ち着く。包まれるような、そんな気がして。
セツルは依然、目を伏せたまま。躊躇い続けるクレタ。
いつまでたっても戻ってこないクレタに呆れて、
ヒヨリはツカツカと歩き、クレタの腕を掴んで強引に連れて行く。
「待って、ヒヨリ。ねぇ……」
何度クレタが訴えても、ヒヨリを始め、仲間達は聞いてくれない。
ズルズルと引き摺られるようにリビングを後にするクレタは、
何度も振り返って心の中で呟いた。
違う。絶対に違うよ。
あの人は、悪い人じゃない。
ワザと嫌われようとして、あんな態度を取るんだ。
どうして嫌われたがるのか、それは理解らないけれど……。
本当だよ。本当に、優しい声で話すんだ。みんなは聞いたことないの？
あんなに優しい声で話す人が、悪い人だなんて……ありえないよ。
ねぇ、みんな。どうして、そんなにムキになって、あの人を拒むの。
認めたくなくても、事実は事実なんだよ……？
あの人は、皆にとって、たった一人の……お母さんなんだよ……？
生じた亀裂を元に戻すことは、容易いことではない。
歪みを還すより、もっともっと複雑で難しいこと。
私を嫌い、拒むことで、あなたたちが成長するのなら。
いくらでも嫌われましょう。全ては、この空間の為。
けれど、時々、抑えきれなくなってしまうの。
我が子を、我が孫を、抱きしめたいと、強く願ってしまうの。
どうか、その時は。母の我侭を聞いてあげて頂戴な。
勝手な女だと、蔑みながらで構わないから。
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■■■■■ ＣＡＳＴ ■■■■■■■■■■■■■
７７０７ / 宵待・クレタ / １６歳 / 無職
ＮＰＣ / ヒヨリ / ２６歳 / 時守（トキモリ）
ＮＰＣ / セツル・クロウ / ？？歳 / 時の定律人
シナリオ『 セツル・クロウ 』への御参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました＾＾
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櫻井かのと （Kanoto Sakurai）
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