■真冬の大運動会■
藤森イズノ |
【7182】【白樺・夏穂】【学生・スナイパー】 |
「まぁ、ほら、子供は風の子って言うし」
「いやいや……。子供じゃない生徒もいるぞ」
ズズズと御茶を飲みながら苦笑して返した藤二。
ヒヨリは肩を竦めて淡く微笑み返しながら、手元の書類に目を落とす。
寒いからって引きこもるのは良くないことだと思うんだよね、俺は。
元気に遊んでナンボでしょ。まぁ〜……藤二の言うとおり、
中には、立派なオトナな生徒もいるわけだけれども。
でもさ、多分、問題ないと思うよ。
こうやって……商品とか賞金とか用意すればさ。
オトナだって子供になっちゃうもんなんだから。
そういうもんなんだって。人間ってのは、欲深いよねぇ。あれ、何の話だっけ。
ヒヨリの手元にある書類は、在籍生徒の情報が掲載されているリスト。
今期の新入生も含めて、現在HALに在籍している生徒は、総勢150名。
こうして、同じ空間に身を寄せているのも何かの縁。
絆を深める意味でも、季節を満喫する意味でも、実行する価値はある。
その想いからヒヨリが考案した、真冬の大運動会。
突発開催の、そのイベントの詳細は、校内放送によって生徒達の耳へと届けられた。
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真冬の大運動会
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「まぁ、ほら、子供は風の子って言うし」
「いやいや……。子供じゃない生徒もいるぞ」
ズズズと御茶を飲みながら苦笑して返した藤二。
ヒヨリは肩を竦めて淡く微笑み返しながら、手元の書類に目を落とす。
寒いからって引きこもるのは良くないことだと思うんだよね、俺は。
元気に遊んでナンボでしょ。まぁ〜……藤二の言うとおり、
中には、立派なオトナな生徒もいるわけだけれども。
でもさ、多分、問題ないと思うよ。
こうやって……商品とか賞金とか用意すればさ。
オトナだって子供になっちゃうもんなんだから。
そういうもんなんだって。人間ってのは、欲深いよねぇ。あれ、何の話だっけ。
ヒヨリの手元にある書類は、在籍生徒の情報が掲載されているリスト。
今期の新入生も含めて、現在HALに在籍している生徒は、総勢150名。
こうして、同じ空間に身を寄せているのも何かの縁。
絆を深める意味でも、季節を満喫する意味でも、実行する価値はある。
その想いからヒヨリが考案した、真冬の大運動会。
突発開催の、そのイベントの詳細は、校内放送によって生徒達の耳へと届けられた。
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「無茶だと思うのですよ。スケートなんて」
「わ〜! すっごいね〜! でっかいスケートリンク〜!」
「本当……。これは凄いわ。綺麗ね」
「怪我とかしたら大変ですし。そもそも、寒いのに外に出るなんて、おかしいじゃないですか〜」
「夏ちゃん、はい。これ着て〜。動きやすいよ〜」
「……わざわざ持ってきたの?」
「ヨーイシュートでしょ〜? えへへへ〜」
「用意周到、ね」
「あ。そうだっけ。間違えた〜」
突発開催、真冬の大運動会。その会場であるグラウンド。
巨大なスケートリンクは、教員達が氷の魔法で作ったもの。
会場には、放送を聞きつけて、続々と生徒が集まってきている。
その一角に、三人はいる。
ワクワクが止まらない雪穂と、見事なスケートリンクに見惚れている夏穂。
そして、ブツブツと文句を言っている霊祠。
いつもの仕事着では動きにくいからと、更衣室で手早く着替えを済ませてから来た雪穂と夏穂。
雪穂の趣味全開である。彼女が大好きなアニメ『双姫 -SOUKI-』のコスプレである。
作品の主人公は双子の姉妹。だからこそ感情移入できて、好いているのかもしれない。
朱雀の刺繍入りで、丈が極端に短い赤い着物。その下には、黒いスパッツ。
頭に鈴つきの大きなリボンをつけて、ツインテールに纏めた雪穂。
雪の結晶の刺繍入りで、丈が極端に短い白い着物。その下には、黒いスパッツ。
頭に蝶の飾りが付いた大きなリボンをつけて、ポニーテールに纏めた夏穂。
雪穂はノリノリでハイテンションだが、雪穂は微妙に恥ずかしそうだ。
遠目に見ても目立つ可愛い二人の姿。写真を取り出す生徒まで出てくる始末。
この二人は、いつもそうだ。どんな状況でも、すぐに馴染んで溶け込んでしまう。
どんな状況でも、楽しもうと気持ちを切り替えることが出来てしまうのだ。
「そういうのって、一種の才能ですよねぃ……」
ポソポソと呟きながら、凄まじくスローペースでスケート靴を履く霊祠。
気乗りしない理由は、この寒さにあるのだろう。
霊祠は、お外で元気に遊ぶタイプではない。
暖炉で揺れる炎を横目にしながら読書を楽しむのが霊祠の冬の楽しみ方。
基本的に、お屋敷から出ない。生粋のお坊ちゃまなのだ。
寒いのが苦手な故に、現在の霊祠の姿は、何というか……雪だるまのようである。
一体、何枚重ね着してるんだという程に、もっこもこである。動きにくそうなこと、この上ない。
おおよその準備が整ったことを確認し、
ヒヨリは会場の中心で、真っ赤な拡声器を介して生徒達を促す。
『準備出来たら、俺の周りに集合しなさ〜〜〜い』
いそいそと、素早く指示に従って移動する生徒達。
雪穂と夏穂も、滑らかな動きでスイスイと移動。
『よしよし、集まったね。んじゃあ、大会の説明をしますよ』
大運動会っていっても、実施する種目は全部で3つ。
まず、スピードスケート大会と、フィギュアスケート大会。
これは自由参加ね。自信のある子は、どんどん参加して頂戴な。
で、最後に実施するのが雪合戦。これはね、全員参加必須。強制だね。
この運動会にはチームってものがない。要するに個人戦ってこと。
でもまぁ、これだけの数が集まったわけだから、
優勝者が一人だけっていうのはね、面白味に欠けるでしょ。
というわけで、楽しめば良しってことにするよ。
つまんなさそうにしてたら、ガツガツ減点していくからね。
楽しめば楽しむほどに『ワクワクポイント』が増えていきます。
大会終了時に、ワクワクポイントが100点を超えていたら合格ってことで。
めちゃくちゃ美味しいと評判の、千華先生の手作りおしるこを食べさせてあげます。
ワクワクポイントが100点未満だったら、おしるこはオアズケね。
ちなみに、ポイントは各所にいる先生が判定してつけていきます。
先生の前で、楽しんでるのをアピールするのもテクニックの一つだけど、うっとおしくない程度にね。
よ〜し。それじゃあ、始めようか。スケート大会に出る子は、藤二先生のところでエントリーしてきてね〜。
説明を聞き終えて、より一層ワクワクしている様子の雪穂。
そんな雪穂を見て、夏穂も嬉しそうに微笑んでいる。
「夏ちゃん、スケート大会出るよね!」
「そうね。面白いかもしれないわね」
「霊くんも出るかな? ……って、あれ? 霊くんいない」
「……。あら?」
キョロキョロと辺りを見回す雪穂と夏穂。
しばらくして、二人は、ようやく霊祠を発見することが出来た。
何度も何度も転んで、前に進めていない。進めそうな気配も……ない。
痛い、寒い、痛い、寒いと文句を言いながら何度も転ぶ霊祠を見て、雪穂と夏穂は顔を見合わせて笑った。
「霊くんは、出ないね」
「そうね。勧めても拒否しそう……」
「あっはっはっ! そだね〜」
*
雪穂はスピードスケート大会に参戦。
夏穂はフィギュアスケート大会に参戦。
スピードスケートは、もちろん速さを、スピードを競う。
会場を一周して戻ってくる、そのスピードを競うのだが。
自信があってエントリーするだけに、参戦者はツワモノ揃いだ。
中には気合を入れすぎて、他の参戦者と接触し、絡まったままコースアウトする生徒も。
白熱のスピードスケート大会。雪穂は、全参戦者の中で、二番目に速いタイムを叩き出した。
一番のタイムを叩き出したのは、クラスメートである海斗だ。
海斗は自慢気に「俺の勝ち!」と何度も執拗に繰り返す。
それに対して、雪穂はムッとし、再戦を申し出た。
雪穂と海斗が、大会外のバトルを繰り広げている最中、フィギュアスケート大会が進行。
こちらも、参戦者はツワモノ揃い。その殆どが、女の子だった。
プロ顔負けの演技で会場を魅了する参戦者ばかり。
だが、その中でも夏穂は一番の演技を見せた。
本人には演技をしているという感覚はなかったようで、
ただ純粋に、広く綺麗な氷のステージで踊れることが楽しかった模様。
霊祠はというと……会場の隅で、ホットココアを飲みながら観戦していた。
見事なスピードと演技の目の当たりにして、拍手したりケラケラ笑ったり。
何だかんだで、霊祠お坊ちゃまも楽しんでいる御様子。
「霊くんのそれ……何かに似てるんだよね〜。何だっけなぁ〜」
「……アイスホッケー選手みたいね」
「あ、それだ〜! 夏ちゃん、さっすが〜!」
キャッキャと笑う雪穂と、クスクス笑う夏穂。
二人が笑っている原因は、霊祠の出で立ちである。
何度も転んで痛い思いをしたが故の対策。
ヘルメットに膝当て、肘当て。防御力は大幅向上。
だが、夏穂が言ったとおり、その姿は、さながらアイスホッケー選手だ。
異常なまでにスッ転ぶ、ベンチウォーマー選手……?
霊祠の準備万端な姿から理解るように、次の進行プログラムは、いよいよ最後の雪合戦。
スケートリンクの上には、どっさりと雪が詰まれた。会場のお色直しも完了だ。
チームがないゆえに、無差別攻撃。とにかく投げて、投げて、投げまくる。
もはや、敵も味方もない。楽しんだもん勝ちである。
飛び交う雪玉、笑い声と悲鳴。賑やかな会場。
その隅っこに山を作った雪穂。
夏穂と霊祠も、その山の陰に隠れている。
霊祠が、せっせせっせと雪玉を作り、夏穂は出来上がった雪玉を雪穂へ渡す。
受け取った雪玉を、渾身のチカラを込めて雪穂が投げ放つ。
「とりゃぁ〜! うりゃぁ〜! てやぁ〜!」
「雪ちゃん、頑張って」
「本当、元気ですねぃ……」
「霊祠くん、もっと急がないと、すぐになくなっちゃうわ」
「あっ、はい〜!」
何とも見事な流れ作業……じゃない、連携プレイ。
雪穂が投げ放つ雪玉は、的確にボスボスと当たっていく。
まるで機械のように、正確に雪穂へ雪玉を手渡していく夏穂。さすがに、息がピッタリだ。
持ちやすいように大きさを調整しつつ雪玉を量産する霊祠も、地味だけど凄い。地味だけど。うん、地味だけど。
三人の連携プレイは、なかなかの脅威だ。放っておくわけにはいくまい。
とりあえず、脅威は先に潰しておくべし。そう悟って、三人の陣地へソロ〜リと近付く人物が二人。
雪山に隠れて作戦会議をしている三人。その背後でニヤリと不敵な笑みを浮かべたのは……海斗と麻深だった。
侵入者に真っ先に気付いたのは霊祠。
「うっ、後ろ!」
雪穂と夏穂に警告しながら、へっぴり腰で逃げようとした霊祠。
だが、遅かった。
ソリに乗せて運んできた大量の雪玉を、海斗と麻深は、躊躇うことなく三人に投げつける。
「うわ〜! 酷いよ、麻深姉! 作戦会議中だったんだよ〜! ズルい〜!」
「そうですよぅ! 先輩、オトナ気ないですよぅ!」
「ふふ……。ここは戦場よ。甘ったれたこと言ってちゃ生き残れないわ」
「麻深姉、目が怖いよ〜!」
「うわぁぁぁぁ〜!」
ギャーギャーと大騒ぎする剣道部在籍の三人。
もはや、雪山も崩れてしまって陣地もクソもない。
攻めの姿勢を崩さない麻深、応戦する雪穂、転んで、そのままゴロゴロと転がる霊祠。
楽しそうな三人を見やり、夏穂はクスクス笑う。
けれど、麻深の言うとおり、ここは戦場だ。
微笑みながら、まったりと観戦するなんぞ許されないこと。
背後に立つ影を確認し、パッと振り返った夏穂。
そこには、ニッコリと無邪気な笑みを浮かべる海斗がいた。
「手加減はするよ」
「…………」
ザッと退き、夏穂は慌てて逃げ出した。
「逃がすかー!」
「きゃぁぁぁぁぁ」
*
真冬の大運動会、閉会式。
全員が、美味しいおしるこに夢中で、ヒヨリの言葉なんぞ聞いていなかったけれど。
結局、おしるこオアズケを食らった生徒は一人もいなかった。
滅茶苦茶になったグラウンドと、雪まみれの生徒達を見れば、
全員が全力で楽しんだことは一目瞭然だ。
あまりにもエキサイティングしすぎて、怪我をした生徒もいる。
そこで頼りになるのは……もちろん、保健医のJだ。
会場を回り、負傷した生徒を治療しながらJは笑う。
子供だけに限らず、立派な大人まで怪我をしていることが可笑しくて。
負傷した生徒の中でも、一番派手に痛んでいるのは霊祠だ。
滑って転んで、そのままゴロゴロ。
いつしか戦場のサッカーボールと化した霊祠の身体は痣だらけ。
このまま帰ろうものなら、お屋敷に、けたたましい悲鳴が響き渡ることだろう。
「これは治療し甲斐があるな。楽しかったかい?」
笑いながら、治癒魔法をかけていくJ。
栗の甘露煮を頬張りながら、霊祠は嬉しそうに笑った。
そもそも、雪合戦もスケートも実際にやるのは初めてだったがゆえに、新鮮だったようだ。
みんな疲れてるだろうから、今日は午後の授業ナシにしよう。
生徒の身体を思って、藤二は言った。
だが、その言葉を聞いた途端、生徒達が一斉に立ち上がる。
何だ何だ? と首を傾げて笑う教員達。
誰が言い出したわけでもなく、再開される雪合戦。
疲れた? そんな弱音を吐く生徒なんて、ここにはいません。
一度は静まり返った会場が、また賑やかになっていく。
教員達は、生徒達の底知れぬパワーを実感して大笑い。
そこへ、ふわりと舞い落ちた雪。
一番に、舞い落ちる雪に気付いたのは雪穂だった。
チラリと見やれば、正座して、おしるこを食べている夏穂が肩を竦めて微笑み、はぐらかす。
真冬の大運動会、その名に似つかわしい演出を。
雪を降らせたのが誰か、すぐに気付いた雪穂。
真っ白な雪が降り注ぐ中、白熱の雪合戦が、再び。
「女の子も元気だね」
クスクス笑いながら言ったJ。
「そうですねぃ」
おしるこを完食し、はふぅと満足そうに息を吐きながら言った霊祠は、
まるで、おじいちゃん……いや、仙人のようだった。
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7192 / 白樺・雪穂 / 12歳 / 学生・専門魔術師
7182 / 白樺・夏穂 / 12歳 / 学生・スナイパー
7086 / 千石・霊祠 /13歳 / 中学生
NPC / 海斗 / 19歳 / HAL在籍:生徒
NPC / 木ノ下・麻深 / 16歳 / HAL在籍:生徒
NPC / ヒヨリ / 26歳 / HAL在籍:教員
NPC / 藤二 / 28歳 / HAL在籍:教員
NPC / 千華 / 27歳 / HAL在籍:教員
NPC / J / ??歳 / HAL在籍:保健医
シナリオ『 真冬の大運動会 』への御参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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