■老人とソウルクリスタル■
藤森イズノ |
【7707】【宵待・クレタ】【無職】 |
「やぁ。元気そうだな」
「えっ……。あ、どうも……」
突然、声を掛けてきたのは見知らぬ老人。
どこかで会っただろうか。思い返してみるも、心当たりはない。
だが、老人は、こちらの事情を全て把握している。
皆は元気か? 仕事は順調か? 微笑みながら問い掛ける。
それらに返答しつつ、自分は必死だ。思い出そうと必死。
あなたは誰ですかなんて聞ける雰囲気じゃない。
気まずいような、追い詰められるような、焦る感覚。
必死に思い出そうとしている自分を見やり、老人は言った。
「あぁ、すまんな。初対面だよ」
「え……?」
「だからこそ、依頼に来たんだ。お前さんにな」
「依頼……?」
首を傾げていると、老人は懐から何かを取り出して笑う。
微笑みながら、老人が差し出してきたものは……クリスタル?
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老人とソウルクリスタル
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「やぁ。元気そうだな」
「えっ……。あ、どうも……」
突然、声を掛けてきたのは見知らぬ老人。
どこかで会っただろうか。思い返してみるも、心当たりはない。
だが、老人は、こちらの事情を全て把握している。
皆は元気か? 仕事は順調か? 微笑みながら問い掛ける。
それらに返答しつつ、自分は必死だ。思い出そうと必死。
あなたは誰ですかなんて聞ける雰囲気じゃない。
気まずいような、追い詰められるような、焦る感覚。
必死に思い出そうとしている自分を見やり、老人は言った。
「あぁ、すまんな。初対面だよ」
「え……?」
「だからこそ、依頼に来たんだ。お前さんにな」
「依頼……?」
首を傾げていると、老人は懐から何かを取り出して笑う。
微笑みながら、老人が差し出してきたものは……クリスタル?
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「これなんだけど……」
懐からクリスタルを取り出し、ヒヨリに見せたクレタ。
時の回廊で、仕事帰りのクレタへ声を掛けてきた見知らぬ老人。
老人は、このクリスタルを鮮やかに染めてこいと言った。
それが老人の『依頼』なのだそうだ。細かいことは理解らない。
このクリスタルをどうするつもりなのか、染める意味はあるのか。
染め方も説明してくれなかった。ただ染めてこいと言っただけ。
また、夜にここに来るから、それまでに染めておくようにと言い残して。
嫌な感じはしなかったけれど、一応知らせておくべきかと思ったクレタは、
すぐさまヒヨリの部屋へ赴いて事情を説明した。
クリスタルを見て、ヒヨリは笑う。
どうして笑っているのか理解らず、首を傾げるクレタ。
ヒヨリは、クレタからクリスタルを受け取って、光に当てながら説明した。
いきなり何を言い出すんだってビックリしただろうな。
その爺さんは、ジャッジの古い知人だ。
どこで知り合ったのかは、俺も知らないけど。
クレタは、まだ行ったことないだろうけれど、
ファスタイバっていう世界があってね。
爺さんは、そこで回廊の番人をしてる。
こうやって、たま〜に、ここに来て遊んで帰るんだ。
クリスタルを染めろっていうのは、その定番だね。
爺さんの遊びに付き合ってやる感じで良いと思うよ。
俺もナナセも、オネも斉賀も……みんな、これ、やらされたよ。懐かしいなぁ。
「……そうなんだ」
「うん。まぁ、難しく考える必要はないよ」
「どうやって……染めるの……?」
「ん〜。それは自分で考えないと駄目なところだな」
「……そっか」
「まぁ、抜き打ちすぎるから、ヒントあげようか」
「……うん」
「そのクリスタルは "想い" を好物としてる」
「想い……」
「ヒントは、これだけ。頑張ってね」
「……うん。ありがとう」
*
想いを好物にしてるって……ことは……どういうことだろう。
食べるってことかな……口なんて、ないけど……。
どうやって食べるんだろう……。どうやって食べさせれば良いんだろう……。
自室に戻り、クリスタルと睨めっこするクレタ。
ヒヨリのヒントを丸々受け取ったが故に、難航しているようだ。
クリスタルを指で転がして弄びながら、クレタは思い返す。
想い……か……。
そう言われて、一番に頭に浮かぶのは……やっぱり、Jとの思い出かな……。
一緒に過ごしてきた、これまでの思い出が、次々と頭に浮かんでくる……。
全ての始まりは、Jが僕の手を取ってくれた、あの日から。
気にいらなければ、すぐにでも消すことは出来ただろうけれど。
Jは、生まれた僕を受け入れてくれた。僕の全てを、生まれた瞬間に受け入れてくれた。
手を取ってくれたから、僕は存在できた。今もこうして、この世界に生きることが出来てる。
今までも、これからも、Jは見返りなんて求めない。
ただ、僕を抱きしめてくれる。大好きだよって囁きながら。
その腕の温もりを知っているから、僕は何度も身を委ねる。
あなたの気持ちが大きすぎて、戸惑ったこともあるよ。
繊細で、ひたむきで、でも誰よりも熱く強い想い。
それを肌で、心で感じる度に、僕は、どんどん怖くなった。
この温もりを失ってしまったら、どうなるんだろうって。
そう不安に思ってからは、心が不安定になって。
いっそのこと、自ら切り捨ててしまえば楽になるんじゃないかって考えた。
いつか離れてしまうのなら、今のうちに早々に離れてしまえば良いんじゃないかって。
そうすれば、悲しみも少なくて済むんじゃないかって。
失うことに怯える恐怖から逃れることが出来るんじゃないかって。
でも、違ったんだ……。ずっと一緒に。もう二度と離れない。
お互いに、そう誓い合えば、不安なんて、どこかへ消える。
何てくだらないことを考えていたんだろうって、自分に呆れもしたよ。
お互いを求め合う、必要とする強い絆。揺るがぬ絆。
思い返す内、クレタの頭の中に『光』が浮かんだ。
眩い光のイメージは、二人が寄り添う姿そのもの。
いつしか、思い返すことに夢中になっていた。
あなたに惹かれていく、どうしようもない心。
身も心も重なり合う感覚に覚える快感と幸福感。
満たされる、その感覚に恍惚とすれば……頬を一筋の涙が伝う。
何度思い返しても、こうして満たされて涙が溢れる。
こんなにも、あなたを想ってる。
自分でも呆れるくらい……あなたのことが好き。
クスンと鼻をすすり、掌の中にあるクリスタルを見やるクレタ。
頬を伝って落ちる涙が、クリスタルを濡らす。
すると、透明だったクリスタルが……ゆっくりと青色に染まりだした。
想いで染まる。ヒヨリから貰ったヒントを、はっきりと理解したクレタ。
上から下へ、カーテンが降りるように青く染まっていくクリスタル。
その過程を見つめながら、クレタは微笑んだ。
まるで、クリスタルと一緒に喜びを共有しているような気がして。
染まるクリスタル。美しき青。
その色は、愛しい人の瞳と同じ色をしていた。
*
*
*
「ほほぅ。これは見事なもんだ」
「……そう、なんですか……?」
「ここまでの青を見るのは初めてのことさ」
「そう……ですか……」
「お前さん、涙ってのは、どんなときに出るものか言ってみろ」
「えと……悲しい時……。嬉しい時にも出る……けど……」
そうだな。一般的に『涙』と聞けば切ない事情を思い浮かべるだろう。
けれど、お前さんが言ったとおり、涙ってのは嬉しいときも零れるものだ。
クリスタルを青に染めるには、喜びの涙が必要になる。
ここまで美しく染まっているんだ。
お前さんの喜びが、どれほどのものか。嫌でも理解る。
何を想い、何に喜びを覚えて涙を零したのか。
残念ながら、見る限りでは、そこまでは理解らない。
教えてくれぬかと言いたいところだが……やめておこう。
軽々しく口にすべきことではないと思うからな。
お前さんも、秘密にしておきたいだろう?
「……そんなこと、ないけど」
「ほぅ?」
嬉しそうに微笑み、その場に座り込んだ老人。
その言い回しは、老人の作戦だったのだが。
クレタが "しまった……" と悔やむことはない。
寧ろ、聞いて欲しいと思うんだ。僕は……。
こんなにも、Jのことを想ってる、その事実を誰かに話したい。
仲間にはね……ちょっと恥ずかしくて言えないから……。
お爺ちゃんになら、話せるような気がするんだ。聞いてくれる……?
面白くないかもしれないけど……聞いて欲しいんだ。
「ノロけさせろってことか。お前さん、意外と大胆だな」
「のろけ……」
「そういうことだろう? もしや、自分で理解っておらんのか」
「……そういう、ことなんだ」
「ふっふっふっ……」
「……?」
「あぁ、すまんな。では、聞かせてもらおうか」
「……そう言われると……恥ずかしくなってくるね……」
「何を今更。ほれ、早くせんか」
クスクス笑いながら、老人は青く染まったクリスタルを箱に入れた。
チラリと見えた箱の中。そこには、色とりどりのクリスタルがあった。
「もしかして、その中に……Jが染めたクリスタルも……ある……?」
「もちろん、あるぞ」
「…………」
「見せることは出来んぞ」
「…………」
「そんな目で見ても駄目だ」
「…………」
「駄目なものは駄目。ほれ、話を聞かせてくれ」
「……(どうしよう……。気になる)」
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
NPC / ヒヨリ / 26歳 / 時守(トキモリ)
シナリオ『 老人とソウルクリスタル 』への御参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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