■黒鳥狩り■
藤森イズノ |
【7707】【宵待・クレタ】【無職】 |
美味しい紅茶とお菓子で、他愛ない話に花を咲かせていた時のことだった。
それまで、ゆったりと流れていた時間が、急にピンと張り詰める。
全員が、ほぼ同時に、その異変を感じ取った。
見知らぬ人が、土足で心の中に入ってくるような、嫌な感覚。
この感覚は……侵入者あり、の事実を意味するものだ。
クロノクロイツへ、外界から部外者が侵入している。
こちらから向こうへ行くことは容易いが、
あちらから、この空間へ来ることは容易でない。
一体誰が、何の為に……。
全員が顔を見合わせて席を立とうとした瞬間。
遠くから、鳴き声が聞こえた。
悲鳴のようにも聞こえた、その鳴き声は……。
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黒鳥狩り
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美味しい紅茶とお菓子で、他愛ない話に花を咲かせていた時のことだった。
それまで、ゆったりと流れていた時間が、急にピンと張り詰める。
全員が、ほぼ同時に、その異変を感じ取った。
見知らぬ人が、土足で心の中に入ってくるような、嫌な感覚。
この感覚は……侵入者あり、の事実を意味するものだ。
クロノクロイツへ、外界から部外者が侵入している。
こちらから向こうへ行くことは容易いが、
あちらから、この空間へ来ることは容易でない。
一体誰が、何の為に……。
全員が顔を見合わせて席を立とうとした瞬間。
遠くから、鳴き声が聞こえた。
悲鳴のようにも聞こえた、その鳴き声は……。
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同時に席を立った、クレタとナナセ。
二人は顔を見合わせ互いに頷くと、美味しい紅茶を放ってリビングを後にする。
バタバタと出て行く二人の背中を見送り、仲間達は……お茶を再開。
追うことをしないのは『十分』だと思うが故。
もしも二人で手に負えないようなら、その都度、応援に行けば良い。
素っ気無い態度に思えるけれど、信頼しているからこそ出来ること。
それに、この先、おそらく、こうして緊急出動せねばならないことが増える。
こうして全員が集まっているのは、ごく稀だ。
居合わせている面子が一人、二人の時もあるだろう。
その時にも慌てることなく、迅速に対応できるようにしておくのも大切なこと。
特にクレタは、まだ成長過程にある存在だ。
自分のチカラを理解させる為にも、率先して戦場へ向かわせるべきだ。
「ある意味、スパルタ教育だよね、これ」
クスクス笑いながら、オネが言った。
ヒヨリは目を伏せ、空になったカップへ紅茶を注ぎながら微笑む。
「まぁね。でも、全員、こうやって育ってきたわけだし」
「育ててきた、の間違いじゃない?」
「まぁね。オネ、おかわりは?」
「うん。頂戴」
オネのカップへ紅茶を注ぎながら、ヒヨリはチラリとJを見やる。
斉賀と並んでソファに座り、何やらよくわからない分厚い本を読んでいるJ。
「同時に席を立ったのが、お前じゃなかったのは意外だね」
笑いながら、Jに歩み寄って手を差し出すヒヨリ。
Jは、一旦本から目を離し、カップを渡しながら苦笑を返す。
「俺とのコンビネーションばかり向上するのはマズイ、でしょ?」
「まぁねぇ。バランスっつうものがあるからね」
「でしょ。そういうことだよ」
「お前、そうやって自分に言い聞かせてない?」
「うるさいな。読書中。邪魔しないでくれる」
「はいはい」
*
聞こえた鳴き声、悲鳴のような鳴き声。
今も聞こえるその声は……間違いなく、クロのんの声だ。
僕にとってクロのんは、大切な友達。
Jから、ホイッスルを受け取ってからも自由に放しているけれど……。
最近、クロノクロイツ全域が不安定な状態だから、少し心配はしてた。
厄介なことに巻き込まれるんじゃないかって……。
聞こえる鳴き声は、クロノバードの声。
助けを求めるようにも、威嚇しているようにも聞こえる。
その声を聞けば、何か問題が発生していることは、すぐに理解る。
クロノバードが、どんな状況にあるのかも理解る。
クレタとナナセは、途中から気配を消して、こっそりと侵入者のもとへ急ぐ。
次第に大きくなっていくクロノバードの声と、確認できるクロノバードの姿。
バサバサと翼を揺らすクロノバードを囲うようにして、見知らぬ男が三人。
男達の手には、縄のようなものが確認できる。
この空間で門番のような存在であるクロのんに見つかって、警戒されてるのかなって思ったんだけど……。
「クロのんが目的なの……かな……?」
小さな声で呟いたクレタ。ナナセは、侵入者の動きを見つめながら返す。
「準備万端なところを見ると、その可能性が高いわね」
「どうして……。何の為に……」
「利用しようとしてるんじゃないかしら」
「利用? クロのんを……?」
「えぇ。クロノバードを捕縛して、私達をおびき出そうとしてるとか」
「……人質みたいな感じ?」
「そうね。はっきりと、そうだと言えるわけじゃないけど」
「そっか……。どうしよう……」
「……。迂闊に近寄るべきではないわね」
「そうだね。罠とか掛けられてるかもしれないし……」
「距離を保ったまま、彼等の目的を明らかにしましょう」
「うん……。僕、どうすればいい……?」
「傍にいて。離れないでね。もしものときは合図するから、宜しく」
「うん。わかった……」
クレタが頷いたのを確認し、ナナセは歩き出す。
柱の陰から姿を見せたクレタとナナセに気付いた男達は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
やはり、時守ら、この空間の住人を、おびき出すことを目的としていたようだ。
ナナセはピタリと立ち止まり、男達へ尋ねる。
「あなたたちの目的は、何かしら」
「へへ。話のわかる、お嬢ちゃんだな」
「勘違いしないで。私が聞いてるのは、あなたたちの目的よ。望みじゃないわ」
「……へぇ。意外と冷静だな。まぁ、もう少しこっちに来いよ。話しにくいだろう?」
「いいえ。ここで十分よ。いいから、質問に答えなさい」
淡々と言い放ったナナセ。
得体の知れぬ連中の傍へ、のこのこ近付くなんてことするはずもない。
自分達よりも一回り、いや、もしかしたら、それ以上年下であろうに、
冷静な対応をするナナセに、男達は、若干イラついているようだ。
だが、一筋縄でいかぬことくらいは知っている。
近くまで、おびき寄せることが出来ぬのならば……。
ニヤリと笑い、男達は一斉にクロノバードへ向けて縄を投げ放った。
人質は、有効活用してナンボだ。
利用する為に、こうして危険を顧みず、探し出して接触したのだから。
だが、男達の思惑と計画は、いとも容易く断ち切られる。
男達がクロノバードへ縄を投げやるのと、ほぼ同時にナナセはクレタへ合図を飛ばしていた。
ナナセが肩を軽く叩く、その回数で、求められている動きは把握出来る。
ここへ来る途中に、決めておいた『合図』
その合図の類に合わせて、クレタは的確なサポートを。
投げやられた縄は、バチッと電気のような音を立てながら煙になって消えてしまう。
クロノバードの身体を包み込む、白い光。その光に掻き消されてしまったのだ。
上空に浮かぶ無数の光の玉と、消えていく縄を見上げながら、男達は意味深な遣り取りをした。
「これか?」
「いいや。違うな。これは固有スキルだろう」
「女のほうか?」
「いや。後ろにいるガキだ」
「あんなやつ、リストにいたか……?」
「見落としてたのかもしれない」
「まぁ、そんなことはどうでもいいさ」
「そうだな。とりあえず……」
顔を見合わせ、ニタリと笑って男達が打った次手。
それは、無計画な『悪足掻き』のように思えるものだった。
懐から取り出したナイフを、クレタの身体目掛けて投げ放つ。
だが、そんな攻撃は無意味だ。
クレタは自身の身体も光で覆い、その攻撃を防ぐ。
光に当たって、四方八方へ弾け飛んでいくナイフ。
その "弾け飛んでいく" 様に、クレタとナナセは、同時に眉を寄せた。
普通のナイフではない。
もしも普通の、何の変哲もないナイフならば消えるはずなのだ。
先ほどの縄のように、光に燃やされて消えるはずなのだ。
だが、消えることなく、ナイフは跳ね返った。
それは即ち、ナイフに何らかの『能力』が付加されている証拠。
そう把握した直後、ナナセは躊躇うことなく、クロノバックを発動した。
侵入者を、在るべき場所へ還す。
彼等の口から目的を聞き出すことは出来なくなってしまうけれど、無問題。
聞き出す必要がなくなったからだ。聞かずとも、理解ったからだ。
クロノバックを浴び、在るべき世界へと戻っていく男達。
その最中、男達は満足そうに笑んでいた。
*
誰よりも早く席を立ち、戻ってきたクレタを迎えるJ。
怪我はしていないか、大丈夫だったかと大袈裟に心配するJに、クレタはクスクス笑う。
Jの、その姿に『子煩悩』を感じながら、ヒヨリは紅茶に砂糖を入れながら微笑んで尋ねた。
「それで?」
ソファに腰を下ろし、前髪を整えながらナナセは返す。
「目的は、私達の能力だわ。間違いなく」
「固有? それとも特質?」
「後者ね」
「なるほどね。また厄介な奴らが出てきたなぁ」
「発動するべきじゃなかったかしら」
「いいや。そうすべきだと思ったんでしょ? お前は」
「そうね。余計に面倒なことになりそうな気がしたから」
「じゃあ、良いんじゃないか?」
「……でも、何となく、悔しいのよね」
苦笑しながら紅茶を口に運ぶナナセを見やりながら、ヒヨリは目を伏せた。
まぁ、確かにね。侵入者の望みを叶えてやったようなもんだからね。
それにしても、何だって『クロノバック』の能力を欲しがるんだか。
この能力は、俺達にしか扱えないもんなんだけどね。
まぁ……どうにかして使えないかと目論んでるから欲しがるんだろうけど。
さぁて。どうしたもんかなぁ。放置ってわけにもいかないよなぁ、これ。
とりあえず、少し様子見とこうか。
お望みのものを手に入れて、そいつらがどう動くか。
あぁ、そいつらがどこから来たか……一応調べておいて。
こっちから行かずとも、向こうからまた来てはくれるだろうけど、一応ね。
それから、クレタに伝えといて。しばらく、一人で外出するなって。
リストがどうのこうの、その辺は、よくわかんないけど、
向こうにクレタの情報がないのなら、隠しておくべきだろうから。
秘密兵器的なね。そんな感じでね。
まぁ……一人で外出することはないと思うけど。
っていうか、させてもらえないだろうけど。
あれを見る限りね。
「……J。本当に、大丈夫だから。紅茶飲ませて……」
「あぁ、ごめん。はい、じゃあ、口開けて」
「そうじゃなくて……」
「ん?」
そうじゃなくて、ちょっと離れて。
そう言いたいんだけど。言えない。
申し訳ないとか、そういうんじゃなくて。
言えずにいる状況もまた、幸せに思えるから困ったものだね……。
うまく意思を伝えることが出来ずにいるクレタを見やり、仲間達は笑う。
ほのぼのとした雰囲気。いつもの、何の変哲もない平和な時間。
出来うることならば、願わくば、ずっとこのまま、酔いしれていたい。
全員に、そう思わせるほどの満ち足りた時間。
だが、その最中、静かに悲劇は始まっていた。
拭い去れぬ違和感に、フルフルと何度も頭を振るクロノバード。
翼に宿した、宣戦布告。
遠い世界、侵入者達は顔を見合わせてグラスを交えた。
互いを称え、成功を祝う『乾杯』
お馬鹿な時の守り神さん達へ。
俺達の目的が、一つだけだとでも?
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
NPC / ナナセ / 17歳 / 時守(トキモリ)
NPC / ヒヨリ / 26歳 / 時守(トキモリ)
NPC / オネ / 13歳 / 時守(トキモリ)
NPC / J / ??歳 / 時狩(トキガリ)
NPC / クロのん / ??歳 / 時護黒鳥(クロノバード)
シナリオ『 黒鳥狩り 』への御参加、ありがとうございます。
シナリオタイトル諸々、丸ごと伏線でした。今後、益々クレタくんの存在が鍵に。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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