■潜入捜査■
藤森イズノ |
【7707】【宵待・クレタ】【無職】 |
必要なことなのだとジャッジが言うならば従うまで。
それに、自分も気になって仕方がない。
近頃、クロノクロイツに部外者が侵入してくることが増えた。
こちらから向こうへ行くのは、時の回廊を経由すれば容易いこと。
でも、向こうから、こちらへ来ることは難しいはず。
というか、出来ないはずなのだ。
それなのに、最近は連日侵入者が発生している。
本来の仕事や使命に併せて、それらも処理せねばならないのは一苦労。
この現状を打破すべく、ジャッジは命じた。
外界へ赴き、調査して来いと。
赴いた先は、東京。その片隅にある喫茶店。
ジャッジが調査した結果、ここで怪しげな集会が行われているらしいとのこと。
店側の許可は取ってある。潜入捜査は、滞りなく開始。なのだけれど……。
「……ちょっと。駄目ですよ、そんなに険しい顔をしては」
「まぁ、仕方ないよ。動きにくいし、これ」
「いいですか。教えたとおりにやって下さいね」
耳打ちし合うのは、共に潜入捜査を試みる仲間。
Jとワンだ。
二人が傍にいてくれるのは心強い。
でも、Jが言ったとおり、この格好……動きにくい。
ソワソワと落ち着かぬ様子の自分。その背中を叩き、ワンは言った。
「あ、出番ですよ。頑張って」
「頑張れ」
クスクス笑いながら、Jも続けて言った。
頑張れと言われても……まぁ、仕事の内だから割り切ってやるしかないか。
コホンと一つ咳払いを落とし、ワンに伝授されたとおりに……。
「い、いらっしゃいませ」
|
潜入捜査
-----------------------------------------------------------------------------------------
必要なことなのだとジャッジが言うならば従うまで。
それに、自分も気になって仕方がない。
近頃、クロノクロイツに部外者が侵入してくることが増えた。
こちらから向こうへ行くのは、時の回廊を経由すれば容易いこと。
でも、向こうから、こちらへ来ることは難しいはず。
というか、出来ないはずなのだ。
それなのに、最近は連日侵入者が発生している。
本来の仕事や使命に併せて、それらも処理せねばならないのは一苦労。
この現状を打破すべく、ジャッジは命じた。
外界へ赴き、調査して来いと。
赴いた先は、東京。その片隅にある喫茶店。
ジャッジが調査した結果、ここで怪しげな集会が行われているらしいとのこと。
店側の許可は取ってある。潜入捜査は、滞りなく開始。なのだけれど……。
「……ちょっと。駄目ですよ、そんなに険しい顔をしては」
「まぁ、仕方ないよ。動きにくいし、これ」
「いいですか。教えたとおりにやって下さいね」
耳打ちし合うのは、共に潜入捜査を試みる仲間。
Jとワンだ。
二人が傍にいてくれるのは心強い。
でも、Jが言ったとおり、この格好……動きにくい。
ソワソワと落ち着かぬ様子の自分。その背中を叩き、ワンは言った。
「あ、出番ですよ。頑張って」
「頑張れ」
クスクス笑いながら、Jも続けて言った。
頑張れと言われても……まぁ、仕事の内だから割り切ってやるしかないか。
コホンと一つ咳払いを落とし、ワンに伝授されたとおりに……。
「い、いらっしゃいませ」
-----------------------------------------------------------------------------------------
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
ペコリと一礼し、承ったオーダーをキッチンへ伝えて……バックルームに戻る。
料理が出来上がったら、それを持って、お客様の待つテーブルへ。
そしてまた一礼してバックルームに戻る。
やるべきことは至って簡素だ。
けれど、これがなかなか難しい。
常に笑顔でいないといけないというのも、クレタにとっては過酷だ。
壁に両手を付いて、はふぅ……と溜息を落としたクレタ。
慣れないことをすると、異常なまでに疲れる。
グッタリしているクレタとは逆に、Jとワンは余裕だ。
「これ、美味しそうだね。オレンジの方」
「私はアップルの方が好きですね。色合いとか諸々」
メニューを見ながら、休憩時間に食べるものを決めているようだ。
二人の会話を耳にしながら、クレタも心の中で呟いて会話に参加する。
僕は……フォンダンショコラが良いな。人気メニューみたいだし……。
さっきから、何度も運んでるけど、その度に美味しそうだなぁって思ってた……。
甘いものは、あんまり好きじゃないんだけど……それでも美味しそうだなって思ったから……。
っていうか二人共、制服……似合ってるね。凄く似合ってる。
何ていうのかな……上品な着こなしっていうか……そんな感じ。
僕は、どうなんだろう。二人みたいに上品にはいかないだろうけど……ちゃんと着れてる?
おかしなところがあったら、何でも言ってね。二人に従うから……。
「あ、そうだ。クレタ。髪、纏めようか」
「ん……?」
「そうですね。接客する上で目が隠れてるのは、宜しくないです」
「髪……纏めるって、どういう……」
「簡単だよ。こうやって両サイドをピンで留めるだけ。……あぁ、いいね」
「うん……? 何が……?」
「女の子みたいですね。こうして見ると。可愛いですよ、クレタくん」
「え……?」
「うん。可愛いよ、クレタ」
「え……?」
そんなまったりとした雰囲気が続き、三十分ほどが経過した頃。
それまでの雰囲気は払拭され、三人が三人、神妙な面持ちに変わる。
カランカランと鐘の音が響き、店内に入ってくるお客様。
三人は、そのお客様を睨みつけるように見やる。
人数は……四人。全員が二十代後半の男。
ジャッジから伝えられていた情報どおりの連中だ。
「う〜ん。あからさまだなぁ」
「そうですね。とても下品です」
「…………」
Jとジャッジの言葉に、クレタは瞬きで同意。
確かに、パッと見ただけで『厄介者』だということが理解る。
扉の開け閉めも乱暴で、煙草をふかしながらの御入店。
他の客も、迷惑そうな顔をしている。
とはいえ、お客様であることに変わりはない。
ここで追い返しては、潜入捜査の意味もなくなってしまう。
Jとワンに肩を叩かれ、クレタは頷いて、連中の接客へと向かった。
いらっしゃいませ、ご来店ありがとうございます。から始まる接客。
ワンに教えられたとおり、クレタは丁寧な接客で応対する。
お店では、お客様が一番偉い立場にある。
それは『悪事』を働く連中にも適用される事実。
失礼があってはならない。店側にしても、こちらの目的にしても。
連中に冷たい水を出し、次いでメニューを渡すクレタ。
何気ない接客の中で、クレタは、さりげなく『把握』した。
水を手に取り、真っ先に喉を潤す人物。メニューを一番に開く人物。
灰皿を求めるようなジェスチャーをする人物、それに応じて灰皿を差し出す人物。
四人の動きを確認し、クレタが把握したのは連中の内部構成。
誰がこの中でリーダーなのか、一番下っ端は誰か。
何気ない仕草で、それらは容易に把握できる。
オーダーを取り、バックルームへ戻ってきたクレタは、Jとワンに報告した。
「リーダーは、一番奥に座ってる、帽子を被った人……」
「なるほど。でも、一番若いんじゃない? あいつ。あの中じゃ」
「年齢は関係ないんだと思いますよ。弱肉強食ってやつです」
「へぇ。年下に頭下げるとか……俺は嫌だね」
「色々なルールがあるんですよ。外界にも」
「なるほどねぇ」
「じゃあ、ここからは別々に行動しましょう。悟られないように気をつけて下さいね。特に、J」
「ん? 何で俺?」
「あなたは、カッとなると手に負えませんから」
「あぁ、褒め言葉?」
「いいえ。褒めてません」
クスクス笑い、互いの背中にポスッと拳を当てて、それぞれ別のテーブルへ接客に向かったJとワン。
クレタは料理が出来上がるのを待ちつつ、店内の一角、侵入者連中のテーブルへ気を配り続ける。
「ねぇ、お兄さん」
「はい?」
「新人さんよね? 見たことないもの」
「あぁ、うん。そうだよ。……っと。そうですよ」
「ふふふ。ねぇ、歳は? いくつなの?」
「秘密」
「えぇ〜。教えてよ〜」
「駄目。ご注文をどうぞ」
「えぇ〜」
うん。外界の女の子って積極的だよね。ガツガツしてるっていうのかな。嫌いじゃないよ。
まぁ、向こうにいる "女" っていうと、ナナセとハルカくらいしかいないからね。
どっちも飄々としてるし。まぁ、それはそれで好きなんだけど。
目を伏せ微笑み、そんなことを考えながら接客を続けるJ。
一人で来店した女の子は、すっかりJに夢中のようで。
女の子のアプローチを軽く受け流しながら、Jは聞き耳を立てている。
可愛い女の子の気持ちに応じることが出来ないのはもどかしいけれど、
目的を投げ出すわけにはいかないからね。ごめんね。
Jが女の子に言い寄られて苦笑している最中、反対側のテーブルではワンが接客中。
こっちもこっちで口説かれているのだが、ちょっと異質である。
「キミなら大歓迎だよ。きっと、すぐにでもナンバーワンになれるよ」
「お言葉は光栄ですが、その気は御座いませんので」
「どうして? やっぱり、世間的にって感じ?」
「いいえ。私には不合だと思います」
「そんなことないって」
「それに、そう容易くトップに立てるほど甘くないでしょうに」
「いいねぇ〜。その現実的な感じ。余計に欲しくなるよ」
「光栄です」
「とりあえずさ、一回だけ、店に……」
「お断りします」
「ちょ、まだ話してる途中!」
「ご注文をどうぞ」
クスクス笑いながら、メニューを示して催促したワン。
ワンに掛かっている『口説き』は、ホストクラブへの勧誘である。
当然、適当に受け流しているのだが……些か、しつこいというか面倒だ。
それでも失礼な態度を取ってはいけないのが、店員として辛いところ。
まぁ、ワンは普段から何事にも動じず、
仲間内でも、素っ気無さならナンバーワンと言われているくらいだから、
しつこい口説きにキレたりすることは、万が一にもないだろう。
それに、彼は真面目だ。しっかりと受け流しながら、しっかりと聞き耳を立てている。
二人が接客するのと同時に、クレタもパタパタと店内を駆け回る。
オーダー、会計、掃除……。意外に、接客業はハードだ。
これまでにアルバイトなんぞしたことがないクレタにとっては、
肉体的な疲労よりも、常に笑顔でいることを求められる精神的疲労が大きい。
バックルームに戻っては溜息。その度に、Jとワンが励ますように背中を叩く。
そうして潜入捜査を続行すること、二時間。
何度目かもわからない灰皿交換の際、
捜査対象の連中が、乱暴な口調で会計を申し出た。
その言葉を待ちわびていたかのように、ホッと安堵してしまったクレタ。まぁ、無理もない。
店を出て行く連中の背中へ贈る『ありがとうございました』
彼等の後を追うことはしない。
追いかけて、とっちめるべきなんじゃないかとJは言ったが、クレタはそれを阻んだ。
僕達が、ここに来た目的は、あくまでも調査。
ジャッジに指示されたこと以上の動きは好ましくない。
彼等の目的が理解っただけで十分だと考えるべきだと思う。
このまま速やかに、クロノクロイツへ戻って、ジャッジに報告して……。
「って……。何してるの、二人共」
「何って。休憩」
「結局、する暇なかったですからね」
「……。食べてる……」
「クレタの分も作ってもらってるよ。あ、ほら、出来たみたい。貰っておいで」
「…………」
苦笑しながらも、作ってもらったデザートを受け取りにキッチンへ向かって行くクレタ。
その背中を見やりながら、Jはポツリと呟いた。
「面倒なことになってきたなぁ」
目を伏せ、紅茶を口に運びながら頷くワン。
「そうですね」
「それにしても、次から次へとよく考えるよね」
「悪人とは、そういうものですよ。無駄に賢いといいますか」
「あれだけの知識があるなら、もっと別のことに費やせば良いのに」
「それが出来ないから、彼等は悪人なんですよ。不憫な人達です」
「……今更だけど、キミの言い方ってトゲがあるよね」
「そうですか? そんなつもりはないんですけど」
「うん、そういう反応もね。まぁ、いいよ。俺は好きだよ、そういう性格」
「光栄です。 ……とりあえず、一番重要なのは、クレタくんの件ですね」
「そうだね」
どういうわけか、連中はクロノクロイツ住人の情報を持っている。
どこから入手したのか、今回の潜入捜査では、そこまで把握することは出来なかったけれど。
侵入者の目的は、対象を在るべき場所へ還す能力『クロノバック』
その能力を用いて、クロノクロイツを丸ごと我が物にしようとしている。
判明していない重要な点は、もうひとつ。
その目的を果たそうとしている、真の黒幕の存在。
侵入者達は、その人物に指示されて動いているようだ。
こちらの情報を所有されている以上、軽率に動くことは出来ない。
ただ一人だけ、唯一、クレタの情報だけは、連中も得ることが出来ずにいるらしい。
どうしてなのかは理解らない。こちらで対処しているわけでもない。
何故、情報を得ることが出来ないのかと連中は苛立っていたようだが、
その疑問は、こちらとて同じだ。どうして、クレタの情報だけ隔離されているのか。こっちが聞きたい。
美味しそうなフォンダンショコラを手に、目をキラキラと輝かせながら戻ってくるクレタ。
その屈託のない表情に、Jとワンは笑う。
「……クレタくんの件は、後日二人で報告しましょう」
「了解」
-----------------------------------------------------------------------------------------
■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
NPC / ワン / 25歳 / 時守(トキモリ)
NPC / J / ??歳 / 時狩(トキガリ)
シナリオ『 潜入捜査 』への御参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
-----------------------------------------------------------------------------------------
櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
-----------------------------------------------------------------------------------------
|
|