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■ラクティックタルト■

藤森イズノ
【7192】【白樺・雪穂】【学生・専門魔術師】
 中には……そうね。料理が苦手って子もいるだろうけれど。
 これは、一般的な料理と異なるものだから、心配しなくて大丈夫よ。
 ここにある果物と、ラクティックを使ってタルトを作るだけで良いの。
 理解らないことがあったら、傍にいる御友達でも私でも誰でも良いから聞いてごらんなさいな。
 うん? ラクティックって何ですか? って?
 ふふ。そうよね、わからないでしょうね。
 だからこそ、材料に選んだんだもの。
 自分で調べて、ここに持ってきて。
 準備が整った子から、調理を開始してね。
 ラクティックに関するヒントは、残念ながらナシよ。
 あぁ、そうそう。調理までの速さは関係ないから。
 重要なのは、効率的な調査と完成したタルトの味よ。
 全員の調理が終わったら「いただきます」しましょうね。
 はい、それじゃあ、みんな、いってらっしゃい。
 ラクティックタルト

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 中には……そうね。料理が苦手って子もいるだろうけれど。
 これは、一般的な料理と異なるものだから、心配しなくて大丈夫よ。
 ここにある果物と、ラクティックを使ってタルトを作るだけで良いの。
 理解らないことがあったら、傍にいる御友達でも私でも誰でも良いから聞いてごらんなさいな。
 うん? ラクティックって何ですか? って?
 ふふ。そうよね、わからないでしょうね。
 だからこそ、材料に選んだんだもの。
 自分で調べて、ここに持ってきて。
 準備が整った子から、調理を開始してね。
 ラクティックに関するヒントは、残念ながらナシよ。
 あぁ、そうそう。調理までの速さは関係ないから。
 重要なのは、効率的な調査と完成したタルトの味よ。
 全員の調理が終わったら「いただきます」しましょうね。
 はい、それじゃあ、みんな、いってらっしゃい。

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「ねぇ、雪ちゃん……」
「うん。多分っていうか、間違いなくアレだね〜」
「そうよね」
 生徒達は一斉に調理室を出て『ラクティック』を探しに行った。
 雪穂と夏穂は、廊下で顔を見合わせて頷く。
 二人にとって『ラクティック』は、思い出に繋がる代物だ。
 間違っている可能性は低いけれど、念には念を入れて。
 雪穂は鞄から分厚い本を取り出してパラパラと捲る。
 様々な魔法植物が掲載されている辞典だ。
 どこで入手したのかは不明。多分、聞いても教えてくれない。
 辞典の、ちょうど真ん中のページ。そこに掲載されている桃色の実。
 サクランボ程の大きさの実が、葡萄のように房に成っている果実。
 写真の上には、魔法文字で『ラクティック』と書かれている。
 ごく稀に、現実世界にある普通の木に成ることもあるけれど、本当に稀だ。
 少し遠いけれど、確実に入手できる場所へ向かったほうが良い。
 辞典にも掲載されているが、二人は見ずとも理解っている。
 その場所とは、異界だ。
 あらゆる世界に通ずる、不思議な空間。
 その片隅にある大きな木に、ラクティックは実る。
 誰でも簡単に入手できるわけでもなく、
 手に入れるには、ちょっと厄介な工程を踏まねばならないのだが。
 まぁ、その点も問題ない。この二人ならば。
「めんどくさいから、連れてってもらお〜」
「そうね。そのほうが早いわね。……仕方ないわよね」
「んじゃ、呼ぶね〜」
 懐からサッとスペルカードを取り出し、
 その中から一枚、半身半馬の男が描かれたカードを選んだ雪穂。
 カードをピンと指で弾きながら詠唱して呼びつける。
 スペルカード【 空間の魔術師 】
 出現した魔術師は、銀色の髪とフサフサの尻尾を揺らして主に跪く。
 背中によじ登って跨れば、準備オーケー。
「夏ちゃんも一緒だから、今日はスピード抑え目でよろしくね〜」
 どんな空間へも、ひとっとび。空間の魔術師の名は伊達じゃない。
 けれど、あまりにも速い為、ちょっと油断すると振り落とされてしまう。
 空間と空間の間で振り落とされてしまえば、二度と戻ってこれない。
 雪穂が一人で移動する際は、抑制せずにフルスピードで移動するが、
 夏穂も一緒に乗っている場合は、半分くらいまでスピードを落とす。
 ギューッと固く目を閉じて、雪穂にしがみついている夏穂。 
 その姿から察せるとおり、夏穂は、この移動手段が苦手だ。
 遊園地にあるような絶叫マシーンでは顔色ひとつ変えないのに、
 どうして、これは駄目なのか。もしかすると、過去に何かあったのかもしれない。

 *

 ラクティックは、その見た目からして美味しそうな実だ。
 食いしん坊ならば、何も考えずにパクッと口にしてしまうことだろう。
 だが、生で食べるラクティックは、強烈な酸っぱさだ。
 噛んで、口の中で実が弾けた瞬間に失神してしまうこともある。
 かくいう雪穂も、食いしん坊の一人。
 昔、何も知らずに食べたことがある。
 夏穂の治癒魔法がなければ、あのまま昇天していたかもしれない。
 当時は、二人の父と母も健在だった為、
 ぐったりした雪穂を背負って夏穂が帰って来た時、
 彼女らの父と母は、尋常じゃないほどに驚き慌てた。
 そんな強烈なラクティック。
 生ではなく、火にかけて煮込むのが正解。
 そうすると、味はクルリと反転して、とても甘く美味しいものになる。
 瓶詰めのラクティックジャムは、異界の定番土産の一つだ。
「お〜〜〜い」
 ヒラヒラと手を振りながら、声を掛ける雪穂。
 その声に目を覚ますのは、大きな木のてっぺんで昼寝をしていた精霊。
 ラクティックの木に宿る精霊 『ラクリー』 だ。
 ラクティックは、異界に成る特別な果実。
 場所が場所なだけに、豊富な魔力を含んでいる。
 ゆえに、悪用しようとする輩が後を絶たない。
 ラクリーは、そんな不届き者からラクティックを守る番人でもある。
『おぅおぅ。何だ、てめーらか。久しぶりだな』
 ケラケラと笑いながら、甲高い声で二人を迎えたラクリー。
 可愛らしい外見に粗暴な口調。アンバランスで可笑しいが、笑ってはいけない。
「だね〜。ねぇねぇ、ちょうだい。ちょっとでいいから〜」
『あん? 何に使うんだ。また変なモン作るのか?』
「違うよ〜。学校でね、使うの」
『何だ、てめーら。学校なんて行ってんのか』
「そうだよ〜。ねぇねぇ、急いでるんだ。ちょうだい、ちょうだい」
 両手を出してオネダリする雪穂。
 だが、番人は首を縦には振らず横に振った。
 原因は不明だが、ラクティックが実りにくくなっているらしい。
 以前は、次から次へと実ったのだが、最近は、三日に一度しか実らないのだそうだ。
 原因調査の為にも、渡すことは出来ないとラクリーは言う。
 だが、それなら仕方ないねだなんて雪穂は絶対に言わない。
「ちょっとだけでいいんだよ。ね?」
『…………』
「10粒くらいでいいから。ちょうだい。ね?」
『…………』
「駄目ぇ〜? じゃあ、5粒でいいよ。ね?」
『…………』
「ちょうだい、ちょうだい。ね、いいでしょ〜?」
『……わかった。わかったから、それ引っ込めろ』
 苦笑しながら言ったラクリー。 
 ラクリーの言う "それ" とは、雪穂が手に持っている注射器だ。
 これは、雪穂が作った魔法具の一つ。怪しげな紫色の液体が揺れている。
 引きつった表情からして、ラクリーは過去に実験台にでもされたのだろう。
 渋々ながら、ラクティックを10粒だけ房からもいで、夏穂に渡したラクリー。
 夏穂は優しく微笑んで、御礼を述べた。
「ありがとう」
「ちょっと〜。何で夏ちゃんに渡すのさ〜」
『馬鹿、こっち来んな! それ引っ込めろっつってんだろーがよ!』

 無事にラクティックを入手することが出来た。
 時間は限られている。すぐに戻って授業を受けねばならない。
 だが、雪穂と夏穂は、ちょこんと座り込んだ。
 ラクティックの木、その陰にある小さなお墓の前で。
 目を伏せて、手を合わせる雪穂と夏穂。
 ラクリーは、そんな二人の姿を見下ろしながらポリポリと頬を掻いた。
 誰のお墓なのか。誰が眠っているお墓なのか。二人は誰に手を合わせているのか。
 表情から察するに、ラクリーは全てを知っていそうだが……。

 *
 *
 *

 ほとんどの生徒が戻って来て、調理を開始している。
 だが『正解』しているのは、雪穂と夏穂だけだ。
 他の生徒が持ち帰ったラクティックは、どれも偽物である。
 もちろん、本物のラクティックを用いてタルトを焼くべきだ。
 けれど、千華は特に注意したり怒る様子もなく、微笑みながら見守っている。
 自分で調べて見つけて持ってきたのであれば、不正解でも構わないようだ。
 そもそも、ラクティックは異界にしか存在しない実。
 授業終了の鐘が鳴る前に異界へ赴き、採取して戻ってくるなんて不可能な話。
 そのはずなんだけれど……驚いたわね。あの子たち……どういうことかしら。
 本物のラクティックを持ち帰った雪穂と夏穂に驚きを隠せずにいる千華。
 まさか、二人がラクティックを守る精霊と友達だなんて、思いもせずに。
 調理を開始する前に、千華が御話してくれた『ジンクス』
 ラクティックの実には別名がある。
 その別名とは『 コイビトミ 』
 漢字表記は『恋人実』と『恋瞳』の2パターンがある。
 誰が付けたのかは理解らないけれど定着している別名。
 好きな人に渡すと想いが伝わるというジンクスは、その別名に由来するのだとか。
 焼き上がったタルトを一切れ、皿に乗せてトコトコと海斗のところへ向かう夏穂。
 特に深い意味があるわけではないようだ。この間のデートの御礼だとか、そんなところか。
 みんなの前でラクティックタルトを渡す。
 千華からジンクスを聞かされたばかりの生徒たちの目に、それは大胆なアプローチとして映る。
 まぁ、夏穂は……例によってキョトンとしているわけだが。
 天然なのか、それとも本気なのか。わからないけれど照れ臭いのは確か。
「ども」
 海斗は頭を掻きながら、素っ気なく御礼を言った。
 もしかして迷惑だったのかなと不安そうに見つめる夏穂。
 その目を見た瞬間、本気ではなく天然なのだと理解する。
 ちょっぴり残念な気持ちもあるけれど、嬉しいのは確か。
 クラスメートに茶化されながら、バクバクと貰ったタルトを食べる海斗。
 焼き上がったタルトに、あれこれとデコレーションを加えながら、
 嬉しそうに微笑んでいる夏穂を見て、雪穂はクスクス笑った。
 何とな〜く寂しいような気もするけど、ああいうのっていいよね〜。
 見てるとココロがあったかくなるっていうか。幸せな気持ちになっちゃうよ。
 そういえば、ママにプロポーズするときに、
 ラクティックの花をプレゼントしたんだよって……パパ、言ってたな〜。
 実なら、もう数え切れないくらい見てるけど、花は見たことないね。
 いつ咲くんだろ〜。どんな花なんだろ〜。気になるかも。
 調べて、今度、夏ちゃんと見に行こ〜っと。綺麗なんだろうね〜……。
 想像にウットリしている雪穂。
 戻ってきた夏穂はギョッとした。
「雪ちゃん……そんなにクリーム乗せるの?」
「へ? うわぁ!」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7192 / 白樺・雪穂 / 12歳 / 学生・専門魔術師
 7182 / 白樺・夏穂 / 12歳 / 学生・スナイパー
 NPC / 海斗 / 19歳 / HAL在籍:生徒
 NPC / 千華 / 27歳 / HAL在籍:教員

 シナリオ『 ラクティックタルト 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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