■オーバースキル■
藤森イズノ |
【7707】【宵待・クレタ】【無職】 |
時の回廊。外界と通ずるその場所に異変が起きた。
外界へ赴く際には、該当する世界の扉を開けて、そこから移動するのだが……。
どういうわけか、扉が開かない。どの世界へも移動できぬ状況になっている。
この異変に一番最初に気付いたのはオネ。
仕事で外界へ赴こうとしたのだが、押しても引いても扉が開かなかった。
オネから報告を受けて、時の回廊に集結した時守達。
ヒヨリが調べた結果『歪み』が関与していることが理解った。
それも、外界で発生した歪みが、ここに悪影響を及ぼしているとのこと。
もしかすると、外の世界に自らの意思で歪みを生成出来る奴がいるのかもしれない。
何の為に? ……この空間、いや、俺達を困らせる為に?
絶対に、そうだと言えるわけじゃないけれど、その可能性は大きい。
見てみろ、この歪み……。通常、歪みってのは黒いモンだ。
でも、この歪みは灰色。負のエネルギーが足りていない証拠だ。
自然発生する歪みで、灰色のものを確認できた例は少ない。
昔、歪みについて調べようと、俺とナナセで生成を試みたことがあるんだけど、
その時、出来上がった歪みも、こんな色をしていた。
一体、どこのどいつだろうな。こんな迷惑な真似するのは。
犯人をとっちめるにしても、外界に行けないんじゃ、どうしようもない。
この歪みを何とかしなきゃな。……それにしても、デカいな。
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オーバースキル
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時の回廊。外界と通ずるその場所に異変が起きた。
外界へ赴く際には、該当する世界の扉を開けて、そこから移動するのだが……。
どういうわけか、扉が開かない。どの世界へも移動できぬ状況になっている。
この異変に一番最初に気付いたのはオネ。
仕事で外界へ赴こうとしたのだが、押しても引いても扉が開かなかった。
オネから報告を受けて、時の回廊に集結した時守達。
ヒヨリが調べた結果『歪み』が関与していることが理解った。
それも、外界で発生した歪みが、ここに悪影響を及ぼしているとのこと。
もしかすると、外の世界に自らの意思で歪みを生成出来る奴がいるのかもしれない。
何の為に? ……この空間、いや、俺達を困らせる為に?
絶対に、そうだと言えるわけじゃないけれど、その可能性は大きい。
見てみろ、この歪み……。通常、歪みってのは黒いモンだ。
でも、この歪みは灰色。負のエネルギーが足りていない証拠だ。
自然発生する歪みで、灰色のものを確認できた例は少ない。
昔、歪みについて調べようと、俺とナナセで生成を試みたことがあるんだけど、
その時、出来上がった歪みも、こんな色をしていた。
一体、どこのどいつだろうな。こんな迷惑な真似するのは。
犯人をとっちめるにしても、外界に行けないんじゃ、どうしようもない。
この歪みを何とかしなきゃな。……それにしても、デカいな。
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見たこともない……巨大な歪み。
誰かが意図的に発生させた、その可能性……。
もしもそれが事実ならば……許せるものか。
今、この場に居合わせている仲間は、僕とヒヨリとナナセとオネ。四人だけ。
他の仲間は、それぞれ仕事で外界に赴いてる。
いつ戻ってくるのか、確かなことは言えない。
仕事を終えてすぐに戻ってくる人もいれば、寄り道してくる人もいる。
だからこそ、回廊は常に正常な状態でないと駄目なんだ。
いつでも自由に、ここへ帰ってくることが出来るように……。
このまま回廊が閉ざされてしまったら、外に出てる仲間は戻ってこれない。
身動き出来ない僕達も、ここから出て仲間を助けに行くことが出来ない。
内に外に……閉じ込められてしまうんだ……。
仲間に会えなくなるのも、色んな世界を見れなくなるのも嫌だよ。
誰かが発生させた歪み? 良い度胸じゃないか。
僕等をみくびってもらっちゃ困る。
こんな、ニセモノの歪み……すぐに還せるよ。
ただ大きいだけでしょう? ちっとも怖くない。
本物の歪みだったら、こうして立っていることも出来ないよ。
歪みは、迷子になった時間が悲鳴を上げて助けを求めている証。
本物の歪みは、もっともっと深いんだ。もっともっと、大きいんだよ。
見た目になんか惑わされるもんか。こんなスカスカの歪み……すぐに還してあげるよ。
「ヒヨリ、ナナセ」
「ん?」
「うん?」
「調査とか、そういうのは後回しにして……。還すことに集中して」
「……あぁ、うん。そうだな」
「時間が掛かったら、掃除当番代わって貰うからね……」
「っはは。わかったよ」
書き留めていた途中の書類をポイッと放り投げて笑うヒヨリ。
ナナセも肩を竦めて、ヒヨリ同様に書類を放り投げた。
じっとりとした眼差しで見つめるクレタから感じる迫力。
有無を言わさぬ、その迫力は『怒り』に満ちている。
その怒りが、歪みを発生させた犯人に向けられている内に従うべきだ。
そう思ったからこそ、ヒヨリもナナセも調査を投げ出し、還すことに専念する。
精神統一し、スキル発動準備を整える二人を見やって、クレタは満足そうに頷くと、
隣で不安そうな顔をしているオネの肩をポンと叩いて耳元で囁いた。
「仕事以外でも外界に行けないと困るもんね……?」
淡く微笑んでの囁きは、オネの心中にある不安の一致するものだった。
オネは照れ臭そうに微笑み返し、慌ててスキル発動の為に目を伏せて精神統一。
さて。そうは言っても、このデカさだ。
偽物とはいえ、パパッと片付けるのは難しいだろうな。
成分が理解らないから、下手なことは出来ないってのもあるし。
とりあえず、全員で様子見程度にクロノバックを発動してみようか。
加減してな。様子見だから、あくまでも。
「んじゃ、カウント。5、4、3……」
ヒヨリのカウントに合わせて、四人は一斉にクロノバックを発動。
時守の中でもトップクラスの実力者が四人揃っているのだ。
加減しているとはいえど、それらが合わさった威力は半端ない。
通常の小さな歪みならば、刹那に還されてしまうであろう威力。
だが、巨大な歪みは、その威力さえも飲み込んでしまった。
ビクともしていないようだ。僅かな乱れも感じられない。
「うへぇ。こりゃあ、時間掛かりそうだなぁ」
「クオリティ高いわね」
「どうするの? 次は全力で打ち込む?」
「いや、待て。リバウンドするかもしんねぇ」
「その可能性は高いわね。抵抗力が凄まじいもの」
「じゃあ、どうするの?」
「……ん〜」
暫く考え込み、ヒヨリは何かを閃いた様子でクレタを見やる。
その眼差しに首を傾げるクレタ。ヒヨリは微笑みながら、わかりやすく説明した。
クレタ。お前の固有スキルは、こういう時に真価を問われる。
寧ろ、こういう時の為に、お前の能力はあるんじゃないかと俺は思う。
つまり、何が言いたいかっていうとだな。
お前の能力で、とりあえずこの偽歪みが成長するのを阻んでくれ。
見りゃあ理解るだろうけど、こうして話してる間にも、こいつは成長してる。
例えばだ。どんどん大きくなる風船を想像してみろ。
そのままジーッと見てたら、ビクビクするだろう?
いつ破裂するかわからない。それに恐怖みたいなもんを覚える。
それと同じ状況だ、今まさに。
偽物でも、ここまでデカい歪みが破裂したら……考えただけでゲンナリするだろ。
余計に面倒なことにさせない為にも、
俺がお前と掃除当番を交代する結末を避ける為にも、お前の出番だ。
「大丈夫かしら……。かなりの速度よ?」
不安そうに言ったナナセ。
確かに、偽歪みの成長速度は尋常じゃないほどに速い。
偽物だからこその仕様なのだろうけれど……。
「大丈夫だよ。クレタなら」
クレタの肩から手を離し、クスクス笑いながら持ち場へ戻っていくヒヨリ。
その言葉に、クレタはコクリと頷いた。
ヒヨリから、この状況で指示されるってことは、信頼されてるって証拠。
ナナセに頼めば、より確実なのに。ヒヨリは、僕に指示した。
大丈夫だよって言われたのなら、頑張らなきゃ。全うするよ。
そうだね……皆のサポート的な役割だろうから……。
大きな歪みを、小分けに分解すれば、皆の処理が楽になるんじゃないかな。
とはいえ、豆腐みたいにスパスパ切れるものでもないし、切るべきでもない。
破裂させないように、そーっと……成長を抑えながら分解させていかなくちゃ……。
光の壁を、間仕切りのある箱みたいに構築することは……できるかな。
三人がそれぞれ、全力でクロノバックを打ち込めば、すぐに終わるだろうから、
三つに分解すれば……丁度良いかな。細かくしすぎると、後処理が面倒そうだし。
闇に手指を踊らせ、箱のイメージを描き出すクレタ。
出現する光は、煉瓦のように詰まれて、箱の基盤を構築していく。
そうしている間、偽歪みの成長抑制も同時進行で。
分解と構築が無事に済めば、あとは抑制に全力を注ぐだけ。
クレタの滑らかな動きと能力の美しさに、三人は一瞬、息を飲んだ。
日々成長していることは理解っていたが、ここまで精度が上がっていたとは驚きだ。
ここへ来たばかりのクレタならば、光を用いて分解させるのに、1時間以上を要しただろう。
それが、今や、ものの3分で構築を終えてしまうのだから、驚かずにはいられない。
だが、凄いなぁと感心している暇も、成長を喜んでいる暇もない。
構築を終えたクレタの視線が、ザクザクと刺さる。
その眼差しは『ボーッとしてないで、早く還して』と催促しているようなものだ。
予想外の難航模様。
ヒヨリたちは、少しずつ削るようにして偽歪みを還している。
全力でクロノバックを打ち込めば、一瞬でカタがつく。
全員がそう思った。だから、三人は同時に全力でクロノバックを打ち込んだ。
躊躇うことなく、持てる限りのチカラを注ぎ込んで。
ところが、偽歪みは、それすらも飲み込んでしまった。
まるで効果がないというわけでもなく、それなりに効いてはいるようなのだが……。
何よりも痛いのは、予想外の展開に対する精神的ダメージだ。
全力で打ち込んだのにも関わらず、還すことが出来なかったのだから。
加えて、初発に全力を注いでしまったことで、スキルチャージが追いつかない。
その結果、こうしてチビチビと削っていくことしか出来ない状況になっているのだ。
クレタが成長を抑制してくれているから良いものの、
それがなかったら、難航どころか愕然とさせられていただろう。
予想外の展開に対する自分への呆れから、溜息を連発するヒヨリ。
そんなヒヨリを横目に、ナナセはクレタに尋ねた。
「クレタくん。大丈夫?」
分裂させた三つの偽歪みに向けて両腕を伸ばし、
光を放ち続けて、その成長を抑制し続けているクレタ。
とても地味なサポートに思えるが、かなりの重労働だ。
……大丈夫だよって……言いたいところなんだけど……。
ちょっと……大丈夫じゃないかもしれない……。
どうなってるんだろう。これ……。
物凄く速いんだ。
時間が経てば経つほど、その速度が上がってるような気がする……。
抑え込まれているから、それを跳ね返そうと踏ん張るのは理解る。自然な抵抗。
でも、だからって、ここまで速度を上げるだろうか……。
ねぇ、何か……おかしいよ。この歪み。
偽物だからと、みくびっていたのは自分だったのかもしれない。
そう思わされると同時に、クレタの意識は遠のいていく。
「……クレタくん?」
ナナセが何度声を掛けても、クレタは応じない。
両腕を伸ばして俯いたまま、微動だにしない。
「ねぇ、ちょっと。様子がおかしいわ」
ナナセの言葉に顔を上げ、クレタを見やって確認するヒヨリ。
ピクリとも動かないクレタの腕が、徐々に紫色に染まっていく。
「やばい。オーバースキルだ」
「ちょっ……どうするのよ」
「クレタっ」
「待て、オネ! 動くな!」
「でもっ…!」
気持ちは理解る。俺だって、すぐに駆け寄りたい。
でも、ここで俺達が持ち場を離れたら、どうなる?
解放された偽歪みは、待ってましたとばかりに暴走してしまう。
そうなったら、もうどうしようもない。手に負えなくなってしまう。
心苦しいだろうけれど、先ずは還すべきだ。
もうすぐ、スキルチャージが完了するはず。
ジワジワと削ってきたのも、その時の為だろう?
もう一度、この状態で全力のクロノバックを打ち込めば、間違いなく還る。
跡形もなく消し去ることが出来るはずだ。だから……堪えろ。もう少しだけ。
もう少し、もう少し。もう少しだけ堪えろ。そのまま、動くな。
オーバースキル。
それは、時守らにとって絶対に避けねばならぬ現象。
魔力が枯渇している状態なのにも関わらず、
それを認識出来ずに、スキルを発動し続けてしまう。
今回のクレタのように、特定のスキルを持続して発動する際に起こる可能性が高い現象だ。
凄まじい速度で成長していく偽歪み。それを抑制していたクレタは、
知らず知らずの内、その速度に対応して放出する魔力を上げていた。
発動を中止することが許されぬ状況だったからこそ、クレタは見失ってしまったのだ。
己の魔力、それが底をついている事実に気付くことが出来ずに。
本来、魔力が枯渇した状態でスキルを発動することは不可能だ。
けれど、オーバースキル状態になっていると、
別のものを消費してまでスキルを発動し続けてしまう。
その『別のもの』というのが……命だ。
クレタは今もなお、命を削ってスキルを発動している。
誰かが駆け寄り、強制的にスキル発動を止めぬ限り、この状態は続く。
クレタ本人が、自分の意思で発動中止することはない。
意識が飛んでいる状態の為、どう足掻いても不可能。
だが、例え意識があったとしても、クレタは発動を続けるだろう。
ヒヨリに指示された、その使命感から発動を続けるだろう。
自らの命を、惜しむことなく費やしたことだろう。
*
*
*
ふっと目を覚ませば、そこは見慣れた天井。
少し視線をズラせば、不安そうに顔を覗き込む仲間の姿。
一命を取りとめ、無事に目を覚ましたクレタ。
仲間たちは、クレタの無事を確認してホッと安堵の息を漏らした。
もしもこのまま、目覚めなかったらどうしよう。
一番不安を抱いていたのはヒヨリだった。
的確な判断だったとは思うが、あれは放置したようなもの。
クレタが命を削っていることを知りながら、手を差し伸べることが出来なかった。
そうするしかなかったのが事実だけれど、自責の念を払うことは出来なかった。
良かった。本当に良かった。改めて、言わせてくれ、クレタ。
ごめん。そして、お疲れ様。立派だったよ。涙が出そうになるくらい。
安心から脱力してしまうヒヨリ。
けれど、そんなヒヨリと同じくらい、いや、それ以上にホッとしている人物がいる。
クレタの目をジッと見つめ、申し訳なさそうな表情を浮かべる……J。
どうしてだろうね、クレタ。
俺がキミの傍にいないと、決まってこういうことになる。
だから嫌なんだ。離れるのが怖くて仕方ない。
この先も、こうしてキミと離れて動かねばならないことは多々あると思う。
今までは、仕事だからと割り切っていたけれど……もう、そうも言っていられない。
キミに鬱陶しいと思われようが構わない。
いついかなる時も、キミの傍にいるよ。いさせてくれ。
クレタを抱きしめ、縋りつくような弱々しい声で呟いたJ。
嬉しくないはずがない。鬱陶しいだなんて、そんなこと思うはずもない。
寧ろ、こちらから御願いしたいくらいだ。ずっとずっと、傍にいて、と。
本来ならば、幸福の絶頂であろう瞬間。
だが、クレタの心は、どうしようもないくらいに惑っていた。
離れ、クレタの肩をギュッと掴んで真っ直ぐに見つめるJ。
逃れられぬはずの、その視線から……クレタは逃げた。
さりげなく、けれど確実に、クレタはJから目を逸らした。
「クレタ……。やっぱり、迷惑かい? 鬱陶しいかい?」
「……ううん。……嬉しいよ」
嬉しいのは事実。あなたの、その言葉を待ちわびていたのも事実。
でも……僕は、あなたの目を見つめることが出来ない。
どうしてなのかと尋ねられても、その理由を明かすことが出来ない。
後遺失色。ロスト・カラー。
あなたに貰った右目は、光と色を失ってしまった。
言えるはずもない。あなたから貰った贈り物を……壊してしまったようなものなのだから。
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
NPC / ヒヨリ / 26歳 / 時守(トキモリ)
NPC / ナナセ / 17歳 / 時守(トキモリ)
NPC / オネ / 13歳 / 時守(トキモリ)
NPC / J / ??歳 / 時狩(トキガリ)
シナリオ参加、ありがとうございます。
明かせぬ後遺症を、その右目に課します。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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