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■愛しき人へ花束を■

藤森イズノ
【7707】【宵待・クレタ】【無職】
 心から嬉しく思う。キミが生まれたことを。
 心から嬉しく思う。キミの呼吸が続くことを。
 心から嬉しく思う。キミが成長していくことを。
 心から嬉しく思う。キミが微笑む、その度に。
 心から嬉しく思う。キミに触れる、その度に。

 全身全霊の愛をキミに。
 過剰ともいえる奉仕をキミに。
 生まれてくれて、ありがとう。
 愛しき人へ花束を。
 誕生日、おめでとう。
 Happy Birthday

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 心から嬉しく思う。キミが生まれたことを。
 心から嬉しく思う。キミの呼吸が続くことを。
 心から嬉しく思う。キミが成長していくことを。
 心から嬉しく思う。キミが微笑む、その度に。
 心から嬉しく思う。キミに触れる、その度に。

 全身全霊の愛をキミに。
 生まれてくれて、ありがとう。

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 クローゼットから引っ張り出した服が散乱する部屋。
 その中心部に大きな鏡を置き、クレタは真剣な表情。
 次々とあてがう服は、バリエーションに富んでいた。
 特別な日だし……意識してみようかなって思うんだ。
 いつもと同じ格好で構わないよってJは言ったけれど、
 折角だから、オシャレっていうか……普段とは違う格好をしたい。
 こんな時じゃなきゃ、オシャレなんてする機会、そうそうないし……。
 ……うん。やっぱり、これが一番しっくりくるような気がする。
 頷いたクレタ。あてがう服は、黒のゴシック風スーツ。
 確か、雑誌で見かけて、珍しく衝動買いした服だ。
 いつ買ったのか、正確な日付は覚えていない。
 まぁ、モノがスーツなだけに……タンスの肥やしになってしまうのも無理はない。
 こうして、このスーツを身体にあてがうのは、今日で二度目。
 ドキドキしながら、そーっと羽織ってみれば、余計にドキドキ……。 
 明日は……僕の誕生日。
 言い換えるなら、僕とJが初めて会った日。
 一緒に出掛けようって、Jは誘ってくれた。
 どこに行くのかは理解らない。秘密なんだって……。
 こうして……想い合えてることが、たまらなく幸せだよ。
 ワクワクして落ち着かなくて、こんなに部屋を散らかして……子供みたいだね。
 でも、仕方ないんだ。あなたの一言で、こんなにも舞い上がってしまう。
 あなたの優しい声は、冷たい指先は、僕の心に直接触れているかのようで。
 いつもあなたは、僕の本当の心を見つけてくれる。本音を、教えてくれる。
 意地悪されて泣かされることも、翻弄されて苦しめられることもあるけれど、
 最後はいつも、抱きしめてくれるから。
 それを知っているから、僕は踊る。
 あなたの思うがまま、あなたの掌の上でクルクル回り踊る。
 どうしよう。こんなにワクワクするなんて。どうしよう。眠れそうにないよ。
 ねぇ、J。明日は素直に、思い切り甘えるから……覚悟しててね。
 なんて。言ったところで、あなたは困ったりせず、嬉しそうに笑うんだろうけど。
 好きなだけどうぞ。って……笑うんだろうけれど。
 淡く微笑み、クレタは左手薬指にはめている指輪にそっと口付けた。
 秘密の宣戦布告に、夜は更けて。


 どこへ行くのかな。どこへ連れて行ってくれるのかな。
 色々考えてはみるけれど、的を絞ることは出来ないよ。
 ねぇ、J。どこに行くの? 今日は、どこに連れて行ってくれるの?
 ねぇ、意地悪しないで教えて? せめて、場所だけでも教えてよ。
 ワクワクしすぎて熱が出そう。
 オーバーヒートする前に、早く教えて?
 壊れちゃったら、楽しむ余裕なんてなくなっちゃうよ。
 それは嫌だから。それだけは嫌だから、教えて?
 どうしようもなく上がっていくばかりの熱を、冷まさせて。
 今のうちに、早く。ねぇ、J。意地悪しないで?
「まだ未遂なんだけどな。……今日は」
 クスクス笑いながら返すJ。
 わかってる。わかってるよ。
 だからこそ言ってるんだ。
 未遂のままで、終わらせて。
 今日は意地悪しないで? ねぇ、教えてよ……。
「起きたら教えてあげる」
 起きたら? 起きたらって何?
 何言ってるの、J。僕は、こうして―
「……!!」
 バチッと目を見開き、ぱちくりさせるクレタ。
 見慣れた天井と、愛しい人の微笑みが、ゆっくりと鮮明なものへ変わっていく。
「ごっ……ごめ……。ぼ、僕……」
 慌ててガバッと起き上がって、あたふたするクレタ。
 ねぼすけ王子の御起床に、Jは肩を揺らして笑う。
「おはよう、クレタ」
「お、おはよう……」
「今日着ていく服は、これかな?」
「あっ。う、うん……」
「いいね、可愛い。じゃ、着替えよっか」
「は、はい……」
 頬を赤らめて俯き、小さな声でお返事したクレタ。
 何やってるんだろう、僕……。寝坊するなんて、最悪だよ……。
 色々考えて、準備もバッチリだったのに、寝坊しちゃったら全部台無しだよ……。
 いつもは着ない服を着て見せて、ちょっとビックリさせようって思ってたのに。
 何で着せられてるんだろう……。うぅ……恥ずかしいっていうか……何かカッコ悪い……。

 *
 *

「さて。クレタが知りたくて仕方ない行き先についてだけど」
「……う、うん」
 クスクス笑いながら言うJから、照れ臭くて目を逸らすクレタ。
 どこか遠くへ、誰もいないところへ行こうかなって考えたんだけどね、やめた。
 それじゃあ、いつものデートと何も変わらないから。
 じゃあ、どうするのかって? ふふ。
 この空間から出ないことにするよ、今日は。
 っはは、何その顔。拍子抜け? 残念そうな顔してるね。
 物足りないかなとは思うけど、ちょっとだけワガママに付き合って。
 キミの誕生日なのに、俺がワガママ言うなんて酷いかな?
 でも付き合って。黙って頷いて。どんな状況でも、決定権は俺にあるんです。
 部屋でのんびりするのも良いけれど、それじゃあ、本当にいつもと何も変わらないからね。
 今日は、ドライブでもしようかと思うんだ。
 準備は良いね? それじゃあ、外に出ようか。
「あ。寝癖残ってる」
「ど、どこ……?」
「前髪」
「ま、待って。直すから……」

 クロノクロイツでドライブ。漆黒の闇を走るクラシックカー。
 この空間での移動手段は、もっぱら徒歩だ。
 車で移動するのは、ジャッジだけ。それも、ごく稀だ。
 それゆえに、とても新鮮。
 車に乗っていることも、運転しているJを横目にすることも。
「この車って……Jの……?」
「うん。かなり久しぶりに乗るけど」
「そうなんだ……。綺麗な車だね。何か……ガラスで出来てるみたい……」
「ん〜。まぁ、そんな感じかな」
「え、そうなの? どういう仕組みなの?」
「秘密」
「……え〜」
 信号もなければ、渋滞もない。何てスムーズで快適なドライブ。
 景色は変わることなく、ずっと闇の中だけれど、頬を撫でる風が心地良い。
 まさか、こうして一緒にドライブが出来るだなんて思いもしなかった。
 あなたはワガママだなんて言ったけれど、じゅうぶん嬉しい……。
 それに、何ていうか……いつもと違って、頼もしく見えるよ。
 あ、ううん。普段は頼りないとか、そういうことじゃなくて。
 えぇとね、何て言えば良いのかな……。
 いつも見ている横顔が、違う感じに見えて……。
 うん……何ていうか、くすぐったい。
 照れ臭くて直視できないくらい、カッコ良いよ。
 ナナセとハルカが、そういえば話してた。
 運転中の男の人の横顔って、何でか理解らないけど凄くカッコ良く見えるんだって。
 ……本当だね。そのとおりだ。どうしよう。目が泳いじゃう……。
 ソワソワと落ち着かない様子のクレタをチラリと見やって、Jは笑う。
 どうしてソワソワしているのか、その理由が手に取るように理解るからこそ可笑しい。
 動揺と微笑。他愛ない話をしながら闇を走って、数分が経過。
「はい。到着」
 そう言って、Jは優しくブレーキをかけて車を停めた。
 前を見やれば、そこには見覚えのある大きな樹。
 二人が出会い、全てが始まった場所。クレタが生まれた場所。
 クレタは前を見やったまま、まるで金縛りにあっているかのように動かない。
「…………」
 どうしてだろう。
 どうして、涙が零れてしまうんだろう。
 思い出の場所だから? あなたが、隣にいるから?
 ここに来ると、どうしていいかわからなくなる。
 苦しいんじゃなくて。嬉しくて。どうすれば良いのかわからなくなってしまうんだ。
 感謝の気持ちでいっぱいになる。ありがとうって、何度言っても足りないくらい。
 僕を生んで、存在させてくれてありがとう。
 あなたが愛してくれるから、僕はこうして存在できる。
 ねぇ、これからもずっと一緒にいられるよね?
 ずっとずっと、一緒にいられるよね?
 どうしてかな。ここに来ると、不安になるんだ。
 幸せな気持ちに。少しずつ不安が混じってくる。
 どこからか聞こえる、時計の針が時間を刻むような音。
 その音に急かされて、どんどん不安になってしまうんだ。
 まるで、あなたとの時間に限りがあるような。そんな気がして。
「泣き過ぎ」
 笑いながら、クレタの涙を指で拭うJ。
 次々と溢れてくる涙は、不安の象徴。
 泣かせる為に連れて来たわけじゃないんだよ、クレタ。
 いくら俺でも、そんな意地悪しない。今日は。
 でも、笑ってとも言えない。俺も、同じ気持ちだから。
 寧ろ、泣かないでくれって縋りつきたくなる。俺まで、泣きそうになるから。
 キミが生まれた、特別な場所。俺とキミが出会い、初めて言葉を交わした特別な場所。
 幸せな記憶と、不安。押し潰そうと迫ってくる不安を払い除けて告げることに意味があるんだ。
 だから、この場所を選ぶ。俺は、この場所で告げるんだよ。
 来年も、再来年も、その次も、ずっとずっと永遠に。
 実際に歳老うことはないけれど、この日が来る度、何度も何度も言うよ。
「誕生日、おめでとう。クレタ」
 淡く微笑みながら、お祝いの言葉を贈り、
 Jは、クレタの頭に……何かを飾った。
 頭に感じる、柔らかな感触と僅かな重み。
 クレタは首を傾げながら、そっと頭に触れてみる。
 頭を包み込むように、そこに在ったのは……。
「帽子……?」
「うん。誕生日プレゼント」
「ありがとう……」
「似合うよ。まぁ、俺が選んだから当然だけど」
「ふふ……。でもこれ、ちょっと大きいみたい……」
「うん。そういうのを選んだからね」
「どうして……?」
「秘密〜……にする必要もないか。ただの趣味だよ」
「しゅみ……。しゅみ……?」
 少しだけ大きめの帽子からチラリと目を覗かせ、見上げるクレタ。
 キョトンとしている、あどけない表情に、いてもたってもいられず。
 Jは、がぶっと食らいつくようにクレタを抱きしめてクスクス笑った。
 そうそう、それそれ。そういうの。趣味っていうか、好み?
 まぁ、あんまり深く追求しないで。大したことじゃないんだから。
 あんまり追求されると、逆に恥ずかしくなってくる。
 っていうか、もう既に恥ずかしいような。そんな感じ。
 照れるなんて、らしくないから。はぐらかせて。
 せっかく被せたけれど、似合ってるけれど、可愛いけれど。
 帽子、ちょっと邪魔だから外そうか。ね。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
 NPC / J / ??歳 / 時狩(トキガリ)

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 Jから、あなたへ。贈り物は、ニットキャスケット。
 誕生日プレゼントとしてアイテムでお渡ししています。
 何気に、御話の途中に重要フレーズが盛られています。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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